「唯一無比の音楽はみんなを楽しませます。天才とも異才とも奇才とも呼ばれるローランド・カークの超弩級の記録です。」Volunteered Slavery : Roland Kirk / ヴォランティアード・スレイブリー : ローランド・カーク

 盲目の天才ミュージシャン、ローランド・カークです。
異才、鬼才とも言われます。
以前に名盤「溢れ出る涙」を紹介していますので、そちらもご確認願えれば幸いです。

「本当に異質の才能でした。ジャズの鬼才ローランド・カークの代表作です」The Inflated Tear : Roland Kirk / 溢れ出る涙 : ローランド・カーク
 ローランド・カークはアメリカのジャズミュージシャンです。この人について短く端的に語るのは難しいのですが、とにかく表現していることが凄すぎます。技術的にも天才です。見た目もインパクト抜群です。...

話はちょっと重複しますが、同じ方面のジャズ・ミュージシャン、チャールズ・ミンガスやクインシー・ジョーンズも認めています。
そしてロックからの信望者が多いようです。

例えばフランク・ザッパ、ジミ・ヘンドリクス、ポール・ウェラー、ピート・タウンゼント、イアン・アンダーソンなどが尊敬と賛辞の言葉を残しています。
というかロック畑からの声援が多いローランド・カークです。

唯一無二の演奏法や常識にとらわれない感覚など、いろんな意味での反骨精神が見てとれるためロックとの相性が良いのだと思われます。

彼の魅力について考えてみると、基本的にはホーン奏者ですのでジャンルとしてはジャズになりますが、ジャズはもちろんのことブルーズ、ソウル、ゴスペル、ファンク、ポップスと音楽のジャンルは軽く飛び越えて表現します。

ジャズの巨人と言われるマイルスやコルトレーンやエリントンなどと違うところは色々と思い当たりますが、まず大物感がありません。
本音が掴めないので確証がありませんがフランク・ザッパみたいな現代の普通の価値観は全部拒否という態度でもなく、聞く人に向けてのサービス精神やユーモアも感じられます。

同じく他にはない感性を持ったエリック・ドルフィーというジャズ・ミュージシャンがいます。
比較してベクトルが同じかといえばこれまた違いそうです。
カークの方がある意味わかりやすいメロディが並んでいます。ポップなスタンダードもいっぱい演奏しています。

演奏がメロディアスで、ポップで流行のメロディを取り入れたりもしていますが、でも聴いてる方に「いや、絶対それだけじゃないよね」、と思わせてくれる人なんです。

ジャズの人なので当然、他のバンドにサイドマンとして呼ばれたりすることもあります。
チャールズ・ミンガスやロイ・ヘインズのアルバムにも客演しています。
そしてそこでは相手の意思に合わせながらも全く手を抜くことなく、いい仕事をする人でもあります。
というか他のバンドでハードバップを演ろうと思えばそういうふうに、かなり質の高い演奏ができます。
サイドマンとして参加する場合はちゃんと期待されているレベル以上のことができる人なんです。

例えばロイ・ヘインズのインパルスでリリースしたアルバム「アウト・オブ・ザ・アフタヌーン」はリーダーがドラムです。
そしてピアノトリオ・プラス・ホーンという編成のため実質ローランド・カークのアルバムという感じがします。ここでもとってもいい演奏をしています。

時々考えるのはローランド・カークはどこを目指していたのだろうかということです。
これがまた謎です。
最後のリーダーアルバム「Boogie Woogie String Along for Real」はその名の如くブギウギのリズムに回帰しています。
その前年に脳卒中で倒れたため、以前のようにプレイできる状態ではありませんでしたがアルバムをリリースしてくれました。
このアルバムもテナーサックス中心でいいアルバムなんです。
考えようによってはベテランになってくると思い出したように原点に戻る例はありますし、天才、鬼才の考えることはまこと常人にはわかりませぬ。

そういうカークの1968年リリースのアルバム「ヴォランティアード・スレイブリー」のご紹介です。
レーベルはアトランティックです。

前半5曲がニューヨークのリージェント・サウンド・スタジオでレコーディング。後半5曲は1968年7月7日のニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブです。

こういう構成だとアルバムを出さないと契約違反になるので、曲が足りない分はライブを収録しました、みたいな中途半端なアルバムになることがままありますが、カークの場合は全くそういう心配は要りません。
何を演っても唯一無比のオリジナリティが勝ります。

まずタイトルであります。Volunteer=“奉仕、志願”ということですが、真逆の“究極の強制”を意味するSlavely=奴隷の状態という反対の言葉が二つ並んでいます。
カークならではのジョークかと思われます。

この人は演奏にしてもいろんな楽器を同時に演奏したり、循環呼吸法によって延々とホーンを吹き続けたりするものですから、本人は「ほら、面白いだろ、笑ってくれ」という気持ちかもしれません。
いや多分そうだろうと思われますが、こちらとしてはあまりのことに唖然として口をあんぐりと開けて見ている(聞いている)しかない状態です。
時間をおいて冷静になってみると技術的にも音楽的にも相当にすごい人であることが分かったりします。

