1960年代のアメリカを代表するブルーズ・ロック・バンドといえば真っ先に名前が上がるのがザ・ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンドです。
その名の如くリーダーはヴォーカリストでブルーズ・ハープの名人と言われるポール・バターフィールド。
それを支えるギタリストはとっても有名なマイク・ブルームフィールドと、さほど有名ではないけど “いぶし銀ギター” のエルヴィン・ビショップ。
キーボードはマーク・ナフタリン。
それにリズムセクションにはベースにジェローム・アーノルド、ドラムにサム・レイというこの時代には珍しく二人の黒人のメンバーが加わります。
最近のアメリカではそういうことはありませんが、数十年ま前までは建国以来の問題として人種差別がありました。
長らく白人の生活圏と黒人の生活圏が別れており、文化的なものも違っていました。
そういうことで黒人の間で流行っている音楽を白人が聞くことはなかったのです。
当然演奏する場所、客層も分かれていました。
しかし、不思議なことに白人と黒人が違和感なく混合して編成されたバンドがありました。
代表的なところではR&Bの「ブッカーT・&・ザ・MGズ」、ロックでは今回ご紹介する「ザ・ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド」です。
両バンドともすでに1960年代前半から活動していました。
ちょっと遅れて「スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン」や「アヴェレージ・ホワイト・バンド」などが出てきますが1960年代で真っ先に思い浮かぶのはその2組のバンドです。
ブッカーT・&・ザ・MGズは南部ソウルの代表的レーベル「スタックス」のハウスバンドでもありました。
その名のごとくリーダーのブッカーTさんの元に白人であるギタリストのスティーヴ・クロッパーとベースのドナルド・ダック・ダンが加わった感じでした。
このバンドも実にグルーヴィーでオーティス・レディングなどでの名演が多いことで有名です。
ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンドはまたちょっと違っていました。
白人ヴォーカリストでブルーズ・ハープ奏者のポール・バターフィールドがブルーズ・バンドを結成した際、なんとかマディ・ウォーターズやリトル・ウォルター、ハウリン・ウルフに近づきたいとチェス・レコードでマディやウルフのバックバンドをしていたベースのジェローム・アーノルドとドラムのサム・レイを加えて出来上がったバンドです。
そういう意味では他のブルーズロックバンドとは本物志向の度合いが違いまするな。
ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンドは1965年10月にアルバム「ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド」(まんまか)を引っ提げてデビューします。
ビルボードのアルバムチャートで123位と大ヒットにはなりませんでした。
しかしまあなんと言いますかこのアルバムのジャケットデザインがまた良くて、“街にたむろする不良兄ちゃんたち” 風のショットがたまりません。
このバンドは不思議なことに全てのアルバムがさほどヒットチャートには恵まれないものの廃盤になることなく時間を超えて生き残り続けます。
そういうロックファンの心に残るバンドです。
ポール・バターフィールドのハープは「常に強烈で、控えめで、簡潔で、真剣」と評されました。
左利きなのでマリンバンドのハーモニカを逆に吹いていた(低音部が右)そうです。
わたくしは悲しいことにブルーズハープの演奏でそこまで利き手が重要なのかいまだにわかっておりません。
生涯を通じて求道的にブルーズを追求しており、真面目でヘロインなどの薬物にも反対していたのですが、持病の腹膜炎があり、激痛を和らげるためにヘロインを使用して自ら中毒になってしまったようです。
1987年5月4日に44歳で亡くなりました。
関連して思い出すのは英国ブルーズ界のゴッドファーザー、ジョン・メイオールです。
今年2024年7月に90歳で亡くなりました。
もしポール・バターフィールドも長生きしていれば同じような立場になって、アメリカでブルーズの普及に貢献していたと思うのです。
マイク・ブルームフィールドも若くして亡くなりましたが、ロックの歴史上重要なブルーズ・ギタリストです。
このバンドに限らず他でも「フィルモアの奇蹟」「スーパーセッション」など名盤と言われる重要作を残しています。
今でもなんちゃらが選ぶ偉大なるギタリストランキングなどで上位に名前を見かけます。
(ローリング・ストーン誌が選ぶ、だろ!)
