ジプシー・キングスはヨーロッパの伝統的な音楽であるフラメンコやルンバなどをベースにしてリズム感あふれる力強い音楽を奏でるバンドです。
私の感覚ではワールド・ミュージックの第一人者で、どんなジャンルの音楽を好きな人でも彼らのポテンシャルの高い演奏、サウンドは評価しているように感じています。
そして日本では昔から(1980年代から)驚くほどジプシー・キングスの音楽は根付いています。
例えば時代劇「鬼平犯科帳」のエンディングテーマから、漫才「芋洗坂係長=いもあらいざかかかりちょう」の新宿歌舞伎町でぼったくられた話まで幅広いものです。
(芋洗坂係長って知ってますか?不安)
そして決定的なのはタモリ倶楽部の「空耳アワー」においてはかなりの数取り上げられていました。
(今でもyoutubeなどで確認できます)
そういうふうに言葉の壁を超えて、日本においても誰でも数曲は知っているという状況になっています
日本人の感性に合っているというか、潜在的に体に染み込んでいる音楽かも知れません。
それはもしかしたら遺伝子レベルで魂に共振するものがあるのかも、と思えるほどです。
もちろん例えメディアで取り上げられていなくてもジプシー・キングスの音楽は一級品です。
音楽的に非常に完成されています。
弦楽器を中心にまとまった歯切れ良いリズムの上にメロディアスで力強いスペイン語の歌を被せてくるところあたり、スペイン語の意味などわかないものの非常に気持ちのいい音楽です。
また各曲もコンパクトに3〜4分にまとめられていますので、みょうに間延びしない、カチッとした形式となっています。
それに個人的には甘ったるい曲調ではなく男臭い、硬派な感じもポイントが高いところです。
映像とか環境音楽などいろんなことに応用できそうな感じです。
ジプシー・キングスは1979年、フランスのアルルでカタルーニャ地方の出身者によって結成されました。
レイエス家とバリアルド家の二つの家族で構成されており、両家ともフラメンコの世界では昔から名家でした。
メンバーはフランス生まれですが、彼らの親の世代はほとんどスペイン内戦から逃れてフランスのプロヴァンスに移住してきた人たちです。
昔風に言えばジプシーの末裔なのですが、ジプシーという言葉は現在では差別用語とされているので代わりに彼らはロマ族と呼ばれ、ロマ族は自分たちのことはヒターノというそうです。
その子息が集まってカタルーニャ・ルンバ、フラメンコ、サルサ、ポップスなどをブレンドして演奏するバンドを結成です。
なので英語圏のポップス風でもなく、クラシック風でもなく、ジプシー・キングスの音楽にはヨーロッパのフラメンコやフランスのジプシー・ジャズを中心に、メキシコ、キューバなど中南米の香りも感じさせてくれます。
ヴォーカルのニコラス・レイエスが中心となるのですが二つの家族でバンドを組んでいるせいか、意思の統一がされていて逐一言葉に出さなくても、みんな目で理解できるようなイメージがあります。
メンバーが入れ替わっても、音楽性やサウンドが大きく変わるというふうなことを感じさせない、という生まれついての “職人音楽集団” です。
結成してからしばらくはストリート・ミュージシャンをしながら、パブや結婚式などで演奏の仕事をしていました。
1982年にデビューアルバム「Allegria」、翌年にセカンドアルバム「Luna de Fuego」をリリースしますが、ここでは大きな成果は得られませんでした。
世界的にブレイクしたのは1985年にプロデューサーにクロード・マルティネスを迎えた時からです。
ポップス、ロックを取り入れて現代的なアレンジにしました。
そして1987年、心機一転サードアルバム「ジプシー・キングス」がリリースされ、フランスを中心に世界的にも大ブレイクとなります。
以降は順調にアルバムをリリースしながら活動を続けますが、2006年に12枚目のアルバム「パサジェロ」をリリースした後、「21 世紀の音楽業界を席巻する混乱を目の当たりにした」という理由でレコーディングの休止を宣言をしました。
バンド自体は安定した人気を持っており今なおツアーを続けています。
