「レゲエ界のビッグ・アイコン=ボブ・マーレーの世界を震撼させたアイランド・レーベルからのデビューアルバム」Catch a Fire : Bob Marley and the Wailers / キャッチ・ア・ファイアー : ボブ・マーリー・アンド・ザ・ウェイラーズ

 レゲエのビッグ・アイコンと誰もが認めるボブ・マーリーです。
今では世界中で彼の名を聞いたこともない音楽ファンはほぼ皆無ではないかと思えるくらい有名ですし、その影響力は計り知れないことになっています。
惜しむらくは1981年5月11日に悪性黒色腫と言われる一種の癌が発端となって36歳という若さで亡くなられてしまいましたが、彼の残した業績は音楽だけにとどまらず、ジャマイカの政治にも影響を与え、人々からは神格化されています。
今回はそのボブ・マーリーが世界に向けて放ったメジャーデビューアルバムのご紹介です。

わたくし的にはその宗教性とか政治性を抜いた音楽に関してだけでもその業績はすごいものだと感じています。
というか政治性はまだ世界共通の部分があり、理解しやすいのですが、宗教性については日本人の私としては、もちろん否定はしませんが、日本にいる限りラスタファリアンとか心から理解できるものではありません。

ともあれボブ・マーリーの作るサウンドはメロディアスで聞きやすく、歌詞は反骨精神いっぱいで、ロックやソウルと非常に親和性の高いものでした。
というよりボブ・マーリーやジャマイカのミュージシャンはラジオでアメリカの音楽を聞いて育ってきたので、根本的なところで影響を受けてきた部分があります。
尚且つジャマイカの庶民の生活に密着した内容を、歯に衣着せぬ過激な歌詞で歌うボブ・マーリーに心酔する人々も増えていきました。

知っておいでではありましょうが、レゲエのリズムの基本情報についてです。
レゲエサウンドの魅力とはこれ以上ないくらいのバックビートをミドル、スローテンポで演奏し、しかも異常なテンションを保ち続けるビートです。
最初にレゲエが世界的に認知されたのは映画「ハーダー・ゼイ・カム」のヒットでした。ジミー・クリフが歌う同名主題歌が新しい感覚のもので、新鮮なリズムははポップ、ロック、ブラックミュージックのファンにも衝撃を与えました。

といいつつも、もともと昔からブルーズ系ではジミー・リードやスリム・ハーポなど、およびそれを取り入れたロックでもレイドバック系のJ.J.ケイルなどのユルイ系があり、ある意味そういう下地はありました。
なんならセカンドライン・ビートの親戚ともいえます。
ということでこの新しいレゲエのリズムはダブなどの親戚リズムを交えながら1970年代後半から大流行することになります。

そういうジャマイカン・ミュージックという認識のレゲエでしたが、1970年代中期になると世界市場に参入すると特にロックミュージシャンからも一目置かれる存在となっていきます。

個人的な体験となりますがエリック・クラプトンが1974年リリースのアルバム「461オーシャン・ブールヴァード」で「アイ・ショット・ザ・シェリフ」をカバーしました。
レイドバック的なサウンドです。多分ほとんどの人がこれがレゲエの初体験だったのではないかと思われます。

これをきっかけにレゲエの浸透は加速してローリング・ストーンズなども1976年のアルバム「ブラック・アンド・ブルー」で「チェリー・オー・ベイビー」という今までにない芸風を披露して、キース・リチャードも「ハーダー・ゼイ・カム」をカバーしました。
1970年代後半になるとブリティッシュ・ロック系でパンク・ニュウーウェイヴのミュージシャンがザ・クラッシュを代表にレゲエのリズムを積極的に取り入れていきます。

ここからレゲエの市場が世界的に拡大しました。

してこのボブ・マーリー世界制覇の出発点と言えるアルバムがボブ・マーリー・アンド・ザ・ウェイラーズ名義の「キャッチ・ア・ファイアー」です。
この時点でザ・ウェイラーズとしては長い活動歴があり、ジャマイカでは4枚のアルバムをリリースしています。
そしてこの5枚目は、世界に向けた市場をもつジャマイカのアイランド・レーベルからのファースト・アルバムとなります。
これ以降はボブ・マーリーのアルバムは世界中で手に入るようになります。

アルバムジャケットはオリジナルはライターのジッポが大写しになっているものです。
ジャケットはそのライターの蓋を開けるようにしてレコードを取り出す仕様だったそうです。
素晴らしくオリジナルでキャッチーなアイデアでしたが、いかんせんジャケット制作工程で時間と費用がかかりすぎるため、20,000枚で変更となりました。
ちなみにこのライターはタバコに火をつけるためだけではなく風や水に強く丈夫なため本格的な登山や過酷な戦場などでも重宝されています。
またオリジナルはメタリックそのものですが、ケースに描かれるデザインなども時代を反映したり、ポップアートであったりするので、世界中にコレクターがいるそうです。

日本ではこのジャケットは手に入らず、しばらくは改訂版の “マリファナを咥えた物騒なにいちゃん(ボブ・マーリーです)“ のアップ写真ジャケットでした。
裏ジャケもなかなか趣があってこれもいいデザインです。(外国に行ってこういう集団に出会したら絶対に避けて道を譲りそうな迫力です)
2,000年以降になってデラックス・エディションなどでジッポ・ジャケットが手に入るようになりました。

