「“狂気”に続いたモンスターアルバム」Wish You Were Here : Pink Floyd / 炎~あなたがここにいてほしい : ピンク・フロイド

 ピンク・フロイドの絶頂期と言える1975年のオリジナルアルバムとしては9枚目のアルバムです。
前作「狂気」が歴史的作品になってしまったので次作のプレッシャーはすごかったものと思われます。期待とか責任とかを感じてプレッシャーに押しつぶされてしまいそうになるのが普通です。
でも足元をしっかりみている超大物は違います。いい感じで力を抜いてくるのです。
まるで期待を裏切ることも「長い目で見ればまた一興」とでも思っているかにように。

まるでビートルズの「サージャント・ペパーズ」の次の「マジカル・ミステリー・ツアー」とかボブ・ディランの「ブロンド・オン・ブロンド」の次の「ジョン・ウエズリー・ハーディング」みたいな感じですが、ピンク・フロイドはちょっと違いました。
「炎」もまた最高に評価され、代表作とされ、売れるアルバムに仕上げました。

(一応言っときますが私はマジカルもジョンウェズリーも好きです)

手法を「狂気」の深く深くたたみかける表現から、伸ばして焦らす表現に変えました。1曲目からギターで延々と焦らして焦らして引っ張ります。
この雰囲気も慣れれば快感となり、アルバムは好調に売れ続けました。この手法は二つ前のアルバム「おせっかい」の「エコーズ」と同じ感触です。
ピンク・フロイドの世界は基本、寄り添って優しく囁きかけてくるような声でエキセントリックな世界を歌うのが主体なので、そういうのが日本に限らず世界的に認知され売れるのです。
生活に疲れている人には優しく響きます。つまりみんなストレス社会の中で生きているということが世界的に共通事項なのでしょう。

あえていうまでもないか。

しかし次作からの「アニマルズ」「ザ・ウォール」ではエキセントリックな方向に偏りすぎて評価が分かれます。
アルバムセールスは宣伝効果によって好調でしたが、おせっかい〜雲の影〜狂気〜炎と聴いてきたファンにはちょっと違うという印象だったと思います。
ロジャー・ウォーターズ色が強くなりすぎていきます。

フロイドの場合は歌詞、内容共に非常に分かりやすいので、そこがいいところでもありますが偏るとクサくなります。特に「ザ・ウォール」は決定的でピンク・フロイド自体もこれを機に分裂方向へ進んでいきます。
ということで個人的には「炎」はバンドとして、チームワークで作ったピンク・フロイドの最終作と思っています。

ピンク・フロイドは面白いバンドで、主体であったロジャー・ウォーターズだけで主導権を握ってもデヴィッド・ギルモアだけで主導権を握ってもピンク・フロイドらしくなくなります。
ロジャー・ウォーラーズのいないピンク・フロイドとかロジャーとギルモアのソロアルバムも何か足りない気がするのは私だけでしょうか。
そこにはやはりバンドの化学反応が必要なのでしょう。

「炎〜あなたがここにいてほしい」のアルバムジャケットはヒプノシスによる秀逸なものです。原題に関係なくジャケットを見て「炎」とつけられたのがわかります。その雑さもここでは許せます、というより正解です。
確かに「あなたがここにいてほしい」だけではベタベタ感が出過ぎですからね。

アルバム「炎〜あなたがここにいてほしい」のご紹介です。

演奏

ロジャー・ウォーターズ  ベース、ヴォーカル、グラスハーモニカ、ギター
デヴィッド・ギルモア  ギター、ヴォーカル、グラスハーモニカ、ラップスティールギターほか
ニック・メイソン  ドラムス、パーカッション、ティンパニ、シンバル
リチャード・ライト  ピアノ、ハモンドオルガン、ローズピアノ、ウーリッツァーピアノ、ミニムーグ

ゲストプレイヤー
ディック・バリー  テナーサックス、バリトンサックス Tr. 1,5
ロイ・ハーパー  ヴォーカル Tr. 3
ヴェネッタ・フィールズ  バッキングヴォーカル
カーリーナ・ウィリアムズ  バッキングヴォーカル


曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   Shine On You Crazy Diamond (Part 1-5) シャイン・オン・ユー・クレイジー・ダイアモンド

ヴォーカルが入るまで思い切り引っ張って焦らされます。展開を望むのではなくその瞬間に埋没することが必要です。綺麗なメロディなので可能です。



2,   Welcome to the Machine ウェルカム・トゥ・ザ・マシーン

工場の音と共に不安げに始まります。歌詞を見なくても現代を批判する内容だとわかります。
ロジャー・ウォーターズ節炸裂です。シンセサイザーが見事な効果音を作っていきます。



3,   Have A Cigar 葉巻はいかが

唯一の歌い上げるロックチューンです。最初はロジャーがデヴィッド・ギルモアが歌うよう依頼したそうですが、断られたので自分で歌うでもなくロイ・ハーパーにお願いしたそうです。ある意味目立ちたがりのいないバンドです。というか完璧主義者揃いなんですね。



4,   Wish You Were Here あなたがここにいてほしい

ロックファンの間では言わずと知れた名曲です。疎外感を感じている人へのロックアンセムです。誰にでもそういうふうに感じる部分があるのです。
ラジオの彼方から聞こえてくるギターの音が素晴らしく、自分で生ギターを買った時には毎日のように弾いていました。終盤のスキャットが心に刺さります。メタルバンドからロドリーゴ・イ・ガブリエラなど、えっと思うようなミュージシャンも多数カバーしています。



5,   Shin On You Crazy Diamond (Part 6-10) シャイン・オン・ユー・クレイジー・ダイアモンド

1曲目に比べてややおとなしめかと思いきや、うねりながら盛り上がっていきます。スティールギター大活躍です。途中からは淡々と展開していき、最後は抒情的なメロディで終わります。ピンク・フロイドの得意技です。

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