1978年、パンク・ニューウェイヴ旋風の吹き荒れるイギリスでリリースされたダイアー・ストレイツのファーストアルバムです。
発売当初、日本では「ショック」という邦題でリリースされました。(なんか疑問でした)
シングルカットされた「悲しきサルタン」はラジオのオンエアーから火がつき、イギリスのみならず世界中でヒットする状況となります。
当時、わたくし的にはジャケットといいアルバム名といい、とても地味に見えていて、買ってまで聴いてみようという気が起こらないシロモノでした。
あるとき何かのお礼で学校の先輩からおすすめのレコードとしていただいて、聴いてみたら当時パンクやニューウェイヴに毒されている(?)自分でも「おっ、こいつらは何かが違う。他と違う実力があり本物だ」と思わせるものがありました。
以後、長い付き合いとなります。
バンド名は
Dire =「恐ろしいほどの、ひどい、極度の、悲惨な、質の悪い」
Strait = 「難局、苦境、困難、貧窮」という意味だそうです。
バンドリーダーのマーク・ノップラーはこの時すでに28歳、10代の学生だった私からしたらもう、「おっさん」です。なので最初から新進気鋭のロックスターではありませんでした。
当時は洋楽の歌詞を細部に渡って真剣に見ていました。
ヒットした「悲しきサルタン」の内容というと、場末のダンスホールで客もいない中、ディキシー ランドジャズを演っているバンドのことを淡々と歌っています。ギターのジョージはすべてのコードが判っている。なんていう歌詞も出てきます。
このパンク、ニューウェイブ、テクノの時流に逆らった雰囲気が、そこから10年さかのぼったアメリカでサイケデリック・ロック華やかなりし時に登場したザ ・バンドと同じ匂いを感じました。
こういう「メインストリームのロック」に対するカウンターというのに本物のロックを感じたのです。(はい、なんだかんだ言っても時流に乗れてないだけだったんですね)
ダイアー・ストレイツは運よくファーストアルバムが成功しました。(と言ってもそれまでの下積みは長かったと思いますが)
そして同じ年にデビューしたエルヴィス・コステロと同じようにオリジナル路線を歩んで同じように1980年代中盤に再ブレイクします。それがコステロは「パンチ・ザ・クロック」であり、ダイアー・ストレイツは「ブラザーズ・イン・アームズ」です。
私の中ではエルヴィス・コステロ&アトラクションズとダイアー・ストレイツはサウンド的にはだいぶ違いますがシンクロしています。
そういえばコステロのファーストアルバムを見た時、素直に「ダサい、なんで今頃プレスリーとかバディ・ホリーなんだ。ついて行けん」と思ってしまいました。
友達が異常に推しているのでアルバムを聴いてみたところ、ジャケットがとってもカッコよく見えるようになりました。(単純なんです)
ファーストアルバム「ダイアー・ストレイツ」は全曲、サウンドに統一感があります。と言っても構成がシンプルなだけなんですけどね。
そしてとてつもなく素晴らしいエレキギターサウンドが聴けます。
フェンダー、ストラトキャスターの一番美味しい音色がこれです。(と思ってます)
ギターはリードもサイドもストラトキャスターですが、エフェクターの香りはしません。潔くギター出力からアンプへダイレクトインの雰囲気です。
サイドギターはコード弾きですのでコンプレッサーは使っているでしょう。
リードギターのマーク・ノップラーは後期になるとエフェクターボードを使用しますが、基本はずっと “いかにギターの素の音の素晴らしさを出すか” ということに専念しているように感じます。
ギターアイドルの一人としてとしてシャドウズ(The Shadows)のハンク・マーヴィンを挙げていることからもわかります。
マーク・ノップラー繋がりでこのハンク・マーヴィンさんから教わったことがあります。
高校生の頃からエレキギターを弾いていました。何かの雑誌で「エレキギターはフルヴォリューム、フルトーンでアンプにイン、これがロックの基本だ」とおっしゃっていた人がいて、基本そういうもんだとずっと思っていました。
数十年経ってハンク・マーヴィンのインタビュー記事を目にします。
「ギターの音がとても素晴らしいのですが、綺麗な音を出す秘訣はなんでしょうか?」という質問に
「アンプのヴォリュームを目一杯あげて、必要な音量になるまでギターのヴォリュームを上げるんだ。それがギターの一番綺麗な音だよ」
まさにコペルニクス的転回です。やってみるとそのほうが全体のバランスとか、歪系エフェクターを使用した時の音とか全然違います。フルヴォリュームだと変な飽和感とかバランスの悪さが気になり始めます。
なんと私は数十年、エレキギターの音の作り方を知りませんでした。
アルバム「ダイアー・ストレイツ」のご紹介です。
演奏
マーク・ノップラー ヴォーカル、ギター
デヴィッド・ノップラー リズムギター、バッキングヴォーカル
ジョン・イルズリー ベース、バッキングヴォーカル
ピック・ウィザース ドラムス
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Down To The Waterline 水辺へ
これ見よがしにエレキギター のボリューム奏法から始まります。ありそうでなかったこの飾らなさがいいんです。
2, Water Of Love ウォーター・オブ・ラブ
地味に始まる味わい深い曲なんです。
3, Setting Me Up セッティング・ミー・アップ
武道館でエリック・クラプトンの「ジャスト・ワン・ナイト」のときにツァーメンバーとして一緒に来ていたギタリストのアルバート・リーがこの曲をやってくれました。すごいテクニックで会場が盛り上がりました。
4, Six Blade Knife シックス・ブレイド・ナイフ
デビュー作にしては枯れた曲です。6枚刃のナイフが何を指しているか日本人の私にはわかりません。
5, Southbound Again サウスバウンド・アゲイン
これもダイアー・ストレイツならではの音です。
6, Sultans Of Swing 悲しきサルタン
名曲です。いまだにギターをコピーする人が後を断ちません。ボブ・ディラン風の歌い方も曲調に合っています。
7, In The Gallery イン・ザ・ギャラリー
ギターリフといい、リズムといい、歌い方といい、新人バンドとは思えません。大人の遊び心が満載です。
8, Wild West End ワイルド・ウエスト・エンド
最初のギターのヴァイオリン奏法(ヴォリューム奏法)でもう力が抜けてしまいます。
飾らない硬派な音楽です。
9, Lions ライオンズ
名曲ではありませんが、体に染みるいい曲です。
ダイアー・ストレイツは1995年に解散が発表されましたが、以後もリーダーだったマーク・ノップラーはいい味のソロアルバムを出し続けています。
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