

夏になると思い出します。
1990年代後半、時代の本流とは関係なく突如として現れ世界中で大ブームとなったグループがいました。
その名は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」、古くて新しいキューバの音楽を演奏するグループでした。
この人たちの場合、プロジェクト的な側面が大きいため、バンドというよりグループという呼び方の方がしっくりきます。
メンバーを見ると皆さん若くはなさそうです。
というよりそれはもう、ほとんど大ベテランの域に入ってそうなミュージシャンたちでした。
しかもキューバという土地柄、街を走る車はほとんどがクラシックカーと言えるようなヴィンテージなアメ車です。
そういうのも含めて50年以上昔の雰囲気です。
その風景に見事に馴染んでいるミュージシャンたちも、どう贔屓目(ひいきめ)に見てもおしゃれでリッチなイケオジと呼ぶには違和感があるものでした。
当時は逆に新鮮に感じられたものです。

ヴィム・ベンアース監督によって、このアルバムのハバナのレコーディング風景と、アムステルダムとカーネギーホールでのライブの様子がドキュメント映画としても公開され、さらに大きなブームを巻き起こすことになります。
そして欧米や日本の音楽ファンにとって手をつけやすいことに、音楽プロデューサーとしてライ・クーダーが息子ヨハキムをともなって全面的に参加しています。
贅沢を言えば、地元のミュージシャンによる演奏があまりに完璧なため、「ライ・クーダーいらなくね、というかかえって邪魔」と彼のアルバムはほとんど持っている大ファンの私でも思う瞬間があったくらいです。
ヴィム・ベンダース監督といえば独特の映像美と音楽を使うことで有名です。
そこに「音楽 : ライ・クーダー」といえばあの「パリ・テキサス」です。
パブロフの犬のごとく頭の中でライ・クーダーのスライドギターによるブラインド・ウィリー・ジョンソンのカバー「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」が響きわたる方も多いのではないかと思われます。
ということで世界中の人々はこのアルバム、そしてドキュメンタリー作品にハズレはないと確信しました。
しかしこのプロジェクトは順調に行ったわけではなく、最初から暗礁に乗り上げた状態でスタートしたようです。
元からこういうアルバムを制作する予定だったのではなかったのです。

最初はアメリカ人のギタリスト、ミュージシャンで民俗音楽にも造詣の深いライ・クーダーにワールド・サーキット・レコードのワールド・ミュージック・プロデューサーであるイギリス人のニック・ゴールドから提案がありました。
アフリカのマリ出身のミュージシャンとキューバのミュージシャンが共演するセッションに招待したいということでした。
この時、ライ・クーダーはすでに1994年にアフリカ、マリのミュージシャンアリ・ファルカ・トーレとの共演アルバム「トーキング・トゥ・ティンブクトゥ」をリリースしていました。
アメリカ、カリブ海、南米を通り越してアフリカまで視界に入れていた状態です。
当然キューバとアフリカを繋いでをまとめられるのは自分しかいないと思ったことでしょう。
(知らんけど)
というわけで早速キューバへ向かいますが、当時はアメリカからのキューバへの貿易と旅行の禁輸措置が取られていました。
そこでメキシコ経由でキューバのハバナに向かったそうです。
そんなこんなで苦労しながらやっとのことで到着してみたら、マリ出身のミュージシャンはビザが発行されず来れないということになっていました。
そういう基本的なところも抑えずにプロジェクトを走らせるところがいかにも・・・大物ですな。
ライ・クーダーとニック・ゴールドは仕方なく計画を変更して地元のミュージシャンとキューバ独特の音楽であるソン(ソン・クバーノ)をレコーディングすることにしました。

結果的にはソン、グアヒーラ、ボレロなどのキューバに根付いている音楽で構成されたアルバムとなります。
この時参加が決まっていたのはベーシストのオーランド・カチャイト・ロペス、ギタリストのエリアデス・オチョア、音楽監督のファン・デ・マルコス・ゴンザレスたちです。
ニックとライは追加のミュージシャンとしてヴォーカリストのマヌエル・ブンティリタ・リセア、ピアニストのルーベン・ゴンザレス、80歳代の歌手コンバイ・セグンドに依頼します。
そしてプロジェクトの全員の同意を得ることもできました。
プロジェクトが始まって3日間でライ・クーダー、ニック・ゴールド、ファン・デ・マルコスは大勢の演奏者を集めてハバナのEGRMスタジオでレコーディングの手配をします。
アルバムは6日間で作成され、14曲が収められることになりました。
アルバムのオープニングにはエリアデス・オチョア・ブスタマンテの歌う「チャン・チャン」に決定です。
ライ・クーダーは「ブエナ・ヴィスタの名刺がわり」と評しています。