こういうスタイルのバンドは常に新しいことを目指して変化していくのではなく、各楽曲を繰り返し演奏しながら磨き込んでいくスタイルです。
なんか「ずっと音楽を続けていくけど、もう歌のレパートリーはこれくらいあれば十分だよ」くらいに考えてそうです。(個人の感想です)
ジプシー・キングスはフラメンコの世界からは亜流だと非難される向きもありますが、(そりゃそうでしょうね)伝統音楽の良さ、メロディや熱気をうまくポップスに応用して世界に知らしめた功績は大きいと思います。
彼らのアルバムは全ておすすめですが、とりあえず入り口としてはこの1999年リリースのベストアルバム「Very Best of the Gipsy Kings」が一番内容が濃くて、彼らの魅力を余すことなく伝えています。これはもう一家に一枚の必需品です。(個人の見解です)
当初はヨーロッパ、メキシコ、日本でリリースされ、翌年には米国圏でもリリースされました。私の持っている音源はアメリカのものですのでオリジナルヨーロッパ版から1曲「Hit Mix ’99」というトラックがないバージョンです。
アルバム「ベリー・ベスト・オブ・ザ・ジプシー・キングス」のご紹介です。
演奏
バンドメンバーは入れ替わりが多いので、ここでは世界的にブレイクした最初のアルバム「ジプシー・キングス」リリース時のメンバー、関係者を紹介しておきます。
ジプシー・キングス
ニコラス・レイエス リードヴォーカル、リズムギター
トニーノ・バリアルド リードギター、リズムギター
アンドレ・レイエス リズムギター、バックヴォーカル
ジャック・マックス・バリアルド リズムギター
ジャルール・チコ・ブチキー リズムギター、ハンドクラッピング
モーリス・ディエゴ・バリアルド リズムギター、ハンドクラッピング
ポール・パブロ・レイエス リズムギター
ドミニク・ペリエ シンセサイザー、アレンジメント
ジェラール・プレヴォ ベース、シンセサイザー、アレンジメント
クロード・サルミエリ ドラムス
マーク・シャンテロー パーカッション
曲目
*参考までに最新のベスト盤となりますがyoutube音源をリンクさせていただきます。
*良い子の皆さんは決して空耳バージョンで口ずさんだりしないように。
1, Volare ボラーレ
1989年の大ヒットアルバム「モザイク」の収録曲です。いきなりジプシー・キングス・ワールドへ飛ばされます。オリジナルは1958年にイタリアのSSW、ドメニコ・モドゥーニョが「青く塗られた蒼空に」という曲ですが通称 : ヴォラーレ(飛ぼう)として有名な曲だそうです。4枚目のアルバム「モザイク」に収録されています。いろんなところで使われており、多分誰でも耳にしたことがあるような曲です。
*空耳アワーでサビのところ「がんばれ、おおおお、寝る移民と犬」そして0:49秒「まあご謙遜」という日本話が出てきます本曲の内容には直接の関係はありません。あしからず。
2, Bamboleo ボンバレオ
さらに大ヒット曲が続きます。1988年のブレイクしたアルバム「ジプシー・キングス」からです。オリジナルは1980年にシモン・ディアスという人が作曲したベネズエラ民謡を翻訳したものということです。ノリが良くてカスタネットがめちゃ煽ってきます。
*空耳アワーでは出だしから「医者も手がすいちゃたまんねえな」としみじみと繁盛していない病院で嘆くお医者さんの話が出てきますが、本曲の内容にはこれまた直接の関係はありません。
3, Djobi Djoba ジョビ・ジョバ
デビューアルバムに最初にアコースティック.バージョンがレコーディングされました。ネイティブな感じも出しつつ、ノリとタメが非常に気持ち良い曲です。
*空耳アワーでサビのところ「ジョビ・ジョバ、あーらにやけたケロンパ」と出てきますが本曲の内容にはたぶん直接の関係はありません。ちなみにケロンパとは俳優だった愛川欽也さんの奥様でタレントなどの活動をされていたうつみ宮土理さんの愛称です。(昭和の人は全員知っています)
4, Bem, Bem Maria ベン・ベン・マリア
