「スティーヴ・クロッパーをプロデュースに迎え、メンフィスでレコーディング、結果いい感じのロックとブラック・ミュージックの邂逅となりました」Jeff Beck Group : The Jeff Beck Group / オレンジ : ジェフ・ベック・グループ

 ハードロックからブラック・ミュージック方向へ舵を切った「ラフ・アンド・レディ」に続いて、第2期ジェフ・ベック・グループが1972年にリリースした4枚目のアルバムです。

4枚目にしてタイトル無しというか、バンド名をタイトルとはこれいかに、と思いますが、これぞ「ジェフ・ベック・グループだぜ」という自信の表れ、決意表明とも考えられます。
(よきにはからってください)

前作の「荒っぽい作りでごめんね」から「これぞ俺たちジェフ・ベック・グループ」という感じに変えてきました。

アルバムのジャケットデザインはメンバーの小さなポートレイトを並べたものです。

この手法はありそうでないかも知れません。
1960年代のビートルズの「ハード・デイズ・ナイト」と同じですが、ビートルズは表情やポーズを変えたりしてアイドルっぽいサービス要素も感じられますが、こちらは同じ写真を4枚づつ並べてグラジェーションをかけただけのデザインです。

他にはというとブルーノートのリード・マイルスのデザインしたティナ・ブルックスの「トゥルー・ブルー」も若干似ていますが、こちらはちょっと芸術性が盛られていてちょっとニュアンスが違いますね。

そしてまた意味もなく(あるかもしれません)オレンジの写真が添えられています。
このことから、このアルバムは「オレンジ」とも呼ばれています。

そういえばジェフ・ベック・グループの3枚目「ベック・オラ」のジャケットも青リンゴが大きく書いてあるのですが、意味不明です。
これらの関連もわかりません。

前作はジェフ・ベック自身がセルフ・プリデュースで作り上げました。

今回はアルバムの制作前にコージー・パウエルとモータウンに行って何曲かインスト・ナンバーをレコーディングしたようですが、気に入ったものにはならなかったようです。

そして、そういうちょっと思うところがあったのか、メンフィス・ソウルの名門スタックス・レコードでギタリスト、作家、プロデュースと大活躍しているスティーヴ・クロッパーをプロデューサーに迎えました。

そして1971年の12月にメンフィスのTMIスタジオでレコーディングします。

このスティーヴ・クロッパーをプロデューサーとして起用したのはいろんな意味で大正解でした。

前作「ラフ・アンド・レディ」もいろんな可能性を感じさせる、スリル満点の名盤でしたが今回はアルバム全体が統一感のとれた無駄の無い、引き締まった感じになりました。

そして今回は
レコード会社の意向か、プロデューサーであるスティーヴ・クロッパーの意向か(これは違ってそう)、
はたまた
気まぐれジェフ・ベックの閃き、かどうかはわかりません。

しかし結果としてリズムやギターリフの感じが、何かとロックが感じさせるものになりました。

ハードロック小僧が聞いても素直にかっこいいと思えるサウンドです。

きっとベック本人たちや周囲の関係者もみんな、もっと売れるものを作ろうという意識があったと思われます。

前作の「ラフ・アンド・レディ」はアメリカのチャートで46位が最高位となる状態でした。

今となっては廃盤になることはないような歴史的名盤という扱いですが、当時はレコード会社の思惑とはだいぶかけ離れていたのでした。

ただ単にジェフ・ベックは時代を先取りしすぎたためということなんですが、当時はそんなことは言ってられません。
今回はもっと売れるアルバムにすることが至上命題だったと思われます。

そこでベックのイメージしているソウル、ファンクなどのブラック・ミュージックの風味は残しつつ、ロックファンにも受け入れられるような、いわゆる “一見ストレートでわかりやすい” アルバムが出来上がりました。

例えばオープニングの「アイスクリーム・ケーキ」です。いきなり重心の低いリズムとシンプルながら勢いを増してくるベースでロックのかっこよさは満点です。

オリジナルのLPフォーマットではA面が「アイスクリーム・ケーキ」、B面が「ゴーイン・ダウン」というヘビーなリフのナンバーで始まり、ラストは泣きのインストバラード「ディフィニトリー・メイビー」で終わるというロックの王道を体験させてくれてカタルシスいっぱいな作りです。

アメリカでもチャートを19位まで上がりました。(時代が時代ならトップ3くらいには入りそうです)

ここらで一息ついて、この路線のアルバムをもう2、3枚作ってくれてもよかったのですが、そこは気まぐれなジェフ・ベック兄貴です。
すぐに飽きてまた新しいことをやろうとし始めます。

兄貴は天才なので、イマジネーション第一です。
磨き込んで、道を極めるなんてことは考えていません。

というのも1972年4月、アルバムのリリースに合わせてヨーロッパ、アメリカを回るツアーが開始されました。

ベックは次第にメンバーに不満を感じるようになり、マックス・ミドルトンを残してティム・ボガートとカーマイン・アピスに入れ替えます。

7月末には第2期ジェフ・ベック・グループの実態はなくなりました。

8月1日からのピッツバーグ公演ではベック、ミドルトン、アピス、ボガートにヴォーカルのキム・ミルフォードという布陣で始めます。
しかしミルフォードは力不足だったらしく、8日のシカゴ公演ではまたボブ・テンチが呼び戻されたりしています。

