「1977年英国レコーディング。レゲエをベースに様々なリズムを加えて太く大きくグルーヴするボブ・マーリー・アンド・ザ・ウェイラーズの代表作」Exodus : Bob Marley and the Wailers / エクソダス : ボブ・マーリー・アンド・ザ・ウェイラーズ

 ボブ・マーリーは今なおレゲエおよびロックにおいて最重要なアイコンです。
当然リリースしたアルバムは全て秀作、いろんな方面からの評価も高く、音楽界全てに影響を与えました。

その中でも代表作の一つと言われるのがこの1977年にリリースされた「エクソダス」です。

ボブ・マーリーとしては通算9枚目、そして「キャッチ・ア・ファイアー」以降のアイランド・レコードから世界をターゲットにリリースされたアルバムとしては5枚目となります。

前作「ラスタマン・ヴァイブレーション」からは1年ぶりです。

この間、ボブ・マーリーには世界観を変えるような大きなな出来事がありました。

1976年12月3日にジャマイカの自宅で暗殺未遂事件に遭ったことです。
その際、銃弾を胸を掠め左腕を負傷してしまいます。
本当に運が良かったから助かったものの、あと数センチずれていれば即死状態だったという次第です。

すごいことに、それでも事件の2日後にはボブ・マーリーは予定していたスマイル・ジャマイカ・コンサートに強行出演しました。

その後ジャマイカを離れ、2年ほどロンドンに移住(自主亡命と言うべきか)することとなります。

そのイギリスの地でこのアルバム「エクソダス」をレコーディングしました。

「エクソダス=脱出」とはなんともリアルなタイトルなのですが、1976年の12月にはレコーディング、リリースされており、暗殺未遂事件の時にはすでに地元ジャマイカではナンバーワンヒット、そしてイギリス、ドイツなど世界的にもヒットしていました。

この頃になるとボブ・マーリーの書く楽曲も民族音楽としてのレゲエというよりだいぶソウル、R&B、ロック、およびアフリカ系リズムなどを取り込んだ作風になっています。

というか、もとよりボブ・マーリーは民族音楽としてのレゲエだけではなく、ラジオから流れるアメリカの音楽に影響された部分もあったのです。

ジャマイカにはアメリカのラジオの電波が届いており、アメリカで流行っている音楽はリアルタイムで体験できていたようです。

今回のアルバムはロンドンでのレコーディングということで、ここにきてまた世界を視野に一段ギアを上げた感じがしたものです。
(本人にとっては自然な流れかもしれませんが)今までに比べ洗練されたサウンドになりました。

レゲエをベースにしながらも初期にあったハードボイルドでヒリヒリするようなリアルな緊張感はなくなり、よりモダンな感覚のポップでソウルフルでよりファンキーなサウンドに進化しています。
(もちろん、初期の頃のオリジナリティも魅力です)

と言ってもある意味聞きやすく、ポップ、ロックファンにも広く受け入れられるような音楽になったとはいえ、天下の反逆児ボブ・マーリーです。
表現する世界までもが軟弱になったわけではありません。(別にサウンドが軟弱になったとは言いませんが)
結果的にはより多くのファンを獲得することになりました。

翌年にワン・ラブ・ピース・コンサートと共に凱旋帰国し、アルバム「カヤ」をリリースします。

このアルバムは「エクソダス」と同一時期に録音された楽曲で構成されていました。
ただ「エクソダス」とは若干感覚が違います。押し並べて「カヤ」の方はメロディ重視のマイルドな感触です。

個人的には最初に聴いた時には若干違和感がありました。
タイトル曲の「エクソダス」についても「これ、もうレゲエじゃなくね」なんて思ったりもしたものです。
しかしなぜか気になるアルバムであって、通して聴くたびに引き込まれて行きます。

そうしてるうちに「こりゃあ、全体を通してすごいグルーヴ感だ」と感じるようになりました。
全体で今までになかったくらいの大きなうねりを作っています。

もうジャンル分け不要のファンキー・ミュージックです。

そしてもう一つ特筆すべきは生々しいリズムの音です。
あまりヴォーカルが前に出るミキシングではなくて、リズムが主役のようなイメージさえあります。

バレット兄弟によるドラムとベースの音が大きめにミキシングしてあって、これが最高に気持ちいいグルーヴを生み出しています。

音量を上げていってもバランスのマジックで、邪魔になるような音が出てきません。

オープニングの「ナチュラル・ミスティック」で、最初の方と最後のところで何度か空気を揺らすような低音のリズムが出てくるところとか、「エクソダス」でベースがリズムをプッシュするときにあえてフレーズを低い方へに持っていきます。
快感です。

上質な音で体験するほど真価が発揮されるようなアルバムです。

アルバム「エクソダス」のご紹介です。

Exodus
Exodus was remastered from the original two track master tapes. Added to this single disc remastered edition are the bonus tracks " Jamming (long versi on) and ...

