「聞けば誰でも納得、ゴスペル・タッチのブルーノート・ファンクの傑作です。」Fuego : Donald Byrd / フュエゴ : ドナルド・バード

 ドナルド・バードは1950年代から活躍したジャズミュージシャン、トランペッター、アレンジャーです。
活動歴が長く、音楽的にも幅の広い人です。
まずハード・バッパーとしてデビューし、ブルーノートで有名になります。
そして徐々に持ち前のファンキーさをハードバップに反映させていきました。

というよりは、もっと長い目で見ればジャズにファンクとゴスペルの要素を取り入れて、その後のジャズ、フュージョンにも独自の世界を築き上げました。

その存在感たるや誰もが一目置くところです。

まずその最初の成功例と言うべきアルバムがこのブルーノートから1960年にリリースされた「Fuego」です。
昔からこのアルバムはジャズ史に残る重要作とは言われまおりませんが、ブラックミュージックの流れを知るには絶対的に重要な作品です。

聴いてみるとジャズを含めたブラック・ミュージックファンにはどうしても否定できないような素晴らしさがあります。

LPのB面ラストを飾る「ロウ・ライフ」には誰でもすぐにわかるファンキー、グルーヴィーに溢れています。
このコール・アンド・レスポンス形式の見事に「ノレる音楽」はその昔、ジャズ喫茶でも人気があったそうです。
特にB面のリクエストが絶えなかったそうです。

ただ、特に日本においてはわかりやすいジャズは評価されない状況がありました。
わかりやすい=誰でもわかる=お子様向け=価値がない、となってしまうようです。
見方を変えればものすごい才能なんですが。こういうのを嫌いな人は多分、常に対決姿勢でコルトレーンなどを聴いていて、音楽の話をしても「キミはジャズ本質が何か、本当は何にも解っとらんのだ」と説教されるような人たちです。
今となってはそういうハードボイルドなキャラも絶滅危惧種なので希少価値が爆上がりです。
なんというかそういう経験も貴重なものなんですよ。きっと。(個人の見解です)

バードはこの後ブルーノートでファンキー路線で「マスタング」「スロー・ドラッグ」など、ゴスペルよりで「ブラックバード」などの画期的な作品をリリースしていきます。

ある意味ジャズの枠では捉えきれない作品もあるので、従来のジャズファンからはそれほど評価されていない状況ですが、サンプリングネタなどの需要が多くラップ、ヒップホップの世界ではストリートに生き続けています。

そういうふうにジャズでのファンキーを求めていくと避けては通れないアルバムです。
(一番最後にyoutube音源をリンクさせていただきます)

ドナルド・バードは本名ドナルドソン・トゥーサン・ルーベルチュール・バード2世と言って1932年12月9日にミシガン州デトロイトで生まれました。
父親は教育熱心な牧師でバードはキャス工業高校に通いながらすでにプロのミュージシャンとして活動していました。
米国空軍で任期中に軍楽隊で活動した後、ウェイン大学で音楽の学士号を取得し、最終的にはマンハッタン音楽学校(MSM)で修士課程を取得します。
その在学中にクリフォード・ブラウンの後継としてアート・ブレイキー・アンド・ジャズ・メッセンジャーズに加入します。
ということでジャズ・ミュージシャンとしてはこれ以上望むべきことがないような素晴らしいデビューです。

この人はなんと言いますか他の叩き上げミュージシャンや薬物問題を抱える破滅型のミュージシャンとは違う育ちの良さを感じます。
厳格な牧師の息子ということもあるのでしょうが、音楽にもそれが表れています。

アルバムジャケットはもちろんアルフレッド・ライオン・プロデュース時代のブルーノートです。
フランシス・ウルフが写真を撮って、リード・マイルスが編集したものです。
バードが肘をついて顎に手をあて、目を見開いて横を見ています。

はっきり言わせてもらうとこういうのは女性がやってこそいい感じになるのですが、おっさんがするべきポーズではありません。
例えば1987年の若かりし頃のマドンナのこのジャケットは秀逸です。


一瞬これを真似たのかと思いましたがもちろん時代が逆です。
ドナルド・バードの他の写真を見るとこういう雰囲気はありませんので、多分フランシス・ウルフが一瞬の表情を撮って、「おもしれえ顔してるからこれでいいじゃん」で採用となったようなジャケットです。
アルバムタイトル「Fuego=炎」に合わせて全体が赤くなっています。
この時代のブルーノート得意の2色刷りです。

ドナルド・バードも例に漏れずブルーノートの1960年代中期あたりからフルカラー、美女ジャケットが登場してきます。
今見るとハードボイルドなジャズ臭は感じませんが、時代性が閉じ込められています。
これはこれでなかなかの味わいです。

ドナルド・バードはそのあたりから、ちょっと変わったジャズファンク路線に邁進します。

バードのファンクとは体育会系の体力勝負とかハングリー精神丸出しの限界挑戦型の音楽ではありません。
でも程よくわかりやすく、程よくアーシーで、尚且つ繊細で奥行きも感じられる逸材なのです。
泥臭く、汗臭いというネットリJB調のファンクではありませんがこのそこはかとなくじわじわとやってくるファンキーもいいものです。

アルバム「フュエゴ」のご紹介です。

Bitly

演奏
ドナルド・バード  トランペット
ジャッキー・マクリーン  アルトサックス
デューク・ピアソン  ピアノ
ダグ・ワトキンス  ベース
レックス・ハンフリーズ  ドラムス

プロダクション
アルフレッド・ライオン  プロデューサー
ルディ・ヴァン・ゲルダー  レコーディング・エンジニア、マスタリング
リード・マイルス  デザイン
フランシス・ウルフ  フォト
レーナード・フェザー  テクニカル

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Fuego フュエゴ

ベースソロからピアノとかっこいいドラムが入ってきて、ホーンの登場という、ある種のハードバップらしい安心感を覚えます。

2,   Bup a Loop バップ・ア・ループ

こちらもいい感じのバップ曲です。全てを持っていくようなトランペットの入り方がかっこいいのです。

3,   Funky Mama ファンキー・ママ

タイトルのイメージと違ってスローな曲です。その中にも滲み出るファンキーさを感じ取っていただきたいと思います。

4,   Low Life ロウ・ライフ

名曲です。良さ全部入りです。

5,   Lament ラメント

渋い感じで始まります。これもいい曲だと思います。身を委ねていればいいと思えるような時間です。

6,   Amen エーメン

ストライド風ピアノとコール・アンド・レスポンスで成りたつ、全てを忘れて誰でもノレるというくらいの名曲です。デューク・ピアソンとの相性もバッチリです。
タイトルはヘブライ語起源のキリスト教、ユダヤ教、イスラム教で共通の広い意味を持つ用語です。音楽の世界でもカーティス・メイフィールドのインプレッションズから日本の憂歌団まで幅広く登場します。

ドナルド・バードのファンキー・アルバムのご紹介です。

アルバム「マスタング」です。タイトル曲「マスタング」と「ディキシー・リー」がファンキーです。

アルバム「スロー・ドラッグ」です。なんという直球タイトルでしょう。全体的にファンキーですがタイトル曲「スロー・ドラッグ」と「ジェリー・ロール」がなかなかです。「スロー・ドラッグ」はタイトル通りゆっくりと間を生かしたファンクで、「ジェリー・ロール」はリー・モーガンの「サイドワインダー」風味です。


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