「シンプルながら全てがスタンダードとなった、捨て曲なしの大名盤。ポップで奥行きのある楽曲群には1970年代の空気が見事にパッケージングされました。」Tapestry : Carole King / つづれおり : キャロル・キング

 なんと50年ぶりにキャロル・キングのコンサートライブの映画が上映されました。1973年にニューヨークのセントラルパークで行われたフリーコンサートのドキュメンタリーです。
タイトルは「キャロル・キング ホーム・アゲイン:ライブ・イン・セントラル・パーク」。
理由はわかりませんが今日まで未発表になっていました。

本当は2023年に50年ぶりということで映画が上映されていましたが、2024年の今になって横浜に回ってきたので私は今になってやっと見ることができました。

キャロル・キングの代表作といえば1971年リリースの「Tapestry : つづれおり」です。

キャロルはロサンゼルスを中心として音楽活動を続けていました。
その頃はウエスト・コーストロックが大人気で、イーグルスやバーズ、CSN&Y、ちょっとフォーク寄りなジョニ・ミッチェル、ジェイムス・テイラーなどが有名でした。

最近のことですが、その頃のことを題材にした「ローレル・キャニオン – 夢のウエスト・コースト・ロック」というのが2020年に公開されました。

キャロルのそういうシンガー・ソングライター的な雰囲気を携えて発表した「つづれおり」は楽曲の良さと時代を反映したサウンドで大ヒットしました。

それだけにとどまらず、リリース以降はソウルなどのブラックミュージック系のミュージシャンにもカバーされています。
「君の友達」や「ナチュラル・ウーマン」などに至ってはポップスのくくりなんぞ軽く飛び越えて、ゴスペル・ソングにまで昇華された感があります。


映画の触れ込みは「つづれおり」が大ヒットしたキャロルが生まれ故郷のニューヨーク、ブルックリンに凱旋公演をするというものでした。
企画側としてはどうしても2年前の大ヒット「つづれおり」の曲をたくさんプログラムに入れたかったのと、新しいアルバム「ファンタジー」のプロモーションを兼ねてという意向があったため、前半はキャロルのピアノ弾き語り、後半はバンドサウンドという構成になりました。

またこのバンドが渋いのです。
キャロルは性格からしてクリエイター気質で、作曲してスタジオで曲を作っていくのは好きだけれど、人前で歌うことは好きではなかったそうです。

だいぶ昔に聞いた話で真偽のほどは不明ですが、キャロルはそばかすとクリンクリンの髪の毛にコンプレックスを感じていて人前に出たがる性格ではなかった、ということを聞いたことがあります。
個人的にはそいう人はいっぱいいるので、普通にそれは個性だし、あえて劣等感を持つ必要はないんじゃないか、くらいに思ってしまいます。
実際普通の人以上に魅力的です。(同様にジョニ・ミッチェルなんかも結構個性的です)

キャロルは「このアルバムに参加してくれた人達とだっったらコンサートツアーができる」ということでリリース直前のアルバム「ファンタジー」で起用したミュージシャンで固めてのぞみました。

メンバーはベースのチャールズ・ラーキー以外は全員黒人のミュージシャンです。そこら辺にもキャロル・キングの音楽性が見て取れます。

コンサートが始まると4曲目あたり、「スマック・ウォーター・ジャック」のイントロに入る直前に客席から「愛してるよー」という声が飛び、キャロルはピアノでイントロを弾きながら「私もよー」と笑って返します。
もうこのシーンだけでも雰囲気がわかってきて、見にきたかいがあったと素直に思いました。


彼女の作品は10代の頃の1960年からで、夫だったジェリー・ゴフィン(主に作詞担当)と一緒にゴフィン・キング名義でプロとして作詞、作曲活動を始めました。クッキーズというR&Bのガールズグループでヒットし、ビートルズもカバーした「チェインズ」やディー・ディー・シャープというこれもR&Bシンガーのために作ったけど断られて自宅の家政婦さんに歌わせたらNo1ヒットになってしまったという、今や誰でも知っている「ロコモーション」、シュレルズのNo1ヒット「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモーロー」などがあります。

また、ニール・セダカのヒット曲「オー・キャロル」はキャロル・キングのことを歌っているそうです。
ビートルズがアメリカに進出した1964年、アメリカでのインタビューで「アメリカで会いたい人は?」と聞かれてジョン・レノンは「キャロル・キング」と答えました。
なんともすごい人なんですね。

で、アルバム「つづれおり」についてですが、全体的にポップでアコースティックな印象です。そして天性の才を持つメロディメーカーらしく各楽曲も素晴らしく、捨て曲なしのアルバムとなっています。リリース時は年間最優秀アルバムとなリました。
今や全世界で推定3,000万枚売れているそうです。ジャンルにとらわれず音楽好きは必ず聴くべきアルバムです。

