「薬物中毒から生還したクラプトンの音楽ができる喜びと思いやりが感じられます。ソロになってからの代表作です。」461 Ocean Boulevard : Eric Clapton / 461オーシャン・ブールヴァード : エリック・クラプトン

 エリック・クラプトンは1970年代中期からソロ活動に入ります。
1971年にバンド、デレク・アンド・ザ・ドミノスで名作「レイラ」をリリースした後ツアーを行い、同バンドでフィルモア・イーストでのライブアルバムをリリースしてバンドとしての活動を終えました。

この時期からクラプトンは薬物依存がひどくなり、ヘロイン中毒の治療とリハビリで音楽活動がまともにできない状態になります。

3年間ほどのブランクを置いてピート・タウンゼントやジョージ・ハリソンなど周りのミュージシャンの支えもあり、1974年に本格的な復帰作としてこの「461オーシャン・ブールヴァード」をリリースします。

レコーディングはフロリダ州マイアミのクリテリアスタジオで、レーベルは “赤べこマーク” のRSOです。

そしてこのアルバムは商業的にも成功して以降のクラプトンのイメージを決定づけました。
というのもザ・バンドの音楽に影響を受けてからは初期のハードロックとも言われたバンド「クリーム」で演っていたようなアグレッシブな音楽はやめてブルーズ、トラディショナル、ゴスペル、レゲエなどをレイドバック風味で演奏したのです。

クリーム解散後にまず「ブラインド・フェイス」「デレク・アンド・ザ・ドミノス」とアメリカンロック的な方向となりました。

薬物中毒のリハビリを経てソロ期となったところでよりレイドバックした音楽をクリエイトするようになります。

今までの経歴やブルーズに近い音楽性からAORとは若干趣を異にしますが自然、大地、人生などを押し付けがましくなく表現する、ハードなロックとは違った明らかに大人の音楽でした。

これによりポップスファンも獲得してファン層が広がります。

このアルバム「461オーシャン・ブールヴァード」以降、1年ごとに「ゼアズ・ワン・イン・エブリー・クラウド」「ノー・リーズン・トゥ・クライ」と続き「スローハンド」で頂点に達したかのように思えます。

でもここで不安になった方も多いと思われます。
「スローハンド」は名盤です。
いいにはいいのです。しかし例えば「ワンダフル・トゥナイト」です。
メロディアスで物語性もあって評価は高いのですが「ヤベェ、クラプトンはこのままムード歌謡路線になってしまうのか!」と不安のなった昔からのファンも多いものと思われます。

「ノー・リーズン・トゥ・クライ」まではピュアな音楽への探究とかチャレンジ精神を感じたのですが、「スローハンド」に至ってはなんと言いますか過剰な「大物感」「演出感」が出てしまってロック的な気配が希薄になってきました。(実際は思うほどそうではなかったと後で分かりますが)そしてクラプトンは昏迷の1980年代へと流れ込みます。

