「ブルーズを中心にヴァーサタイルな音楽スタイルで魅了させるケニー・バレル1965年の名盤」Kenny Burrell Guitar Forms / Kenny Burrell / ケニー・バレルの全貌 : ケニー・バレル

 このアルバムはジャズ・ギターのケニー・バレルが1965年にVerve Records(ヴァーヴ)からリリースしたアルバムです。

リーダーアルバムとしてはすでに21枚目くらいになります。

1956年にブルーノートから「イントロデューシング・ケニー・バレル」でデビューしてブルーノートやプレスティッジでアルバムをリリースしてきました。

ヴァーヴでは1963年にジミー・スミスと共演してからの2枚目にあたります。

当時はすでに10年近くジャズの世界で活躍しており、すでにベテランの域に入っていました。

このアルバムは邦題で「ケニー・バレルの全貌」とあるようにケニー・バレルが “自分の音楽的な幅を表現してみた” というようなアルバムです。
(わたくしはその昔「ぜんこん」と読んで否定されたという恥ずかしい過去があります)

今では評価も定着してブルーノートでの「ミッドナイト・ブルー」と同様にケニー・バレルのハイライトとして知られるようになりました。

ともすればジャズ・ブルースの人で括られかねないケニー・バレルですが後年はUCLAで「デューク・エリントンに関する講義」を行ったりしていますので、普通のミュージシャン以上に音楽への探究心があるのだと思います。

しかしながら、このアルバムについても特定のイメージで聞き始めると危険です。

最初にこのアルバムを聴いた時のことを思い出します。
最初の曲で「おっ、これはかっこいいぞ」と思って2曲目にも期待しましたが、1曲目とのあまりにもの落差に固まってしまい、曲の途中でやめてしまったのでした。

その頃のわたくし的に、は3分弱でコンパクトにまとまって素晴らしいブルーズ「ダウンステアーズ」の後に10分近い「ロータス・ランド」という落差はロック少年にはあまりにも冗長な気がしたものです。

ところが今となっては逆に結構お気に入りのナンバーとなっています。

いつの頃からかじっくりと紡ぎ上げていく音楽の楽しみ方を覚えたのでした。

私の場合はそういうふうに最初に聞いた時はなんとなくとっ散らかった印象のアルバムでしたが、聴き込むほどに味が出てきました。

ブルーズ、モダンジャズ、フラメンコ、クラシック、ボサ・ノヴァなどなんでも対応できる器用さ、そして洗練された感覚が感じられます。

タイトルの「Kenny Burrell Guitar Forms=ケニーバレルのギター形態」はなるほどと頷かせるものです。

音楽的なまとまりというよりは、ケニー・バレルのギターのトーンが統一されています。

ケニー・バレルはグラント・グリーンほどアーシーでファンキーというものではなく、ジム・ホールほどにクールに洗練された感じではありません。
しかしそこにはケニー・バレルならではの味わいがあります。

プロデューサーはあの悪魔とい呼ばれた悪名高き(私が言ってるだけですが)クリード・テイラー、そしてレコーディング・エンジニアはブルー・ノートで有名な、かのルディ・ヴァン・ゲルダーです。

同じエンジニアの仕事ながらもヴァーヴとブルーノートはこうも質感が違うものかと今更ながら驚かされます。

ブルーノートの音は中域メインに硬質ながらもまとまった迫力と熱量を感じるサウンドで、ヴァーヴの音は高音は繊細で低音はリッチという正反対のイメージです。

収録されているナンバーは全て名演ですが、オープニングナンバーの「ダウンステアーズ」を二十代の頃初めて聴いて、すぐさまギターを取ってコピーに励んだことを思い出します。

この素敵なブルーズ・ナンバーの作者はあの「バケモノ」とか「宇宙人」とか言われるドラマーのエルヴィン・ジョーンズです。(褒め言葉です)

なんとトランペットのサド・ジョーンズ、ピアノのハンク`ジョーンズと兄弟であり、ジャズ界の最も有名な3兄弟と呼ばれています。
ジョン・コルトレーン・カルテットで有名で、1960年代後期コルトレーンの“新しい境地へ邁進する最も芳醇で深淵なるジャズ”を繰り広げていた時期になくてはならない存在でした。

そういうパルス・ビートなどと称されるエルヴィン・ジョーンズにはあまりブルージーなイメージはなかったのですが、実はこういうレイドバックしたイナタイ面も持ち合わせていたのですね。
(当たり前と言えば当たり前の話です)