3rdアルバム「ジプシー・キングス」に収録されています。1994年にタバコ、LARKのコマーシャルで使用されました。哀愁のギターソロも出てくるドラマチックな印象の曲です。
*空耳アワーで「あんたがた、ほれ見や、車ないか、こりゃまずいよ」と違法駐車してレッカー移動させられた話がありましたが、本曲の内容にはまたしても直接の関係はありません。
5, Baila Me バイラ・メー(さあ踊ろう)
1991年のアルバム「エステ・ムンド」のオープニングナンバーです。タイトル通り、ノリが良くて体が勝手に反応するような曲です。
6, Pida Me La (previously unreleased) ピダ・メ・ラ
ゆったりしたリズムでそれを聴いているだけでも盛り上がってきます。パーカッションも気持ちいい曲です。
7, Soy ソイ(僕は)
アルバム「モザイク」収録曲です。ジプシー・キングスの中でもとびきりポップな感じの、いかにも青春を歌っているような曲です。(詳しくは知りません)
*空耳アワーでサビのところ「野茂のケツ重い、えっ、そんなもんでいいんだ」という歌詞が出てきますが本曲の内容にはきっと直接の関係はありません。野茂とは日本のプロ野球界からメジャーに移籍して初めて大成功した投手のことです。
8, Sin Ella シン・エジャ(彼女なしで)
アルバム「エステ・ムンド」収録の曲です。切々と歌い上げるところから始まります。ライブ演奏です。歌謡曲につながるようなメロディがとってもポップでいいと思います。
9, Vamos a Bailar バーモス・ア・バイラール
アルバム「ジプシー・キングス」のラストナンバーです。ここまでくるとなんかもうサウンドがすごい説得力ですね。ホーンセクションも入ってきました。日本の歌謡曲でも聴いたような、こういうのがあったよねというフレーズが出てきます。ラストはパーカッションで盛り上がります。
10, A Ti A Ti ア・チ・ア・チ(君に、君に)
1995年のアルバム「エストレージャス」からです。スパニッシュギターが一際(ひときわ)渋いナンバーです。
11, La Rumba de Nicolas ラ・ルンバ・ニコラス(ニコラスのルンバ)
アルバム「エストレージャス」のオープニング曲です。切々と歌い上げる渋いナンバーです。他に比べてやや落ち着いた感じのため、別の味わいがあります。
12, No vivere ノー・ヴィヴィレ
アルバム「エステ・ムンド」から。ラテン色が強い感じです。中南米でも受けそうです。アクセントでホーンが入ります。
13, Allegria (Instrumental) 喜び
ライブでインストものです。スタジオバージョンはデビューアルバムのタイトルトラックです。やや落ち着いた感じが「宴もたけなわですが、ぼちぼち」「ではまた皆様ごきげんよう、ありがとうございました」という感じがします。
14, La Dona(夫人- ブリジット・バルドーに捧ぐ)
これもライブ演奏です。同じくデビューアルバム「アレグリア」に収録されています。そつのない演奏はまさに音楽の職人集団です。ブリジット・バルドーはフランスの女優、歌手、タレントです。日本でも有名で昭和生まれの人はみんな知っています。
15, Oy オイ
アルバム「エステ・ムンド」から。これまた無双のジプシー・キングス節です。サビがなんとも日本語的なアクセントです。
16, A Tu Vera ア・トゥ・ベラ(あなたのそばに)
「エストレージャス」からです。ジプシー・キングスらしいのですが初期に比べるとサウンドが変化してきています。
17, Ami wa wa (Solo por ti) アミ・ワ・ワ(ただ君のために)
1997年のアルバム「コンパス」からです。はい、安定のジプシー・キングスですが、ここではギターを前面に出すのではなく、コーラスを入れてきています。
18, Oh Eh Oh Eh オー・エー・オー・エー
ライブです。サンバホイッスルも入り陽気なラテン色満載で開放感があります。
19, A mi Manera マイ・ウェイ
