「ロビー・ロバートソンの本来考えていた曲順をボブ・クリアマウンテンのリミックスで見事にアップデートしたザ・バンドの2020年版3rdアルバム」Stage Fright : The Band / ステージ・フライト : ザ・バンド

 2020年に曲順を変えてリリースされたザ・バンドの3rdアルバム、「ステージ・フライト50周年記念エディション」は今までと違った印象になりました。
さらにボブ・クリアマウンテンのリミックスで音質もさらにリアルになっています。
レコードから愛聴されてきた貴兄には賛否もあるかと思いますが、アップデートされたヴィンテージロックの世界をどう楽しむか、ということでご紹介します。

まず、ザ・バンドとはアメリカン・トラディショナル・ミュージックの伝統を踏まえて、それを今風に(当時の1960、70年代風に)アップデートしてオリジナルに消化し、ロックバンドという形態で表現しました。
そのオリジナリティは他に影響を与えつつも追従を許さないくらいの個性として、今もロックに名を刻んでいます。

下積み時代にはロックンロール、R&Bシンガー、ロニー・ホーキンスのバックバンドをしていて、1965年にはボブ・ディランのエレクトリック化したツアーで貢献します。
そんなこんなで業界に揉まれて苦労した彼らは1968年のファーストアルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」、続いて1969年「ザ・バンド」をリリースしました。
この2枚は共に高評価でロックの歴史に残る名盤として今の世にも語られることになります。

そして1970年8月にこのサードアルバム「ステージ・フライト」がリリースされました。

このアルバムにも「シェイプ・アイム・イン」とか「ステージ・フライト」というライブ定番曲が収録され、当然の如くザ・バンドのアルバムなので質が高いのですが、1st、2ndというとんでもなく芳醇なアルバムに比べるとちょっと、今ひとつコクがなくなったように感じに受け取られます。

なぜかと考えると多分曲順です。
もちろんリリース当時はメディアとしてはLPレコードしかありませんでした。
A面を聞き始めると「ストロベリー・ワイン」「スリーピング」「タイム・トゥ・キル」と続きます。
バンドの一つの魅力でもあるのですが肩の力を抜いたような曲が続いてしまうのです。
多分にこれによってこの3rdアルバムのイメージが決まってしまった部分が大きいのだと思います。
例えば1曲目がテンションのある「ステージ・フライト」で始まっていたら大分違ってきます。

そこで、という話になるのですが、
ザ・バンドの作詞・作曲をほぼ一人で担っていたロビー・ロバートソンです。
彼はザ・バンドのメンバーでありながらザ・バンドを大局的に見ることができていました。
その時流に流されない視点があったためザ・バンドはロック界でも確固たる位置を確保して、歴史に名を残す存在になり得ました。
ロビーは相当に頑固者で付き合いづらい存在であったとも言われていますが、それは多分彼の出自による苦労からきているものと私は勝手に理解しています。

彼は昨年2023年8月9日に亡くなってしまいましたが、生前2020年の「ステージ・フライト50周年記念」に改めて携わりました。
そこで、「曲順はレコード会社に勝手に決められたもので不満だった。本来予定していた曲順はこれなんだっ」とばかりにリマスターと同時に曲順まで本来の希望であったものに変更してリリースしました。
それは「WSウォルコット・メディスン・ショー」で始まる今までアルバムとは感じの違うものでした。

ここでちょっと自分語りをさせていただきます。
個人的にこのアルバムのキモというかアルバムを象徴している曲は「WSウォルコット・メディスン・ショー」と「ダニエル・アンド・ザ・セイクリッド・ハープ」だと思っています。

「WSウォルコット・メディスン・ショー」の昔のミンストレル・ショートかメディスン・ショーといった大道芸人一座の興行を思い出させる(知らんくせに)雰囲気はロバート・ジョンソンの「レッド・ホット」とかブラインド・レモン・ジェファーソンの「ホット・ドッグス」などの世界も思い浮かばせてアメリカの歴史と生活を感じさせます。
レヴォン・ヘルムが語った昔のアメリカ南部の生活をロビー・ロバートソンが曲にしたそうでう。またこの曲はギターで奏でるリフがかっこ良くてその昔は一生懸命コピーに励んだものです。

「ダニエル・アンド・ザ・セイクリッド・ハープ」も聖なるハープにまつわる伝説を下敷きにして、キリスト教的な世界でもあり、ブルーズなどでよく語られるクロスロード伝説などを思い浮かばせます。

昔からこの2曲こそがアメリカの歴史を語るアルバムの中心と思っていました。
それと現代風な「ステージ・フライト」と肩の力を抜いて、軽く演奏した「ストロベリー.ワイン」などが合わさって独特の世界を作り上げています。と昔から思っておったのです。