CDではオリジナル曲順の後にボーナス・トラックとして「ダウンステアーズ」のオルタネート・テイクが4曲、「テラス・テーマ」が3曲、「ブレッド・ウイナー」が4曲収められています。

これらを聴いていると良くある、上手くいかないからとか、納得できないからという理由でテイクを重ねました、という風には聞こえません。

「こういうブルーズって何回やっても楽しいよね、次はこんな感じで。あっウィリー君、もっとコンガで煽ってよ」なんて言いながら演ってるみたいで微笑ましくなるのです。
(個人の感想です)

アルバム「ケニー・バレルの全貌」のご紹介です。

演奏
コンボ
ケニー・バレル  ギター
ロジャー・ケラウェイ  ピアノ
ジョー・ベンジャミン  ベース
グレィディ・テイト  ドラム
ウィリー・ロドリゲス  コンガ

オーケストラ
ギル・エヴァンス  編曲、指揮
ケニー・バレル  ギター
ジョニー・コールズ、ルイス・ムッチ  トランペット
ジミー・クリーブランド、ジミー・ネッパー  トロンボーン
アンディ・フィッツジェラルド  フルート&イングリッシュホルン
レイ・ベッケンシュタイン  アルトフルート、フルート、バスクラリネット
ジョージ・マージ  イングリッシュホルン、フルート
リッチー・カムカ  テナーサックス、オーボエ
リー・コニッツ  アルトサックス
スティーヴ・レイシー  ソプラノサックス
ボブ・トリカリコ  テナーサックス、ファゴット、フルート
レイ・アロンジュ、ジュリアス・ワトキンス  フレンチホルン
ビル・バーバー  チューバ
ロン・カーター  コントラバス
エルヴィン・ジョーンズ、ホセ・マンガル・シニア、チャーリー・パーシップ  ドラムス&パーカッション

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Downstairs ダウンステアーズ
 (エルヴィン・ジョーンズ)

思い起こせばケニー・バレルを好きになったきっかけの曲です。ケニー・バレルというよりジャズ・ブルーズの良さに巡り会えたという思いがあります。
ジョン・コルトレーン・カルテットのドラマー、エルヴィン・ジョーンズ作と聞いて2度びっくりです。

2,   Lotus Land ロータス・ランド
 (シリル・スコット)

作者のシリル・スコットは作曲家、作家、詩人、オカルティストというなにやら怪しげな人です。
ロータスというとサンタナのせいで(?)仏教とかインド思想などを連想してしまうのですが、作者のシリル・スコットはイギリス人なのでインドは身近な存在だったかもしれません。
(オカルティストだし)
最初に聴いた時は「あの・・こういうのはちょっと・・ったるい・・つまらん」と思って聴くのをやめたものでした。
音楽にじっくり浸るということを覚えて以来、結構お気に入りとなっています。
音の間(ま)がいいのです。

3,   Terrace Theme テラス・テーマ
 (ジョー・ベンジャミン)

このアルバムに参加しているベーシストのジョー・ベンジャミンの作です。
多分即興で作ったブルーズです。ケニー・バレルの歌うようなブルーズ・ギターが全編に渡って堪能できます。

4,   Prelude No.2 「プレリュード第2番より
 (ジョージ・ガーシュイン)

この音数の少なさ、それが返って緊張感があり、気持ちの入れようがわかります。

5,   Moon and Sand 月と砂
 (ウィリアム・エングヴィック、モーティ・パリッツ、アレック・ワイルダー)

ここからあとはオーケストラをバックに演奏が続きます。
この構成は個人的に時代の空気が詰まっていて、ノスタルジックな香りを感じます。
1970年代の中頃までこういう雰囲気の曲がいっぱいラジオで流れていました。

6,   Loie ロイエ
 (ケニー・バレル)

続いてまたしてもノスタルジックな顔露を感じるメロディアスな曲です。
映画音楽みたいな展開です。

7,   Greeensleeves グリーンスリーヴス
 (トラディショナル)

イギリスのトラディショナルです。
他にも有名どころではジョン・コルトレーンやハードロック期のジェフ・ベックなどもカバーしています。

8,   Last Night When We Were Young 昨日の二人は若かった
 (ハロルド・アーレン、イップ・ハーバーグ)

1935年に作られたポピュラーソングです。
クラシカルな雰囲気もあり、最後はギターのトレモロ奏法で盛り上げます、と言いつつもクールな展開で暑くはなりません。

9,   Breadwinner ブレッド・ウィナー
 (ケニー・バレル)

最後はバンド編成に戻って速いパッセージのブルーズで締めくくります。

コメント