再ブレイクするのは1992年の「アンプラグド」まで待たねばなりません。

1975年リリースのライブアルバム「E.C. was Here」というブルーズギター弾きまくりのライブアルバムもあります。

この時期はスタジオではレイドバック、ライブではブルーズギター三昧ということだっとようです。

ふと思うのが「ブラインド・フェイス」とかこの「EC was Here」のアルバムジャケットとかですが、何気にクラプトンはエロジャケものを時々ぶちこんできます。

「ブラインド・フェイス」に至っては今のこの時代、オリジナルジャケットはもう見れないと思われます。

461オーシャン・ブールヴァードの特徴としてはまず秀逸のカバー曲とアレンジです。

オープニングはゴスペル由来の、多分にブラインド・ウィリー・ジョンソンの「マザーレス・チルドレン・ハヴ・ア・ハード・タイム」を意識したと思われるナンバーです。

R&Bからはジョニー・オーティスの「ウイリー・アンド・ザ・ハンド・ジャイヴ」という渋い逸品を。

シカゴ・ブルーズからはウィリー・ディクソン作、エルモア・ジェイムスで有名な「アイ・キャント・ホールド・アウト」

そしてミシシッピ・デルタ・ブルーズ発、ロバート・Jr・ロックウッド経由の「ステディ・ローリン・マン」

カントリーロックバンド、カウボーイのデュエイン・オールマンのスライドギター客演で有名な「プリーズ・ビー・ウィズ・ミー」

などのセンスの良いカバーが目立ちます。

しかしなんといってもいち早く取り入れたレゲエの大スター、ボブ・マーリーのカバー「アイ・ショット・ザ・シェリフ」が白眉です。
これによってレゲエを、ボブ・マーリーを知ったロックファンも多いものと思われます。

クラプトンの面白いところは例えば「プリーズ・ビー・ウィス・ミー」にしても「アイ・ショット・ザ・シェリフ」にしてもオリジナルを超えているかと言われれば個人的には違います。

「プリーズ・ビー・・・」の朴訥とした、それでいてイメージの広がるカントリーとか「アイ・ショット・・・」のゆったりとしたリズムのなかでのジリジリした緊張感とか、「アイ・キャント・ホールド・アウト」はエルモア・ジェイムスの「トーク・トゥ・ミー・ベイビー」(同曲)のブルーム調のノリに勝てるかといえばそうでもなく、残念ながら全敗です。
でもだからダメとはいえません。

このアルバムの統一感を崩さないように上手くアレンジしてカバーしています。それを聴いてオリジナルに遡って聴いてみようとする私やあなたはまんまとクラプトンの策に乗せられているだけなんです。

ありがとう、エリック、いい音楽をいっぱい教えてくれました。

コカイン中毒で散々辛い思いをした直後のクラプトンです。
このアルバムが象徴していることはまた新たに音楽をできる嬉しさと同時に、失敗したり、負けたり、挫折して落ち込んだりしている人にも優しく語りかけてくれるところです。

決してかんばれとは言いません。「レット・イット・グロウ」とボソッと歌うだけです。

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演奏

エリック・クラプトン  リードヴォーカル、ギター、ドブロ(Tr.2,7,8)、スライドギター(Tr.1,6)、トークボックス(Tr.10)

ジョージ・テリー  ギター(Tr.1,5,7,8,9,10)、バッキングヴォーカル(Tr.5,7,8,9,10)、スライドギター(Tr.1)

アルビヒ・ガルテン  ピアノ(T r .1,5,8,9,10)、エレクトリックピアノ(Tr.4)、ARPシンセサイザー(Tr.8)、クラヴィコード(Tr.9)

ディック・シムズ  オルガン(Tr.1,2,3,4,5,6,8,9,10)

カール・レィドル  ベース

ジェイミー・オルディカー  ドラムス(Tr.1,3,4,5,6,7,8,10)

イヴォンヌ・エリマン  バッキングヴォーカル(Tr.3,5,7,8,10)、ヴォーカル(Tr.4)

アル・ジャクソン・ジュニア  ドラムス(Tr.2)

ジミー・フォックス  ドラムス(Tr.9)

トム・バーンフィールド  バッキングヴォーカル(Tr.8,10)

プロダクション
トム・ダウド  プロデューサー
ロン・フォーカス  エンジニア
アンディ・ナイト  エンジニア
カール・リチャードソン  エンジニア
スハ・グル  マスタリング
ダーシー・プロパー  マスタリング(ニューヨーク、スターリングサウンド)
ボブ・デフリン  アートディレクション、デザイン
デヴィッド・カー  フォト
ライアン・ヌル  フォトコーディネイト

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Motherless Children  マザーレス・チルドレン
(トラディショナル)

軽快なイントロで始まります。その昔、「このイントロのギターはピグノーズという電池で動く超小型アンプで出した音だ」とよく言われていました。
ピグノーズが映画「クロスロード」でフェンダー、テレキャスターとセットで登場した時、思わず感動したものです。
この曲のイメージでブラインド・ウィリー・ジョンソンを聞くと面食らいます。

