「時代も流行も我関せず“ディラン無双”の1970年代を象徴する名盤」Blood On The Tracks : Bob Dylan / 血の轍 : ボブ・ディラン

 1965年に歴史的名曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」によって一時代を築いたボブ・ディランがその10年後にまたまた歴史に残る傑作「ブロッド・オン・ザ・トラクウス =邦題 : 血の轍」をリリースしました。
スタジオアルバムとしてはザ・バンドとのコラボレーションによる1974年「プラネット・ウェイブス」の次であり、次作は1976年の「欲望」となります。そう考えるとディランの1970年代は時代や流行なんぞは全く無視した無双状態で、やることなすこと中身の濃い時代でした。

なお、このアルアバムはディランにとっても重要なアルバムらしく、今でもコンサートツアーで「Tangled Up In Blue」や「Simple Twist of Fate」をプログラムに入れています。邦題としては「ブルーにこんがらがって」「運命のひとひねり」となるところがなかなか意味深いものです。

アルバムは1974年9月にニューヨークのARレコーディング・スタジオでフィル・ラモーンによって録音されました。
しかしディランはリリース直前に取りやめて延期、12月に新たに5曲をミネアポリスで再録します。
デヴィッド・ジンマーマンというディランの弟が地元のセッションミュージシャンを集めてレコーディングしたそうです。
結果5曲ニューヨーク録音、5曲ミネアポリス録音という形で1975年1月にリリースされました。

ディランの場合、余計なことをして失敗することがままあります。(本人はそうは思っていなのかもしれませんが)
例を挙げると名曲「ブラインド・ウィリー・マクテル」をアルバムから外したり、これまた名曲「シリーズ・オブ・ドリームス」をボツにしたり、ブルース・スプリングスティーンのバックバンドと演ったノリノリの「When the Night Comes Falling from the Sky」を勢いのないアレンジに変えたりです。
これらは全て最初の「ブートレッグ・シリーズ 1-3」で確認できます。
(最後部にyoutube音源をリンクしておきますので、確認されたし)
しかし運よく(?)この「血の轍』ではこの目論見は大成功でした。(個人の感想です)

と言うのも2018年12月にボブ・ディラン・ブートレック・シリーズ・第14弾として「More,Blood, More Tracks」がリリースされました。ここで最初にリリースしようとしていた形、オール・ニューヨーク録音のものを確認できます。
これはこれでいいのですが、でもやっぱりオリジナルを聴いてからでないと価値は半減すると断言します。
個人的にはオリジナルのニューヨーク+ミネアポリスバージョンの方がより緩急をつけた形となっており好きです。
ドラマチックな迫力があり、改めてディランの声の表現力がすごいと感じます。
普段はあまりヘッドホン派ではないのですが、このアルバムだけはいくつになってもヘッドホンの大音量で聴きたくなるのです。

アルバムジャケットについては暗いとか地味とか気持ち悪いとか言われてますが、ディランのアルバムの中では芸術性があってなかなかいい方です。
ペイントではなくスポンジなどで叩きながら滲ませて描いた(画法名がわかりません)ものかと思っていましたが、wikiによると写真のフィルムに特殊な加工をしてプリントし着色したものだそうです。
写真家のポール・ティルという人物がディランの1974年1月、トロントのメイプル・リーフ・ガーデンでの2回目の公演時に観客として無断でライカのカメラを持ち込み、で無許可で撮影したものです。
後日、ディランの事務所を調べて直接送ったところ、ジャケットに採用されたとのことです。

ディラン側からは何もコメントはなかったとさ。

ついでにアルバムジャケットについてはディランのデザインはいい加減と思われるものが多いのも有名です。
一つ前の「プラネット・ウェイブス」に至っては本人が描いたとのことで誰も文句は言えなかったのでしょうが、白地に黒の殴り書きで、中途半端感ありありです。
もうちょっとなんとか考えていただけませんかと言いたくなるようなデザインなのです。
これではせっかくのザ・バンドとの夢のコラボエーションが台無しです。

ザ・バンドとの繋がりでいえば「血の轍」と同じ1975年に「ベースメント・テープス=邦題 : 地下室」がリリースされています。そしてそのジャケットはなかなか秀逸な出来なんです。
「プラネット・ウェイブス」と「ベースメント・テープス」を聴いた時からずっと思っていました。