で、ロビー・ロバートソンの本来予定していた曲順はライブ映えする「WSウォルコット・メディスン・ショー」から「ザ・シェイプ・アイム・イン」ときて「ダニエル・アンド・ザ・セイクリッド・ハープ」へつながるものでした。
しかもその次に「ステージ・フライト」を持ってきて思いっきり落差を生じさせています。
思い描いていた理想に近い形ではありますが、よく考えると若干アルバム後半が弱くなりすぎませんか、とも思います。ライブの定番曲がほとんど前に集められています。
でも後半には「ジャスト・アナザー・ホイッスル・ストップ」があるからよしとしましょう。(偉そうです)

ということで古くから馴染んできたオリジナルの曲順が体に染み渡っているわけではありますが、また新しい感覚でアルバムが楽しめるようになりました。

サウンドについて、今回の2020エディションと2000年リマスターではだいぶ違っています。
2000年リマスターもCDとしてはなかなかの完成度だったと思いますが、2020年ボブ・クリアマウンテン・リミックスをハイレゾで聴いた時はびっくりしました。
全体にたゆたう低音とダンゴ状に固まって定位する楽器の音像です。各楽器の定位感がものすごく出ています。
ただ思ったのが、各自ご自分のオーディオシステムを今までのCDの音をリファレンスとして、好みの音に調整してきた方々もたくさんいらっしゃるだろうと思います。そこに行くともしかしたらこれは根底から違ってくる音かもしれまません。
わたくし的には目の前でザ・バンドが演奏しているのをレコーディング・ルームのモニターで聞いているようで楽しいのですけど。

デラックス・エディションには1971年のロイヤル・アルバート・ホールのライブも収録されています。それについてはまた別の機会に。

演奏
リック・ダンコ  ベースギター、フィドル、ダブルベース、ヴォーカル
レヴォン・ヘルム  ドラムス、ギター、パーカッション、ヴォーカル
ガース・ハドソン  オルガン、エレクトリックピアノ、アコーディオン、テナーサックス
リチャード・マニュエル  ピアノ、オルガン、ドラムス、クラヴィネット、ヴォーカル
ロビー・ロバートソン  ギター、オートハープ

トッド・ラングレン  ミキシングおよびレコーディング・エンジニア
グリン・ジョーンズ  ミキシング・エンジニア
ジョン・サイモン  バリトンサックス 「WSウォルコット・メディスン・ショー」

2020年リミックス・エンジニア ボブ・クリアマウンテン

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

Bitly

01,  The W.S. Walcott Medicine Show (Remix / 2020) ザ・WSウォルコット・メディスン・ショー

昔の田舎町のイベントの香りが漂って素晴らしい世界だと思います。ホーンセクションのアレンジが曲を盛り上げます。

02,  The Shape I’m In (Remix / 2020) ザ・シェイプ・アイム・イン

これもライブでよく演奏されるナンバーです。リチャード・マニュエルの珍しく張ったヴォーカルです。

03,  Daniel And The Sacred Harp (Remix / 2020) ダニエル・アンド・セイクリッド・ハープ

演奏、アレンジが完璧だと思います。伝説っぽい歌詞も奥行きがあります。

04,  Stage Fright (Remix / 2020) ステージ・フライト

ザ・バンドにしてはテーマが新しいのです。新しくて悪いかと言われれば文句はありません。
リック・ダンコの彼しか出せない歌の世界が素晴らしく、レヴォン・ヘルムの歌に寄り添うドラムも最高です。キーボードも凝っています。本当に名曲だと思います。

05,  The Rumor (Remix / 2020) ザ・ルーモア

変わった構成の曲です。独特の音です。これもこのバンドでしか出せない世界です。

06,  Time To Kill (Remix / 2020) タイム・トゥ・キル

軽くノスタルジックなロックンロールです。歌詞に “Time to kill, Cats Kill” と出てくるので “暇つぶしに猫殺しとはなんぞや?、鬼畜の所業か?” と思っていましたがキャッツキルとはニューヨーク州東部の山岳地名らしいので安心しました。語源はキャッツ・クリークからきているそうです。

07,  Just Another Whistle Stop (Remix / 2020) ジャスト・アナザー・ホイッスル・ストップ

リック・ダンコが力強く歌います。この人の声も唯一無二です。

08,  All La Glory (Remix / 2020) オール・ラ・グローリー

このアルバムでのリチャード・マニュエルの歌はいつもの寂しい感じというより優しい感じがします。

09,  Strawberry Wine (Remix / 2020) ストロベリー・ワイン

これも軽くノスタルジックなロックンロールです。スワンプロックの渋い味のあるミュージシャン、ジェシー・エド・デイヴィスがアルバム「Ululu」でカバーしていました。

10,   Sleeping (Remix / 2020) スリーピング

リチャード・マニュエルの世界です。優しくしっとりとした終わりとなります。

オリジナル・バージョンもどうぞ!

Bitly



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