「1970年代に頂点を極めるロッククラシックス、コンセプトアルバムからプログレに至るまで全てはここから始まりました」Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band : The Beatles / サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド : ザ・ビートルズ

 これはロックの歴史を変えた、ロックの方向性を決めた、ロックを芸術の域まで上げた。などと称されるザ・ビートルズの1967年5月26日にリリースされた8枚目のスタジオアルバムです。
このアルバムの登場によってサイケデリック・ロックというジャンルが立ち上がり、コンセプト・アルバムという軽音楽においても3分間ポップスを超えた表現がされるようになりました。

その後に発生するロック・オペラとかプログレッシヴ・ロックに繋がっていきます。ということは1970年代のロックの始まり、原点と言えます。

確かに1980年代に入り、パンク、ニューウェイヴ、テクノなどが発生するまではこのアルバムの評価は凄まじくビートルズの最高傑作と言われる状態でした。

アルバムの内容は当時のスタジオの技術を駆使しての色彩感のある音の万華鏡です。開発されたばかりの多重録音やシンセサイザーを使って今までにない音の世界を表現しています。
かといって全てをゼロから始めたわけではなく、ビーチボーイズのブライアン・ジョンソンによる「ペット・サウンド」とかフランク・ザッパの「フリーク・アウト」の影響も感じられます。(なんというか自他ともに公言してますし)

といってもそこはビートルズ、完成度が群を抜いています。「ペット・サウンド」と並んでロックの歴史の中に燦然と輝いています。
フランク・ザッパ師匠の場合はそういうところをあえて拒否した芸術家ですので、いまだに知る人ぞ知る存在です。

この「サージャント・ペパーズ」はポール・マッカートニーのアイデアで始まりました。
レコーディング・セッションに入ってまず最初に仕上げたのは「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」です。ただしこの曲はコンセプトに合わなかったためかアルバムには未収録となり、「ペニー・レイン」とカップリングでシングルカットされます。

しかしビートルズにしては珍しいことにヒットチャート1位にはなりませんでした。なのでビートルズの1位になれなかった曲という不名誉な称号が与えられます。
1位でなければ不名誉という子が逆説的に、如何にビートルズが凄かったかということがわかります。

さらに不思議なことに時間が経つほどに「ストロベリー・フィールズ」の評価が上がっていきます。音楽評論家の中でも1990年以降はビートルズの最も偉大な曲のかなり上位に位置することになっています。
20年以上経過して評価される曲を作っているとは、そこからも如何にとんでもなく化け物集団だったのかが実感できます。。

アルバムは構成が細部に置いてまで凝りまくっています。まずメディアとしては表ジャケットは中央に髭を生やしたミリタリースタイルのビートルズ4人が立ち、周囲は有名人がいっぱい立っています。
中には若い時代のビートルズやボブ・ディランとかルイス・キャロル、エドガー・アラン・ポーからマーロン・ブランド、マリリン・モンローまで多彩です。
ジョンはイエス・キリストとかアドルフ・ヒトラーも入れようとしたみたいですが、当然却下されました。
マハトマ・ガンジーはインドで発売できなくなるという理由で、俳優など何人かは肖像権の使用料などで入らなかったそうです。

裏ジャケットはメンバー4人の後ろ姿と歌詞が印刷されています。シングル主体のアルバムではないことがわかります。
当時はそういう視点からもニュースバリューがありました。

音楽的にはコンセプトアルバムなので、架空のバンド「サージャンと・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」が講演を初め、いろんなストーリーを交えつつ、テーマに戻って終演します。
そしてアンコールとして「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を演奏して終わります。
最後のところでは人間の可聴帯域を超えた音が入っており、犬にしか聞こえないなどとまことしやかに言われていました。でも15kHzという周波数なので、CDでもその音は欠落せずに記録されます。
でも実際はほとんどの人には、というかきっと若い人にしか聞こえません。

サウンドも当時のレコーディング技術を駆使した、多重録音やテープエフェクト、ステレオ効果を意識した効果音などでかなり凝った音作りです。また、当時開発されたばかりのアナログシンセサイザーのポルタメント機能などを取り入れています。

通常、そういう当時の最先端を前面に出した作品は時代とともに古臭くなり、しまいには聴いていてイタイ状態になってきたりするものですが、そこは流石のビートルズで、楽曲も含めて総合的に芸術性が高いため時代の変化に負けない音楽を作り上げているところがまた評価の高いところです。
(そういえばジョージ・ハリソンだから許されるのですが、1960年代のソロ名義の「Electric Sound」は今聞けばちょっとイタイ作品です。「Wonderwall Music」はまだメロディがありますがこれも一度聞けばいいかという感じです)

私の場合、ビートルズはまず、LPレコードで聴いて、CDで聴いて、2009年リマスターを聴いて、2017年のジャイルズ・マーティン・リミックスを聴いてきました。
最も聴いたのはLPレコードです。今、頻繁に聴くのは2017年ジャイルズ・マーティン・リミックスです。