ボブ・マーリーの魅力は当然歌詞の部分も大きいのですが、まずはサウンドです。

サウンドがまたハードボイルドな感じで思わず引き寄せられます。剥き出しの感情を歌う歌詞が音楽に乗り移っているかのようです。

そしてなんといっても音がすごいのです。何がすごいかといえば曲をドライブして引っ張っていくベースの低音です。
レゲエのサウンドとはドラムのリズムとベースの音が象徴しています。
間を生かしたリズムにベースが歌いながらドライブしていくサウンドは聞いていて原始の躍動を感じます。
そういえばレゲエ界では有名なスライ・アンド・ロビーというドラムとベースの超強力ユニットのお二人がいらっしゃいますが、ちょっとここでは深入りはしません。

私の持っている最終音源はアイランド・レーベルでミックスされたものとオリジナル・ジャマイカン・バージョンがセットのなったデラックス・エディションです。
その違いはアイランド・ミックスの方がより音数を減らしてリズムにテンションを持たせたような感じです。音の厚さより間を生かしたサウンドになっています。
悪く言えば売れるために市場に合わせてかっこよくアレンジしました、ということになります。
シンプルにしてオリジナルグルーブを薄めてよりロック寄りにしたわけですが、これが大当たりでした。
世界に向けて発信するには戦略的に最高の方法だったのです。

私感ですが、この「キャッチ・ア・ファイアー」については最初はなんともベースの音がでかい音楽だなあという感想でした。でも音にこだわってくると単なるブワブワしたベース音ではなくて、うねり、しなり、のたうち回る低音だと感じます。
個人的にスピーカーを比較するときは1曲目の「コンクリート・ジャングル」のベース音の佇まいで、生きた低音が再生できるかの基準にしています。

Bitly
Bitly

演奏
ボブ・マーリー  ギター、ヴォーカル
ピーター・トッシュ  オルガン・ギター・ピアノ・ヴォーカル
バニー・ウェイラー  ビンゴ。コンガ、ヴォーカル
アストン・「ファミリーマン」・バレット  ベースギター
カールトン・「カーリー」・バレット  ドラムス
リタ・マーリー  バッキング・ヴォーカル
マーシア・グリフィス  バッキング・ヴォーカル

ゲスト・ミュージシャン
ジョン・「ラビット」・バンドリック  キーボード、シンセサイザー、クラヴィネット
ウエイン・パーキンス  ギター  Tr.1,5,6

ロビー・シェイクスピア  ベースギター  Tr.1
トミー・マクック  フルート
ジャン・アラン・ルーセル  ピアノ・キーボード
ウィンストン・ライト  オルガン
フランシスコ・ウィリー・ペップ  パーカッション
クリス・カラン  パーカッション

クリス・ブラックウェル  プロデューサー
ザ・ウェイラーズ  プロデューサー
カールトン・リー  エンジニアリング
スチュ・バレット  エンジニアリング
トニー・ブラット  エンジニアリング
ボブ・ウェイナー  デザイン
ロッド・ダイアー  デザイン

曲目
参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Concrete Jungle  コンクリート・ジャングル

キーボードとギターでハードボイルドに始まります、ベースが入った時点で「ひょえー・カッチョエー」と思わず叫びたくなります。足に鎖はないけど、私は自由じゃないという歌です。アルバムでのこの曲のベースは、かのタクシー・レーベルのロビー・シェイクスピアさんです。

2,   Slave Driver  スレイヴ・ドライバー

とんでもなくストレートなタイトルですが和やかな感じで始まります。アルバムタイトル「キャッチ・ア・ファイアー」がここで出てきます。メロディはポップですが歌詞は恐ろしい雰囲気です。

3,   400 Years  4,00年

ピーター・トッシュ作です。普通に聴いてもメロディアスな良い曲です。ただし歌詞は400年変わらない、立ちあがろうという歌です。
ピーター・トッシュは1976年にウェイラーズを脱退してローリング・ストーンズ・レーベルなどで活動していましたが、1987年9月11日にジャマイカの自宅にいるときに3人の強盗に入られ、射殺されてしまいました。まだ42歳でした。

4,   Stop That Train  ストップ・ザッツ・トレイン

これもピーター・トッシュによる名曲です。ソウル感満載です。サビの歌うベースに惚れ惚れします。歌詞はカーティス・メイフィールドの「ピープル・ゲット・レディ」の世界です。カーティスの影響は「ワン・ラヴ」などにも表れています。

5,   Baby We’ve Got a Date (Rock it Baby)  ベイビー・ウイヴ・ガット・ア・ダンス(ロック・イット・ベイビー)

これは純粋な愛の歌で、スローダンスチューンです。典型的なレゲエのリズムという感じがして、この曲の後世に与えた影響はかなりありそうです。

6,   Stir It Up  スティアー・イット・アップ

これも全曲と同じくラブソングです。サウンドはより洗練されて甘くメロウになった感じです。

7,   Kinky Reggae  キンキー・レゲエ

歌詞は開き直っている感じです。サウンドにも余裕を感じます。

8,   No More Trouble  ノー・モア・トラブル

ドラマチックな展開の現状を嘆き平和を望む歌です。今はとにかく問題が多いことを歌っています。ボブ・マーリーの代表曲の一つでレゲエ・スタンダードです。

9,   Midnight Ravers  ミッドナイト・レイヴァース

ゲイのことを歌っているようです。歌詞は肯定にも否定にも取れます。キーボードが大活躍で、ファーストアルバムにおいては他の曲と肌触りが違います。いいアクセントになっていて、レゲエにおいてもキーボードの存在は重要だと改めて感じます。



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