「カントリー界のアウトロー、ジョニー・キャッシュの運命的な刑務所慰問ライブです」At Folsom Prison : Johnny Cash / アット・フォーサム・プリズン : ジョニー・キャッシュ

 いつものようにさりげなく「ハロー・アイム・ジョニー・キャッシュ」といってコンサートが始まります。
これが世紀のカントリーの名盤と言われる、ライブ録音の「アット・ザ・フォーサム・プリズン」です。

ジョニー・キャッシュは言わず年知れたアメリカ音楽界の重鎮でした。
最初は1956年にエルヴィス・プレスリー立身出世物語で有名なナッシュビルのサン・レコードで録音を初めます。
そして紆余曲折ありながらも2003年9月11日に71歳で亡くなるまで一貫した音楽活動を続けました。

ジャンルはカントリーに分けられますすが、ロックンロール、ロカビリー、ブルーズ、ゴスペルなど広い範囲にわたります。
変わらないシニカルな視線とアウトロー的立ち位置は多くのミュージシャンから信頼され、ロック界からも多くの信望者が出ています。

基本はギターを弾きながら歌うスタイルです。バリトンスケールの声は低くて感情がこもります。

ジョニー・キャッシュの長い音楽経歴の中にはいくつかのピークがありますが、この「刑務所ライブ」はそのピークのうち最も高い位置にあると言われる名盤です。

元からカントリー界でもアウトローと言われ、社会に馴染めない人間の歌を歌ってきたジョニー・キャッシュです。
それが本場の(?)刑務所でライブをやるというのはなんとも感慨深いものがあります。
きっとオーディエンスである受刑者もジョニーについては一目置いている存在だったのだろうと思われます。

ことの始まりは1955年にサン・レコードより「Forsom Prison Blues」という曲をリリースしていました。
そして念願叶って、というより運命に引き寄せられたかのように「フォーサム刑務所慰問ライブ」をすることとなりました。

バックは「テネシー・スリー」というバックバンドです。ジョニーキャッシュとは25年ほど付き合うことになる、まさに「ジョニー・キャッシュ・サウンド」の核となるメンバーです。

最初はテネシー・ツーとなったりメンバーは入れ替わりますがテネシー・スリーとして安定した時のメンバーは
・マーシャル・グラント ベース、コントラバス
・ルーサー・パーキンス  リードギター
・W.S ホランド  ドラムス
という布陣でした。

編成としてはフィドルやバンジョーなどがいないのでカントリーというよりロカビリーバンドの編成です。
ジョニー・キャッシュがど真ん中のカントリーというイメージがないのはこういう編成であるからかもしれません。

かくいう私はジョニー・キャッシュを本格的に聴きはじめたのは大宇遅くて「アメリカン・レコーディング」からです。

その前からベスト盤は持っており、ハイウェイメンとかも聞いていたのですが、本当にすごいと思ったのはあのリアルで情感たっぷりの「アメリカン・レコーディングス」シリーズからです。

このシリーズは6作まで続き、どれも素晴らしいものです。
2作目「アンチェインド」でトム・ペティの「サザン・アクセント」をカバーしています。
アメリカ南部人の意地を歌った曲でオリジナルももちろん素晴らしいのですが、ジョニーが歌うとこれがまたなんとも言いようのない素晴らしさです。
見方によっては音程が外れっぱなしじゃねえか、ということにもなりますけど、そういうことは小さく感じるくらいの説得力です。

それともう一つ、サン・クエンティン刑務所でのライブもあります。
このあたりもいづれ改めてご紹介したいと思います。


ジョニー・キャッシュはカントリー界の大物でありながら、そういうそぶりは見せません。
例えば、昔からの伝統的なフォークからロックに乗り換えてカントリーに接近してきた、自分より10歳くらい年下のボブ・ディランと、友達のようにディランの曲をデュエットしました。
また、1970年代のあまり売れていない時期にカントリーミュージックの大御所役の犯人として「刑事コロンボ 24話 白鳥の歌」に出演したりしたいました。
(この時の写真を見る限り笑っちゃいそうなくらい時代を感じるダサいおっさんの雰囲気です。・・ゴメンナサイ)

小さい頃から孤独で自暴自棄、というか自分なんかが幸せになってはいけない、という生き方を通してきました。
幼い頃に大好きだった兄と一緒に製材の仕事をしていた時、二人とも機械に巻き込まれる事故に遭って、ジョニーは助かりましたが、兄は亡くなってしまいました。
兄は若いながらも牧師を目指しており、親からも愛情を注がれていました。ジョニーは自分だけが助かってしまったこと、兄は自分より期待されていたこと、などを感じて生涯のトラウマとなっていたようです。
誰からも愛されずどうでも良い存在で、不幸を作り出している。そういう贖罪意識を心の奥でいつも感じていたようです。

常にハスに構えてアウトローで群れを作らず、弱者には優しく、力のあるものには反抗し、己のトラブルは笑い飛ばす。
それがいつも黒い服を着て「Men in Black」と呼ばれていたジョニー・キャッシュです。

硬派な佇まいはロック・ミュージシャンからも尊敬されるのがわかります。

アルバム「アット・フォーサム・プリズン」のご紹介です。

Bitly
Bitly

演奏

ジョニー・キャッシュ  ヴォーカル、ギター、ハーモニカ

ジューン・カーター  ヴォーカル

W.S. ホランド  ドラムス

カール・パーキンス  エレクトリック・ギター、ヴォーカル(Tr.2)

