「名声を拒否した芸術家」Joe’s Garage : Frank Zappa / ジョーのガレージ : フランク・ザッパ

 「音楽以外の才能は全て持っている」と言われたフランク・ザッパ師匠です。
この場合の音楽とは「売れる音楽」、「スタンダードとして残る音楽」のことだと解釈されます。

ザッパ については深く知るほど、解説が難しくなります。
なんというか全てのシリアスなもの、価値観を否定して音楽を創造しますので、解説するととんでもなく常識外れになってしまうんですね。

本人が「この世界には普遍的なものが2つある、水素と愚かさだ」と語っており、音楽で人間の愚かさを追求しようとしているみたいです。

だいぶ前から、いつか時間を作ってじっくり聞いてみたいアーティストというのをいくつか持っていました。
1960年代から活躍していたフランク・ザッパ、さらに現役ヴァン・モリソン、トッド・ラングレンなどです。
皆さん活動歴は長いので、それ相応の流行りすたりに関係ない実力があって、固定ファンは多いと思われます。
しかし概してヒットチャートとは無縁でありテレビコマーシャルや映画などで自然と触れる機会もほとんどないのです。

よし、聞こうと思ってこちらから近づかないとなかなか体験できない人たちです。

今回はその内のひとり巨匠フランク・ザッパ師匠についてです。その昔、まだ20代の頃「アポストロフィー」や「シーク・ヤブゥーティ」などは聞いたことがありました。
で、印象というと、曲が目苦しく変化する。曲内の情報が多すぎる。なので聞いていて非常に疲れるという感想でした。
それから数十年経過、今はその頃とは聴く環境が違います。
オーディオは自分なりに気にいった音が出せるようになっています。
素晴らしい音で再生すれば以前とはまた違った光景が見えるはずです。

ということでフランク・ザッパの100枚くらいあるアルバムリストからまず10枚ほど選びました。その中でとりあえず一番印象の残ったものがこの「Joe’s Garage – ジョーのガレージ」です。
コンセプトアルバムで、発売時期はちょっとずれますが「Act 1」と「Act Ⅱ & Act Ⅲ」がありリリース当時はLPレコードにして3枚組です。

内容は現代社会とクロスしながらも近未来SFです。
中央監視官という制度がある監視、管理社会の中で、ロック好きな少年がエレキギター を持ってガレージで練習しながら成功していく。
しかし騙されたというかなんというかで犯罪者となってしまい、根が真面目で純粋な少年は収監されて精神が崩壊してしまうというストーリーです。
基本的には中央監視官の無機質な台詞と音楽で物語は進みます。
そこは鬼才らしくいろんな社会問題を風刺した内容が出てきます。(とてもすぐにはまとめられないくらいのいろんなことが出てきます)

ぜひ直接聴いて感じていただきたいと思います。

アルバム「ジョーのガレージ アクトⅠ、Ⅱ、Ⅲ」のご紹介です。

演奏

フランク・ザッパ  ギター、ヴォーカル
ウォーレン ・ククルロ  リズムギター、ヴォーカル
デニー・ウォーリー  スライドギター、ヴォーカル
アイク ・ウイリス  リードヴォーカル
ピーター・ウルフ  キーボード
トミー・マーズ  キーボード(Act1)
アーサー・バロウ  ベース、ギター、ヴォーカル
パトリック・オハーン  ベース(Outside Now, He Used to Cut the Grass)
エド・マン  パーカッション、ヴォーカル
ヴィニー・カリウタ  ドラムス
Jeff Hollie  テナーサックス
Marginal Chagrin (Earl Dumper)   バリトンサックス
Stumuk (Bil Nugent)    ベースサックス
Dale Bozzio  ヴォーカル(Act1)
Al Malkin   ヴォーカル
クレイグ・スチュワード  ハーモニカ

Amazon.co.jp


曲目 
*参考までにyoutube音源をリンクをさせていただきます。


Act Ⅰ 
<Joe’s Exploits>
1,  The Central Scrutinizer  中央監視官
2,  Joe’s Garage  ジョーのガレージ
3,  Catholic Girls  カトリック・ガールズ
4,  Crew Slut  クルー・ストラット


<Sex And Side Gigs>
5,  Fembot in A Wet T-Shirt   びしょ濡れTシャツコンテスト
6,  On The Bus  オン・ザ・バス
7,  Why does It Hurt When I Pee  ホワイ・ダズ・イット・ハート・フェン・アイ・ピー
8,  Lucille Has Messed My Mind Up  ルシール・ハズ・メスド・マイ・マインド・アップ