このバンドに在籍したのはセカンドアルバムまでで、自身のバンド「エレクトリック・フラッグ」結成のために退団します。
彼のギターはマディ・ウォーターズやB.B.キングなどからも評価されていました。
ユダヤ系である彼はそこに黒人と同じような悩みや苦労があり、ブルーズに共通していると答えています。
1981年2月15日に自動車事故で亡くなりました。まだ37歳でした。
エルヴィン・ビショップについては1970年代くらいまでは割と耳にしたのですが、最近はギタリストとしてはほとんど聞かないようになってしまいました。
しかし1942年10月21日生まれの82歳ながらまだまだ現役で活動していらっしゃるようです。
ビショップとはチェスの「僧正」で将棋で言うと「飛車」と同じような動きをします。
最初からキングやクイーンを守る立場というところに人柄が出ているのかもしれません。
マイク・ブルームフィールドの去ったあと3枚目のアルバムからリードギタリストとしてがんばります。
タイトルもエルヴィン・ビショップのニックネームを使って「The Resurrection of Pigboy Crabshaw= ピッグボーイ・クラブショウの復活」となっています。
ニックネームといっても「豚少年蟹シャウ君」の真意はよくわかりません。
一回りして本人も気にっていたようです。
*3rd アルバム 「The Resurrection of Pigboy Crabshaw」です。
キーボードのマーク・ナフタリンについてはこのバンド以外では耳にしませんが、現在でもプロデューサーなどで活躍しているようです。
昭和の貴兄は箪笥の奥には必ずしょうのうとかナフタリンと呼ばれる防虫剤が入っていたことを覚えていらっしゃるでしょうが、そのナフタリンとは関係ありません。(あたりまえです)
そしてほんまもんの、まさにネイティブなシカゴブルーズの黒人ベーシスト、ジェローム・アーノルドはファーストに続き、セカンドも参加しています。
ドラムはサム・レイからビリー・ダヴェンポートに変わりました。
この人もマディやハウリン・ウルフと演奏していた黒人ブルーズマンです。
1965年にデビューアルバムをリリースした後、翌年1966年にご紹介する本作、「イースト・ウエスト」をリリースします。
ファーストアルバムも良かったのですが、セカンドとなると一層音がまとまってきて、ますます完成度が上がりました。
サウンド的にはよりロックよりにシフトした感じになっています。
さらに今度は “観光旅行する不良兄ちゃんたち” 風のジャケットでこれがまたええ感じです。
遠目に見ると両脇の像に完全に主役を喰われています。
と思ったらこの建物は地元シカゴの化学産業博物館だそうです。
なんともこのカリスマ性やアイドル性のなさ、ライブハウスに行くといつでも会えるような、そういうなんとも身近な雰囲気が感じられていいんですね。
アルバム「オースト・ウエスト」のご紹介です。
演奏
ポール・バターフィールド ヴォーカル、ハーモニカ
マイク・ブルームフィールド エレクトリック・ギター
エルヴィン・ビショップ エレクトリック・ギター、ヴォーカル
ジェローム・アーノルド ベース
ビリー・ダヴェンポート ドラムス
マーク・ナフタリン ピアノ、オルガン
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Walkin’ Blues ウォーキン`ブルーズ
(ロバート・ジョンソン)
ミシシッピ・デルタ・ブルーズの巨人、ロバート・ジョンソンの代表作です。
PBBB(バンドの略称)はシンプルなリズムでたたみかけます。
途中でリズムを変えたり、ギターが裏のリズムを取ったりと聞いていて面白い、かつ気合いが入っていてカッコいいサウンドです。
ギターの音などは今ではなかなか聞けない、ギターからダイレクトにアンプにプラグインした「まんまナチュラル・オーバードライヴ・サウンド」です。
2, Get Out of My Life. Woman ゲット・アウト・オブ・マイ・ライフ
(アラン・トゥーサン)
ニューオリンズのR&Bの第一人者、ファンキーソウル、リー・ドーシーのデビュー作です。
ファンキーなサウンドです。
中間部とラストのピアノソロもいい感じでニューオリンズしています。
3, I Got a Mind to Give Up Living 絶望の人生
(トラディショナル)
得意のスローブルーズです。
ねばっこいマイク・ブルームフィールドのギターが堪能できます。
まさに実家にいるような安心感。
4, All These Blues オール・ジーズ・ブルーズ
(トラディショナル)
ソウルフルなアレンジにしています。
ここにきてバターフィールドのハープが大々的にフューチャーされました。
多分セッションは延々と続いているのでしょうがフェイドアウトで終わります。
5, Work Song (instrumental) ワーク・ソング
(ナット・アダレー、オスカー・ブラウン・Jr)
ジャズ畑の人でキャノンボール・アダレーの弟、ナット・アダレーの1960年のヒット曲です。
メインリフをハーモニカで演奏します。
続けてロックサウンドでジャズに合わせたギターソロが炸裂し、ハープ、キーボード、ギター二人とソロを回してメインのメロディに戻って終わります。
ベースとドラムのリズムセクションがジャズのビートになっているのも面白いところです。
6, Mary, Mary メアリー・メアリー
(マイケル・ネスミス)
ロックよりの曲です。
作者のマイケル・ネスミスはモンキーズのメンバーでした。
モンキーズというとなんかビートルズの劣化パロディというイメージもあったのですが、今となっては徐々に評価は高くなり、いくつかの曲はスタンダード化してきています。
リンダ・ロンシュタットで有名な「ディファレント・ドラム」もネスミスの作です。
7, Two Trains Running トゥー・トレインズ・ランニング
(マディ・ウォーターズ)
「Still a Fool」としてマディ・ウォーターズのベストに収録されています。
ブルーズにトレインはつきもので、列車を題材にした曲はたくさんあります。
どれも疾走する電車の表現が楽しいものです。ここでもラストの盛り上がりがなかなかいけてます。
8, Never Say No ネヴァー・セイ・ノー
(トラディショナル)
シンプルなスローブルーズです。何気にオルガンがいい味出してます。
9, East West (instrumental) イースト・ウエスト
(マイク・ブルームフィールド、Nick Gravenites)
エキゾチックな雰囲気もあり何度がピークを入れた面白いジャムセッション風の曲です。
一つのきっかけで違う方向へ全員がドライヴしていくという瞬間がいくつかあり、そういうところは1970年代のサザンロックにつながっていきそうです。
また、数年後の1969年にウッドストックで大ブレイクするサンタナの原型も感じるのは私だけ?
コメント