ここ数年、ビートルズ関連としてはとっても丁寧で愛情溢れるリミックス盤がリリースされています。かなりのこだわりが見られ、マスターテープを当時のテープレコーダーを使って、しかもテープレコーダーは完全オーバーホール、精密調整、音質に拘りコネクターを直結などと言うことも聞きました。
そうしてリリースされる音、これがなかなかいいのです。
2009年にリマスターボックスが出たときはだいぶ音が良くなった。演奏がリアルになったと思ってましたが、最近の「SGT ペパーズ 」「アビー・ロード」「ホワイト・アルバム」「レット ・イット・ビー」「リヴォルヴァー」のリミックスを聞くとさらに奥深いものを感じます。
例えばアビーロードの終盤、「ジ ・エンド」での3人のギターソロ回しの定位感の素晴らしさ、技術的な完成度にも感動できる状況です。
ビートルズのオリジナル・アルバムは全てが名盤です。他ジャンルへの影響力もすごいもので、楽曲はロック、ポップスにとどまらず、ジャズやクラシックの世界でも取り入れられています。
でも実際の活動期間はメジャーデビューした1963年3月の「プリーズ ・プリーズ ・ミー」から最後のスタジオアルバム「アビー・ロード」をリリースした1969年9月とするとわずか6年と半年になります。「レット ・イット・ビー」の発売は1970年6月ですが録音はアビー・ロードより前になります。
わずか7年弱の活動期間であれだけ外見も音楽性も変わるというのはそういう時代だったということもありますが、素直に奇跡ですね。
で、私にとってのビートルズの名盤は「レット・イット・ビー」です。
でも悲しいかなこのアルバムは一般的には、評論家やアーティストから見たらビートルズの中では上位に位置するアルバムになってません。
収録されている楽曲にはタイトルの「レット ・イット・ビー」や「ザ ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」などの超名曲がありますが、芸術性などと言われると、最近評価を上げてきている「リヴォルバー」とか、定番「アビー・ロード」とか、「SGT ペッパーズ」に比べると一段低い、というより「ラバー ・ソウル」や「ハード・デイズ・ナイト」より下で、年末商戦に合わせて急造したと言われる「フォー・セール」と同じくらいか、と感じさせられるものがあります。
しかも決定的なことにメンバー4人ともあまり良いイメージは持っていないようです。
原因はきっとあのドキュメント映画にあるんです。あの「レット ・イット・ビー」という映画はロックの持つ「可能性」とか「社会への反抗」とか「バンドという個性の重なりが放つ無限のパワー」とかの幻想(そう言ってしまうと元も子も無い訳ですが)が一切なく「エゴ」と「軋轢・あつれき」による「終焉」みたいに描かれ、ティーンエイジャーのロックへの甘い幻想は見事にに叩き潰されました。
最近になってやっと違う視点での違う雰囲気の映像「ゲット・バック」が出てきましたので、今後は変わってくることを願います。
今思えばあの時代にあの映画を作ったのは「イージー・ライダー」や「ウッドストック」などのアメリカのカウンター・カルチャーに対するイギリスの、ビートルズの回答だったのかもですね。
私的な思い出として中学3年の頃、親の転勤があり家族全員、一緒に転校することになりました。
その時にクラスのみんながカンパして、お別れに1枚のLPレコードをプレゼントしてくれました。
当時はレコードの帯に「レット・イット・ビー、さよならビートルズ」と書いてありました。
はい、もうこれ以上ない名盤です。
聞きどころも多く、有名曲以外でも「ディグ・ア・ポニー」のソウルフルな歌い方とか、「アイヴ・ガッタ・フィーリング」の二つの雰囲気の違う曲を合体させて深いノリを出すとかかっこ良すぎます。
「レット ・イット・ビー」のギターソロもアルバム収録ヴァージョンが一番歌ってます。曲を盛り上げて起承転結がはっきりしていて最高です。
そしてなんだかんだ言ってもルーフトップ・コンサートのビートルズはすごいです。
アルバム「レット・イット・ビー」のご紹介です。
演奏
ジョン・レノン ボーカル、ギター、キーボード
ポール・マッカートニー ベース、ボーカル、キーボード
ジョージ.ハリスン ギター、ボーカル
リンゴ・スター ドラムス 、パーカッション、ボーカル
グリン・ジョーンズ ミキシングエンジニア
フィル・スペクター アルバムリリースにあたっての編集
ジョージ・マーチン 最初の頃(ゲット・バックというアルバムを目指していた)のプロデュース
ポール・マッカートニーはこのアルバムにおけるフィル・スペクターのアレンジが嫌で嫌でしょうがなかったらしく、晴れて33年後に「レット ・イット・ビー・ネイキッド」で仇討ちすることになります。