ルーサー・パーキンス  エレクトリック・ギター
スタットラー・ブラザーズ  ヴォーカル
(ルー・デヴィット、ドン・リード、ハロルド・リード、フィル・バルスリー)

ボブ・ジョンストン  プロデューサー
ボブ・ブロート  エンジニア
ビル・ブリテン  エンジニア
ジム・マーシャル  フォトグラフ

1999年リイシュー
ボブ・アーウィン  プロデューサー
スティーヴン・ヴァーコウィッツ  プロデューサー A&R(アーティスト・アンド・レパートリー)
ヴィック・アネセニ  エンジニア
ハワード・フリッツソン  アートディレクション
ダーシー・プロパー  マスタリング

*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

曲目
1,   Folsom Prison Blues  フォーサム・プリズン・ブルーズ
(作 ジョニー・キャッシュ)

いつものようにさっと挨拶して歓声が上がり、曲が始まります。曲のテンポは最初から最後まで同じなのに列車がゆっくり動きはじめて疾走する状況が解ります。元曲は1955年にシングルレコードとして発売されました。

2,   Dark as the Dungeon  ダーク・アズ・ア・ダンジョン
(作 マール・トラヴィス)

有名なスタンダードです。表現力豊かに歌います。

3,   I Still Miss Someone  アイ・スティル・ミス・サムワン
(作 ジョニー・キャッシュ)

いかにもカントリーバラードと思わせるラブソングです。歌唱力がすごいと思います。

4,   Cocaine Blues  コカイン・ブルーズ
(作 T.J.アーナル)

軽快なリズムで盛り上がります。刑務所だし、コカインの歌だし、歌詞の内容もコカインを打って銃を手に取り、車で逃げるというとんでもなさです。すごいなあ。

5,   25 Minutes to Go  25ミニッツ・トゥ・ゴー
(作 シェル・シルバースタイン)

前曲と同じようなリズムで、あと25分、独房の外で絞首台が組み立てられているという歌です。徐々に時間が進行していきます。とうとう死ぬことになります。刑務所でこれを歌うところがすごいですね。でも悲痛な感じではなく笑い飛ばしています。

6,   Orange Blossom  Special  オレンジ・ブロッサム・スペシャル
(作 アービン・T・ローズ)

フロリダからオレンジを運ぶ列車の歌です。これも力強い列車のリズムです。このタイトルのアルバムも1965年にリリースしています。

7,   The Long Black Veil  ザ・ロング・ブラック・ヴェイル
(作 マリジョン・ウィルキン、ダニー・ディル)

ザ・バンドやアイルランドのチーフタンズでもお馴染みの名曲です。
かなり重い歌詞ですが、ジョニーは途中で笑います。

8,   Send a Picture of Mother  センド・ア・ピクチャー・オブ・マザー
(作 ジョニー・キャッシュ)

7年間お勤めをして出所した男の歌です。

9,   The Wall  ザ・ウォール
(作 ハーラン・ハワード)

独房で生活していて、最後は自殺してしまった男の歌です。

10,  Dirty Old Egg-Suckin’ Dog  ダーティ・オールド・エッグ・サッキン・ドッグ
(作 ジャック・H・クレメント)

「汚い古い卵を食べる(吸う)犬」というタイトルですが、卵を盗む見た目がハンサムではない年老いた男の歌です。

11,  Flushed from the Bathroom  of Your Heart  フラッシュド・フロム・ザ・バスルーム・オブ・ユア・ハート
(作 クレメント)

ギャンブルで全てを無くしてしまいどうしようもなくなった男の歌です。

12,  Jackson (With June Carter) ジャクソン
(作 ビリー・エド・ウィーラー、ジェリー・リーバー)

奥方と一緒にテネシー州ジャクソンのことを軽快に歌います。歌詞の内容は良いことばかりではないようです。

13,  Give My Love to Rose (With June Carter)  ギブ・マイ・ラブ・トゥ・ローズ
(作 ジョニー・キャッシュ)

刑務所から脱獄して線路で死にかけている男の歌です。ルイジアナに戻って妻のローズとまだ見ぬ息子に会いたいと歌います。

14,  I Got Stripes  アイ・ガット・ストライプス
(作 ジョニー・キャッシュ、チャーリー・ウィリアムズ)

タイトルは囚人服を着たという意味です。ノベルティソングで軽快に歌います。

15,  Green Green Grass of Home  グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム
(作 カーリー・プットマン)

音楽の教科書にも載ってました。アメリカの良心のような歌です。このコンサートで初めて出てきた故郷と家族に想いをはせる歌です。これを聞いた囚人たちの心境がいかばかりだったかと思わずにいられません。

16,  Greystone Chapel  グレイストーン・チャペル
(作 グレン・シャーリー)

「ありがとうございました。
次の曲はここフォルサム刑務所にいる男が描いたものです。昨夜、初めてこの曲を歌いました。
この曲は私たちの友人グレン・シャーリーが書いたものです。
私たちがあなたの曲を正当に演奏できるように願います。グレン、頑張ります」。

といって受刑者の作った歌を歌います。信仰の歌です。

曲が終わるとテンポの良い片付けの演奏の中で、挨拶をして終わります。
なんかもうコンサート自体が一つの物語となっています。




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