演奏
ボブ・マーリー・アンド・ザ・ウェイラーズ

ボブ・マーリー  リードヴォーカル、バックヴォーカル、ギター
ジュニア・マーヴィン  エレクギター
アストン・バレット  ベース
カールトン・バレット  ドラム
タイロン・ダウニー  シンセサイザー、エレクトリックピアノ、オルガン、バックヴォーカル
アルヴィン・「シーコ」・パターソン  パーカッション

ゲスト・ミュージシャン
リタ.マーリー、マーシャ・グリフィス、ジュディ・モワット  バックヴォーカル
デヴィッド・マッデン  トランペット、ホーンアレンジ
ヴィン・ゴードン  トロンボーン
グレン・ダ・コスタ  テナーサックス

ネヴィル・ギャリック  アートディレクション

曲目 (All tracks written by Bob Marley)
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Natural Mystic ナチュラル・ミスティック(自然の神秘)

大地から湧き出るようにリズムがフェイド・インして始まります。
ボブ・マーリーの楽曲の中でも評判の高い楽曲です。
歌詞はリアルな状況を歌っているものではなく「まるで自然の神秘が空気を吹き抜けている」と繰り返す審判の日に向かって週末の始まりを予言しているとされています。
ギターのカッティングはボブ・マーリー、ギブソンのレス・ポール・スペシャルです。

2,   So Much Things to Say ソー・マッチ・シングス・トゥ・セイ

ベースのフレーズが印象的です。
ハーモニーも素晴らしくメインヴォーカルを盛り上げます。
ボブ・マーリーらしい「俺は言いたいことがたくさんある」という社会への苛立ちを謳っています。

3,   Guiltiness 罪

これまたその場しのぎで生きている人に「罪悪感はないのか」とストレートに訴えるような歌詞です。そしてこのちょっとダルい感じもレゲエの魅力です。

4,   The Heathen 異教徒

「立ち上がって異教徒と戦うのだ」と歌います。
呪術的なコーラスが印象的です。

5,   Exodus エクソダス

最初はこの前ノリビートのサウンドに戸惑いましたが、この力強く推進するリズムがまことに快感になります。
ファンク、レゲエ、ディスコをミックしたような、と表現されました。
聖書の物語でモーゼがエジプトからイスラエルの民を導き出したこととラスタファリアンが自由へと導かれる希望を重ねて歌にしているそうです。

1978年のライブバージョンです。

6,   Jamming ジャミング

ジャムセッションそのもののことで音楽への楽しさを曲にしています。
「どんな弾丸も私たちを止めることはできない、俺たちは懇願もせず屈服もしない」という歌詞が登場します。

1978年のライブバージョンです。

7,   Waiting in Vain ウェイティング・イン・ヴェイン

恋人への愛について謳った曲で、確信がないけど待ち続けるという内容です。
ポップなメロディでリー・リトナーやアニー・レノックスもカバーしています。

アニー・レノックスのカバーです。
(ヤバイおばさまのミッキー・コスプレとか言ってはいけません)

8,   Turn Your Lights Down Low そっと灯を消して

綺麗でなんとも都会的でソウルフルなバラードです。
ローリン・ヒルとデュエットしたバージョンもあります。

9,   Three Little Birds 3羽の小鳥

ポップなメロディが際立っていて、何故か懐かしい感じもします。
逆境に直面しても前向きでいるように、という「何も心配ない、すべてがうまくいくから」という内容です。

10,  One Love / People Get Ready ワン・ラヴ / ピープル・ゲット・レディ

今やボブ・マーリー・アンド・ザ・ウェイラーズのテーマとなっている感もある代表曲です。
1965年のデビューアルバムでは「オリジナル」となっていましたが1977年のアイランド・レーベルのセルフカバー・バージョンではカーティス・メイフィールドがクレジットされました。
ジャマイカのローカルな地域ではオリジナルで問題ないものの、世界的なマーケット戦略となると、ベースとなったカーティス・メイフィールドの曲を無視できないとアイランド・レーベルが判断したそうです。

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