「究極のセルフカバー」Shadow Kingdom : Bob Dylan / シャドウ・キングダム : ボブ・ディラン

 1941年5月24日生まれのボブ・ディランは現在もう82歳です。しかもまだ現役です。今年は来日もしてくれて、公演は素晴らしいものでした。
ノーベル賞も受賞して社会的にも広く認知されましたし、歴代のアルバムは常に廃盤になることなく製造され続けています。
もうすでにアーティストとしてこれ以上望むべきものはなさそうな状態ですが、本人は休む暇なくネバーエンディング・ツアーをやってます。
もう常人には理解し難いほどの仕事中毒に見えます。

ある意味最高の働く人生です。20代でトップとなり、80代になってもニューアルバムをリリースしながら、しかもヒットチャートに送り込みつつライヴツァーをできる人はほんの数人に限られています。

ロックスターはどう生きていくのか、生きて天寿を全うするのかを教えてくれるのはディランとローリングストーンズのミック・ジャガーとキース・リチャードしかいません。ポール・マッカートニーもそうですが何故か比べると他の人より安定してそうです。クレバーなので自然にカッコよくフェイドアウトできそうです。1970年代以降はディランとストーンズほど突っ走ってこなかったので、背負っているものは少ないような気がします。
(個人の感想です)

引き際を、というより引かなかったロックンローラーの最後というものをしかと見届けさせていただきたいと思います。

そのディランがまた新しいアルバムをリリースしました。
このアルバムは言ってしまえばセルフカバーです。50年以上前の曲などを再録したものとなっています。
マニアックな選曲もありますがほとんどは有名な、今となってはスタンダードな曲です。きっとその時点でのディランが歌いたい曲を選曲しているのでしょう。

ボブ・ディランの音楽は一般的にわかりづらい、理解しづらいものです。
そうそう綺麗な声でもなく、一聴して上手いと思うわけでもなく、さらに日本語でもないので意味もわかりません。
最近に至ってはあのものすごい濁声であのトーキングブルースみたいな歌い方ですので、ついていくのも大変です。しかもライヴでは原曲とはキー以外は全部違う、と思うくらい崩して歌ったりします。
若い人からしたら「なんという曲を歌っているのかわからん」「みんな同じ曲に聞こえる」くらいにしか思わないのではないでしょうか。人ごとながら心配になってきます。

はい、そういう貴兄にも朗報です。

今回は稀代の名曲を今のディランが今の音で録ってくれました。2021年ライヴアルバムとなっていますが、ディランの場合こういったスタジオライブは通常のアルバムと変わりません。というかすべてがスタジオライブみたいなものです。(ダニエル・ラノアのプロデュースを除く)
このアルバムの正式な置き位置としてはコンサート映画のサウンドトラックとなります。
ライヴストリーム・プラットフォーム Veeps.comで公開されたのですが、私もそこまで追いかけきれていません。
映画キャストと録音キャストは違っています。ちゃんと“フィンガーシンク”と銘打ってあります。映画キャストのメンバーもミュージシャンなので、ある意味複雑な心境かもしれませんね。

聴いた印象は全体的に歪んだダミ声を抑えて割とクリアーな声で歌っています。(あくまでボブ・ディランにしてはです)歌詞も丁寧に愛しむように歌います。(あくまでボブ・ディランにしてはです)バックはここのところのツアーと同じようにアコースティックでシンプルです。
歌い方は昔のゲロゲロ言っている感じではなく、なんというか情感を込めて演劇的に感じます。とにかく音楽の表現力はすごいものがあります。やはり流石の芸術家です。一聴の価値ありです。

録音の音質はとってもナチュラルでリアルな音質です。

アルバム「シャドウ・キングダム」のご紹介

映画キャスト

ボブ・ディラン  ヴォーカル、ハーモニカ
アレックス・バーク  ギター(フィンガーシンク)
バック・ミーク  ギター(フィンガーシンク)
シャザド・イスマイリー  アコーディオン(フィンガーシンク)
ジャニー・コーワン  アップライト・ベース(フィンガーシンク)
ジョシュア・クランブリー  ギター(フィンガーシンク)

レコーディング

ボブ・ディラン  ヴォーカル・ハーモニカ
ジェフ・テイラー  アコーディオン
グレッグ・ライス  ギター、ペダルスティール・ギター、マンドリン
ティム・ピアーズ  ギター
Tボーン・バーネット  ギター
アイラ・イングバー  ギター
ドン・ウォズ  アップライト・ベース
ジョン・アヴィラ  エレクトリック・ベース
ダグ・レイシー  アコーディオン
スティーヴ・バーテック  アコースティックギター Tr.14


曲目
*参考までにyoutube音源等をリンクさせていただきます。


1,   When I Paint My Masterpiece

ザ・バンドの4作目、1971年のアルバム「カフーツ」に収められた曲です。そちらはカリブ海を彷彿させる雰囲気のアレンジでしたが、こちらは見事に崩して歌っています。ロックではありませんがなかなか深いアレンジです。


2,   Most Likely You Go Your Way and I’ll Go Mine

1966年「ブロンド・オン・ブロンド」に収録されて、1975年の「偉大なる復活」というライヴのオープニングで演ってました。ザ・バンドとのツアーでした。こちらはより演劇的なアレンジになっています。


3,   Queen Jane Approximately

1965年リリース「追憶のハイウェイ61」からです。ふと、あえてダミ声ではなくてクリーンな声で歌っていることに気づきました。しかも昔みたいにぶっきらぼうではなく丁寧です。


4,   I’ll Be Your Baby Tonight

1967年リリース「ジョン・ウエズリー・ハーディング」からです。原曲より気持ちが入ってます。役者です。


5,   Just Like Tom Thumb’s Blues

「追憶のハイウェイ61」からです。歳を重ねた表現力の違いがわかります。


6,   Tombstone Blues

これも「追憶のハイウェイ61」からです。原曲の面影はありません。


7,   To Be Alone with You

1969年、アルバム「ナッシュビル・スカイライン」に収録されていた曲です。なんか迫力があっていいアレンジです。


8,   What Was It You Wanted

1989年リリースの「オー・マーシー」からです。歌謡曲風アレンジで笑ってしまいました。


9,   Forever Young

1974年リリース「プラネット・ウェイヴス」からです。クリッシー・ハインドもカバーしていました。今やスタンダードとなっている感もある名曲ですが、アレンジがだいぶ変わっています。



10,  Pledging My Time

「ブロンド・オン・ブロンド」からです。ディランならではのブルーズです。


11,  The Wicked Messenger

「ジョン・ウエズリー・ハーディング」からです。珍しくカントリーぽく明るい感じのアレンジです。(ディランにしてはです)


12,  Watching the River Flow

元は1971年のレオン・ラッセルプロデュースによるシングルです。割と力強いアレンジです。(ディランにしてはです)


13,  It’s All Over Now Baby Blue

1965年の「ブリング・イット・オール・バック・ホーム」に収録されていました。ここまで来ると覚悟はしていましたが、この名曲もまたまた期待を裏切るアレンジです。新曲と言っても通用します。


14,  Sierra’s Theme

雰囲気のあるエンディングのインストです。ヨーロッパ的な感じもします。

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