-ジャケットを入れ替えたら、絶対にお互いのアルバムの価値がもっと上がる-

「ベースメント・テープス」のジャケットはごちゃごちゃしながらも仲間、歴史、生活などを感じます。ザ・バンドのメンバーもディランも描かれているので「プラネット・ウェイブス」にピッタリではないですか。

ベースメント・テープス」の内容は1966年、「ブロンド・オン・ブロンド」の後に事故で大怪我をしてしまい、ウッドストックでリハビリ中にザ・バンドのメンバーとジャムセッションをしたものです。海賊盤が多く出回り過ぎたため、対策として発売したようなものでした。スタジオで正式にレコーディングしたものではなく、簡易テープレコーダーで録音したものなので音質的にはそうそういいものではありません。でも「グレート・ホワイト・ワンダー」という名の海賊盤として相当に有名になっていました。
そういう経緯から見ても曲はまだ練り込まれておらず、デッサン状態で、ジャムセッションの類なのでシンプルな「プラネット・ウェイブス」のジャケットが似合うと思うのです。

なんて50年経って今更ですけどね。

話を「血の轍=ブロッド・オン・ザ・トラックス」に戻します。
このサウンドはとてもシンプルです。楽器は最小限に抑えられてサウンド的に近いものといえば1967年リリースの「ジョン・ウエズリー・ハーディング」あたりでしょうか。
この時代のロックの定番だった派手なギターやキーボードのソロなんてほとんど出てきません。
歌詞については「ブロンド・オン・ブロンド」以降、いろいろ変遷していましたが、またあの頃に戻ったような内容が多くなっています。

「ライク・ア・ローリング・ストーン」にしてもそうですが、直訳すれば相手が女性だろうがなんだろうが個人的な感情で罵りまくっている、みたいになってしまいます。でもディランの場合、なぜかそういう矮小なイメージにならないところがさすがです。

「イディオット・ウインド=邦題 : 愚かな風」でドキッとするのは
“It’s a wonder that you still know how to breathe”  「あなたが今まで息の仕方を知っていたなんて驚きだよ」、なんて詩が出てきます。
その前には「あなたが口を動かすたびに愚かな風が吹く」、と歌ってますから相当ですね。
きっと誰しも生きていれば何人かはそう言いたくなる人間に出会うものです。

ディランを聴いていると、傷つかずに生きていける人なんていないと改めて思い知らされます。

このアルバムは歌詞を追いかけていると、真意はわからないまでも1曲ごとに本を1冊、映画を1本見たような気持ちになります。

アルバムの紹介です。

演奏
ボブ・ディラン  ヴォーカル、ギター、ハーモニカ、オルガン、マンドリン
ビル・ピーターソン  ベース
エリック・ウェイスバーグ  バンジョー、ギター(ニューヨーク・セッション)
トニー・ブラウン  ベース(ニューヨーク・セッション)
チャールズ・ブラウン三世  ギター(ニューヨーク・セッション)
ビル・バーグ  ドラムス
バディ・ケイジ  スティール・ギター
バリー・コーンフェルド  ギター(ニューヨーク・セッション)
リチャード・クロックス  ドラムス(ニューヨーク・セッション)
ポール・グリフィン  オルガン・キーボード
Gregg Inhofer  キーボード
Thomas McFaul  キーボード(ニューヨーク・セッション)
Chris Weber  ギター、12弦ギター
Kevin Odegard   ギター

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

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1,   Tangled Up In Blue ブルーにこんがらがって (ミネアポリス・リメイク)

自由に強弱、緩急をつけて歌うところに惹きつけられます。NYバージョンは割と静かに歌っていて、こちらの方がより声が立っています。
物語は進み、いつも絡み合ったブルーで人生は過ぎていくという内容です。

2,   Simple Twist Of Fate 運命のひとひねり

運命の岐路について歌っています。シンプルなサウンドに深い味わいがあります。

3,   You’re A Big Girl Now  君は大きな存在 (ミネアポリス・リメイク)

サウンドにバンド感を感じます。これも女性について、というかラブソングです。思わず引き込まれる歌い方です。

4,   Idiot Wind  愚かな風 (ミネアポリス・リメイク)

