「このアルバムでバンドの姿勢、音楽性、社会性も含め、クラッシュはブリティッシュ・パンクの先頭に立ちました」London Calling : The Clash / ロンドン・コーリング : ザ・クラッシュ

 1970年代後半に始まったブリティッシュ・パンクムーブメントの立役者の一つ、というか1年足らずで空中分解してしまったセックス・ピストルズに代わってアイコンとなったザ・クラッシュの3枚目のアルバムです。
パンクバンドにしては珍しく2枚組でのリリースでした。
このアルバムは過去2枚の勢い一辺倒のサウンドと違って、緻密に作り込まれた感もあり、全世界で評価され歴史に残るロックアルバムとなりました。

ロックの歴史の中でも今から考えればパンク・ムーブメントは重要です。
1970年代の後期に大作主義、商業主義化して飽和していたロックに原点とも言える原始的なパワーを送り込んだブーム、それがパンクです。

もともとアメリカのニューヨークで発祥したパンクですが、その時点ではまだ表現的な側面からもデカダンスとポップみたいな芸術性が少し感じられました。それがイギリスに飛び火すると不況の真っ只中のイギリスでは芸術性云々より、既成の価値観の破壊、政治、社会へのストレートな不満という方向へ向いてよりアジテーション的なものになリました。

その代表がセックス・ピストルズです。彼らは瞬間風速がものすごかった、というか一発屋みたいなブームで音楽界を掻き回しましたが、アルバム1枚を残して空中分解してしまいます。
ただしその一発屋が残した影響は計り知れず、ロックの流れを否応なく変えてしまいました。

パンク、ニューウェイヴではビートルズやピンク・フロイドなど成功して財を成したビッグ・アーティストは巨大化して死滅した恐竜扱いされました。
ボストンやジャーニーなどの産業ロックと言われたものはハングリーさも真剣さもないと、とことん批判対象となっていきます。

そして雨後の筍の如くブリティッシュ・パンク・バンドが出てきました。
その中でも結果的に成功したとされるのはザ・クラッシュとザ・ジャムです。

この二つのバンドは他とちょっと違っていました。ジャムはパンク・バンドと言いながらもスモール・フェイセズやザ・フー、ビートルズやキンクスなどの影響がモロで、細身のスーツにリッケンバッカーなどをトレードマークとしてモッズ・リバイバルという方向でした。
そしてライブをいつでも青筋立てて全力でやり切るストイックさがパンクでした。

クラッシュは怒りを抱えた若者たちがロックバンドとしての立身出世していく物語をそのまま見せてくれている感じでした。
あえてパンクの荒削りな状態でデビューして数年で洗練されたサウンドへ進化していったのです。
それらの成長過程をリアルタイムで見せてくれたのです。

私の思い出としてはまず最初に友達数人でクラッシュの「トミー・ガン」を聴いた時のことです。
「うわっ、こいつらスゲエ、無茶苦茶すごい、なんといってもこれは・・・すごい・・・今まで聴いたことがないくらい・・・下手くそだ」と言ってみんなで驚きました。

ここで数人はジェフ・ベックやヴァン・ヘイレンなどを例に出して「こんなんじゃ全然ダメ、話にならん、プロを舐めてんのか」という感じです。
でも私を含めた数人は「でも、なんかサマになってて面白いじゃん。荒削りなヴォーカルはエネルギーを感じるし、あのギターの下手さ加減とかもう忘れられんわ」という感じで深く印象に残りました。

それが1978年のことです。1年後の1979年にこの「ロンドン・コーリング」がリリースされたときにまず思ったことが「こいつらなんかすごく、上手くなったなあ」でした。
1年足らずでここまで演奏や作詞、作曲の音楽的なテクニックが上がるのは驚異的でした。

「ロンドン・コーリング」は2枚組でスタイルもロックンロール、ロカビリー、パンク、レゲエなどのジャンルを取り入れています。
過去作に比べればサウンドもまとまって聞いていても安定感があります。
また、サウンドが落ち着いてきた分、ヴォーカルが生きてきます。

