

2025年の現在でもジョン・ハイアットは今も変わらず良質なアメリカン・ミュージックを作り続けています。
彼が一躍世界的に有名になったのは1987年の「ブリング・ザ・ファミリー」をリリースした時です。
その時はバックにライ・クーダー、ジム・ケルトナー、ニック・ロウといった超一流のバック・バンドを伴って歌うというものでした。
このメンツでしばらく活動すればしばらくは安泰と言いたいところですが、ジョン・ハイアット以外は売れっ子ミュージシャンばかりなので(なんて失礼な)そうそういつまでも押さえておけません。
そこでハイアットは今度は新進気鋭の若いメンバーで組んだバンドで活動し、アルバムをリリースします。
「ザ・ゴナーズ」と名付けられたバンドで1年後の1988年8月30日にアルバム「スロー・ターニング」をリリースしました。
これがまた好評でした。
前作よりエネルギッシュで若返った感までありました。
ただし、内容は今までのように伝統的なアメリカン・ミュージックをベースにしたもので、メインストリームのど真ん中というわけではありません。
ただ、この頃になるとテクノ、ラップなどがひと段落して、ジョン・クーガー・メレンキャンプやネヴィル・ブラザーズ、アフリカン・ミュージックなども徐々にに評判になっていました。
そういうメインストリームが姿を消して細分化した音楽界ではジョン・ハイアットのように個性で評価される土壌はありました。
前作と同じように評論家にも好評で、メガヒットとまではいかなくても安定した音楽活動ができる、やりやすい状態にはなりました。

前編にわたってジョン・ハイアットの気持ちのいいヴォーカルが炸裂しますが、もう一つの聞きどころはギタリスト、サニー・ランドレスのなんとも驚愕なスライドギターです。
彼の登場でスライド・ギター界は(実はあってないような世界なんですが)もう一つ高い次元に入りました。
このアルバムにおいても彼の貢献度はかなりのものです。
ランドレスのスライドギターによってバンドがドライヴされ、スピード感がアップし、全体のエネルギー量が高くなっている感じです。
サニー・ランドレスは1951年2月1日にミシシッピ州カントンで生まれ、ルイジアナ州ラファイエットで育ちました。
ルイジアナ、ニューオリンズを中心とした音楽にザディコ(Zideco)と呼ばれる形態があります。
広義にはブルーズの一種ですが、特徴としてメインにアコーディオンを使用していることです。
元はフランス人入植者が演奏していたケイジャンというダンス・ミュージックから派生しています。
フランス系の住民と黒人のハーフである、クリオールと呼ばれる人たちが始めたフォーク・ミュージックです。
そのザディコ・ミュージックの第一人者にクリフトン・シェニエという1965年から活躍していた重鎮がおられます。
そのクリフトン・シェニエのバンド「レッド・ホット・ルイジアナ・バンド」で唯一の白人ミュージシャンながらサニー・ランドレスは活動していました。
(ザディコの重鎮といえばもう一人忘れてはならないバックウィート・ザディコという御仁もいらっしゃいます)
スライド・ギターとはギターの弦上をガラスや金属製のバーで抑えながら弾く奏法で、カントリー・ミュージックで使用されるスティール・ギターと同じような効果が得られ・・・と言いたいものの今となってはスティール・ギターよりスライド・ギターの方が有名ですね。
というのもスライドギターの始まりはカントリー・ブルーズですが、1960年代よりロックで使用されて以降、デュエイン・オールマンやライ・クーダー、ビートルズのジョージ・ハリソンとかリトル・フィート、ジェシ・エド・ディヴィスなどがそのスライド奏法と、スライドでしか表現できない世界を広めてくれました。
ランドレスの奏法はシンプルにスライドバーのみを使った弾き方から一つ次元を上げたような弾き方です。
小指にスライドバーをはめて、残りの指で押弦をする奏法です。右手も5本の指を使って今までになかったようなフレーズも入れてきます。
そのランドレスのギターはスライド・ギターとザディコをかけて「スライデコ」さらに「キング・オブ・スライデコ」などとと呼ばれているそうです。
「キング・オブ」っていうことはもしかしたら今のザディコ界にはランドレスクラスのスライド・ギタリストがいっぱいいるのかもしれません。(それはないって)
ランドレスといえばエリック・クラプトンがフロスロード・ギター・フェスティバルに呼んだりして有名にはなリマした。
クラプトンをして、「サニー・ランドレスは世界で最も進歩したギタリストであると同時に、世界で最も過小評価されているギタリストだ」と語っています。
RHINO「Crossroad 2010 Official Live Video」からのリンクです。
「スロー・ターニング」のアルバムジャケットのデザインも素晴らしく、男っぷりがええ感じの横顔のアップです。
ジョン・ハイアットは渋めのええ感じのジャケットが多いのです。
(時々「武道館のライブ」とか「えっ」と思うようなのもありますがご愛嬌)

