「ウエスト・コーストのミュージシャンたちから絶大な支持を受けた無頼派ロッカー、ウォーレン・ジヴォンの出世作」Warren Zevon : Warren Zevon / さすらい : ウォーレン・ジヴォン

 アメリカにウォーレン・ジヴォンという得難い個性をもったミュージシャンがいました。
ロック界のサム・ペキンパーとも言われ、独自のシニカルな目線で社会を捉えて曲にしていました

2025年、没後20年以上経ってやっと「ロックの殿堂」入りを果たしたウォーレン・ジヴォン。
それでも未だ日本では悲しいくらいに無名な存在です。
ビリー・ジョエルが推薦の手紙を送ったことがきっかけとなって、本場アメリカでもやっと殿堂入りできたという感じなのです。

ウォーレン・ジヴォンほど風変わりな人も珍しく、独特の世界観を持っています。
クラシック音楽にも精通していたようで、曲中に独特のひねりを感じる時があります。

特に大ヒット曲もなく一般受けはそんなによろしく無いものの、ミュージシャンの間では彼を評価する人が絶えません。
まさにミュージジャンズ・ミュージシャンと言える人でした。

その彼が最初に成功した、ヒットに結びつけたアルバムが1976年アサイラムからリリースされたこの「ウォーレン・ジヴォン」です。

セルフタイトルだとデビューアルバムかと思いますが、1970年にデビューアルバム「ウォンテッド・デッド・オワ・アライブ」をリリースしています。
しかしこのアルバムは悲しいくらいに売れませんでした。
とりあえずここは黒歴史として封印し、満を持して1976年にセルフタイトルのセカンドアルバムをリリースします。

これでアメリカでは大成功とになりました。

邦題は「さすらい」です。
アルバムの内容からして無頼なアウトローの雰囲気を持っているので名邦題だと思います。
収録された各楽曲もまとまっており、ジャクソン・ブラウン、リンジー・バッキンガム、スティーヴィー・ニックス、ディヴィッド・リンドレーやイーグルスのグレン・フライ、ドン・ヘンリーなどそうそうたるウエストコーストのミュージシャンが参加しています。

そしてその頃、快進撃を続けていたリンダ・ロンシュタットがこのアルバムから「プア・プア・ピティフル・ミー」と「モハメッド・レディオ」、「カルメリータ」と3曲もカバー。
「ハッスン・ダウン・ザ・ウインド」に至ってはカバーのみならず「風にさらわれた恋」としてアルバムタイトルにまでしてしまいます。

そういうことでで一躍世界的にも作者として名が知られるようになったのでした。

今から思えばなんか「ウエスト・コーストのミュージシャン達によるウォーレン・ジヴォン売り出し大作戦」の様相です。

ただしウォーレン・ジヴォンは捻くれ者なのでウエストコーストの爽やかさとは無縁です。
このアルバムには彼らしいハードボイルドで刹那的、アウトローな楽曲が詰まっています。

見た目が無頼派らしくなかったりするのも面白いところです。

ウォーレン・ジヴォンは1947年1月24日、シカゴで生まれました。
父はウクライナ出身のユダヤ系移民でした。
そしてロサンゼルスに移り、当時のロサンゼルスで悪名高いマフィアの親玉、ミッキー・コーエンのもとで賭場を運営していたそうです。
またコーエンの最初の結婚式では介添人も務めました。

母親はイギリス人で敬虔なクリスチャンでした。
のちに一家はカリフォルニア州フレズノに転居しました。

そこでジヴォンは13歳までロバート・クラフト(のちに有名なアメリカの指揮者となります)と一緒にイーゴリ・ストラヴィンスキーの元を訪れ現代クラシック音楽を学びました。

と言いつつも彼の音楽にクラシックの影響が色濃く出てくるわけではありません。音使い、アレンジなどで隠し味的に感じる部分があります。

両親はウォーレン・ジヴォンが十六の時に離婚しました。
すぐに高校を中退し、フォークシンガーになるため父がギャンブルで勝ち取ったというスポーツカーを運転してニューヨークへ向かいます。

