「ニューオリンズ音楽絵巻」Dr.John’s Gumbo : Dr.John / ガンボ : ドクター・ジョン

 ニューオリンズはアメリカ音楽の出発点でありブルーズ、ジャズ、それに続くロックンロール、ロックの発祥の地と言われています。
アメリカの悲しい歴史なのですが、アフリカから奴隷船で連れてこられ、主に南部のニューオリンズなどで売買されました。そういう中で独特のアフリカン・アメリカンの文化ができます。
音楽は生活に欠かせないものでした。アメリカでキリスト教や西洋文化と相まってブルーズやジャズが生まれました。

といっても私たちが最初の連想するブルーズはミシシッピ・デルタブルーズだったり、シカゴブルーズだったりします。ジャズもモダンジャズと言われるハードバップとかソウル、ファンク系になります。

ニューオリンズはそれよりもっと初期のプリミティヴな音楽としてのブルーズ、ジャズになります。
それにニューオリンズでは独自の進化がありました。その一つがニューオリンズのリズム、セカンドラインです。これはシカゴブルーズとかハードバップにはそうそう結びつきません。

しかしアメリカの音楽のルーツを追いかけていくと必ずニューオリンズの話に当たります。でも「私、ジャズが好きです。キース・ジャレットの音楽が好きなんです」とか「ハードロック命です。AC/DCは神です」という人にはニューオリンズの音楽は近いものではありません。

もしかしたら相当深い部分で繋がっているかもしれません。いやきっと繋がっています。ほんとか?

ということでニューオリンズ・ミュージックです。
重要人物といえばルイ・アームストロング、ファッツ・ドミノを筆頭にアラン・トゥーサン、プロフェッサー・ロングヘアー。そしてドクター・ジョンです。

ご紹介するアルバムは1972年リリースのドクター・ジョンがニューオリンズ・スタンダードを集めた「ドクター・ジョンズ・ガンボ」です。
ガンボとはニューオリンズ名物、ソウルフードであるごった煮シチューです。

来歴

ドクター・ジョンについて説明しておきますと、ドクター・ジョンことマック・レベナックは1941年11月20日、ルイジアナ州ニューオリンズに産まれました。父親はニューオリンズのイーストエンドで電器店を経営し、レコードの販売も行っていました。
小さい頃からピアノやギターを習得しました。16歳で高校を中退し、プロとして音楽活動を始めます。
1960年頃にコンサート中に銃撃を受けて左手の薬指を負傷し、ピアノに専念することになりました。また麻薬の使用と販売、売春宿の経営などもしていましたが最終的に麻薬容疑で逮捕され2年間服役することになります。1965年に刑期を終了してロサンゼルスに向かいます。

もうすでに普通ではない人生です。

(一応言っておくと1989年に治療を受けてヘロイン中毒からは完全に立ち直ったそうです)

ブードゥー教に興味を持ってドクター・ジョンと名乗り1968年にファースト・アルバム「Gris Gris(グリグリ)」をリリースします。ちなみにこのアルバムはローリングストーン誌の「史上最も偉大なアルバム500枚」の143位につけています。「ガンボ」は404位です。
海外での高評価に比べ日本ではほとんど無名です。

以後、安定的に音楽活動を続けていましたが2019年6月6日、ニューオリンズで心臓発作のため亡くなられました。享年77歳でした。

ドクター・ジョンの音楽は一般的には、特に日本人の感覚ではわからない、理解しづらいものです。でも「ガンボ」のようにニューオリンズの伝統的な曲を歌ったものもあります。これは上質なメロディとニューオリンズのエッセンスがいっぱい詰まった楽しいアルバムです。
ドクター・ジョンはミュージシャンズ・ミュージシャン的な人でもありました。
ロック界でもいろんな人がカバーしたり、共演したりしています。特に英国のミュージシャンからは評価が高いようです。

とっつきづらい要因として、見た目からしてロックンローラー的なかっこよさはありません。いかがわしさが漂っています。本人の弁だと思いますがドイツ人、アイルランド人、イギリス人、スペイン人、フランス人の血を引いているそうです。
歌い方も独特です。曲調もブードゥーだのモジョだので怪しさ満載の音楽です。
ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」にも出演していましたので年齢の高いロックファンにはお馴染みかと思われます。

