2023年1月、ジェフ・ベックの訃報が届きました。ロックが好きでギターを持っている人なら必ず1度は耳にしたことがあるであろう超大物、レジェンド です。
よく、ブリテッシュロックのバンド「ヤードバーズ」のくくりで3代ギタリストとして、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジとともに語られます。
でも、個人的にベックは他の二人に比べて圧倒的に異質、異能の人です。神様でもあるのですが、ビジネス的にはちょっと不器用なので、どちらかといえば “絶対かなわない兄貴” みたいな存在です。
ジェフ・ベックの音楽遍歴を見ると、ブラック・ミュージックが好きなことがわかります。それは他の二人のギタリストペイジ、クラプトンも同じで、二人はいかに自分の音楽に取り入れていくかをずっと切磋琢磨していました。
でもベックはアプローチが違いました。自分はB.B.キングやT – ボーン・ウォーカーと同じことをやっても同じ域には達したことにならない、と思ったのかどうかはわかりませんが、あからさまなブルースリック を使ってソロをとったりすることはほとんどありませんでした。
第1期ジェフ・ベック・グループの「トゥルース」でマディ・ウォーターズとかハウリン・ウルフをカバーしていますがいわゆる一般的な意味での泣きのブルーズギターは出てきません。
また、「Blues Delux」というまんまブルーズ の曲があるのですが、全編どブルーズなのに普通に思い起こすようなフレーズが出てきません。
クラプトン、ペイジだったら絶対にこう弾くと心の中で想像できて、そこがまた良かったりするのですが、ベックの場合はどこまで焦らすんだと思っているとやっとブルーズらしいフレーズがソロでちょっと出てくるという感じです。
そういう彼らしいプライドを感じるせいかミュージシャン内でも評価は高く、スティービー ・ワンダーもジェフ・ベックが弾くことを想定した曲を送っています。ジミ・ヘンドリクスでさえもベックには一目おいていました。
長い演奏活動の中で、時々遊び感覚でブルーズやカントリー、ロカビリーのフレーズを弾いたりしますが、それがとんでもなく奥深かったりします。
多分、ベックはある域に達してますので、頭に浮かんだメロディ、フレーズを即ギターで再生できるのでしょう。
ギターは使っているとベンディングなどの弾き方や温度などでチューニングが狂います。でもベックは完璧な音感ゆえにチューニングの狂いや音楽の中でその狂いの許容範囲までも含めて即座に演奏にアレンジできるのだと思います。
なので1本のストラトキャスター で本番演奏中に何気に調整しながらワンステージこなせるのです。
本当にギターを弾くために生まれてきた人でした。
そのベックが長い音楽生活の中で最初にギター・インストゥルメンタル・アルバムとして1975年にリリースしたのが今日でも評価の高い「ブロウ・バイ・ブロウ」です。
邦題は「ギター殺人者の凱旋」、きっと日本の販促担当者がギターの経験があって、異次元の演奏に震え上がったのでしょう。
でも流石に殺人者扱いは・・・と昔から笑ってました。
そしてここから先はアルバム「ワイアード」などひたすらギター・インスト路線でやって行き、孤高と言われる世界に住み続けます。
私が一生懸命に追いかけたのは「ゼア・アンド・バック」ぐらいまでですが、それでも何一つ追いつけてはいません。
兄貴は天才ゆえに空気を読むのが下手なので、できない人の気持ちなんかわかりません。平気で努力している人を置き去りにします。
中には共感できることもありました。
ブロウ・バイ・ブロウでは「セロニアス 」というタイトルの曲を、ワイアードではチャールズ・ミンガスの「グッド・バイ・ポークパイ・ハット」をカバーしていたりするので、ああそうですか、そちら方面もホントは好きなんですかとちょっと親近感が持てます。
時々は降りてきてくれるので、ただの異次元の人ではありません。
ジミー・ペイジがブロウ・バイ・ブロウを「ギターの教科書のようなアルバム」と評しています。
的を得ていますが、ギター初心者用の教科書ではありません。
初心者用の教科書はハンク ・マーヴィンのシャドウズとか、ノーキー・エドワーズのヴェンチャーズです。これは技術レベル云々の話ではなく、いかにエレキギターは綺麗な音が出るか、そして綺麗なメロディを弾くことが難しいかを理解してないと本当の偉大さがわからないのです。
基礎物理学をちゃんと履修して相対性理論にあたらねばならないのと一緒です。
当然、それでも難しいのです。
アルバム「ブロウ・バイ・ブロウ」のご紹介です。
演奏
ジェフ・ベック ギター
フィル・チェン ベース
リチャード・ベイリー ドラムス、パーカッション
マックス・ミドルトン キーボード
スティービー ・ワンダー クラヴィネット Tr.7 (クレジットなし)
ジョージ・マーティン プロデューサー
デニム・ブリッジス エンジニア
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, You Know What I mean わかってくれるかい
まずは挨拶がわりに・・・といった感じで始まりますが、難しいことをさりげなくやっています。
2, She’s A Woman シーズ・ア・ウーマン
ビートルズの曲です。トーキングモジュレーターを使ってヴォイスを入れています。あまり原曲のせっかちな雰囲気はなく、大人な曲にアレンジしています。
3, Constipated Duck コンスティペイテッド・ダック
何気にフレーズに時代性を感じます。全員に実力がないとこういう曲はできません。
タイトルの便秘のDuck。意味は色々とありそうです。
4, Air Blower エア・ブロアー
懐かしのフェンダー・ローズも聞こえます。ジェフ・ベックを聴いてると同じフレーズがテーマ以外に登場しないので凄いと思います。ギターの語彙力がすごいのです。
終盤、いい感じで次につながります。
5, Scatterbrain スキャッターブレイン
テーマは有名です。コピーしようとして挫折した人は数知れずです。ピックで弾くとこういう音にはならないし、ハンマリングとタッピングだけでもダメです。ベックは余裕で緩急をつけたり、あえて2音目から(裏から)入ったり自由自在です。
普通の人だったらテーマを弾き切った時点で膝をついてゼエゼエ息が上がりますがベックは余裕です。
6, Cause We’ve Ended as Lovers 悲しみの恋人たち
名曲です。これもローズピアノがいい雰囲気を出してます。ベックの場合、あまりサービス精神がないので、こういう曲でもギターでしつこく、これでもかとばかりに歌い上げたりしません。哀愁のヨーロッパやパリの散歩道にならないんです。だから売れないのです。そこが良いのです。
7, Thelonius セロニアス
セロニアス・モンク 的な部分とは、ストライドピアノ的なフレーズ? ぶつ切りリズム?
よくわかりませんが、兄貴がそう名付けたんだから文句は言えません。
8, Freeway Jam フリーウェイ・ジャム
テーマ以外はトリッキーです。タイトル通りジャムっぽい曲なので普通は何かと荒れやすいのですがベックに限ってはそんなことありません。最後までクールです。
9, Diamond Dust ダイアモンド・ダスト
最後も綺麗な曲で締めます。
ベックの場合、ギターインスト・アルバムでもフュージョンギタリストとは全く感触が異なります。ペンタトニック・スケールのせいだけではない何かがあります。誰も追従できません。
ジミー・ペイジは「6弦の戦士はもういない」と追悼のメッセージを出しました。
ジェフ・ベック様、ありがとうございました。
手をとって教えてくれるようなことはありませんでしたが、世界中のギター小僧はみんな兄貴の背中を見ていました。
ご冥福をお祈りいたします。
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