しかし順調に活動できるようにはならず、生活は困窮しました。

1975年の夏にはスペインに一時移住し、バルセロナ近郊のシッチェスという街のダブリナー・バーという居酒屋に住み込みます。
同年9月になるとロサンゼルスに戻りますが、そこで転機が訪れます。

いろんなミュージシャンと知り合い、推薦されて本作「さすらい」をジャクソン・ブラウンのプロデュースでリリースすることになります。
最高位は189位ながら業界内では高い評価を受けました。

次のアルバムは1978年、ワディ・ワクテルのプロデュースでジヴォンの最高傑作とされる「エキサイタブル・ボーイ」をリリースすることになります。

評論家のデイヴ・マーシュは
「カリフォルニア出身の最もタフなロッカーの一人」

ローリング・ストーン誌の音楽評論家ポール・ネルソンは
「ウォーレン・ジヴォンはジャクソン・ブラウン、ニール・ヤング、ブルース・スプリングスティーンと並んで1970年代に登場した最も重要なアーティスト四人の一人」

と評価しています。

ウォーレン・ジヴォンの場合、これといって大ヒットや誰もが知る代表曲というのは無いのですが、主にミュージシャン内での評価は高いものでした。

本人は世の中をハスに構えて皮肉屋で、一見とっつきづらい、近くにいたら割とめんどくさい人かもしれません。(いやきっとめんどくさい人です)
それでも独自の感性と才能は周りに慕われていました。

2003年9月7日に中皮腫のため56歳で亡くなりました。
原因であるアスベストをどこで浴びたのかは最後まではっきりしませんでした。

最後は「みんなに『人生は素晴らしいものだ』ということを思い出させたかった」と語っています。

往年のアルバムを聴くにつけ、この辺は語りたいことがいっぱいあるのですが次の機会に回します。

「真の意味を持ち、それでいてユーモラスな作品を描く。私はいつも彼の能力と才能のその部分を羨んでいた」
➖ブルース・スプリングスティーン➖

「彼は私にお気に入りのソングライターの一人であり、今もなおそうである。彼は物事を偏見のない目で見ながらもそこに人間味を見出せる」
➖デヴィッド・クロスビー➖

いろんなミュージシャンから愛された人でした。

アルバム「さすらい」のご紹介です。

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曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

*ウォーレン・ジヴォンは全ヴォーカルとハーモニカ、ピアノ、リズムギター、ストリングスアレンジ
*ザ・ジェントルメン・ボーイズはジャクソン・ブラウン、ホルヘ・カルデロン、ケニー・エドワーズ、JDサウザー、ワディ・ワクテルで構成されています。
*ワディ・ワクテルはギター、ヴォーカルとしてアルバム全体にクレジットされています。



1,   Frank and Jesse James フランクとジェシー・ジェイムス

フィル・エヴァリー  ハーモニーヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
デイヴィッド・リンドレー  バンジョー、フィドル
ラリー・ザック  ドラム

ウォーレン・ジヴォンによるピアノのメロディーが印象的です。
カントリー・アンド・ウエスタンによく出てくるアウトローがテーマの物語で、ここではフランクとジェシー兄弟の物語となっています。
これはエヴァリー・ブラザーズのメタファーとして歌われています。
戦争に負けて恩赦を受けられなかった兄弟は逃亡してお尋ね者となり、射殺されてしまいます。
それでも最後まで誇り高かった兄妹は農民たちからは支持されていましたという物語です。

1993年のライブです。


2,   Mama Couldn’t Be Persuaded ママは耳を貸さない

ジャクソン・ブラウン  ハーモニーヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
デイヴィッド・リンドレー  フィドル
JDサウザー  ハーモニーヴォーカル
ラリー・ザック  ドラム

敬虔なクリスチャンの家に育った母とギャンブラーの父、自分の両親のことをリアルな物語にして歌っています。

3,   Backs Turned Looking Down the Path 人生に背を向けて

ジャクソン・ブラウン  ハーモニーヴォーカル、スライドギター
リンジー・バッキンガム  ギター
マーティ・デイヴィド  ベースギター
ゲイリー・マラバー  ドラム