Act Ⅱ 
<The Closet>
1,  A token Of My Extreme  過激さの象徴
2,  Stick It Out  スティック・イット・アウト
3,  Sy Borg  サイ・ボーグ


<Prison>

4,  Dong Work For Yuda  ユダヤ人のためになんか働くな
5,  Keep It Greasey  キープ・イット ・グリージー
6,  Outside Now  アウトサイド ・ナウ

Act Ⅲ
<Dystopian Society>

1,  He Used To Cut The Grass  ヒー・ユーズド・トゥ・カット・ザ・グラス
2,  Packard Goose  パッカード・グース

<Imaginary Guitar Notes>

3,  Watermelon In Easter Hay  イースターのスイカ
4,  A Little Green Rosetta  ア・リトル・グリーン・ロゼッタ

発売は1978年、ピンクフォロイドの「ザ・ウォール」と同年です。
このアルバムもうまく作れば「ザ ・ウォール」はもとよりザ ・フー の「トミー」や「四重人格」と並ぶ、いやそれ以上に評価されるコンセプト・アルバムとなる可能性がありました。

しかしそんなことを敢えて否定するように、このアルバムのストーリーは鬼才ザッパのお約束(?)のホモセクシャルだのSMだのオシッコをすると痛いだのなんだのと人に言えないような歌詞、内容がいっぱい出てきます。

他にもお下劣なパーティや下世話にグルーピーを口説く曲とかがいっぱいありますが。
基本ザッパはそういう歌詞ばっかりでシリアスな内容なんぞ徹底拒否というのがピンクフロイド やフーとは違うところです。

中にはタイトルソングの「ジョーのガレージ」みたいにポップで誰が聴いても心地良いと思われるような曲も出てきます。
ちょっとヒットした同じく1979年発表のアルバム「シーク・ヤブーティ」の「ボビー ・ブラウン」と同じく美メロです。
「だから、こういうのをちゃんと作れば偉大なロック・レジェンドになれたのに」と思わずにはいられないところです。

ザッパはその気になればヒットチャートでトップになるとか、ロック史上での歴史的な名盤を作るとかいとも簡単にできそうですが、あえてそういうのを拒否しているようにしか見えない節(ふし)があります。

このアルバムの終盤、最後から2局目に「Watermelon In Easter Hay:ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」というサンタナっぽい泣きのギターとジェフ・ベックの「悲しみの恋人たち」を合わせたような美しいインスト曲が出てきます。
心身ともに崩壊し全てを失いギターも弾けなくなった主人公ジョーが釈放されて立ち尽くし、心の中でギターを弾くのです。

これで終われば深い余韻とともに名作と言われる可能性もありました。
ところがその後にあえてどうでもいいようなくだらないどんちゃん騒ぎの意味不明曲「A Little Green Rosseta:ア・リトル・グリーン・ロゼッタ」を最後にくっつけて全てをぶち壊しまします。
これがザッパなんです。これではピンクフロイドもフーもザッパにかかればパロディネタでしかありません。

バンドメンバーはいつの時代でもすごいテクニシャン揃いです。皆さん譜面をもらって演奏するそうです。
特にリズムセクションがいつの時代も強力で、ザッパバンドを離れたドラマーはメタル、プログレ、フュージョンの分野で大活躍です。

本編には出てきませんが、長い間ザッパのバンドにいたマリンバ、パーカッション担当のルース・アンダーウッドはYou Tubeでのインタビュー動画を見てみると、ザッパの作曲については対位法の面などからもすごいなどと言って認めています。
ザッパはルースを結構長い期間バンドに入れていました。理由は彼女はリズム感がすごく良いのでライブの演奏をどこで切りはりしても違和感が無いとのことです。
彼女を評して「頭の中に水晶発振器がついている」と言ったそうです。

中期以降のザッパのアルバムはスタジオにこもってライブ録音を編集して曲にする、というのが基本だったりします。リズムが安定していることは重要だったことでしょう。


フランク・ザッパの所感

・聞き込まないと判らないが、聴き込めばわかるというものでは無い。
・マイルスと同じく音楽の分類不可能
・歌詞が変、声が気持ち悪い(褒めてます)
・音楽の才能あるが名声、富と栄光を拒否
・低俗な歌詞で複雑な構成の曲を譜面どおりに完璧に演奏する変な集団
・ライブとスタジオ演奏の区別なし
・体調が良い時には聴きたくなる

以上、ザッパについてはまた書きます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました