1980年代中期、音響のデジタル化が進み、CDも定着してきた頃でした。
そこでワールド・ミュージックという言葉というかジャンルが徐々に流行り始めました。
日本はバブル景気に沸いていました。
世界の音楽シーンはニューーウエイゔもテクノもパンクひと段落して、「スリラー」のマイケル・ジャクソンや「ライク・ア・ヴァージン」のマドンナ、「ボーン・イン・ザ・USA」のブルース・スプリングスティーンなどのメガヒットを持つ大型アーティストが主流でした。
プロモーションも映像主体でMTV全盛期となっていた時期です。
ブラック・ミュージックといえば打ち込みリズムが主流で、関東では新規のFM曲として誕生したJ-WAVEなどは1日中ヒップホップを流していたような印象があります。
そこで困った人たちも出てきました。
世の中の時流に乗れず、というか流行を追いかけることなどとうの昔に投げ出してそこには価値を見出せない人もいました。
自分に合った音楽を求めてきた人たちです。(なんて自分勝手な考えですね)
そういう一部の打込みリズムやラップ、ヒップホップに乗れない人たちからすると音楽からは興味が失われつつありました。
(すいません私のことです)
そこへ表れたのがワールド・ミュージックというジャンルでした。
白状しますと当初は、どうせバブル景気に乗ったおっしゃれ〜な人たちの趣味の音楽だろう、などと勝手に思っておりました。
しかしアフリカ系、特にこのセネガルのユッスー・ンドゥールとマリのサリフ・ケイタを聞いた時は衝撃的で、一気に見方が変わりました。
その人たちは歌い方は大変ストレートです。持って生まれた、というより古来より伝わる歌の技術を持ち、声に張りと艶を感じます。
そしてまたそこにまた途方もないリズム感があるのが分かるのです。
言語が違いすぎて何を歌っているかはわからないものの大地や人間の持つ本来の躍動をダイレクトに感じます。
それは音楽に対してとってもピュアで魅力のあるものでした。
ユッスー・ンドゥールはセネガルのミュージシャンです。
セネガルやマリなどアフリカ大陸の西側の音楽は元フランス領であったためフランス経由で紹介されていました。
アフリカの不幸な歴史ですが欧米のマーケットに乗って遠くアジアの私まで届いたのです。
ユッスー・ンドゥールなどに触れて思ったことがあります。
もしかしたらアフリカや南アメリカ、アジア、中東などではまだ欧米の文化圏ではわからない、確認されていないようなとてつもない才能がいっぱいあるのではないかと思えました。
この現代のテクノロジーに関係なく原始の鼓動を伝えてくれるような音楽はいつ聞いても素晴らしいものです。
一度は触れていただきたいと思います。
アルバムタイトル「ネルソン・マンデラ」についてです。
知っておられることでしょうが、タイトルは人名で南アフリカで反アパルトヘイト活動をして人種差別を容認する法律を撤廃させたという、今や歴史上の偉人です。
当時はまだリアルタイムで投獄されていました。
1985年にブルース・スプリングスティーン&E.ストリート・バンドのスティーヴ・ヴァン・ザントを中心に欧米のミュージシャンが結集してアパルトヘイトを避難した「サン・シティ」もリリースされています。
以前からマイルス・デイヴィスやポール・ウェラーなどが南アフリカの人種差別に対してコメントをしており、何かにつけてアパルトヘイトの問題については世界中に発信されていました。
このアルバムはそういう世界情勢のこともより深く知ることになって重要な視点ですが、そうでなくても音楽自体もまた素晴らしいもので、アフリカの音楽を世界に広めたことも併せて後世に残るべきものだと感じています。
ちなみに現在の南アフリカ共和国はアパルトヘイトは1990年代初めに撤廃されましたが、いまだに貧困や失業率の高さなど政治的な問題は残っています。
それと1985年という年はアフリカの数年続く飢餓救済のためイギリスではバンド・エイド、アメリカではUSA for Africaといったヒットチャートを席巻していたミュージシャンたちによるチャリティアルバムが次々とリリースされていた年でした。
アルバムに話を戻します。
1曲を除いてセネガルの言語で歌われています。
その1曲とはアメリカのソウル・グループ、ザ・スピナーズの1976年のヒット曲「ラバーバンド・マン」です。
フィラデルフィア・ソウルのプロデューサーのトム・ベルとSSWのリンダ・クリードによって書かれました。
内容は作者の一人、トム・ベルの息子が太っていてクラスメイトに揶揄われていたので、そのことについて歌ったものだそうです。
最終的にはファット・マンからラバーバンドマンになりました。
という曲ですがこの曲があることで非常に親しみやすくなりました。
聞いてみるとユッスー・ンドゥールのオリジナルかと思うくらい自分のものにしています。
というか歌う世界のスケールまで変えています。
もう一曲外せないのは「ラバーバンド・マン」の前においてあるバラード「マグニンデ」です。
これがまたアフリカ人でしか出せないだろうと思われる、なんとも言えない乾いた哀愁のある名曲です。
他にもタイトル曲「ネルソン・マンデラ」など素晴らしい曲がいっぱいあります。
ユッスー・ンドゥールは1989年にヴァージン・レコードからリリースされた次のアルバム「ライオン」から世界規模で流通することになります。さらに翌年リリースの「Set」も名アルバムで「ネルソン・マンデラ」「ライオン」「セット」と続く1980年代にリリースされたユッスー・ンドゥールのアルバムはどれも素晴らしい魅力を放っています。
曲目
*参考までにyoutune音源をリンクさせていただきます。私の持っているCDと曲順が違います。
- N’Dobine ンドバイン
リズミカルなパーカッションに引き込まれます。ホーンのメロディは親しみやすく、尚且つ今まで聞いたことのないようなアフリカの言葉に新しい体験を感じさせてくれます。 - Donlkaasi Gi ドンカシ ギ
いきなり聞いたことのあるような親しみを感じるホーンのフレーズで始まります。
1曲目と同じくパーカッションが素晴らしく引き込まれます。 - Wareff ワレフ
これはグッと欧米のリズムに合わせた感じです。ベースソロやパーカッションのソロも出てきます。中間部になると聞きなれないようなリズムの応酬となって面白い展開となります。 - Magninde マグニンデ
これがアフリカン・ソウル・バラードです。完璧です。いつまでも聞いていられるような名曲で飽きません。 - The Rubberband Man ラバーバンドマン
ソウル、ファンクが好きな人はまずこれだけは聞いていただきたいくらいの名アレンジです。
オリジナルよりビートをシンプルにして淡々と盛り上げていきます。
オリジナルはプライベートな内容ですが、ここでは途中でセネガル!、フリーダム!と叫ぶ事から “アフリカの現状” とか “資本主義の搾取” とか “欧米とアフリカ” とかすごく大きなことを歌っていると感じられます。
鳥肌が立ちました。(勝手な解釈です) - Moule Moule ムールムール
アフリカならではのファンキーさです。 - Samayaye サマヤエ
よい意味でのアフリカっぽい軽さがあっていい感じの曲です。 - Nelson Mandela ネルソン・マンデラ
基本のリズムはシンプルながらいろんな音が絡み合っていきます。
欧米風のアレンジがあるもののオリジナリティを感じます。
他では味わえないアフリカのパワーです。
コメント