

ブルース系ジャズ・ギタリストといえば真っ先に思い浮かぶのがこのケニー・バレルです。
ケニー・バレルは1931年7月31日、ミシガン州デトロイトに生まれました。
さすがにもう演奏活動はされておられませんが、御年94歳になった今でもご健在です。
このような長生きしているジャズミュージシャンは少なく、きっと昔から薬物やアルコールなどに惑わされなかった、この世代にしては珍しくクリーンなジャズ・ミュージシャンだったと思われます。
デビューアルバムが1956年、今の所一番新しいアルバムが2016年ですので60年以上ジャズギタリストとして活動されています。
ケニー・バレルは1956年にいきなりブルーノートからデビューアルバムをリリースすることになります。
「イントロデューシング・ケニー・バレル」です。
個人的な感想ですがこれほどかっこいいジャズ・ギターのアルバムジャケットはなかなかありません。
内容もベースはピアノトリオ+ギターというなかなかシンプルでいい感じのアルバムです。

このデビューアルバムからして他ではあまりみられないコンガが入る編成に名プロデューサー、アルフレッド・ライオンのバレルに対するセンスを感じさせます。
ここで共演したのがジャズ界きっての名サイドマンと言われるピアニスト、トミー・フラナガンです。
同じくデトロイト出身でケニー・バレルとは幼馴染みだそうです。
この後も度々、バレルとは共演することになります。
フラナガンはリーダー作でこれ!という大名盤はないもののソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」やジョン・コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」に参加している、といえばいかに重要人物であるかわかると思います。
ギタースタイルについてですが、ケニー・バレルの場合グラント・グリーンやウエス・モンゴメリーなどのようにファンキーなブルーズ系ジャズギタリストというイメージではありません。
この「ミッドナイト・ブルー」もそうですが、どちらかといえばケニー・バレルの場合は深夜のキャバレーにそっと響く、酒とタバコとネオン街が似合うような下世話な都会のブルーズなんです。
かといって熱いものはないのかと言われればそんなことはありません。
ブルーズ・フィーリングで積み上げていくフレーズに浸っていると、込み上げてくる熱いものを感じます。
そういうケニー・バレルのブルーノートで、いや全キャリアを通して一番有名なアルバムのひとつがこの「ミッドナイト・ブルー」です。

というか、どちらかといえばこのアルバムがあまりに有名になってしまったため、そのまま前述したようなケニー・バレルのイメージになってしまった感があります。
サックスで参加しているスタンリー・タレンタイン、この人もイメージに拍車をかけています。
ジャケットについてもブルー・ノートを代表するような素晴らしいデザインで、エルヴィス・コステロが1981年のアルバム「オールモスト・ブルー」で(多分、敬意を込めて)パクっています。
(エルヴィス・コステロのジャケットです)

「ミッドナイト・ブルー」は1963年1月8日にリリースされました。
プロデューサーはアルフレッド・ライオン、レコーディング・エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダー、スタジオはイングルウッド・クリフス、ジャケットデザインは誰がみてもすぐわかるリード・マイルスの文字と写真を組み合わせたものです。
これでもう中身は保証されたようなものでございます。
ただ1963年といえばもうハードバップからソウル・ジャズや新主流派が出てきた時代です。
しかしこのアルバムに関しては硬派なハードバップの香りがそのまま残っています。
昔から感じていることとしてこのアルバムはそんなに聴き込んだわけでもないのに、バックの演奏もこの上なくシンプルなのに、自然と次に出てくるギターやサックスのフレーズがわかるようになるんです。
デビュー以来ずっとブルーズ・フィーリングを保ってジャズを演奏しているケニー・バレル。
なので「あ、そういうスタンスの割と音楽的には不器用な人ね」、と思っているとまたちょっと違います。(それは私でした)
わりと最近知ったことですが1978年からUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で、デューク・エリントンの生涯と功績を考察する「エリントン」という講座を始めました。
エリントンとバレルは共演したことはないもののエリントンをして「Favorite Guitar Player」とバレルを評しています。
1996年以降はUCLAのジャズ研究科長となり、現在活躍するミュージシャンをたくさん輩出しています。

アルバム「ミッドナイト・ブルー」のご紹介です。

演奏
ケニー・バレル ギター
スタンリー・タレンタイン テナーサックス(Except Tr.3,4,6,9)
メジャー・ホーリー ベース(Except Tr.3)
ビル・イングリッシュ ドラム(Except Tr.3)
レイ・バレット コンガ(Except Tr.3,6)
プロダクション
エリック・ベルナルディ グラフィックデザイン
ボブ・ブルメンタール ライナー・ノーツ(CD再発)
ミカエラ・ボランド デザイン
マイケル・カスクーナ プロデューサー、再発プロデューサー
レナード・フェザー オリジナル・ライナーノーツ
ゴードン・ジー クリエイティヴディレクター
アルフレッド・ライオン プロデューサー
リード・マイルス カバーデザイン、タイポグラフィー
ルディ・ヴァン・ゲルダー エンジニア、リマスタリング
トム・ヴァサトカ プロデューサー
フランシス・ウルフ 写真、表紙写真




曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Chitlins con Carne チトリンズ・コン・カーネ
(ケニー・バレル)
ベースとドラムで始まりコンガが加わります。
テナーサックスのテーマが始まってケニー・バレルのギターが始まります。
この人のギターは語りかけてくるギターです。妙に説得力があります。
タイトルはチリ・コン・カルネをもじったものなんでしょうか。
いろんな意味が含まれてそうです。
この曲はジャズのビッグ・ジョン・パットンやブルーズのバディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、ジュニア・ウエルズ、スティーヴィー・レイ・ヴォーンなどにカバーされています。
2, Mule ミュール
(ケニー・バレル、メジャー・ホリー・ジュニア)
タイトルのミュールはラバとロバを掛け合わせた動物のことなんですが、麻薬の運び屋の意味もあるそうです。
この雰囲気にはそちらの方が合ってます。
3, Soul Lament ソウル・ラメント
(ケニー・バレル)
ギターのみでゴスペルっぽい曲調です。さすがの説得力です。
4, Midnight Blue ミッドナイト・ブルー
(ケニー・バレル)
ミドルテンポといった感じですが、これでもこのアルバムでは一番テンポの速い曲です。
珍しく速いパッセージも登場します。
5, Wavy Gravy ウェイヴィー・グレイヴィー
(ケニー・バレル)
ウォーキングベースが心地良い曲です。スタンリー・タレンタインのサックスもソウルフルに歌います。
6, Gee, Baby, Ain’t I Good to You ジー・ベイビー・エイント・アイ・グッド・トゥ・ユー
(アンディ・ラザフ、ドン・レッドマン)
オリジナルは1929年にマッキニーズ・コットン・ピッカーズの演奏でビクターからリリースされたものです。
1943年にナット・キング・コールのキング・コール・トリオがカバーして大ヒットしました。今ではジャズのスタンダードとなっています。
7, Saturday Night Blues
(ケニー・バレル)
最後はブルーズで締めます。
この人のギターは何と言いますかあまりジャズ臭くないので、ロックやソウルなどを聴いている人にも入りやすいと思います。
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