(対 : オスカー・ピーターソン)
ジャズピアノの一つの象徴というべきアルバムです。
聴いていると、キース・ジャレットにとって音楽とは芸術であり、鋭い感性を持って想像していくものという強い信念があるように思います。
その典型がこの「ケルン・コンサート」です。
レーベルはかの有名なECMです。ECMの音が美しく澄んでいてなお芯があって力強く、これぞECMというジャズ・レーベルを象徴する音だと聴くたびいつも思います。
1970年代、アナログオーディオもピークとなり、オーディオマニアが大量出現して世の中を食い荒らしていた時、ECMのアルバムがリファレンス音源として重宝されていました。
そしてこのアルバムの主役、キース・ジャレットです。
ジャズの、いやもっとわかりやすく狭めてジャズピアノというジャンルの両極にいるのがキース・ジャレットとオスカー・ピーターソンという気がしています。
この二人について同時に書き綴っています。それが可能なのです。できれば対で見ていただきたいと思います。
二人の共通点はピアノを弾きながら声を出すことくらいです。ジャレットさんは特に顕著です。「あれさえなければ」と思っている人を何人か知っているので世界規模だと結構な数になると思われます。
この時期、キース・ジャレットはライヴにおいてあえて既成の曲を使用せず、コンサート会場で即興で曲を作るというライヴ活動を行っていました。
これはとても常人には考えられません。
簡単なことでも執拗に練習しておかないと人前で上がってしまい、緊張のあまり手が止まって、終いには泣き出してしまった・・・という悲しい幼少時代のトラウマを抱えた諸兄も多いのではないでしょうか。(すいません私です)
しかしキース・ジャレットは違いました。自分を究極まで追い込むことで普通以上の力を出せる人だったのです。
有名な話ですが、そもそもこのケルン、オペラハウスでのコンサートが始まるまでに長時間の車の移動で疲れており、明らかに体調不良の状態でした。
背骨が痛くていろいろと矯正しながらの移動だったそうです。
プログラムの関係でコンサートの開始は金曜日の午後11時30分からとなります。なんとか会場に間に合いましたがスタッフの手違いでその日の食事は1食分しか取れませんでした。
しかもまた手違いでリクエストしておいたベーゼンドルファーのグランドピアノではなく、リハーサルに使われたベビーグランドピアノというかなり小さいサイズのピアノがステージにおいてあったそうです。キースの耳では明らかに調律が必要な状態でした。
流石にもうこれではできないと帰ろうとしたのですが、コンサートの主催者はヴェラ・ブランデスという18歳の男でした。
ここではこの経験のないアマチェアな部分が吉と出たのでしょう。必死の頼みによりキース・ジャレットはステージに立ちます。
確かにプロの仕事でこれならば世間で通用するはずもありませんね。
(20230818追記 : ヴェラ・ブランデスさんは女性だと教えていただきました。訂正いたします)
という状況の中でキース・ジャレットは一世一代の名演を繰り広げました。それがこのアルバム「ザ・ケルン・コンサート」です。
かなりヴォリュームを上げて確認しないとわかりませんが、最初の曲が始まると笑い声が聞こえるような瞬間があります。
これは劇場でオペラやコンサートが始まる際のチャイムの音をピアノで真似ているので常連さんがジョークだと気づいてのことだそうです。
これでリラックスして一体感ができコンサートを乗り越えられたと後で答えています。
LPレコードで2枚組のピアノソロという通常だと若干手を出しづらいアルバムですが、全世界で好評を博し好調に売れ続け、ジャズを象徴する稀代の名盤となりました。
来歴
キース・ジャレットは1945年5月8日 アメリカ合衆国ペンシルヴァニア州アレンタウンに生まれました。3歳からピアノを始め、幼少期はクラシック音楽を学びます。
1964年「ジャズの10月革命」に触発されボストンのバークレー音楽院に進み、1965年には短期間でしたがアート・ブレイキー・アンド・ジャズメッセンジャーズに加入しました。そこから本格的に活動を開始します。
1970年にはマイルスのバンドでも活躍して1971年にはECMのマンフレッド・アイヒャーと出会い、ドイツの新興ジャズレーベルECMと契約してアルバムをリリースしていきます。
音楽活動は継続して名盤をリリースしていきますが1990年代には慢性疲労症候群で数年間療養生活に入ります。その後復活してまた精力的に活動していましたが2017年2月のカーネギーホールソロ公演を最後に療養生活に入りました。
2018年には脳卒中を2回発症し麻痺が残り、現在は復帰は難しい状態らしいとのことです。お身体を大事に静養していただきたいと思います。
アルバム「ザ・ケルン・コンサート」のご紹介です。
演奏
キース・ジャレット ピアノ
マンフレッド・アイヒャー プロデューサー
Barbara and Burkhart Wojirsch カバーデザイン
ヴォルフガング・フランケンシュタイン 写真
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Part Ⅰ
ケルンオペラハウスのチャイムのメロディからイメージを広げていきます。綺麗なメロディがたくさん出てきます。
2, Part Ⅱ a
リズミカルになってきました。このアルバムでは体調が悪かったせいか唸り声もかなり抑え気味です。このリズムをどう展開するのかと思ったら盛り上げていって8分くらいのところでバッサリとやめます。そして全く別のメロディが出てきます。
3, Part Ⅱ b
メロディアスな曲です。ピアノだけなのに曲の表情の付け方が半端ないです。
4, Part Ⅱ c
なんとなく前向きな優しいメロディで終わります。拍手が続きます。
コメント
ヴェラ・ブランデス(Vera Brandes)が男性と言うことですが、wikipedia(ドイツ語)で調べたところ女性でした。(国際音楽医学協会(IAMM)の創設メンバーでもある)そうです。
(スピーカーを自作していますが一曲目の3,4秒に笑い声が聴こえます。これが聴こえるとスピーカーとしては合格らしいです。)
湊 和彦様
ご指摘ありがとうございます。記事追記にて訂正させていただきます。
個人的に音楽医学とはまたイメージが膨らみます。ブランデスさんは志(こころざし)のある人ですね。
湊さまもスピーカーを自作されているということなので、音に関する造詣の深さがわかります。
ありがとうございました。