あの超有名曲のカバーです。ストリートで演奏している頃からのレパートリーの一つだそうです。何をやってもサマになってます。
*空耳アワーでは毎日のように酔っ払って吐いている人を見て、「今日、ゲロせん」という話が出てきましたが本曲の内容には絶対に直接の関係はありません。
20, Tu Quieres Volver トゥ・キエレス・ボルベール
シンプルなバックにしてしみじみと聞かせます。
21, Un Amor ウン・アモール
アルバム「ジプシー・キングス」からです。落ち着いたリズムで歌い上げます。日本の昔の歌謡曲にも通じる感じがします。
22, Escucha Me エスクチャ・メ
1993年のアルバム「愛と自由」からです。珍しくレゲエ風味みたいなのを入れてきました。
23, Habla Me アブラ・メ(愛の答えを)
アルバム「エステ・ムンド」から。これまた聴いたことがあるような(本当はありませんが)メロディです。初期に比べるとだいぶサウンドも変化してきています。
24, No Volvere ノー・ボルベレ(戻らない)
これもゆっくりでシンプルな演奏です。これも「エステ・ムンド」からのナンバーです。こういうのもよろしいかと思います。ストリングスも入ります。
25, Caminando por la Calle カミナンド・ポル・ラ・カジェ(街を歩きながら)
エコーを効かせたリズムが印象的です。特にサビの部分が今までとはちょっと違う曲調です。
26, Mujer ムヘール(女)
アルバム「エストレージャス」からです。初期のギターでリズムを散り盛り上げていく感じではなくなって、より落ち着いた雰囲気になってきました。じっくり聞かせる感じです。ヴァリエーションが増えてきています。
27, Este Mundo エステ・ムンド(この世界)
1991年のアルバム「エステ・ムンド」のタイトルナンバーです。これもサビの部分が今までにない感覚の曲です。新境地を感じます。MAZDA「センティア」のCMで使われました。
28, Ternuras テルヌラス
同じく「エステ・ムンド」から。シンプルなバックにアコースティックギターで歌い上げる綺麗なナンバーです。
29, Quiero Saber キエロ・サベール
初期の型にハマった曲調ではなく、別の方向を、次なる進化を模索している感じです。
30, Inspiration インスピレーション
ジプシー・キングスらしいかといえば、歌が入らないのでそうではないのかもしれませんが、「鬼平犯科帳」で見事なエンディングテーマとなっていました。
31, El Camino エル・カミーノ
落ち着いてきたジプシー・キングスらしいナンバーです。
32, Trista Pena トリスタ・ベーナ(悲しき罰)
引き続き、落ち着いた雰囲気のナンバーです。アルバム「ジプシー・キングス」からです。
33, Viento del Arena ビエント・デル・アレーナ(闘牛場に吹く風)
これも「ジプシー・キングス」から。風の音と独唱で始まり、力強いリズムに変わっていきます。ジプシー・キングスにしては珍しく5分を超えるスタイルです。
34, Passion (Instrumental) パッション
綺麗なメロディのインスト・ナンバーです。情熱といっても静かに燃え上がる情熱です。これまた「ジプシー・キングス」収録です。
35, Mi Corazon ミ・コラソン(僕の心)
映像が目に浮かぶようなサウンドです。ベストアルバムですが、後半の曲は映像的だと思います。アルバム「エストレージャス」からのナンバーです。
36, I’ve Got No Strings アイヴ・ガッタ・ノー・ストリングス
演奏にメリハリ聞かせたスタイルです。
37, Hotel California (Spanish Mix) ホテル・カリフォルニア
超有名曲を完全に自分たちの世界に持って行ってます。ラストは泣きのギターではなく哀愁のギターソロです。
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