演奏

キャロル・キング  ヴォーカル、ピアノ、キーボード 
ラルフ・シュケット  エレクトリック・ピアノ
ジェームス・テイラー  アコースティック・ギター、バッキング・ヴォーカル
ダニー・「クーチ」・コーチマー  ギター(アコースティック、エレクトリック)、バッキングヴォーカル、コンガ

ペリー・スタインバーグ   ベースギター
チャールズ・ラーキー    ベースギター、ストリングベース
ラス・カンケル  ドラムス
ジョエル・オブライエン   ドラムス
カーティス・エイミー  フルート、バリトン・ソプラノ・テナーサックス
バリー・ソーチャー   ヴァイオリン
デヴィッド・キャンベル  ヴィオラ
テリー・キング   チェロ
メリー・クレイトン  バッキング・ボーカル
ジュリア・ティルマン   バッキング・ボーカル
ジョニ・ミッチェル   「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」のバッキング・ボーカル

制作
ルー・アドラー  プロデューサー
ヴィック・アネーシーニ   マスタリング
チャック・ビーソン   デザイン
ハンク・シカロ  エンジニアリング
ボブ・アーウィン  1999 年の再リリース時に制作
ジェシカ・キロリン   パッケージングマネージャー
ジム・マックラリー  写真
マイケル・プットランド  アートワーク
Smay Vision  デザイン
ローランド・ヤング   アートディレクション

Bitly

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1, I Feel the Earth Move アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ

リズミカルなピアノで始まります。この時代の空気が詰め込まれています。

2, So Far Away ソー・ファー・アウェイ

「スマックウォーター・ジャック」のB面としてシングルカットされました。アメリカン・ソングライターという音楽誌は2022年にこの曲はキャロル・キングの偉大なる10曲の中で2位にランク付けしています。
もちろん悪い曲ではありませんが個人的には「キャロル・キングの全部の曲の中でこれが?」と驚きを禁じ得ません。
確かにベースとピアノだけでこんなにイメージが膨らむ曲が他にあるかと言われれば・・・

3, It‘s Too Late イッツ・トゥー・レイト

作詞はトニー・スターンで大人の別れを歌った曲です。シングルカットされて首位をとっています。当初 A面「アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ」としてのカップリングでしたがこちらの方が評判がよく、ダブルA面にしてチャートインしたとのことです。
派手さはないもののじわりと染み込んでくる名曲です。

4, Home Again ホーム・アゲイン

なぜかこの曲が大好きです。「snow is cold, rain is wet」というサビのところの声質がなんとも言えません。
セントラル・パークの映像でもどうぞ!

5, Beautiful ビューティフル

サビから始まる曲です。リズムとの絡みが良くて演奏も最高です。よくできた曲だと感心します。

6, Way Over Yonder ウェイ・オーバー・ヤンダー

シンプルなアレンジながらいろんな要素が感じられるソウル・ミュージックです。

7, You’ve Got a Friend 君の友達

ジェームス・テイラーのことを歌った曲で、テイラーもアルバム「マッド・スライド・スリム」で取り上げてヒットしました。
ある意味1970年代を象徴する優しい歌です。

8, Where You  Lead ホエア・ユー・リード

この曲も作詞はトニー・スターンとなっています。リズムが跳ねてポジティブな感じの曲です。バーブラ・ストライザンドのカバーが有名です。

9, Will You Love Me Tomorrow?  ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモーロー

シュレルズの1960年ヒットのセルフカバーです。キャロルはここではアルバムの雰囲気に合わせるように訥々とうたって違う感じを出します。

10, Smackwater Jack スマックウォーター・ジャック

このアルバムの中ではアップテンポなロックンロール曲です。「ショットガンを持った男には逆らえないよ」という歌詞はキャロルが歌うと深さが違います。

11, Tapestry つづれおり

この時点でキャロルはまだ30歳くらいですが、シンプルなアレンジで「私の人生は高級なつづれおりのようです」とうたいます。なぜか納得できます。そして次の「ナチュラル・ウーマン」に繋げていきます。

12, (You Make Me Feel Like) A Natural Woman ア・ナチュラル・ウーマン

元々はキャロルがアレサ・フランクリンに書いたものだそうです。アレサのバージョンももちろん素晴らしいのですが、キャロルはシンプルにベースのみをバックにピアノで弾き語り、これもさっぱりとしていいものです。
メアリー・J・ブライジやセリーヌ・ディオンもカバーしています。


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