リメイクの差が一番出ています。MPバージョンはNYバージョンに比べると勢いが違います。
まるで第2の「ライク・ア・ローリング・ストーン」というぶちかまし感が最高です。

5,   You’re Gonna Make Me Lonesome When You Go 俺は寂しくなるよ

歌い方が得意の辻立ちフォークかトーキングブルーズのようです。
このアルバムにおいては比較的テンポのある軽快な曲です。

6,   Meet Me In The Morning 朝に会おう

これも得意のブルーズです。最後は「船のように沈んでいく太陽を見てください」とあります。よく考えるとすごい表現です。

7,   Lily, Rosemary And The Jack Of Hearts リリー、ローズマリーとハートのジャック (ミネアポリス・リメイク)

これも早いテンポに乗せて9分近く、物語をマシンガンのような言葉で放ちます。
こちらから引用させていただきます。

The Meaning Behind The Song: Lily - Rosemary and the Jack of Hearts by Bob Dylan - Old Time Music
The Intriguing Story and Deeper Meaning behind Bob Dylan’s “Lily, Rosemary, and the Jack of Hearts” Bob Dylan is renowned for his poetic lyrics and meaningful s...

「リリー、ローズマリー、ハートのジャック」で描かれる物語は、名ばかりのリリー、ローズマリー、ハートのジャックという 3 人の主人公を中心に展開します。物語は、酒場、ギャンブラー、無法者が登場する古典的な西部劇のように展開します。
この曲は、アメリカ西部の小さな町で酒場を経営するリリーの紹介で始まります。彼女は悪名高いギャンブラー、ハートのジャックの目に留まり、彼女を征服への挑戦とみなす。ハートのジャックが裕福な男の妻であるローズマリーとリリーを浮気したとき、彼らの関係は暗い方向に進みます。二人は一緒に逃げる計画を立てますが、夫が二人の浮気を発見し、ローズマリーを殺害したことで計画は阻止されます。

リリーはローズマリーの死を知り、怒りと悲しみに駆られて彼女に復讐することを誓う。彼女はハートのジャックや無法者のギャングと協力して、新しい鉄道の資金調達に使用している夫の銀行を強盗します。強盗は計画通りに進んだが、ハートのジャックはリリーたちを裏切り、金をすべて奪って現場から逃走した。

最終的に、主人公3人のうち生き残るのはリリーだけとなる。彼女は過去から立ち去り、誰も完全に信頼することはできないことを理解して、より慎重になります。この曲は、彼女がそれによって頑なになったことを知りながら、起こった出来事を振り返ることで終わります。

『リリーとローズマリーとハートのジャック』は、一見するとただの西部劇に見えるかもしれません。しかし、歌詞にはより深い意味が埋め込まれており、それがこの曲をより複雑で魅力的なものにしています。(引用終了)

8、If You See Her, Say Hello 彼女にあったらよろしくと (ミネアポリス・リメイク)

淡々と歌い込んでいく曲です。聞き惚れてしまいます。

9,   Shelter From The Storm 嵐からの隠れ場所

後半にすごい歌詞が出てきます。

“丘の上の小さな村で、彼らは私の服を賭けて、私は救いを求めて取引した。
そして彼女は私に致死量を与えた。
私は無実を捧げた、私は軽蔑で報われた。
そして彼女はあなたに嵐からの避難所を与えると言った”。

こんな詩を書ける人は他にいないのではと思わされます。

ノーベル文学賞も納得です。

10,  Buckets Of Rain 雨のバケツ

これも重い内容ですが、最後にちょっと救いがあります。

ここからヤラカシの検証です。
ボツにした名曲「ブラインド・ウィリー・マクテル」です。今となっては1980年代のディランの最高傑作とも言われています。

さらにボツにした名曲「シリーズ・オブ・ドリームス」です。そのくせ、後の「グレーテスト・ヒッツ Vol3」に入れたりしています。

オリジナルアルバム「エンパイア・バーレスク」に収録されたヘナヘナバージョンです。なんとPVまで作っています。

ブートレッグ・シリーズで日の目を見たロックバージョンです。(素直にロックでカッコいいです)

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