「早熟の天才から異次元の天才へ」Talking Book  : Stevie wonder / トーキング・ブック : スティーヴィー・ワンダー

 スティーヴィー・ワンダーは11歳でモータウンと契約してヒット曲を次々と飛ばした早熟の天才です。が、それで終わる天才ではありませんでした。
さらに1971年、20歳を超えた時にモータウンと交渉して完全に自分で自由にコントロールできる音楽を作る権利を得ました。しかも今までの積立金みたいなことで大金も手に入れました。
そこは揉めたとか、裁判で決まったとかではないようなので、双方とも紳士的な対応だったのかと思われます。

この時点でスティーヴィーはわかっていたのだと思います。マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」の影響も大きかったのでしょう。
これからはアルバム主体のマーケットとなり、内容も男女間の恋愛だけではなくより深い表現、共感が求められているのだと。

それ以降、まさに怒涛の勢い勢いで歴史的名作をリリースしていきます。その流れは「ミュージック・オブ・マイ・マインド」「トーキング・ブック」「インナービジョンズ」「ファースト・フィナーレ」「キー・オブ・ライフ」と聞けば納得していただけるかと思います。

ただ、今の耳で聞くと「あれ、聞いたことのあるようなメロディと曲調ばっかりじゃん、本当は流行りのスタイルをうまく取り入れていただけじゃないの?」と思われるかもしれません。でも違うんです。聞いて「ああ、これ、ある」と思ったメロディやリズムやアレンジは全部ここが出発点です。
そこがすごいところです。

さらにもっとすごいオリジナリティを感じることがあります。私は最後の「アイ・ビリーヴ」を聞いた時に「こんなサビのメロディって、どうやったら浮かんでくるのだろう」と素直に驚愕し、鳥肌が立ちました。

スティーヴィー・ワンダーの声は一聴するとポジティヴで明るく聞こえます。天真爛漫な人かもと思ってしまいますが、聞けば聞くほどに根底には怒り、悲しみがあるのが感じられます。ソウル、ブルーズ、ゴスペルなどに共通する感覚が詰まっているのです。それは強いて言えばあのルイ・アームストロングにつながる感覚です。(個人の感想です)

水を得たスティーヴィーがまず手に入れたのが創造力の源となる楽器でした。当時最先端の電子楽器、シンセサイザーです。
当時はまだアナログシンセサイザーしかありません。しかもモノフォニック・シンセサイザーという単音再生が主流です。アナログシンセサイザーで和音を出すにはその分、独立した発信機が必要になります。4音ポリフォニックとか6音ポリフォニックのシンセは非常に特殊で高価な機材、楽器でした。スティーヴィーはそのポリフォニック・シンセの世界の親分と言えるTONTOを手に入れました。
アルバム「ファースト・フィナーレ」まではTONTOを使ってアルバムを制作していきます。「キー・オブ・ライフ」からはメインのキーボードがYAMAHA GX-1になりますがその辺はまた後日。

TONTOは部屋1つが全て楽器みたいな壮大なキーボードです。アナログシンセサイザーの場合、ユニットが分かれていてVCO, VCF, VCAというセクションをパッチケーブルで繋いで音を作ります。
スティーヴィーの場合は視力がほとんどないようなので、常にスタジオではサポートが必要だったでしょう。スタッフにも恵まれていたのだと思います。


アルバム「トーキング・ブック」のご紹介です。


曲目と演奏
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   You Are the Sunshine of My Life ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル。コーラス、フェンダーローズ、ドラムス
ジム・ギルストラップ  ヴォーカル、コーラス
ラニー・グローブス  ヴォーカル、コーラス
グロリア・バーリー  コーラス
スコット・エドワーズ  ベース
ダニエル・ベン・セブロン  コンガ

スティーヴィーの楽曲の中でも指折りの有名な曲です。太陽とは希望、ひかり、暖かさ、信仰、幸福などいろんなポジティヴなものの象徴です。ただ、すごい人だなあと思います。


2,   Maybe Your Baby メイビー・ユア・ベイビー

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、コーラス、フェンダー・ローズ、ホーナー・クラヴィネット、ムーグ・ベース、ドラムス
レイ・パーカー・ジュニア  エレキギター

打って変わって緊張感のあるサウンドです。ワウを使ったギターがカーティス・メイフィールドを彷彿します。バックグラウンドヴォーカルが重要な役割をしています。


3,   You And I (We Can Conquer the World) ユー・アンド・アイ(ウイ・キャン・コンクァー・ザ・ワールド)

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、ピアノ、TONTO、ムーグ・ベース

こういう曲をやらせるとたまりません。シンプルな曲ですが声のエフェクトとかも凝っています。


4,   Tuesday Heartbreak チューズデイ・ハートブレイク

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、コーラス、フェンダー・ローズ、ホーナー・クラヴィネット、ムーグ・ベース、ドラムス
デニース・ウィリアムス  コーラス
シャーリー・ブリューワー  コーラス
ディヴィッド・サンボーン  アルトサックス

アルトサックスが大活躍です。キーボードにワウをかけています。


5,   You’ve Got It Bad Girl ユーヴ・ガット・イット・バッド・ガール

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、コーラス、フェンダー・ローズ、ムーグ・ベース、TONTO、ドラムス
ジム・ギルストラップ  コーラス
ラニー・グローブス  コーラス
ダニエル・ベン・セブロン  コンガ

本末転倒な話ですけど、なぜかマイケル・ジャクソンを思い出します。


6,   Superstition 迷信

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、コーラス、ホーナー・クラヴィネット、ムーグ・ベース
トレバー・ローレンス  テナーサックス
スティーヴ・マダイオ  トランペット

ジェフ・ベックのために作った曲ですが、自分でも演ってしまいましたということだそうです。楽曲が足りなくて・・・なんてことは特にこの時期のスティーヴィーにはあり得ないので、どうしてもキーボードで演奏したリフを入れてみたかったのだと思います。どこまでエレキギターのようにキレのいい音が作れるか試したかった感じです。


7,   Big Brother ビッグ・ブラザー

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、ホーナー・クラヴィネット、ムーグ・ベース、ハーモニカ、ドラムス、パーカッション

ひとりマルチプレイで仕上げています。ボブ・ディランともシカゴ・ブルーズとも違うハーモニカがいい雰囲気を出しています。


8,   Blame It on the Sun ブレイム・イット・オン・ザ・サン

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、コーラス、ピアノ、ハープシコード、ムーグ・ベース、TONTO、ドラムス
ジム・ギルストラップ  コーラス
ラニー・グローブス  コーラス

名曲です。


9,   Lookin’ for Another Pure Love ルッキン・フォー・アナザー・ピュア・ラヴ

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、コーラス、フェンダー・ローズ、ムーグ・ベース、ドラムス
デブラ・ウィルソン  コーラス
シャーリー・ブリューワー  コーラス
ロリス・ハーヴィン  コーラス
ジェフ・ベック  ギター
バズ・フェイデン  ギター

普通の曲の構成と違って変わった感じの曲です。セッション風とも取れますが、いろんなことを実験しているのでしょう。聞きどころは色々とあります。


10,  I Believe (When I Fall in Love It Will Be Forever) アイ・ビリーヴ(フェン・アイ・フォール・イン・ラヴ・イット・ウィル・ビー・フォーエバー)

スティーヴィー・ワンダー  ヴォーカル、コーラス、ピアノ、ホーナー・クラヴィネット、ムーグ・ベース、ドラムス

名曲というよりすごい曲です。

Bitly

コメント

タイトルとURLをコピーしました