「結局のところ、男の子はみんな頭のいいヤツが好きなんです、憧れるんです。ロックが成熟してきた1970年代、理数系の天才が本気でロックをやったら、という回答がこれでした。。Boston : Boston / 幻想飛行 : ボストン

 「幻想飛行」は1976年にアメリカのロックバンド、ボストンが1976年にリリースしたアルバムです。
今聞いてもサウンド、コンセプトともにすでに出来上がっています。
デビューアルバムからしてびっくりするほど完璧な内容と評判でした。

しかも細部に至るまでとっても強いこだわりを感じます。

ボストンは産業ロックのジャンルで括られることもありますが、私はちょっと違うと感じています。

まず産業ロックについて話しておきます。
AORとも繋がる部分があるのですが、ロックがビジネスとして出来上がった1970年代後半に今までの社会性やオリジナルの感性を売り物にしてきたロックとは違って、もっと計算されたより大衆に受け入れられる、ビジネス的に美味しい音楽を演るバンドのことです。
より綿密に企画され管理された状態で、アルバムは予定通りチャートの上位に上がり、大規模なアリーナツアーを企画するなど、全てが利益のために存在するようなバンドということになります。

と書くといかにも否定的に捉えられそうですが、実は私はそれほど否定的でもありません。
功罪あると思いますがそういうのもジャンルの一つとしてあってもいいと思っています。
英語圏では「アリーナ・ロック」と言われます。
ロックの大衆化、スポーツ感覚化、レクレーション化ということでしょうか。
それもまた音楽を聴くとっかかりになるのでいいのかもと思う次第です。
そこから是非、各自泥沼にハマって行っていただきたいものです。

産業ロックと言われたバンドは有名どころとして「TOTO」「ジャーニー」「カンサス」「ナイト・レンジャー」などです。
ハードボイルドなロックファンからは「ビジネス・ロッカー」と揶揄されたりしたものです。

しかしその中でもボストンはちょっと違いました。
というのもこのバンド、このアルバム出現によりその後のロックサウンド、特にギターの音が変わってしまいました。

それまでのロックギターの音というのは定番ギターのギブソン・レスポールやフェンダー・ストラトキャスターをマーシャルやフェンダーのアンプに突っ込んでフルパワー状態でオーバードライブさせるサウンドが基本でした。
途中にファズとかワウ・ペダルみたいな武骨なエフェクターを一つ二つ入れる程度のものです。

しかしボストンのギターサウンドは違いました。
アンプに頼らずエフェクターのところでまとまったサウンドを作ってどんなアンプでも、音量が小さくてもハードドライブしたロックサウンドが作れることを証明しました。
これはボストンのギタリストにして全ての楽曲のコンポーザー、アレンジャーである、トム・シュルツの技術とアイデアによるものです。

ここでそのボストンの中心人物、トム・シュルツとボストンについて語ります。
ボストンは基本的にトム・シュルツのアタマの中にアイデアを具現化するプロジェクトでしかありません。
なので当然、トム・シュルツ抜きのボストンというのはありえません。
今の時代なら同窓会バンドとしてツアーするならそこそこいけるのかも知れませんが、たとえ新曲を作ってもボストンサウンドにはなり得ないと世界中がわかっています。
というかその前に大人の事情からして絶対「ボストン」とは名乗れないと思います。

デビューアルバムについて
“トム・シュルツが音楽に興味を持って作曲を始めたのはマサチューセッツ工科大学に在学中でした。”
と紹介された時に世界中の少年たちは驚きました。
続けて
“マサチューセッツ工科大学とは世界的にも理数系のトップに立つ大学で、NASA(アメリカ航空宇宙局)などと最先端の研究を行っているのです。”
“修士課程を終えた彼はポラロイド社の製品開発部門で働いていました。”
との解説が告げられると世界中の男の子たちは「この人、とんでもない秀才なのにロックを選んだんだ」と急に親近感を持ったのです。