でもなんと言っても一番の功績はニューオリンズの音楽、文化を世界に紹介したことです。

アルバム「ドクタージョンズ・ガンボ」のご紹介

演奏

ドクター・ジョン  ギター Tr.6、ピアノ、コルネット、ヴォーカル

リー・アレン  テナーサックス
ロニー・バロン  オルガン。エレクトリック・ピアノ、バッキングヴォーカル、ピアノ Tr.6
ハロルド・バティスティー  クラリネット、サックス、バッキングヴォーカル、ホーン・アレンジメント Tr.4
モー・ベンジャミン  サックス、バッキングヴォーカル
ジミー・カルフーン  ベース
シドニー・ジョージ  サックス、ハーモニカ Tr.6
ケン・クリマック  ギター
デイヴ・ラスティ  サックス
メルヴィン・ラスティ  トランペット、コルネット
ジョン・ユーイング  トロンボーン
アルヴィン・ロビンソン  ギター、バッキングヴォーカル
フレディ・スタール  ドラム、パーカッション
リチャード・“ディディます”・ワシントン  パーカッション


バッキングヴォーカル シャーリー・グッドマン、タミー・リン、ロビー・モンゴメリー、ジェシカ・スミス

ハロルド・バティスティー  プロデューサー
ジェリー/ウエクスラー  プロデューサー
キース・オルセン、ゲイリー・ブラント  エンジニア
トム・ウィルクス  デザイン、写真
バリー・ファインスタイン  デザイン、写真


曲目
*参考までにyoutube音源等をリンクさせていただきます。


1,   Iko Iko  アイコ・アイコ
(ジェームス・“シュガーボーイ”・クロフォード)

童謡みたいな曲調です。頭の中でループし始めます。コール・アンド・レスポンスが楽しい曲です。


2,   Blow Wind Blow  ブロウ・ウインド・ブロウ
(ヒューイ・“ピアノ”・スミス、イジー・クーガーデン)

いいメロディだと思います。ニューオリンズらしいリズムもハマってます。


3,   Big Chief  ビッグ・チーフ
(アール・キング) 

これもニューオリンズのいろんな人がカバーしています。有名なスタンダードです。


4,   Somebody changed the Lock  サムバディ・チェンジド・ザ・ロック
(マック・レベナック)

ドクター・ジョン本人の作です。懐かしめのアレンジです。


5,   Mess Around  メス・アラウンド
(アーメット・アーティガン)

この曲もレイ・チャールズを筆頭に、いろんな人がカバーしています。


6,   Let the Good Times Roll  レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール
(アール・キング)

B.B.キングで有名なR&Bクラシックです。


7,   Junko Partner  ジュンコ・パートナー
(ボブ・シャッド)

イギリスのパンクバンド、クラッシュもレゲェバージョンでカバーしています。


8,   Stack-A-Lee  スタッカリー
(トラディショナル)

有名なトラディショナルでジェームス・ブラウン、ドク・ワトソン、ボブ・ディランとジャンルを問わずカバーされています。


9,   Tipitina  ティピティーナ
(プロフェッサー・ロングヘアー)

ニューオリンズの同じ名前のクラブも有名です。重鎮プロフェッサー・ロングヘアーの作品です。このゆったりした後ノリがたまりません。


10,  Those Lonely Lonely Night  ゾーズ・ロンリー・ロンリー・ナイト
(アール・キング、ジョニー・ヴィンセント)

ある意味定型的な曲ですので、ゆったりと聴いていられます。そういう中にももの悲しさを感じるところがニューオリンズです。


11,  Huey Smith Medley  ヒューイ・スミス・メドレー
      1,  High Blood Pressure         ハイ・ブロッド・プレッシャー
      2,  Don’t You Just Know It  ドント・ユー・ジャスト・ノウ・イット
      3,  Well I’ll Be John Brown  ウエル・アイル・ビー・ジョン・ブラウン


楽しさ満載の曲です。高血圧も笑い飛ばします。


12,  Little Liza Jane  リトル・リザ・ジェーン
(ヒューイ・“ピアノ”・スミス、ジョニー・ヴィンセント)

最後も楽しく盛り上がって終わります。

ニューオリンズの伝統音楽の魅力はやっぱりコール・アンド・レスポンスなどのかけ合いやリズムと楽器のやりとりと混ざり具合です。好きになったらクセになります。

Bitly
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