2,   Give Me Strength  ギブ・ミー・ストレングス
(エリック・クラプトン)

2曲目は打って変わってスローでレイドバックしたサウンドです。
この時期のクラプトンらしいサウンドです。

3,   Willie and the Hand Jive  ウィリー・アンド・ザ・ハンド・ジャイヴ
(ジョニー・オーティス)

作者のジョニー・オーティスはロックンロール初期から演奏(ピアノ、ドラム、ヴォーカル等)、バンドリーダー、プロデューサー、タレントスカウトなどマルチに活躍したアメリカ人です。
ジャイヴとはマリファナとかいい加減とかの意味もあるそうですが、ジョニー・オーティスとくればジャズに端を発したダンスのことでジャンプとかジャイヴと言われる系のやつです。
詳しくはありませんは個人的イメージとしてジャイヴというとアメリカ南部のジャズのリズムにラテン、カリプソ系も入っている感じがします。

4,   Get Ready  ゲット・レディ
(エリック・クラプトン、イヴォンヌ・エリマン)

これも力を抜いたレイドバックした雰囲気です。
リズムにキメがあるので曲は締まっています。

5,   I Shot the Sheriff  アイ・ショット・ザ・シェリフ
(ボブ・マーリー)

この曲でボブ・マーリーを知った人は多いと思われます。
1年後にボブ・マーリー・アンド・ウェイラーズは「ライブ」でロックファンの間でも大ブレイクしました。

6,   I Can’t Hold Out  アイ・キャント・ホールド・アウト
(ウィリー・ディクソン)

オリジナルのエルモア・ジェイムスはクラプトンのお気に入りのブルーズマンの一人です。今までにいろんな曲をカバーしています。
この曲は「トーク.トゥ・ミー・ベイビー」と同じ曲です。

7,   Please Be with Me  プリーズ・ビー・ウィズ・ミー
(チャールズ・スコット・ボイヤー)

その昔、このアルバムとデュエイン・オールマン・アンソロジーを聴いてカウボーイというバンドのCDを探し求めた思い出があります。
今はインターネットで聴けてCDもAmazonでも手に入るといういい時代になったものです。

8,   Let it Grow  レット・イット・グロウ
(エリック・クラプトン)

昔から「レッド・ツェッペリンの『天国への階段』のパクリじゃね」と言われていましたが、曲の景色がまるで違うので意識したパクリではないと思います。こちらも名曲度が半端ありません。

9,   Steady Rollin’ Man  ステディ・ローリン・マン
(ロバート・ジョンソン)

ロバート・ロックウッド・ジュニア版が有名です。ロックウッドはシカゴブルーズの系統で最初は1954年にリトル・ウォルターのバンドでデビューしました。
記憶によるとその昔はロバート・ジュニア・ロックウッドと言われていたように思います。
正式な関係ではありませんがロバート・ジョンソンと血縁関係があると言われ、またジョンソンから直接ギターを教えてもらったそうです。
一説ではどちらが弾いているのかわからないくらい同じように弾いていたとのこと。
ブルーズの世界では言ったもん勝ちの部分があるので、最初は一種の販売戦略かと思いきや、当のご本人はロバート・ジョンソンのジュニアと呼ばれることが嫌だと常々語っていたそうです。
ちなみにこの人はアルバム「ステディ・ローリン・マン」を聴くと人柄が分かります。

10,  Mainline Florida  メインライン・フロリダ

最後は勢いのある曲で締めます。この時期一緒のセカンド・ギタリスト、ジョージ・テリーの作です。クラプトンを親身になって支えてくれたギタリストです。
ブルーズ弾きまくりライブアルバム「EC was Here」の「ハヴ・ユー・エバー・ラヴド・ア・ウーマン」でギターソロの後にクラプトンが “ジョージ・テリー・プリーズ“ といって紹介している場面が印象深い人です。

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