今となってはあまりに有名になってしまった感のあるエリック・クラプトンの代表曲「レイラ」を含むこのアルバムは、1970年にクラプトンの在籍していたバンド「デレク・アンド・ザ・ドミノス」名義でリリースされました。
デレク・アンド・ザ・ドミノスはクラプトン以外はデラニー・アンド・ボニー・アンド・フレンズというバンドの元メンバーです。そこへ客演としてオールマン・ブラザーズ・バンドのデュエイン・オールマンを加えてレコーディングされました。クラプトンとデュエイン・オールマンはお互い波長が合い、それではとクラプトンはバンドに誘ってみたけれど、オールマン・ブラザーズがあるからと断られたと言われています。
リリース当時はアメリカで16位、イギリスではチャートインできずと評価も売り上げも高くなかったのですが、ギターキッズの支持とイケメン、クラプトンの安定した人気により徐々に浸透していきました。
そして時間をかけて歴史に残るロック・スタンダード・アルバムとなったのです。
また、表題曲「レイラ」はクラプトンのコンサートではなくてはならない、演奏しないと終われない曲となっていきます。
個人的にクラプトンというとレコードにあった「赤べこ」マークのRSOを思い出すのですが、レイラはポリドールからのリリースだったのですね。
ついでに言っておくとRSOはイギリスの会社なのになんで牛の置物なんだろうと思っていたら、なんと創設者の一人、ロバート・スティグウッド氏が日本に来た時に、お土産としてもらったものをデザインにしたのだそうです。
「レイラ」のアルバムジャケットはフランスのエミール・セオドア・フランセン・ド・ショーンベルクという画家のデフォルメした女性のイラストです。そこにはタイトルもミュージシャン名もありません。
もうみんな当たり前のように知っていますが、このアルバムはクラプトンがジョージ・ハリソンの奥様だったパティ・ボイドという女性を意識してすべて作られています。
私が最初に手に入れたのは当然LPレコード2枚組でした。その頃はろくなオーディオ再生環境ではなかったので、今までのクラプトンに比べて「音が荒い」という印象でした。
でもそれなりに音にこだわるようになって聴き込んでいくうちに変わってきます。
まずそれまでのクラプトンは英国人なのでイギリスっぽい音だったのに対して、これはアメリカのスタジオで録った音であるということをはっきり認識しました。そしてちゃんとしたオーディオで聞けば実はけっこうリアルな音をしていることがわかりました。
荒いと感じたのはダイレクトなギターの音(フェンダーチャンプだそうです)とこれまたぶっきらぼうなヴォーカル、コーラスのせいですが、今聴くとってもリアルな音です。曲によってはアナログ的にレイドバックしていて優しい風情もあります。
そういうふうにアルバムを通してヴォーカルはぶっきらぼうで、それでいて音像はアナログ的で優しいという感じの録音です。
なので曲調が変わっても統一感を感じます。
さすが、トム・ダウドというよりスタジオで機材、環境を変えずにジャムセッション的にやってるからでしょうか。まさにアメリカン・サザン・ロック的音ですね。
ここらあたりから16トラックのテープレコーダーが登場してレコーディング方法も変わっていくことになります。この後すぐに24トラックのテープレコーダーが出現して1970年代の終わりにアナログレコーディングは極まります。
私の聴いているモバイル・フィディリティ版のハイレゾは音の粒立ちがよく、特にベースなどクリアーに聞こえます。定位感もしっかりしています。でも時代的にというかなんというか、ベースの音像が真ん中ではなく左ですけど。
アルバム「レイラ」のご紹介です。
演奏
エリック・クラプトン ヴォーカル、ギター
ボビー・ウィットロック ヴォーカル、キーボード、アコースティックギター Tr.14
カール・レィドル ベース、パーカッション
ジム・ゴードン ドラムス・パーカッション
デュエイン・オールマン ギター (Except Tr. 1,2,3)
アルビヒ・ガルテン ピアノ Tr.4
総合プロデュース トム・ダウド
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
01, I Looked Away アイ・ルックト・アウェイ
(クラプトン、ウィットロック)
この自然に始まる感じが好きです。エレキギターの音はエフェクターをいっぱい使う系のギターキッズからしたらありえない音色とも言えます。
02, Bell Bottom Blues ベル・ボトム・ブルース
(クラプトン)
名曲です。サビの転調もスムーズです。泣きのギターソロでのピッキング・ハーモニックスを使ったチキン・スキン奏法はきっとザ・バンドの影響でしょう。
03, Keep on Growing キープ・オン・グロウイング
(クラプトン、ウィットロック)
これもまた中途半端な歪みのギターで始まります。でもリズムがしっかりしているので全然気になりません。
04, Nobody Knows You When you’re Down and Out 誰も知らない
(ジミー・コックス)
クラプトンらしいブルーズのフレーズで始まります。ここからデュエイン・オールマンのギブソンのスライド登場です。よくき聴くとスライドでバックに回った時もすごいものがあります。
05, I Am Yours アイ・アム・ユアーズ
(クラプトン)
アコースティックでいい感じです。歌うスライドギターソロが聴かれます。
06, Anyday エニデイ
(クラプトン、ウィットロック)
ちょっと変わった感じの曲です。曲調を大事にして高いキーでもなんとか頑張って歌っています。
07, Key to the Highway ハイウェイへの関門
(チャールズ・シーガー、ビッグ・ビル・ブルーンジー)
ブルーズスタンダードです。ウォーキングのリズムでバトルではないギターの絡みが堪能できます。
08, Tell the Truth テル・ザ・トゥルース
(クラプトン、ウィットロック)
このギター初心者みたいな始まりのギターフレーズは一度聞くと忘れられません。ソウル、ブルーズ、カントリーなどいろんなジャンルのスタイルが入っているような感じの曲です。
09, Why Does Love Got to Be So Sad? 恋とは悲しきもの
(クラプトン、ウィットロック)
思い起こせば最初にこのアルバムを聞いた時は、この曲が一番かっこいいと思いました。グワァーとくるオルガンでしか出せないフレーズで始まり、ギターも素晴らしいです。
10, Have You Ever Loved a Woman 愛の経験
(ビリー・マイルス)
いろんなブルーズマンがカバーしているスタンダードです。クラプトンの十八番でもあります。余裕の演奏です。
11, Little Wing リトル・ウイング
(ジミ・ヘンドリクス)
ジミ・ヘンドリクスの名曲です。彼の死を悼んでこの曲を捧げています。ジミは生前、クラプトンをあまり評価していなかったような話ばかり聞きます。だったとしたらクラプトンも敬意を表すようなことはなかったかもと私みたいな普通人は思ってしまいますが本当のところはどうだったのでしょうか。
12, It’s Too Late イッツ・トゥ・レイト
(チャック・ウィリス)
ソウルフルに歌います。聞き応えのある曲です。
13, Layla レイラ
(クラプトン、ジム・ゴードン)
コメント不要です。
14, Thorn Tree in the Garden 庭の木
(ウィットロック)
もうレイラの後では本当にオマケとしか思えない感じです。しかもウィットロックの声がまた・・・
(けなしているというよりこれがあることでジョークなども飛び交うレコーディングスタジオの良い雰囲気を感じます。)
2021年にテデスキ・トラックス・バンドによる「Layla Revisited」として全曲再現ライブがリリースされました。これもなかなか聞き技たえがあります。本家レイラへの尊敬の念が伺えるとともにテデスキー姉さんの「おらおら、行ったらんかい」的な凄みも味わえます。レイドバックは感じませんが、そこはライブだから仕方ないかも。
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