一部のロック原理主義からは
「そんな頭がいいだけの秀才に人を感動させるような表現ができんのか?」
「ハングリーな心で体制に抗うアーティストとは程遠いじゃねえか」と揶揄されたものです。

しかしそういう否定的な意見がある一方で、大多数の「普通の男の子」たち(サイレント・マジョリティですね)は別の感情も持っていました。

基本的にはみんな「頭のいいやつが好き」なのです。
世の男の子はみんなスポーツ選手や芸術家と同じく「理数系の頭のいいやつに憧れる」のです。
本当に頭のいいやつは頼りになり、常に最善の手を考えつくものと本能的に理解しています。というか学校で経験して学習しています。

基本、音楽といえば文系の香りが強いのですが、“もし理数系の天才が本気でロックを演ったらどうなるんだろう”という回答がボストンだったのです。

彼は電子工学、電気工学の知識を活かしてエフェクターを自作しました。
のちのROCKMANというブランド名で商品化もされています。

この頃からギタリストの間ではエフェクターボードなるものをエレキギターと一緒に足元に置くのが普通となりました。数々のエフェクターを接続してまとめたものがエフェクターボードです。

個人的にはこれも功罪あるかと思っています。
実は数年前本屋さんで週刊誌を眺めていたら、ギター関係の雑誌の表紙に

「君はエフェクターを3台しか使えないとしたらどれを選ぶか」

という特集記事がありました。
究極の、最低限どういうセッティングをするかということなのでしょう。
で、

「オレ、3台もいらないけど。逆に3つも使うのは難しいな」

と思ってしまったわたくしはギターについては相当に時代についていってなさそうですな。
ブルーズ系の人はそんなもんです。

などということには関係なくトム・シュルツは心底偉大だと思いますし、ボストンのアルバムは全てハイ・クオリティで名盤だと思います。(ほとんど持っています)

このデビューアルバムの経緯はCBS傘下のエピックレコードにデモテープを聞いてもらって契約しました。
エピックレコードはロサンゼルスのスタジオで録り直そうとしたのですが、トム・シュルツはこのデモテープを自分のイメージで完璧に再現したいという思いから、(結果的に)会社を騙してまでマサチューセッツの自宅の地下室でデモテープ制作時と同様にブラッド・デルプと録り直したそうです。

結果はもちろん大成功です。

この時代にプロのレコーディングスタジオ並みの音が録音できて、さらにヴォーカルを除いて全ての楽器を演奏できて、作詞、作曲、アレンジを全て自分だけで演ったことに素直に驚愕します。
あとはツアーしなければいけないのでバンドメンバーを集めてボストンを完成させたということです。

ボストンが産業ロックとは思えないもう一つの理由として、他のバンドとは違って飽きられるまで大量消費を狙うなどの戦略は取りませんでした。
アルバムのインターバルが異常に長いのです。
セカンドアルバムの「ドント・ルック・バック」までは2年、次からは約8年ごとのインターバルで2013年までに6枚とかなり寡作です。
きっとセカンドアルバムまではリリース期間が短いので、曲の作り置きがあったのでしょう。

37年間で6枚はほぼ趣味の人状態です。
いつも忘れた頃にひょっこり出てくるボストンのアルバムでした。

各アルバムの内容は初期からほぼ変わりません。
ボストンの音楽の世界はリアルな現実や日常を描いているものではありません。
理数系の人らしく、時事的なものを扱った歌詞はなく宇宙的なイメージを感じるものがほとんどです。
もしかしたらアメリカ人らしく、ある意味そこに宗教的な概念はあるのかも知れません。

私の持っている音源は2006年のリマスターCDですがパワー感が素晴らしくこれ以上望むべきものがないほどの音質です。
リマスターまでこだわっているのがわかります。

アルバム「幻想飛行」のご紹介です。

https://amzn.to/3WYs8Hs

演奏

ボストン
トム・シュルツ  リードギター、リズムギター、アコースティックギター、スペシャルエフェクトギター、ベース、オルガン、クラヴィネット、パーカッション、プロデューサー、エンジニア