基本は男臭い硬派な雰囲気が全体を覆っています。
全員コーラス部分も含めちゃんとした歌唱の指導など受けたことがない感じなのですが、そこにはまた別の意味で純粋な部分が浮き立ちます。
特にミック・ジョーンズなんかはプロらしい歌い方ではない分、なんか不安定で弱々しいけど心に染み入る声だったりするんです。
この辺がパンクの新鮮味だったりするんですよね。
そしてしっかりとまとまってきたサウンドの要はトッパー・ヒードンのドラムとポール・シムノンのベースの進化だと思います。

イギリスではアルバム1枚分の価格で発売されました。
これはクラッシュが12インチのシングルをアルバムのおまけとして無料で付けられるかをレコード会社に確認をして了解をとり、実際は12インチシングルと言いつつフルフレングスのLPを入れたためです。ファンに安く届けたいという意思の表れでした。

アルバムジャケットも秀逸です。
ベースのポール・シムノンがプレシジョンベースを叩きつけているフォトです。
ニューヨークのパラディウムでコンサートをした時に、コンサートの警備員が観客が席を立ち上がるのを制止していたそうです。
それを見てイライラして叩きつけたとのことです。クラッシュはファンを大事にすることでも有名でした。

ちなみにこのベースは現在ロンドン美術館で展示されています。

この写真を撮った女性カメラマンのベニー・スミスはあまりにピンボケだったのでプロとしては失敗作であり使いたくなかったそうです。
しかし結局ジョー・ストラマーの説得により使用されることになりました。
この写真はQマガジンという雑誌によって、史上最高のロックンロール写真に選ばれました。

「究極のロックンロールの瞬間、つまりコントロールを完全に失った状態を捉えている」とコメントされています。

ジャケットのロゴはエルヴィス・プレスリーのデビューアルバムのロゴをもじっています。
この辺からもブリティッシュ・パンクから飛び出して世界を視野に入れてきたスケールが感じられます。
またこの時期、クラッシュは全員で徹底して1950年代ニューヨークマフィア風のファッションでした。「ロンドン・コーリング」のPVに如実に現れています。

アルバムはブリティッシュパンクでは珍しくアメリカでも売れました。評論家の評価はあまり良くなかったのですが、とにかく若者の支持が圧倒的でした。
後にクラッシュはザ・フーをメインアクトに前座としてアメリカツアーを行いましたが、フーのピート・タウンゼントをして「俺だったらもうフーのコンサートには行かないね。クラッシュが来るまで待つ」と言わしめています。

Bitly

演奏
ジョー・ストラマー  リードヴォーカル、バッキングヴォーカル、リズムギター、ピアノ
ミック・ジョーンズ  リードギター、ピアノ、バッキング・リードヴォーカル
ポール・シムノン  ベースギター、バッキングヴォーカル、リードヴォーカル Tr.10
トッパー・ヒードン  ドラムス、パーカッション

ゲスト・ミュージシャン
ミッキー・ギャラガー  オルガン

アイリッシュホーンズ
レイ・ビーヴィス  テナー・サックス
ジョン・アール  テナーおよびバリトンサックス
クリス・ガワー  トロンボーン
ディック・ハンソン  トランペット、フリューゲルホーン

プロダクション
ガイ・スティーヴンス  プロデューサー
ビル・プライス  エンジニア
ジェリー・グリーン  エンジニア
レイ・ローリー  デザイン
ベニー・スミス  フォト

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   London Calling ロンドン・コーリング

ギターのカッティングで始まり、ベースが入ると一気にマキシマム・ヴォルテージまで持って行きます。PVを見ると霧雨の中でのジョー・ストラマーの歌、楽器も含めた全員のファッション、演奏、ステージアクション全てがロックンロールであり、歴史に残るべき曲だと思います。(上記音源のPVご覧ください)
懐かしい話ですが、“phony Beatlemania has bitten the dust ”という歌詞は「偽物のビートルマニア」ととるか「今だビートルマニアのインチキな奴ら」と解釈するかでだいぶ違ってきます。個人的には「本物のロックを知らない奴」「既製の価値観しか持てない奴」ということではないかと思ったりしていました。