また、この人の歌詞は物語の一部、1シーンを切り取ったようなものが多いので、刹那的だったり、繊細だったり、荒くれ者だったり、後悔したり、ポジティヴになったりと曲によってさまざまです。
深読みするか、どうでもいいと思うか、その辺はリスナーが好きに解釈してくれという感じだと思います。

アルバム「スロー・ターニング」のご紹介です。

演奏
ジョン・ハイアット ヴォーカル、ギター、エレクトリック・ピアノ
ケネス・ブレビンス ドラム、タンバリン
サニー・ランドレス エレクトリックギター、アコースティックギター、ナショナルスティールギター
ディッド・ナウ・ランソン ベースギター
ジェームス・フッカー ハモンドオルガン
バーニー・リードン ギター、マンドリン、バンジョー、マンドセロ
アシュリー・クリーブランド バッキングヴォーカル
デニス・ロコリエール バッキングヴォーカル
グリン・ジョーンズ プロデューサー
アントン・コービン フォト




曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Drive South ドライヴ・サウス
イントロからしてまさにアメリカン・ミュージックというサウンドです。オープニングにピッタリです。このアルバムを象徴しています。現実からの解放の願望なのかと思われる歌詞です。
2, Trudy and Dave トゥルーディ・アンド・デイヴ
アコースティックに、カントリー風に始まります。ブルーズではありませんがトーキングブルーズみたいな伝統を感じる曲調です。
内容は「ナチュラル・ボーン・キラーズ」ほどではありませんが「ボニー・アンド・クライド」のような刹那に生きるカップルのことが歌われます。
3, Tennessee Plates テネシー・プレート
ロックンロール炸裂です。ギアを上げてきました。必殺のスライドギターが素敵です。
テネシー・プレートとはテネシー州のナンバープレートのことです。テネシープレートのキャデラックを探すという内容です。
4, Icy Blue Heart アイシー・ブルー・ハート
クールダウンして、しみじみと冷え切った関係を歌うバラードです。
この人は本当に表現力が抜群です。
5, Sometime Other Than Now サムタイム・アザー・ザン・ナウ
ミディアムテンポでいかにもアメリカンロックという感じです。
隠れ名曲と思います。
6, Georgia Rae ジョージア・レイ
ポップで個人的に一番好きな曲です。
全て俺に任せときなとばかりにハイアットが「ジョージア・レイ・OK・ジョージア・レイ」と歌うだけで深い味わいを感じます。
そしてバックのオルガンがいい感じです。ヴォーカルとギターが雄弁です。
7, Ride Along ライド・アロング
古き良き時代のロックンロールといった感じです。
ここでもバックがタイトでスライドギターが光ります。
8, Slow Turning スロー・ターニング
タイトル曲、王道アメリカンロックな曲です。
ドライヴしながらラジオを聴いて、後ろの席の子供がチャーリー・ワッツみたいに暴れている。という歌詞が出てくるので、ローリング・ストーンズが流れているんでしょう。
9, It’ll Come to You カム・トゥ・ユー
ヘヴィーなリズムで力強く歌います。
何度もギターかキーボードのソロが出そうな瞬間があるのですが、出ないのだな。
10, Is Anybody There? イズ・エニバディ・ゼア?
今度は力を抜いてしっとりとした始まりですが後半に力が入ってきます。
内省的な歌詞で自分を理解してくれる人が必要という内容です。
11, Paper Thin ペイパー・シン
シンプルな作りの曲ですがバリエーションで聴かせます。
ローリング・ストーンズがタイトになったような風味もあります。
12, Feels Like Rain フィールズ・ライク・レイン
最後はアメリカ南部を彷彿させるバラード、名曲です。
懐かしのギターのトレモロサウンドで始まります。なんと無く「レイニーナイト.イン.ジョージア」というソウル・スタンダードを思い出します。
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