大概の音楽ファンははこの曲でやられました。
ここでの御大の歌はたとえ歌詞が分からなくても、ものすごい説得力で胸に響きます。
この人の人生が垣間見れるような情感あふれる、存在感のある声です。
最初の30秒でこのアルバムの完成度の高さがわかるようなオープニングでした。
結果的にこのアルバムは全世界で400万枚のセールスを記録しました。
2002年の時点でヨーロッパ全土で100万枚以上売り上げがあったと言われています。
そしてローリング・ストーン誌の「史上最高のアルバム500枚とか「死ぬまでに聞くべき1001枚」などに名を連ねるようになりました。
2022年には、このアルバムは米国議会図書館によって国立録音登録簿に保存される作品として選ばれました。
またこの年、ギネス世界記録によって最も売れたワールドミュージックアルバムとして認定されました。
2024年には、南北アメリカ大陸の複数の国の音楽ジャーナリストのグループが1920年から2022年までのラテンアメリカのトップ600アルバムを選定して作成した「 Los 600 de Latinoamérica 」リストで11位にランクインされることになったのでした。
このアルバムに参加している1927年生まれの御大イブラヒム・フェレールは、このアルバムで再認識されソロアルバムも何枚かリリースすることができました。

この人を見ると日本の「天使のダミ声」と言われる元憂歌団の木村充揮さんを思い出します。

*アルバム「ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブ」のご紹介です。
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Chan Chan チャン・チャン
(コンパイ・セグンド)
1987年に書かれたコンバイ・セグンドの代表曲でソンの伝統を受け継いだ音楽です。
歌詞は、チャン・チャンとフアニカというカップルが砂で家を建てるためにビーチに行く様子を描いています。
砂を集めている最中、フアニカがふるいを振るとチャン・チャンが興奮します。
一見すると歌詞の内容はあまり意味を成さないように思えますが、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのリーダー、コンパイ・セグンドの心情に非常に近いものだそうです。
ここら辺はキューバの人でないとわからない感情だと思います。
セグンドへのインタビューによると、この二人の登場人物は「キューバの民話に登場する伝説の人物であり、歌詞はキューバの農村部の農民、つまり『グアヒロ』の生活と文化を捉えている」とのことです。
2, De camono a la vereda デ・カミーノ・ア・ラ・ベレーダ (道を踏み外すな)
(イブラヒム・フェレール)
この曲はソン・スタイルで、ギター、ムビラ、ラウド、トランペット、マラカス、ドゥンベックなど、様々な楽器が使われています。
歌詞には愛と宗教の両方のニュアンスが含まれており、アルバム全体に流れる恋愛テーマと、イブラヒム・フェレールの強い信仰心を反映しているようです。
いろんなメロディが交錯していきます。
3, El cuarto de Tula エル・クァルト・デ・トゥラ (トゥラの部屋)
(セルヒオ・“ゴンサレス”・シアバ)
珍しく7分を超える大作となっています。
コーラスやフラメンコ風ギターが独特で印象に残ります。中南米を感じさせる曲調です。
この曲は 2001 年のデンゼル・ワシントンとイーサン・フォーク共演の映画「トレーニングデイ」で使用されていました。
4, Puebio Nuevo ブエブロ・ヌエボ (新しい民族)
(イスラエル・“カチャオ”・ロペス)
ピアノ主体でなぜか昭和歌謡を思い出させる懐かしい感じがするインストゥルメンタルです。
ダンソンと呼ばれるキューバのダンス・ミュージックです。
5, Dos gardenias ドス・ガルデニアス (クチナシの花をふたつ)
(イソローナ・カリージョ)
ボレロで地元では一番有名な曲だそうです。これも日本の演歌にそっくりです。
タイトルの「クチナシ」の表している意味などはネイティヴな人でないとわからなさそうです。
イブラヒム・フェレールが歌います。
6, ¿Y tú qué has hecho? イ・トゥ・ケ・アス・エチョ? (私の花に何をした?)
(エウセビオ・デルフィン)
1920年代にエウセビオ・デルフィンによって書かれたボレロです。
コンバイ・セグンドがメインでトレスと歌っています。
セグンドは伝統的にバリトンの対位法ハーモニーを提供する「セカンドボイス」歌手だったそうです。バックはホーンのソロもありますが、弦楽器主体でコンパイ・セグンドとライ・クーダーとのギターの掛け合いが楽しめます。
7, Veinte años ベインテ・アニョス (二十年)
(マリア・テレサ・ベラ)
オマラ・ポルトゥオンドが歌い、セグンドがセカンドボーカルを務めています。