2,   Brand New Cadillac ブラン・ニュー・キャデラック

ロックンロール、ロカビリー風のヴィンス・テイラーの曲です。1曲目でヴォルテージが上がりすぎたため、調整という感じもします。

3,   Jimmy Jazz ジミー・ジャズ

この気だるい感じは今までにはなかったものです。ジャズっぽい部分も含め音楽的に成長したなあと思ったものでした。

4,   Hateful ヘイトフル

パンクらしいノリの曲です。

5,   Rudie Can’t Fail ルーディー・キャント・フェイル

リズムといい、メロディといい、雰囲気といい、アルバムの中でも最高の曲だと昔から思っていました。ミック・ジョーンズのヴォーカルが素晴らしいと思います。上手いのではなく、味があります。

6,   Spanish Bombs スパニッシュ・ボンブ

1936年から1939年まで続いたスペイン内戦と今のスペインを重ねて歌っています。
まだこんなにシンプルでノリが良くて、美しいメロディがあったんだと思うくらいポップな名曲です。

7,   The Right Profile ザ・ライト プロフィール

なんかエンディング向けの曲だと昔から勝手に思っていました。個人的にそれではみなさん、ご機嫌ようという感じがしてしまいます。

8,   Lost in the Supermarket ロスト・イン・ザ・スーパーマーケット

これはイギリスっぽい曲調だと思います。ちょっとしみじみとした感もあります。個人的には評価の高い曲です。

9,   Clampdown クランプダウン

ロンドンでの警察の取り締まりについて歌っています。パワーポップ風です。

10,  The Guns of Brixton ザ・ガンズ・オブ・ブリクストン

ポール・シムノンのヴォーカルです。ちょっと退廃的でクラッシュにしては珍しい雰囲気の曲です。

11,  Wrong ‘Em Boyo ロング・エム・ボヨ

ここからアルバムの2枚目です。個人的にはボブ・ディランを彷彿させる始まりです。転調してノスタルジックというかロカビリー風な曲になります。この曲はアメリカ戦前ブルーズの頃からミシシッピ・ジョン・ハートなどによって歌い継がれてきた伝説の無法者スタッガ・リーのことを歌っています。有名なのはロイド・プライスの1959年にリリースした「スタック・オ・リー・ブルーズ」です。

12,  Death of Glory デス・オブ・グローリー

個人的にブルース・スプリングスティーン風だったりします。力技で持っていくような面白い曲です。
内容はザ・フーの「マイ・ジェネレーション」の歳をとる前に死んでしまいたいという歌詞のアンサーソング、というか「そう言っていたけど、で、今は?」という感じです。

13,  Koka Kola コカ・コーラ

このアルバムを貫く硬派な感じがよかったりします。世界的に有名なコカ・コーラを皮肉っています。

14,  The Card Cheat ザ・カード・チート

いろんなサウンドのアイデアが湧いてきているんだなあと思わせてくれます。

15,  Lover’s Rock ラヴァーズ・ロック

70年代ロックっぽいイントロで始まります。ここでテクニックがどうのこうのと言ってはいけません。ギターソロも出てきます。ミック・ジョーンズはギターテクニックの人ではなく、アイデアとセンスの人です。全体的にポップでいい曲です。

16,  Four Horsemen フォー・ホースメン

黙示禄に出てくる4人の騎士と自分達をかけているかのような歌詞です。さすが偉大なミュージシャンはナルシストです。いかにもブリティッシュパンクな曲で、アルバムのオープニングでもいけそうに感じます。

17,  I’m Not Down アイム・ノット・ダウン

1979年にノートルダム・ホールでこの曲が初めて演奏された時ジョー・ストラマーは「自殺を考えている人がいなくなることを願っています」と言ってこの曲を紹介しました。キンクスを彷彿させるイントロです。ただそれだけに終わらずサウンドはパワーポップに持っていきます。

18,  Revolution Rock レヴォルーション・ロック

レゲエのジャッキー・エドワース、ダニー・レイの作です。本場のやたらとタメのあるリズムではありませんが、うまくレゲエのリズムを自分のものにしていると思います。

19,  Train in Vain トレイン・イン・ヴェイン

リリース当時は敢えてシークレットトラックにしたという話でしたが、実際は印刷が決まった後に無理やり入れ込んだのだとか。
リリース当時にLPレコードを買った人としては昔からおまけ曲のイメージがついてしまっているので、いつになってもそのイメージは変わりません。ジャケットを手に取り、あれっと思いながらこの曲を聴いて締めるのが「ロンドン・コーリング」です。

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