曲目
*参考としてyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Two Of Us トゥー・オブ・アス
アルバムを聴いていると、この曲で始まるため穏やかな気持ちになります。
2, Dig A Pony ディグ・アポニー
リフといい、歌い方といい、個人的にとっても好きです。
一般的評価はそれほど高くありませんけど。
3, Across The Universe アクロス・ザ・ユニヴァース
この雰囲気はジョンでないと出せません。
コード進行もなんか独特です。
4, I, Me, Mine アイ、ミー、マイン
ジョージの作曲で、途中のサビで無理やりリズムを激しくするのですが、そうでもしないとただのベタベタな曲になってしまいます。
この手の展開の曲がたまにあります。
そう言えば同じような時期のエリック・クラプトンとスティーヴ・ウインウッド率いるブラインド・フェイスの「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」もそうですね。
ポールもこういう展開を持ち込みますが、露骨にはやりません。
5, Dig It ディグ・イット
アルバムだけ聴いていると、この曲もマギー・メイもそうですが、アルバム全編ジョンが思い切り遊んでパンキッシュに演っているものかと思ってましたが、映画を見るとそうではありませんでした。
6, Let It Be レット・イット・ビー
メロディが素晴らしいと思う曲は「ヘイ・ジュード」や「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」などありますが、この曲には社会生、時代性も加わります。そしてやっぱりアルバム版のギターソロが最高です。
7, Maggie Mae マギー・メイ
こういう適当に演ってる風でも何かを感じさせるところがビートルズです。
8, I’ve Got A Feeling アイヴ・ガッタ・フィーリング
ビリー・プレストンのエレピのリフに乗って、ポールが歌い始め、ジョンが全く違う歌を入れてきます。二人とも最後までクールに歌い切るところになぜかバンドの絆を感じるのです。
9, One After 909 ワン・アフター・909
初期に作った未発表の曲です。ハードな演奏なのに、なぜかみんなでしんみりと昔を懐かしんでいるように聞こえます。
思えば遠くに来たもんだの世界です。
10, The Long And Winding Road ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
ポール・マッカートニーはこの曲のフィル・スペクターのオーケストラアレンジが大嫌いだったようで、その執念たるや凄まじき・・・ということで後の「ネイキッド」につながります。
個人的にはこのアルバムにおいては、1曲くらいはメチャ大袈裟な曲があってもいい、幅が広がる、と思うのでこれはこれでアリとするのですけどね。
で、なぜだろうと思ったら、ポールはサイモンとガーファンクルの「明日にかける橋」をイメージしたのだそうです。なるほど。
11, For You Blue フォー・ユー・ブルー
ジョージもなんか1曲やってよ。と言われてしょうがなく「これでいいや」と思って軽く流したような曲です。この時期においてのこの ”脱力系” はいい味だしてます。
ジョン・レノンがラップスティール・ギターを弾いていると、歌の途中でジョージが言います。「Walk, Walk Cat Walk」から始まり「Go, Johnny Go」と言って「Elmore ・・・The Blues」を挟んで「Elmore James’s Got Nothin On This, Baby」と言ってます。「ジョン、行け行け、エルモアだ」「これはエルモア・ジェイムスは気にしないよ」という感じでしょうか。
きっと英国でもエルモアはスライドギターの象徴だったのでしょう。
12, Get Back ゲット・バック
ビートルズの伝説のルーフトップコンサートは、ビートルズのライブバンドの良さが凝縮されています。あの寒い、強風の環境であのクオリティはさすがです。
考えてみれば各自ソロになってもあれを超えるパフォーマンスはできていないように思います。
ポールはウイングスで良いライブを見せてくれましたが、なんと言っても緊張感が違います。
この曲のジョンのギターソロが質の高さを如実に表しています。
リンゴのドラムも素晴らしく、バンドでカバーしてみると分かるのですが、ロックドラマーにはこのノリはなかなか出せません。
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