

「アヴァロン・サンセット」は1989年にリリースされたアイリッシュ・ソウル・シンガー、ヴァン・モリソンの19枚目のスタッジオアルバムです。
ブルー・アイド・ソウルという人もいますが、ヴァン・モリソンにそういうとなんか軽く感じてしまうのは私だけでしょうか。
(ブルー・アイド・ソウルというと見た目もスタイリッシュでオシャレじゃないといけませんし・・)
ヴァン・モリソンは2026年現在に至るまで48枚のアルバムをコンスタントにリリースしています。
1960年代から活動していて、今なおコンスタントにアルバムをリリースできるアーティストは限られています。
この数はボブ・ディランを抜いて、49枚をリリースしているニール・ヤングに迫る勢いです。
(ちなみにライブを含めればグレイトフル・デッドなどは相当な枚数になるようです。)
そして、ヴァン・モリソン。
この人は無骨で頑固でわがまま、コンプライアンスなんぞ全く気にしないような変人とも思われます。
未だ来日しないのはもしかしたら日本を思いっきり偏見の目で見ているのかもしれません。
(個人の感想です)
しかし彼のアルバムにはいつもクールで真の強いブレない強さと、そう言う人の持つ独特な硬質で雄大な優しさが感じられます。
(甘い優しさはそこにはありません)
この紹介する「アヴァロン・サンセット」は彼の長いキャリアの中でも評価が高く、売れたアルバムの一つとなりました。
前作は1988年にリリースされ、これまたアイルランドの象徴みたいな伝統音楽バンド、ザ・チーフタンズとコラボレーションした「アイロッシュ・ハートビート」でした。
これまたトラディショナル・スタイルの渋くて心に沁みるアルバムです。
このチーフタンズとのアルバムは全英アルバムチャート18位となるスマッシュ・ヒットでした。
続くこの「アヴァロン・サンセット」も否応(いやがおう)にも期待された状況で、ハードルは上がっていました。
結果は上々、発売後早々にゴールドディスクとなり、見事期待に応える形となりました。
このアルバムでヴァン・モリソンは再起を果たした、とも言われました。
実を言うとこの私も「ラスト・ワルツ」でヴァン・モリソンに触れて以来、チーフタンズとの絡みでまた気になっていたものではありました。
ただし今となっては「アヴァロン・サンセット」に触れて以降、それ以前の「ビューティフル・ヴィジョンズ」なども愛聴しております。(このあたりもいいアルバムです)

「アヴァロン・サンセット」は全てオリジナルの新曲で構成されています。
この時期の(と言ってもいつもそうなんですが)ヴァン・モリソンは音楽的にはジャズっぽくはないもののアルバムの制作アプローチ方法はジャズのアルバムと一緒でした。
なんとバンドと共に2日間のリハーサルの後、2日間でレコーディングするという飽食の1980年代とは思えぬ速さで制作されています。
なんてラフでコストのかからない人なんだろう・・と言いつつも録音に使用されたスタジオは多いのです。
ウールホール、エデン、オリンピック、ウエストサイド、タウンハウスとロンドンの5つのスタジオとなっています。
すごく統一感のあるサウンドですが日替わりでスタジオが変更になる状況だったものと思われます。
いや、もしかしたらただ変人のこだわりに振り回されただけかもしれません。(テキトーな感想です)
レコーディングについても進行具合を把握しているのはヴァン・モリソン本人くらいしかいなかったようで、ギタリストのアーティ・マクグリンはこう語っています。
「セッションが終わった時のバンドのみんなは『まだアルバムなのか、それともアルバムのデモなのか分からなかった』ような感じだった」。
こういうところはある種ボブ・ディランと一緒ですね。
と言いつつも録音は素晴らしく、うっとりするような音質です。
私が最初に購入したCDはなんかとっても録音レベルが低いように感じていました。
それでも音質は素晴らしいので気に入っていたのですが、2008年に発売されたリマスター版はレベルもぐっと上がっています。
おお、これが本来の音世界なのかと改めて感動した次第です。
このリマスターにはボーナストラックとして2曲追加されています。
1曲目「ホエンエヴァー・ゴッド・シャインズ・ヒズ・ライト」をソロで歌ったバージョンとなっており、バックの演奏もちょっと違います。
比較するとアルバムバージョンの方がクリフ・リチャードの参加によって明るく、広がっているように感じます。
これがなかったらただの檄シブなアルバムで終わっていたかもしれません。
(きっと余計なお世話です)
もう一つはかの有名な「聖者の行進」を思いっきりソウルバラードにして歌っているバージョンです。
これはアルバムに入っていても不思議ではありませんが、やはり全体のイメージがちょっと変わってしまいそうです。
1989年といえばニューウェイヴなどのジャンルも一旦落ち着いたじ時期でシカゴやバングルス、ジャネット・ジャクソン、ベット・ミドラー、マドンナなどが流行っていた時代です。
音楽業界も落ち着いてきて新しいサウンドより歌、メロディに焦点が当たるようになってきた時代でした。
日本はといえばバブル経済の真っ只中で世の中はうきたっていた時代です。
伝統、文化、信仰、愛などを感じさせるこのアルバムはそう言う飽食の時代に出てきた一服の清涼剤と思えるようなアルバムでした。