ミディアムテンポでいつものように淡々とと歌います。意訳すると「結局、与えられた環境で頑張るしかないのさ」ということかと。

4,   Hasten Down the Wind 風にさらわれた恋

フィル・エヴァリー  ハーモニーヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
デイヴィッド・リンドレー  スライドギター
シド・シャープ  ストリングス
ラリー・ザック  ドラム

ウォーレン・ジヴォンならではの綺麗なバラードです。女性の中にいろんな女性がいて本心がわからないという男の歌です。

5,   Poor Poor Pitiful Me 僕はついてない

リンジー・バッキンガム  ハーモニーヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
ボビー・キーズ  サックス
デイヴィッド・リンドレー  フィドル
シャイ・ウインディング  ピアノ
ラリー・ザック  ドラム

明るくノリのいいサウンドですが、悪い女性に引っかかってばかりで、自殺しようとしてもそれも叶わない男の歌です。

1982年のライブです。


6,   The French Inhaler フレンチ・インヘイラー

グレン・フライ  ハーモニーヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
ドン・ヘンリー  ハーモニーヴォーカル
シド・シャープ  ストリングス
ラリー・ザック  ドラム

これもピアノと共に歌う綺麗なメロディの曲です。ドラマチックな展開ですがあまり感情的にはなりません。内容はタイトル含めてドラッグの歌です。

7,   Mohammed’s Radio モハメッドのラジオ

リンジー・バッキンガム  ハーモニーヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
ボビー・キーズ  サックス
デイヴィッド・リンドレー  スライドギター
スティービー・ニックス  ヴォーカル
ラリー・ザック  ドラム

かなりの名曲ですが内容は意味深です。労働者階級の生活を歌っているようです。ただイスラムの預言者の名前のラジオとは中東系の移民なのでしょうか。本当の意味はわかりません。

1980年のライブです。


8,   I’ll Sleep When I’m Dead アイル・スリープ・ホエン・アイム・デッド

ホルヘ・カルデロン  ハーモニーヴォーカル
ゲイリー・マラバー  ドラム
ロイ・マリネル  ベースギター

やることがたくさんあってヤケクソになっている状況です。

9,   Carmelita カルメリータ

グレン・フライ  リズムギター、ハーモニーヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
デイヴィッド・リンドレー  ギター
フリッチ・リッチモンド  ジャグ
ラリー・ザック  ドラム

南米にいるようです。ヘロイン中毒なんだという歌詞が出てきます。

1982年のライブです。


10,  Join Me in L.A ジョイン・ミー・イン・LA

ジャクソン・ブラウン  ピアノ
ローズマリー・バトラー  ハーモニーヴォーカル
ネッド・ドヘニー  ギター
ボブ・グラウブ  ベースギター
ボビー・キーズ  サックス
スティービー・ニックス  ヴォーカル
ボニー・レイット  ハーモニーヴヴォーカル
シャイ・ウインディング  オルガン、シンセサイザー
ラリー・ザック  ドラム

ヘヴィーな感じの曲です。そしてこの後にラストの曲が来るとすごく物語に没頭してしまうのです。

11,  Desperados Under the Eaves 命知らず

ジャクソン・ブラウン  ハーモニーヴォーカル
ザ・ジェントルメン・ボーイズ  バックヴォーカル
ボブ・グラウブ  ベースギター
ビリー・ヒンシェ  ハーモニーヴォーカル
シド・シャープ  ストリングス
カール・ウィルソン  ハーモニーヴォーカル、ヴォーカルアレンジ
ラリー・ザック  ドラム

ウォーレン・ジヴォンのアルコール中毒と闘病を歌っています。
ハリウッドのハワイアン・ホテルに座ってエアコンのハム音を聴いているという歌詞で終わりますが、みょうに曲に入り込んでしまい、最後のリフレイン「Look away down Gower Avenue」はめくるめくの如くハードボイルドな世界で、イメージを引きずります。

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