「パーフェクトなデヴィッド・ボウイ・ワールド」The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars : David Bowie / ジギー・スターダスト : デヴィッド・ボウイ

 今は「ジギー・スターダスト」と正式に言われるようになったこのアルバムは1972年6月にリリースされました。
アルバム1枚を通してストーリーのあるコンセプトアルバムです。
これに合わせてライブもアルバムのイメージ通り、完璧にコントロールして行われました。
原作、曲本、監督、演出、主演のデヴィッド・ボウイは衝撃的なストーリーと質の高い楽曲で展開していきます。
さらにライブにおいては音楽の枠にとどまらない演出や照明などの舞台表現方法を駆使し、ロック史に残る作品に昇華しました。映画化もされています。

この方法はロックミュージカル的な視点では他にもありますが、ここまで徹底しないと“ロック、ロックンロールを感じる“ということにはなりません。と思える出来となっています。

リリース当初の邦題は「屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群」という「アナタ、内容も確認せずにむりくり直訳しただけでしょ」というすごい邦題がついていました。
ジギー・スターダスト=地球に来た主人公
スパイダース・フロム・マース=バンド名
です。

この時期のボウイはグラム・ロックというジャンルで呼ばれるのですが他のグラムロックバンドとは明らかに質感が違いました。
例えばマーク・ボランのT-Rexなどはエレクトリック・ブギというノリの良いバンドで妖しげな雰囲気でロックしていました。それはそれで魅力的です。今やビジュアル系バンドの原点です。

でもデヴィッド・ボウイは視点が違いました。
ファッション、サウンド、構成などを含め演出にこだわった総合芸術を目指しました。
他の多くのバンドのように「俺はロックンローラー、これが俺流の生きかた」というさらけ出しではなく、明らかなストーリー性のある演出と演技が見られました。

通常、そういう演出は熱心なロックファンからは敬遠されます。演出を感じるアーティストやアルバムは「こんなの本来のロックじゃない」とか、「作り物でリアルさがない」という理由で低く評価されるものです。

このアルバムのすごいのはそういう感覚を覆すほどのスケールと世界観、楽曲の質の高さを持ち合わせているところです。

聴けば数多のバンドよりよっぽどロックで生き様を感じ、奥行きと壮大さに加えて知性が感じられます。
ボウイの描く世界は文学的で、単純な若者の社会に対する反抗ではありませんでした。

ボウイにとってロックとは所詮自己表現する手段の一つに過ぎないものだったのでしょう。
なのでここではあえて演出過剰のハッタリをかましました。
演目のスケールはでかく非日常的で、主人公はカリスマ、ロックのパワーと楽しさで聴かせて最後は挫折味わせるということをアルバム1枚を通して演って見せ、目論見はまんまと成功しました。

それは
スケール感:宇宙まで取り入れた非日常的な世界
スター性:ボウイ演じるユニセックスで妖しい魅力のジギー・スターダスト
ロックンロール:楽曲ハング・オン・トウ・ユアセルフとサフラジェット・シティのノリと焦燥感
挫折:キーワードは9トラックのジギー・スターダストと最後のロックンロール・スーサイド 

はい、これで永遠に「いつの時代にもいる、ちょっと屈折した知性ある若者」が共感するアイテムとなり、普遍的な価値を持つアルバムとなりました。(はい、あなたのことかも知れません)

アルバム「ジギー・スターダスト」のご紹介です。

演奏

デヴィッド・ボウイ  ヴォーカル 、アコースティックギター、サックス
ミック・ロンソン  エレクトリックギター、ピアノ、コーラス、オーケストラアレンジ
トレヴァー・ボルダー  ベース

ウディ・ウッドマンジ  ドラムス
リック・ウェイクマン  ハープシコード

ダナ・ガレスピー  コーラス

ケン・スコット  ミキシングエンジニアリング、オーディオエンジニアリング


曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


01,   Five Years ファイヴ・イヤーズ

ドラムのゆっくりしたビートで始まり、ピアノとジギーのヴォーカル が入ってきて ベースが入り、しまいにはオーケストラも加わって徐々に盛り上がって盛大に終わります。「もう5年しか残されていない」と。圧巻のエピローグです。


02,   Soul Love ソウル・ラヴ

ミディアムテンポのタイトル通りの雰囲気だ始まりますが、サビはロック的です。愛とは愛することではないという歌詞が出てきます。


03,   Moonage Daydream ムーンエイジ・デイドリーム

だんだん重く激しいビートになってきました。敵の襲来を告げる曲です。構成にトータル性を感じます。
2023年、このタイトルでデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画が公開されました。(まだ見れていません)


04,   Starman スターマン

アコースティックギターで始まる名曲です。明るく希望が感じられます。
子供たちから偽物を取り上げて、本物のロックを与えようという歌詞です。


05,   It Ain’t Easy イット・エイント・イージー

ややオペラがかった歌で始まり、ロックのハードなサビになります。


06,   Lady Stardust レディ・スターダスト

ピアノのイントロから切々としたヴォーカルがドラマチックです。バイセクシャルな歌詞ですが、マーク・ボランのことを歌ったとも言われています。


07,   Star スター

テンポ良く軽快な曲です。この後デビューするクイーンを彷彿させます。


08,   Hang On To Yourself ハング・オン・トゥ・ユアセルフ

これはパンクロックのノリです。火星からきたスパイダースの歌です。


09,   Ziggy Stardust ジギー・スターダスト

印象的なフレーズがこのアルバムを象徴しています。ボウイの次々と変化する声がすごく印象的です。物語的にはここでジギーはファンに殺されます。


10,   Suffragette City サフラジェット・シティ

何も考え無しにノレるロックンロールです。バイセクシャルな内容らしいです。


11,   Rock’N’Roll Suicide  ロックンロール・スーサイド

刹那的ロックンロールの代名詞です。最初と同じように徐々に盛り上がって終わりますが、違うのは暗く、絶望が重苦しく膨れ上がるところです。「あなたは一人じゃない」と繰り返されます。

デヴィッド・ボウイは肉感的でハングリーではないロックでした。
1970年台終盤、ブリティッシュ・パンク象徴的存在だったセックス ・ピストルズが解散したとき、「ピストルズは所詮マルコム・マクラーレンの演出した作り物だった」と言われ始めました。
本当に全部そうだったかどうかは疑問ですが、このデヴィッド ・ボウイのジギー・スターダストは最初から全て晒して “作り物です” “演技してます” で正面突破しようとしています。潔いですね。

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