02.いい音とは?

 常日頃、感じている「音」について言わせてもらいます。
オーディオについて言えば、一般に音が「良い」「悪い」という表現がよくなされます。
これはとても抽象的で、大体においてその時の個人の感想というしかありません。
というのも私は今までの経験において万人が認める「良い音」というものに出会ったことがありません。(万人が認める「悪い音」はなんか普通にありそうですけど)

スピーカーを試聴する際、音にうるさい人が3人もいれば必ず評価は分かれます。
よって「良い音」の到達点は一つでないのです。
そうである以上は断定すべきことではないのでは、と常々感じている次第です。

私について言えば、仕事柄プロ用スピーカーをたくさん聴く機会がありました。大規模な会場で使われるスピーカー群は1台1台がとても高価で、それのシステムとなると数千万円のシステムになることはザラです。

時代とともに流行り廃りはありますが、そういうハイエンドSRスピーカーのメーカーが世界中にあります。そして今の時代ではどのシステムでもきちんとチューニングされると総じて「良い音」になります。
聴いていて気持ちの良い音です。これこそまさにプロとしてお金を取れる音なのだと思います。
しかしみんな同じ音ではないのです。各メーカーごとの個性がちゃんとあります。そう感じる私にとっても良い音は一種類ではありません。

また、現代においては技術の進歩により、音の解析も進みました。
私も仕事柄スピーカーチューニングのライセンスを2種類ほど持っていました。

やや専門的になりますが、スピーカーの周波数特性、位相特性を制御、調整します。そうすると理論的にもまとまった音になり、耳に自然で歪感のなく、音量やイコライジングなどのコントロールにもきちんと反応するようになります。
最初はスピーカーシステムの出力音に対しての調整するものでしたが、最近はスピーカーの設計段階からそういう理論は取り入れられています。

例えば最近、パワードスピーカーと呼ばれるアンプ内蔵のスピーカが増えてきています。

その中でもスタジオモニターと呼ばれるものも各プロ音響メーカーから発表されています。
しかもこれがかなり安価です。苦労しなくても5万円くらいでそこそこまとまった音が楽しめます。(でもそこそこですので、そこにとどまらず先へ1歩踏み出すのが趣味というものです)

音の良し悪しについて言うならば、一つにスピーカー出力特性があります。
フラットで可聴帯域(人間の聞こえる範囲)と言われる20Hzから20KHzまで伸びていることが理想なのですが、そうでなくても「ああ、なんていい音なんだろう」と思わせてくれるスピーカーがありました。
有名なアルテックのA7というスピーカーです。

1954年に設計されたスピーカーなのですが、今でもジャズおよびビンテージオーディオ愛好家を中心に絶対的な人気があるようです。
特に「Voice Of Theatre」と銘打ったシールのあるものは人気が高いと聞いています。

今のスピーカーから比べると周波数特性とか位相特性もさほどよろしくはありません。高域もそんなに伸びていないし、低域も「ズドーン」とくるような重低音は再生できません。私のイメージでは「ビダン」という感じの低音です。
しかし効率が良いと言うか反応が早いと言うか、いわゆる鳴りっぷりがよく、聴いていて無茶苦茶気持ち良いのです。
それを聴いているだけで元気になり、ポジティブな感覚まで得られそうです。
しかるにスピーカー再生周波数特性が低域から高域まで伸びていれば耳に良い音になるというものではありません。

次に電気特性ということが挙げられます。パワーアンプの電気的な周波数特性、歪率、S/N、ダンピングファクターなどの特性が測定値的にも良好であることが望まれます。

若い頃に楽器や機材のメンテナンスをしていました。その中に輸入楽器でレスリースピーカーというのがありました。スピーカーを回転させて物理的にフェイズシフト効果を作るという原始的なエフェクターで、中でも147というモデルはハモンドオルガンとの相性バッチリで人気でした。
ハモンドオルガンは60,70年代のロック、ジャズに頻繁に登場します。
レスリーは個人的にはタンスみたいに大きいエフェクター兼スピーカーですので、取り回しが大変で作業性が悪いので入荷するたびに暗い気持ちに・・・いやいや楽器としてはは好きなんですけどね。

ある時、その147のアンプ部分を修理してCDをつないでエージングしていました。アンプ部には真空管を使っていてオーディオ界でも有名なKT88というパワー管です。プリ管は12AU7Aを使っていました。このアンプ出力を普通のオーディオスピーカーに接続して音を出すと、想像を超えたすごく気持ちの良い音が出たのです。

近くにオーディオ関係の先輩がいたので、聴いてみました。「なんか良い音で聞こえているんですけど、このアンプはオシロスコープでみてもちゃんとした出力波形にならないし、電気特性は悪いんですよ。でもなぜか聴感上は結構な音ですよね」」みたいなことを話していました。
いろいろと教えてもらった結果「これね、ダンピングファクターの低いところが逆に良く影響しているんだよ」とおっしゃってました。
なるほど面白いもので、一律にアンプの電気特性が良ければ耳に良い音というものでもありません。

<上記 : Wikipediaより引用させていただきました。>

アルテックA7にしてもレスリー147のアンプにしても弱点はあります、わかります。
A7をいっぱいスタッキングすると音は暴れて調整は難しくなるでしょうし、147のアンプに低音を連続的に入れたらスピーカーをドライブできなくなるでしょう。
そこから技術の発展が始まり、そういう問題を解決していくのですが、初期の物にも理屈ではない良い面があります。
それゆえ愛情を持って使い続けておられる趣味人も人間味があっていいなあと思うのです。
そういうヴィンテージ・オーディオの世界も趣味としては最高だと思います。

などなどの経験により、私は「音が良い」「音が悪い」などと断定形で語らぬよう注意致します。
と言っておこう。

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