この曲は、オマラがEGREMスタジオでの自身のレコーディングセッションを終え、ベトナムに飛ぶ準備をしていた後、急遽ワンテイクで録音されたそうです。
8, El carretero エル・カレテーロ (荷馬車引き)
(ギレルモ・ポルタバレス)
グアヒーラと呼ばれる田舎の生活を謳ったバラードです。エリアデス・オチョアが歌い、アンサンブル全体で楽器演奏とバックコーラスを担当しています。
9, Candela カンデラ (火)
(ファウスティーノ・オラバス)
イブラヒム・フェレールのヴォーカルです。タイトル通り、たたみかけるようなヴォーカルとリズムがプロ未ティブな高揚感を作っていきます。
10, Amor de loca juventud アモール・デ・ロカ・フベントゥッド (青春時代のいい加減な愛)
(ラファエル・オルティス)
メロディックなギターのイントロで優しげなヴォーカルがいかにもタイトルのような初恋を歌っている感じです。
11, Orgullecida オルグリェシダ (誇りを持って)
(エリセオ・シルベイラ)
この曲もメロディアスで聴きやすく、癒されます。というかライ・クーダーの世界とつながるものが多い感じです。
12, Murmullo ムルムリョ (ささやき)
(エレクト・“チョピン”・ロセル)
のどかで癒される時間が続きます。リラックスした時間です。
13, Buena Vista Social Club ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
(オレステス・ロペス、イスラエル・“カチャオ”・ロペス)
グループ名をつけたダンソン(ダンス・ミュージック)です。ルベン・ゴンザレスによるピアノ主体のジャズっぽいナンバーでクールに進んでいきます。
14, La bayamesa ラ・バヤメーサ (バヤーモの女)
(シンド・ガライ)
「ラ・バヤメーサ」は、吟遊詩人シンド・ガライによって1869年に作詞されました。
共和国への愛国歌であり、キューバ国歌の一部となっています。
このバージョンは、革命中にガライの実家を訪れた際の記憶を持つコンパイ・セグンドによって編曲された、新しいエンディングが特徴です。(となっていますがこの手の終わり方はもう結構メジャーになっている気もします)
演奏
- エリアデス・オチョア
ボーカル(Tr.1、3、8、9)、ギター(Tr.1、3、8、9、11) - コンパイ・セグンド
バッキングボーカル (Tr.1)、コンガ (Tr.1)、ギター (Tr.2、6、7、10、11、14)、ボーカル (Tr.6、7、10、11、14) - イブラヒム・フェレール
バックコーラス(Tr.1、8)、ボーカル(Tr.2、3、5、9、12、14)、コンガ(Tr.4)、クラベ(Tr.6、13)、ボンゴ(Tr.10) - ライ・クーダー
ギター(Tr.1~7、11~13)、ムビラ(Tr.2、8)、ウード(Tr.8)、ボロン(Tr.8)、フロアスライド(Tr.8)、パーカッション(Tr.8)、アコースティックスライドギター(Tr.9)、エレクトリックスライドギター(Tr.9)、スライドギター(Tr.10) - マヌエル・“グアジロ”・ミラバル
トランペット (Tr.1-6、9、11) - オーランド・“カチャイト”・ロペス
ベース(Tr.1–9、11–14) - カルロス・ゴンサレス
ボンゴ (Tr.1、3、9)、カウベル (Tr.3、9) - アルベルト “ヴィルジリオ” バルデス
マラカス (Tr.1–9、12、13)、バッキング ボーカル (Tr.2)、コーラス ボーカル (Tr.3、9) - ヨアヒム・クーダー
ウドゥ・ドラム (Tr.1、4、5、8、12、13)、ダンベク (Tr.2、3、6、7、9–11)、コンガ (Tr.3)、ドラム (Tr.11) - バルバリト・トーレス
laoud (Tr.2, 3, 11) - マヌエル・リセア
バックコーラス(Tr.2)、ボーカル(Tr.3、14)、コーラスボーカル(Tr.9) 、コンガ(Tr.13) - フアン・デ・マルコス・ゴンサレス
バックボーカル (Tr.2、8)、指揮者 (Tr.3、9)、ギロ (Tr.8)、コーラスボーカル (Tr.9) - ルイス・バルザガ
バッキング・ボーカル (Tr.2)、コーラス・ボーカル (Tr.3、9) - ジュリエンヌ・オビエド・サンチェス
ティンバレス (Tr.3) - ルベン・ゴンサレス
ピアノ (Tr.4、5、6、11–14) - ラザロ・ヴィラ
ギイロ (Tr.4, 13)、コンガ (Tr.5, 12) - オマラ・ポルトゥオンド
ボーカル (Tr.7) - フリオ・アルベルト・フェルナンデス
ボーカル (Tr.10)、マラカス (Tr.10) - ベニート・スアレス・マガナ
ギター (Tr.10) - サルバドール・レピラド・ラブラダ
ベース (Tr.10)




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