いやはや、ビートルズが時代に合わせてどう再構築されていくのか、ということは音楽ファン、オーディオファンとしても目が離せません。

演奏

ジョン・レノン  
ボーカル、エレキギター、アコースティックギター、ピアノ、ハモンドオルガン、カウベルポール

ポール・マッカートニー
ボーカル、エレキギター、ベース、ピアノ、ロウリーオルガン

ジョージ・ハリソン
ボーカル、エレキギター、アコースティックギター、ハーモニカ、タンブラ、シタール、マラカス

リンゴ・スター
ボーカル、ドラム、ハーモニカ、タンバリン、マラカス、コンガ、ボンゴ、チャイム

ジョージ・マーチン
ハモンドオルガン、ロウリーオルガン、ピアノ、ピアネット、チェンバロ、ハーモニウム、グロッケンシュピール

マル・エヴァンス
ハーモニカ、ハモンドオルガン、ピアノ、目覚まし時計

ほか関係者は多数のため割愛します。

制作

ジョージ・マーチン  1967プロデューサー、ピアノ、オーケストラアレンジ、指揮
ジェフ・エメリック  1967ミキサー/エンジニア

ジャイルズ・マーチン     2017プロデューサー
サム・オケル  2017ミキサー/エンジニア

曲目 
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

https://amzn.to/3tIKPmQ
  1. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド

    観衆のどよめきが聞こえてくるだけで興奮するオープニングです。ジャイルズ・マーテン版では楽器などがよりリアルな音になっています。オープニングのMCという体(てい)ですが名曲です。歓声はビートルズのハリウッドボウル公演時のものだそうです。

  2. With a Little Help from My Friends ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ

    続いてこれがないとやっぱりダメです。コール・アンド・レスポンスをうまく使った曲で、ベースの音、フレーズの使い方が改めてすごいのです。

  3. Lucy in the Sky With Diamonds ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ

    LSDの幻覚作用のことを歌にしていると物議を醸しました。名曲ですが個人的にあまり評価はしていません。でもジョン・レノンの作品の中ではという意味で “特上のなかで中くらい” ということなんですが。

  4. Getting Better ゲッティング・ベター

    最初のジャリジャリギターといい、ベースのドライブといい攻めたロック的ポール・マッカートニーです。昔、うまくいかないことがあると口ずさんでいました。ポジティヴな気持ちになれます。

  5. Fixing a Hole フィクシング・ア・ホール

    続いてもポールの暗めの曲です。クスリをやった後のダウン状態の歌だと言われていました。

  6. She’s Leaving Home シーズ・リーヴィング・ホーム

    流石の格調高いマッカートニー節です。これがないとこのアルバムはだいぶイメージが違ってきます。
    10代の女の子が家を出ていくことを親の目線で歌った保守的な曲とも言われました。

  7. Being for the Benefit of Mr. Kite! ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト

    ジョンのサウンドギミックで攻めた曲です。サーカスの雰囲気が妙に心に残ります。この曲と「グッド・ミーニング・グッド・モーニング」あたりの感覚が次作マジカル・ミステリー・ツアーの大名曲「アイ・アム・ザ・ウォルラス」につながりそうです。

  8. Within You Without You ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー

    ジョージの曲は1曲だけなのにこれです。ジョージの当時の興味の対象は東洋思想、インド哲学だったので、西洋の人から見れば新鮮な感覚でしょうが、アジアの私としては、“いやそこはビートルズに望んでないから” とずっと思っていました。
    最近になってはもうなんの違和感もなく聞けるようになった次第です。

  9. When I’m Sixty-Four ホエン・アイム・シックスティ・フォー

    何気にだれで見知っているスタンダードとなった曲です。ポールお得意の童謡ソングです。

  10. Lovely Rita ラヴリー・リタ

    リマスターではベースがグイグイ引っ張っていきます。

  11. Good Morning Good Morning グッド・モーニング・グッド・モーニング

    サウンドエフェクト感いっぱいのジョンの曲です。この感覚が最終的に「アイ・アム・ザ・ウォルラス」まで発展したと思っています。

  12. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise) サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(リプライズ)

    素直にかっこいいアレンジです。でも多分ビートルズからしたら軽く手を抜いたくらいの出来でしょう。ジミ・ヘンドリクスが「サージャント・ペパー」リリース3日後のステージでシャレでカバーしました。

  13. A Day in the Life ア・デイ・イン・ザ・ライフ

    このアルバムでのハイライトはこの曲だと思います。さすがはジョン・レノンとそれに対位するポール・マッカートニーです。
    この曲がもし収録されていなかったら、「マジカル・ミステリー・ツアー」と同じくらいの評価にしかなっていなかったかも知れません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました