1960年代から70年代にかけてアメリカのポップスを代表するレコードレーベルがありました。
モータウンレコードです。
その設立当初から関わって活動して、1970年代に至っては今まで以上の売り上げ、評価を獲得したアーティストがマーヴィン・ゲイです。
キーワードは “モータウン・サウンド ”です。
ミシガン州デトロイトに拠点を置くレコード会社でデトロイトの車産業に合わせてモーター・シティからモータウンと名付けられました。
創業者はアフリカン・アメリカンのベリー・ゴーディ・ジュニアです。
タムラ・レコードから始まりモータウンレコードとなっていきます。
タムラ・モータウンと呼ばれたりします。1960年代からシュープリームスやテンプテーションズなどでヒットを飛ばし、一躍ビッグレーベルとなりました。
マーヴィン・ゲイも1961年にデビューアルバムをリリースしています。
ただなんと言いますか、1960年代は他のモータウンのアーティストの活躍が凄すぎるため、あまりヒットしていたイメージはありません。
しかしながら1970年までに年1枚のペースでアルバムをリリースしてヒットチャートに載せています。
一説によるとこの時期、初期のマーヴィン・ゲイは曲に合わせて声や歌い方を変えるなど、いかにビジネスとして成功する音楽を作るかに徹していたそうです。
時代的なこともあるのでしょうがアーティスティックな見方ではなく経営者目線の音楽制作でした。
そして1971年、今までと違う手法で、というか自分をさらけだしたようなアルバム「ホワッツ・ゴーイン・オン」をリリースし、音楽界に名を残すことになります。
このアルバムは1960年代のモータウン・ビートと言われるもの、シュープリームスやマーヴェレッツなどのリズムとは違ってもっとゆっくりしたグルーヴとなっています。
時代の流れもそうなっており、1970年代のスティーヴィー・ワンダーやカーティス・メイフィールドも同じく社会性を持ったテーマが受け入れられました。
ここから本当にやりたいこと、考えていることを音楽で表現し、全世界に受け入れられる音楽となります。
それは単なる恋愛や友達のことを歌っているポップスではなくもっと深い部分で繋がりたいというソウルフルな表現でした。
この後も「レッツ・ゲット・イット・オン」など素晴らしくグルーヴィーなアルバムもリリースしていきます。
私もリアルタイムでリリースされた時の状況は幼すぎてわかっていません。
日本では「愛のゆくえ」という間違いじゃないけど微妙、という邦題だったようです。
このアルバムが本当にすごい影響力を持っていると感じたのは没後の1980年代終盤から90年代になってからです。
ネオ・ソウルというジャンルが流行っていた時には「ホワッツ・ゴーイン・オン」はソウルを象徴する曲として扱われました。
洋楽、邦楽を問わず最先端で感度の高いミュージシャンの御用達の曲といった感じでした。特にイギリスのミュージシャンなどはこの曲に近いアレンジとか、この曲のカバーをいろんなところで聞いたものです。
今聴くと、別の味わいを感じます。1990年代以降はモータウン専属の演奏集団、ファンク・ブラザーズが「永遠のモータウン : (スタンディング・イン・ザ・シャドウ・オブ・ザ・モータウン)」という映画になったり、私自身がより音にこだわって聴くようになったこともありますが、やっぱり演奏です。
聴きどころはわたくし的にはベースなんです。
このアルバムでは二人のベーシストが演奏しています。トラック1〜5まではまではジェームス・ジェマーソン、残り5〜8までの4トラックをボブ・バビットが演奏しています。この両者のサウンドの違いが興味深いのです。
ジェームス・ジェマーソンはよく語り継がれているとおり、フェンダー、プレシジョンベースのフラットワウンドのベース弦(単純に言うと芯線に角形のベルト見たいな平な線を巻きつけたもの、弦の表面は滑らかになります)の音です。あえて弦交換はしなかったそうです。そう言う音が欲しかったのでしょう。
いわゆる歌をアシストして引き立たせるベースです。
ボブ・バビットはハンガリー系アメリカ人です。1966年から1972年までファンク・ブラザーズの1員として活躍しました。音を聞くとベース弦はラウンドワウンド(芯線に丸い線を巻きつけたもの)なんだろうと思います。ジェマーソンに比べ音の輪郭がはっきりしており、サウンドがカラフルになります。
バンドサウンドにおける両者の違いは、ジェームス・ジェマーソンのベースはバンドのサウンド全体を持ち上げるようにドライヴしていきます。
ボブ・バビットのベースはバンドのサウンド全体を引っ張ってドライヴします。その違いが楽しめます。優劣はつけられませんが明らかに全体のサウンドに影響を与えています。
リズム的には似た曲調のものが多いのでベースアレンジの違いがはっきり出ていて面白いのです。
というオタク的な楽しみもできる「ホワッツ・ゴーイン・オン」なのでした。
アルバム「ホワッツ・ゴーイン・オン」のご紹介です。
演奏
マーヴィン・ゲイ ヴォーカル、ボックスドラム Tr.1、メロトロン Tr.6
ファンク・ブラザーズ
イーライ・ファウンテン アルトサックス Tr.1
ワイルド・ビル・ムーア テナーサックス Tr.6
ジョニー・グリフィス セレステ、キーボード
アール・ヴァン・ダイク キーボード
ジャック・ブローケンシャ ヴィブラフォン、パーカッション
ジョー・メッシーナ、ロバート・ホワイト エレキギター
ジェームス・ジェマーソン ベース Tr. 1,2,3,4,5
ボブ・ ベース Tr. 6,7,8,9
チェット・フォレスト ドラムス
ジャック・アシュフォード タンバリン・パーカッション
エディ・“ボンゴ”・ブラウン ボンゴ、コンガ
アール・ドゥルーアン ボンゴ、コンガ Tr.7
ボビー・ホール ボンゴ Tr.9
その他 バックグラウンドヴォーカル、オーケストラは省略させていただきます。
ジョン・マトウシェク マスタリング
ヴィック・アネーシーニ デジタル・リマスタリング
ジェームス・ヘンディン フォト
キャサリン・マーキング グラフィックデザイン
曲目
*参考までにyoutube音源等をリンクさせていただきます。
1, What’s Going On ホワッツ・ゴーイン・オン
ざわめきを聞くだけでわかる説明不要の名曲です。最初のサックスからムード満点です。
2, What’s Happening Brother ホワッツ・ハプニング・ブラザー
バックグラウンドヴォーカルの弦楽器的な使用が特徴です。ベースもいい味出してます。
3, Flyin’ High (In the Friendly Sky) フライン・ハイ(イン・ザ・フレンドリー・スカイ)
ドラマチックなイントロからシンプルに歌い込みます。
4, Save the Children セイヴ・ザ・チルドレン
メドレーで繋がっていますが単体で聞くといきなりヴォーカルが入ります。最後にブレイクして別ような曲になります。
5, God is Love ゴッド・イズ・ラヴ
また切れ目なくつながります。素晴らしいグルーヴが続きます。
6, Mercy Mercy Me (The Ecology) マーシー・マーシー・ミー(ジ・エコロジー)
また繋がって聞こえますが、ベースが変わります。心なしかサウンドの色彩感も変わってくるような。
7, Right On ライト・オン
ファンキーなグルーヴに浸れます。この曲も後半全く曲調が変わります。
8, Wholy Holy ホーリー・ホーリー
静かに始まります。信仰の曲です。
9, Inner City Blues (Make Me Wanna Holler) インナー・シティ・ブルーズ(メイク・ミー・ワナ・ホラー)
最後はまた緊張感を持って始まりドラマチックでサウンドが凝っています。ベースが最高です。
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