「ロックの基本 : 色褪せないアメリカン・ミュージック」Music From Big Pink : The Band / ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク : ザ・バンド

 音楽を聴くことの楽しみの一つに作曲者、演奏者の背景を知ることも挙げられます。
1968年に突如アメリカでザ ・バンドというあまりにシンプルすぎて、逆にひねくれ感のあるネーミングのバンドが「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」というまた訳のわからないタイトルのアルバムをリリースしました。

ビッグ・ピンクとは周囲の人たちにそう呼ばれていたという、ニューヨーク郊外のウッドストックという田舎町にある桃色壁の家のことだそうです。
ザ・バンドのメンバーは当時バイク事故でリハビリ中だったボブ・ディランと共にそこを “たまり場” としてセッションしていました。
その様子はのちに「ベースメント・テープス」としてリリースされます。

ウッドストックという名は1960年代後半の音楽界のキーワードとなって、1969年の一大音楽イベント「ウッドストック・フェスティバル」まで引き継がれる “愛と自由の象徴” となっていきます。ただしこれってザ・バンドの世界観とは違います。
ザ・バンドもウッドストック・フェスに参加しましたが、観客とのギャップに違和感ありありだったそうです。

アルバムリリース当時のポップス、ロック界はサイケデリックだのモッズだのできらびやかなポップカルチャー全盛であり、今までの古臭いものを否定するような先進的な若者文化で溢れていました。

そこへまだ20代半ばなのに見た目は40代の髭面のおっさん、服装は南北戦争時代の兵士みたいな勘違い野郎の一団が出てきたのです。
わたくしとてリアルタイムでの経験者ではなく追体験者ではあるのですが、明らかに世の中的には異物と感じられたことでしょう。

そして世間に流されていく息子を心配して嘆く親とか、不倫のアリバイを隠して罪を被り絞首刑になる男とか、もう荷物を降ろしていいよその荷物は俺に乗っけてくれ、とか歌うのです。
歌声もとても専門的なトレーニングなんぞ受けた様子はなく、それでも飾り気のない地声でファルセットでコーラスなどを付けてきます。基本全員参加です。

サウンドもアコースティック でアメリカの伝統的なブルーズ、カントリー、ゴスペルなどで使用さっれている楽器を使って演奏しています。その頃のロックといえばハードロック開花期で、クリームなどに代表されるような派手なドラムとうなるベース、歪んだギターのオーバードライブサウンドが基本でした。
でもザ・バンドはシカゴブルーズみたいにシンプルなリズムとシンプルなベース、ただプラグをアンプインしたようなギターの音は安っぽくペラペラで、当時のロックギタリスト的にもありえないような音なのでした。
しかも大流行中だった派手なギターソロなどもほとんど聴かれません。

これにはイギリスのミュージシャンたちはびっくりしました。ジョージ・ハリソンはアルバムを周囲に配りまくり、キース・リチャード も完璧なライブをびっくりして褒め称え、ローリング・ストーンズもブラックミュージックの影響一辺倒から幅広くカントリー 風味なども取り入れるようになります。
エリック・クラプトンに至っては音楽観が変わってしまい、クリームでのバカテク披露ライブにもやる気をなくしレイドバックに目覚めます。さっさとクリームを解散してしまいました。

ザ・バンドのスタイルはアメリカの伝統的な音楽を取り入れているため、ベースがしっかりしていて強いものでした。
彼らの音楽にはブルースもカントリーもゴスペルもアメリカーナもあります。また先達をリスペクトする姿勢が見えます。
同じようにブルースに憧れながらも新しい表現を模索していた大半のイギリス、そしてアメリカのロックミュージシャンに絶賛されました。
本当に強い音楽とは大地に根付いている音楽なんだ。ヤバイ、俺たちも浮かれている場合じゃないといった感じだったのでしょうか。

それからのザ ・バンドはいくつもの素晴らしいアルバムをリリースして、1976年「ラスト・ワルツ」というラストコンサートでオリジナルバンドとしては終止符を打ちました。

1980年代からロビー・ロバートソンを除くメンバーで再結成して活動してましたが今ではすでに3人(リチャード、リック、リヴォン)は鬼籍に入り、残りは最年長だったガース・ハドソンとラスト・ワルツまでバンドの中心だったロビー・ロバートソンだけです。
(追記 2023年8月9日、ロビー・ロバートソンが亡くなられました)

解散からだいぶ年月が経過しましたが現在でもザ ・バンドの作った音楽は普遍です。
何度もアルバムはリマスターされて再発されています。
2018年にロビー・ロバートソン監修の究極のリマスター盤がリリースされました。さらに音質もアップデートされ、また感動新たにしています。

普遍性があることもロックなのです。そういうことを思いながら聴くのもまたいいものですね。

アルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」のご紹介です。

演奏

ギター ロビー・ロバートソン
ベース リック・ダンコ
ドラムス リヴォン・ヘルム
ピアノ リチャード・マニュエル
キーボード ガース・ハドソン


曲目
*参考としてyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,    Tears Of Rage 怒りの涙

オルガンに続いてなんか悲痛な歌い方で始まります。シブいです。暗いとか思ってはいけません。ボブ・ディラン作の曲です。


2,    To Kingdom Come トゥ・キングダム・カム

バンドにしては珍しく、ロビーがヴォーカルをとり、独特なギターソロも味わえます。


3,    In A Station イン・ア ・ステーション

ノスタルジックなメロディのイントロに始まり、リチャードの丁寧な歌です。


4,    Caledonia Mission カレドニア・ミッション

リックのアメリカンな男臭い声がいいです。


5,    The Weight ザ ・ウエイト

ギターのイントロで始まり、リヴォン、リチャード、リックが回して歌います。これぞ名実ともに名曲、ロックスタンダードです。映画「イージーライダー」でも使用され、時代を象徴する曲となりました。(サウンドトラック版ではザ・バンドのバージョンではありません)

2020年の世界的コロナ禍の中、みんなを元気づけようとロビー・ロバートソンとリンゴ・スターが中心となって世界中のミュージシャンとyoutubeでコラボして「ザ・ウエイト」を演奏しました。日本代表としてCharさんとピアニストの小牧恵子さん(ニューオリンズ在住)が出演しています。(涙)
リンクさせていただきます。



6,    We Can Talk ウイ・キャン・トーク

オルガンが印象的なフレーズで始まり、ボーカルの掛け合いとコーラスが面白いです。


7, Long Black Veil ロング・ブラック・ヴェイル

アイルランドの雄、チーフタンズもカバーした名曲です。モトウタはニュージャージーで起きた事件を元にしたカントリーだそうです。


8,    Chest Fever チェスト・フィーバー

荘厳なガースのオルガンが印象的です。


9, Lonesome Suzie 悲しきスージー


哀愁を帯びたリチャードの歌がなんとも言えずいい感じ。


10, This Wheel’s On Fire 火の車

これもディラン作です。ディランの歌う「地下室」バージョンとは全然雰囲気が違います。アレンジに凝ったあとが見られます。


11, I Shall Be Released アイ・シャル・ビー・リリースト

またまたディラン作です。リチャード・マニュエルを象徴する曲です。おっさんの(ホントは若いけど)裏声もなかなか味があります。

時代を感じさせないザ ・バンドは聴いていて味わい深いのですが、歌詞は難解です。奥深いと言えますが意味がよくわからないことが多いです。

Bitly

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