ローランド・カークは1977年12月5日に42歳で亡くなってからだいぶ時間が経ちました。
悲しいことに超大物、メジャーなアーチストと言われる存在にはなっておりません。
いまだ知る人ぞ知るみたい存在ではないでしょうか。

そこが嬉しいのです。

そういう私はなんという酷い奴だと自分でも思ってしまいます。
ある時期から、カークのアルバムを好きになった頃からのことです。
音楽の話をしていて、ある特定のミュージシャンを高く評価している話とかを聞くと、聞きながら「うん、わかるよ。でもオレはローランド・カークとかも好きなんだ」と思うようになりました。
それだけでたとえ自分の心にに湧き上がる反論があってもうまくかわせます。

なんなら見方を変えてローランド・カークを否定することも可能でしょう。
でもカークをじっくり聴いていると視点を決めて音楽を聴く、評価することなんか意味がないことだと言われている気がします。
固定した観念や価値観でしか音楽を評価できないなんて、所詮手のひらで転がされている世界でしかないんだよと言われているようです。

誰も真似できない唯一の個性を持った、素晴らしいミュージシャン、ローランド・カークをご堪能ください。

アルバム「ヴォランティアード・スレイヴリー」のご紹介です。

Bitly

演奏
ローランド・カーク  テナーサックス、マンセロ、ストリッチ、クラリネット、フルート、ノーズフルート、ホイッスル、ヴォイス、シロフォン

チャールズ・マギー  トランペット(Tr.1,5)
ディック・グリフィン  トロンボーン(Tr.1,5)
ロン・バートン  ピアノ
ヴァーノン・マーチン  ベース
チャールズ・クロスビー  ドラムス(Tr.1)
ソニー・ブラウン  ドラムス(Tr.2-5)
ジミー・ホップス  ドラムス(Tr.6-10)
ジョセフ・ハバオ・テキシドール  タンバリン
ザ・ローランド・カーク・スピリット・クワイア(Tr.1-5)

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Volunteered Slavery ヴォランティアード・スレイヴリー

ドラムのファンキービートで始まります。
基本、このアルバムのA面はローランド・カーク・スピリッツ合唱団も登場します。
コーラスが続きます。意味を考えると不気味でもあります。 
カークの吹くビートルズの「ヘイ・ジュード」が出てきてしまいます。 
一般的なジャズとは違うのが面白いところです。

2,   Spirits Up Above スピリット・アップ・アバブ

ポップなフレーズで始まります。そしてこれも歌が入ります。曲の中間部から展開していきます。コーラスをバックにカークが歌い上げます。 

3,   My Cherie Amour マイ・シェリー・アモール
(Henry Cosby, Silvia Moy, Stevie Wonder)

スティーヴィー・ワンダーでお馴染みの有名なイントロです。
カークは「わ、わ、わー、わ、わ、わ」と声を入れます。
逆に歌のパートになるとクラリネットなどのインストになります。
甘いアレンジを拒否するようなリズムのブレイクがかっこいいものです。
基本のメロディを大切に演奏しますがエンディングでカークが爆発します。

4,   Search for the Reason Why サーチ・フォー・ザ・リーズン・ホワイ

楽しげなメロディコーラス、ハーモニーです。この曲はソロがありません。全部合唱です。「なぜ、なぜ、なぜ」と畳み掛けて終わります。

5,   I Say a Little Prayer アイ・セイ・ア・リトル・プレイヤー
(Burt Bacharach, Hal David)

アレサ・フランクリンの歌で有名なバート・バカラックの曲です。
メロディを生かしながらブレイクを入れていくスタイルです。
2分を過ぎたあたりから全員アドリブに突入します。
ピアノがすごいことを演ってます。
3分を過ぎるとコルトレーンの「至上の愛」が登場してしまいます。

ロングトーンとすごい盛り上がって行って、最後は元に戻ってエンディングとなります。

6,   Roland’s Opening Remarks ローランズ・オープニング・リマークス

カークが自分の楽器の紹介と「楽しんでくれ」と言って次の曲「1トン」を紹介します。

7,   One Ton 1トン

叩き込むようなビートで始まるとカークも手拍子で盛り上げていきます。
ホーンが入ってちょっと複雑なリフですが難なくこなします。
そしてノーズフルートのソロになりますが声も一緒に出してます。
難易度が高いのは分かるのですが見当もつきません。

8,   Ovation and Roland’s Remarks オヴェーション・アンド・ローランズ・リマークス

「ワンモアタイム・ローランド・カーク」と呼ばれてカークが登場して挨拶です。
メンバー紹介の後、コルトレーン・メドレーへなだれ込みます。

9,   A Tribute to John Coltrane : Lush Life / Afro-Blue / Bessie’s Blues トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン
(Billy Strayhorn / Mongo Santamaria / John Coltrane)

ここではコルトレーンに敬意を表してひたすら真摯に演奏するカークがいます。
心からコルトレーンを尊敬していたのだと思います。

10,  Three for the Festival スリー・フォー・ザ・フェスティヴァル

ドラムが熱い、いやもう全員が熱い演奏です。
カークが声を混ぜながらいろんな楽器を演奏するのですが、呆気に取られます。
そして大盛況のうちに終わります。

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