ブラッド・デルプ  リードヴォーカル、ハーモニーヴォーカル、12弦アコースティックギター、リズムギター、パーカッション

バリー・グードロー  リードギター、リズムギター、ギターソロ Tr.3,8、ベース  Tr.3,8

シブ・ハシアン  ドラムス、パーカッション

その他
ジム・マスディア  ドラムス Tr.4
ジョン・ボイラン  プロデューサー
ウォーレン・デューイ  エンジニア
デニ・キング、ブルース・ヘンゼル、ダグ・ライダー  アシステント・エンジニア

スティーヴ・ホッジ  ミキシングアシスタント
ウォーリー・トラウゴッド  マスタリング
トビー・マウンテン、ビル・ライアン  リマスター
トム・カーリー・ラフ  デジタルトランスファー
ポール・アハーン、チャールズ・マッケンジー  アートディレクション

キム・ハート  デザインコンサルティング
ジェフ・アルバートソン、ロン・バウナル  フォト
ポーラ・シェア  カバーデザイナー
ロジャー・ホイッセン  カバーイラスト
ジョエル・ジンマーマン  リイシューデザイン

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   More Than a Feeling 宇宙の彼方へ

印象的な12弦ギターのイントロで始まるボストンの代表曲の一つです。
メロディが綺麗でポップなため普通の音楽ファンには一聴しても特に目新しさはないかも知れませんが世界中のギターキッズは違いました。
このディストーションギターの細やかな粒だちでしかもぐしゃっと潰れない音質はどうやってつくったんだろうと驚いたのです。

2,   Peace of Mind ピース・オブ・マインド

これもアコースティックギターで始まる完成された曲です。得意のギターオーケストレーションも出てきます。

3,   Foreplay / Long Time フォープレイ / ロング・タイム

ボストンにプログレを感じるところです。
CDで聞いても低音の張りがすごくてサウンドに相当凝っていたことが伺えます。
この曲を高校生の頃近所の先輩に大音量のステレオで聴かせてもらい、すごい迫力に圧倒されたことを思い出します。もちろんLPでした。
後半はアコースティックとハードな展開が素晴らしく「こりゃ受けるわ」と納得してしまいます。

4,   Rock & Roll Band ロックンロール・バンド

トム・シュルツの大サービスといった感じのナンバーです。
ロックバンドの立身出世物語です。
余裕を感じます。「こういうのも聞きたいんだろ」と言われているようです。

5,   Smokin’ スモーキン
 (トム・シュルツ、ブラッド・デルプ)

トム・シュルツからしたら「ブラッドと伝統的なロックらしいロックを意識して作ってみたよ」という感じでしょうか。
ハンブル・パイに同じタイトルのアルバムがありました。曲調からして意識してそうです。(勝手な推測です)
オルガンもいい感じで使っています。

6,   Hitch a Ride ヒッチ・ア・ライド

ミディアムテンポでポップな感じで始まりますが、途中からフラストレーションが溜まってきたかのようにオルガンが暴れます。
ラストはこれまた歌うギターソロでじっくり盛り上げて終わります。

7,   Something About You サムシング・アバウト・ユー

このメロディアスなハードロックという感じが聞きやすくて産業ロックに分類されてしまうのかな。と思います。ロックへの入り口としてはありですけどね。

8,   Let Me Take You Home Tonight レット・ミー・テイク・ユー・ホーム・トゥナイト
 (ブラッド・デルプ)

トム・シュルツの相棒だったブラッド・デルプの作品です。この曲を聴く限りにおいてはブラッドさんはポップなアメリカン・ロックが好きだったのだろうなって思います。
2007年に亡くなるまで「ウォーク・オン」を除く全てのアルバムに参加しました。

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