19日のシアトル公演でツアーが終了するとボブ・テンチとマックス・ミドルトンは脱退し、残ったのはカーマイン・アピスとティム・ボガートとなりました。

ここで第2期ジェフ・ベック・グループの前に構想して頓挫した幻のパワートリオ「ベック・ボガート・アンド・アピス」を始動させたのでした。

一連のバタバタの流れからジェフ・ベックは決して安定、調整型の人間ではありません。
目的のためなら手段を選ばず、なんでも、どんな人でも利用するといういわゆる真の天才型なのでした。

そういう天才の作った音は時代に負けず、というかなぜか古臭さなど感じさせないものがあります。

まとめますと、
この時期、ジェフ・ベックはスライ・アンド・ファミリー・ストーンが大のお気に入りだったと言われています。
スライはR&B、ファンクのバンドに白人も入れてロックファンに向けて演奏しました。

ベックはこの逆のアプローチを行います。

ロックバンドに黒人を入れてソウルやファンクを演奏する、これを第2期ジェフ・ベック・グループで演ったのです。

当然、来たるべきジャズ、フュージョンの波も視野に入っていました。

アルバム「ジェフ・ベック・グループ」のご紹介です。

演奏
ジェフ・ベック  ギター、ベース
マックス・ミドルトン  ピアノ、キーボード

コージー・パウエル  ドラムス
クライヴ・チェアマン  ベース
ボブ・テンチ  ヴォーカル、ギター

シティーヴ・クロッパー  プロデュース

曲目
参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1.   Ice Cream Cakes アイスクリーム・ケーキ
 (ジェフ・ベック)

ドラムで始まってベースが加わりベックのギターが入ってきたらもうこのクールなかっこよさには抵抗できません。
途中の重いリフもハードロックっぽくていい感じです。
こういう曲ではベックはかなりフリーに暴れますのでいろんな引き出しの多さが感じられます。

2,   Glad All Over グラッド・オール・オーバー
 (デイヴ・クラーク、マイク・スミス)

前作「ラフ・アンド・レディ」にあったようなファンキーなチューンです。

3,   Tonight I’ll Be Staying Here With You 今宵は君と
 (ボブ・ディラン)

ディランの曲をソウル・バラードにしています。泣きのギターソロも聴けます。
改めてディランの曲は他の人がカバーするとメロディの美しさに驚かされます。

一応、こちらがオリジナルです。

4,   SugarCane シュガー・ケイン
 (ジェフ・ベック、スティーヴ・クロッパー)

息抜きで作ったようなマックス・ミドルトンのブロック・コードによるピアノで始まるヘンな曲です。

5,   I can’t Give Back the Love I Feel for You 帰らぬ愛
 (ニコラス・アシュフォード、ドジャー・ホランド、ヴァレリー・シンプソン)

モータウン・ナンバーのインストものです。この曲を聞くだけでもこのアルバムを買う価値はあると思います。ここではベックの演歌にならない泣きのギターが聴かれます。

7,   Going Down ゴーイン・ダウン
 (ドン・ニックス)

伝統的なブギウギ・ピアノみたいなイントロに導かれてリズムが入ると途端にヘビーになります。
以降、ジェフ・ベックのライブの定番曲となります。
オリジナルのドン・ニックス・バージョンは割と軽い感じで、同じくJ.J.ケイルもそういう軽い感じでカバーしています。

8,   I Got to Have a Song アイ・ガット・トゥ・ハヴ・ア・ソング
 (ポール・ライザー、ルラ・ハーダウェイ、スティーヴィー・ワンダー)

強弱を目一杯使った黒っぽさ満開のソウル・チューンです。1970年のスティーヴィー・ワンダーの初セルフ・プロデュース・アルバム「Signed Sealed and Delivered=涙を届けて」からのカバー曲です。
やる気を出したようなマック・ミドルトンのピアノもいい感じです。
欲を言えば最後のところでもっとギターに暴れてもらいたいところですが、そこはスティーヴィーに敬意を表して綺麗にまとめたのかも知れません。

オリジナルです。

9,   Highways ハイウェイズ
 (ジェフ・ベック)

とっても好きなナンバーです。ジェフ・ベックのアイデア満載のギターが素晴らしいのです。
曲調は変化にとんで、というか屈折していてスムーズな流れではありませんが味わい深く、他にはない、ジェフ・ベックにしかできないナンバーとなっています。

10,  Definitely Maybe ディフィニトリー・メイビー
 (ジェフ・ベック)

ワウ・ペダルとスライド・ギターというすごい組み合わせです。
普通の常識ある人はこんなことは演りません。
そしてこれがベンチャーズでもサンタナでもない、時代を感じさせないギター・インストゥルメンタルの名作です。

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