「モダンジャズの到達点」、「ジャズ歴史の中での最大の功績」、「マイルス・デイヴィスの芸術的ハイライト」となどと世界中から評される1959年8月にリリースされた大名盤「カインド ・オブ・ブルー」です。
60年以上経過した現在でもこれを超える評価のアルバムはそうそう聞かないので、いかに歴史的にも重要なのかがひしひしと感じられます。
このアルバムのキーワードは「モード・ジャズ」です。それまでジャズの世界では主流であったモダンジャズ、ハードバップ と呼ばれるジャズは基本的にコードを主体としてテーマ、アドリブを展開していく形態でした。
関連付けてジョージ・ラッセルの「リディアン・クロマチック.コンセプト=LCC」の影響も無視できません。
マイルスはそれを理解しているピアニスト、ビル・エヴァンスを呼びました。
今となっては当たり前の感覚ですですが、この時代は黒人のジャズバンドに白人のピアニストが参加することは社会的に普通ではなかったようです。
そうしてマイルスは今までの方法論から踏み出した音楽をここで繰り広げました。
ただし60年以上経った今ではこのモード的方法論はいろんな形で咀嚼されて、いろんなふうに音楽に取り入れられています。
なのでそうそう聞いてみて違和感のあるものではありません。割と普通に自然に耳に入ってきます。
こういう立ち位置のアルバムになると、いきなり聴いて「ほら、すごいだろ」と言われても「いや、なんか普通、ていうかちょっと古くさい」くらいにしか感じないものです。
でもそこはマイルスなのです。
彼のすごいところは独特な質感があり、何やら時間を超えたものを感じさせます。
そしてリリース以降、ジャズを筆頭に多方面に影響を与えました。
ジャズはこの後、新主流派やフリージャズに枝分かれしていきます。
たとえばジョン・コルトレーンはこの後モードからシーツ・オブ・サウンドに行って「マイ・フェイバリット・シングス」や「至上の愛」など孤高の世界に進みます。
ロックで言えばオールマン ・ブラザーズ・バンドの「エリザベス・リードの追憶」はギタリストのデュエイン・オールマン がモードで演奏したとか、ピンク・フロイドのキーボーディスト、リチャード・ライトが「狂気」と「カインド ・オブ・ブルー」の関連性に言及しました。
ほんとか?と言いたくなりますが、ロックは10年経った1970年代になってそういう声も聞かれ始めました。
とにかくいろんなジャンルへ影響を与えた正にエポック・メイキングな作品です。
アルバム「カインド・オブ・ブルー」のご紹介です。
演奏
マイルス・デイヴィス トランペット
キャノンボール・アダレイ アルトサックス(Tr.3を除く)
ジョン・コルトレーン テナーサックス
ビル・エヴァンス ピアノ (Tr.2を除く)
ウイントン・ケリー ピアノ(Tr.2)
ポール・チェンバース ベース
ジミー・コブ ドラムス
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, So What ソー・ホワッツ
(作 マイルス)
「だから、何」というタイトルはマイルス の口癖だったとも言われています」
ベースと間のあるピアノの音で始まります。ベースが歌い、他の楽器がレスポンスをします。ここはゴスペル です。そしてシンバルのアクセントとともに、おもむろにマイルス のトランペットが入ってきます。そしてしばらく歌い続けます。
これでかっこいいと思わなかったあなたはジャズは合わないと思ってください。エヴァンスのピアノのバッキングも面白く、聴きどころ満載です。
2, Freddie Freeloader フレディ・フリーローダー
(作 マイルス)
ホーンセクションの雰囲気のあるテーマに続いて、まずウイントン・ケリー のピアノを筆頭にソロを回していきます。ハードバップとは違うことをしようとする意気込みが感じられます。
3, Blue in Green ブルー・イン・グリーン
(作 マイルス、エヴァンス)
マイルスらしいブルーズです。
4, All Blues オール・ブルーズ
(作 マイルス)
12小節のブルーズ なのですが、なんというか肌触りが普通のブルーズ と違います。ドラムのビートとマイルス のリズムが違うところが面白いと昔から思っていました。
5, Flamenco Sketches フラメンコ・スケッチ
(作 マイルス、エヴァンス)
フラメンコはそんなに詳しくありませんが、この曲はフラメンコらしいとは言えません。
ビル・エヴァンスに指示されたという各メンバーのソロ回しがユニークです。ひたすら音を追いかけたくなります。
今となって思えば、リリースされた1959年の世の中はまだラジオ中心の時代でした。大衆音楽といえばラジオで流されるポップスでした。やっとロックンロールが出現してチャック・ベリーが活躍している時代です。ビートルズもディランもまだいないのです。日本に至っては小林旭の「ギターを抱いた渡り鳥」が流行っていた時代です。(当然私もそういうのはリアルタイムで体験していません)
言うならばまだ世の中はまだスリーコード的展開の音楽が全盛でした。
如何にマイルスは音楽的に突出していたかを思い知らされます。
またこの時期、フリージャズの元祖、オーネット ・コールマンも現れています。
そういう時代背景などを思いながら音楽を聴くのも私にとっては楽しいことです。
マイルスの音楽は不思議なことに、特にこの時期あたりからは何を聞いてもさほど古臭いとか時代遅れに感じなくなります。独特です。
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