アルバム「アヴァロン・サンセット」のご紹介です。

演奏
- ヴァン・モリソン
ボーカル、ギター、プロデューサー - アーティ・マクグリン
ギター - クライヴ・カルバートソン
ベースギター - スティーブ・ピアース
ベースギター - ジョージー・フェイム
ハモンドオルガン - ニール・ドリンクウォーター
アコーディオン、ピアノ、シンセサイザー - スタン・サルツマン
アルトサックス - アラン・パーソンズ
バリトンサックス - ヘンリー・ロウザー
トランペット - クリフ・ハーディ –トロンボーン
- ロイ・ジョーンズ
ドラム、パーカッション - デイヴ・アーリー
ドラム、パーカッション - キャロル・ケニヨン
バックコーラス - ケイティ・キッスーン
バックコーラス - クリフ・リチャード
「Whenever God Shines His Light」のボーカル - ギャビン・ライ
弦楽器セクションリーダー - フィアクラ・トレンチ
金管楽器と弦楽器の編曲 - ミック・グロソップ
ミキシングおよびエンジニアリング



曲目
1曲目を除き全てヴァン・モリソンの作詞。作曲です。
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
- Whenever God Shines His Light ホエンエヴァー・ゴッド・シャインズ・ヒズ・ライト
(duet with Cliff Richard)
ミドルテンポのリズムで始まります。詩の内容はほぼドスペルの世界です。
タウンハウス・スタジオでレコーディングされました。
デュエットするクリフ・リチャードはカール・パーキンスやバディ・ホリーと同じくロックンロール世代の人です。
ビートルズ登場以前から活躍したシンガーで、当然ヴァン・モリソンの先輩に当たります。
クリフ・リチャードのバンドがかのシャドウズというヴェンチャーズと同様のエレキ・インスト・バンドでした。
ここではヴォーカリストならではの歌詞とは関係なくヴォーカルで会話しているような状態が味わえます。
ユニゾンで歌うだけのパートでも奥ゆかしさを感じてしまいます。
アルバムのリリースは6月ですが、その年のクリスマスシーズンに合わせてシングルカットされ、全英シングルチャートで20位。アイルランドのシングルチャートで3位となりました。 - Contacting My Angel コンタクテシング・マイ・エンジェル
こういうのがヴァン・モリソンらしいというか、アイリッシュ・ソウルというか、彼にしか表せないと思わされる世界です。 - I’d Love to Write Another Song ラブ・トゥ・ライト・アナザー・ソング
力強いテンポで歌い上げていきます。 - Have I Told You Lately ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー
完璧なラブソング、ドラマチックなバラードです。
この人のバラードは弱々しく泣きの世界に入るのではなく、全てを受け入れて、それでも自分を失わないような力強いものを感じます。
シングルカットされヒットしました。
今や結婚式でも歌われるようなスタンダードになっているようです。
「最近、君に愛してるって言ったかな」というタイトルだけで納得ですね。
ロッド・ステュアートもカバーしてこちらもヒットしています。 - Coney Island コニー・アイランド
タイトルの「コニー・アイランド」とはニューヨークのブルックリンにある地域の名称です。
ここではヴァン・モリソンは歌うのではなく語るだけですが、それでもすごい説得力です。
そういえばエアロスミスに「コニー・アイランド・ホワイト・フィッシュ・ボーイ」という曲があったなあ。 - I’m Tired Joey Boy ジョーイー・ボーイ
「Joey Boy」をググるといろんな人が出てきますが、「疲れたよ、ジョーイー・ボーイ」というタイトルからして1965年の戦争映画から来ているのでは、と思っています。
(映画は見たことはありません。いい加減な推論です)
にしてもストーリーを感じる世界となっています。 - When Will I Ever Learn to Live in God ホエン・アイ・エバー・ラーン
遠くに聞こえるヴォーカルもここでは味わいがあります。
独特のヴァン・モリソン節が説得力があっていい感じです。 - Orangefield オレンジフィールド
エデン・スタジオでレコーディングされ、シングルにもなりました。
「黄金色の秋の日」という内容で収穫時期の風景を連想します。
そのままアルバムジャケットに繋がりますね。
アメリカのテキサス州にも同じ名称の地域がありますが、ここでは北アイルランドのベルファストにあるヴァン・モリソンが通っていた当時の男子校だったオレンジフィールド高校のことでもあるようです。 - Daring Night デアリング・ナイト
跳ねるようなリズムの中で力強く歌われます。この人は声域が広く感じないのに、あえてそれを武器にしたようなソウルフルな歌い方をします。 - These Are the Days ディーズ・アー・ザ・デイズ
タウンハウススタジオでレコーディングされ、シングル「オレンジフィールド」のB面としてもリリースされました。
These are the days of the endless summer
These are the days, the time is now
There is no past, there’s only future
There’s only here, there’s only now
これは終わりのない夏の日々。
これは今この瞬間の日々。
過去はなく、未来だけがある。
ここにあるのは今だけ。
こう始まるオリジナルの最後の曲はヴァン・モリソンの音楽の根底に流れている人生観です。
人生における喜びや感謝の気持ちは、まさに今この瞬間にこそ見出されるという信念を表している、ということを謳っていると言われています。

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