ロック史上最も長いアルバムタイトルと言われた(今は違うかもしれません)イギリスのバンド、ザ ・キンクス1969年リリースの「Arther Or The Decline And Fall Of The British Empire」邦題は「アーサー、もしくは大英帝国の衰退および滅亡」と言います。
これは絶対にイギリス人でないと作れないアルバムです。
内容はロンドンに住む一市民アーサー(モデルはキンクス のリーダー、レイ・デイヴィスの親戚らしい)が生活に追われてオーストラリアへ移住する話を何気に大英帝国と結びつけて語られるコンセプトアルバムです。
元はグラナダテレビのテレビドラマとして構想した様ですが結果、モノにならずコンセプトアルバムとして出来上がったということです。
ザ ・フーの「トミー」と同じ時代の作でよく比較されますが、イギリス的視点でそんなに派手でも仰々しくもない内容なので、トミーとはまた違った味わいがあります。
トミーはもちろん素晴らしいアルバムですが、聴いた回数でいうとアーサーが多くなります。
共通点は物語の出発点が第2次世界大戦後の混沌としたイギリスで、戦争の影を引きずりながら、変化せざるをえなくなる人たちです。
アーサーは全てにおいてトミーに比べれば地味です。でもサウンドに統一感があり良いメロディがいっぱい詰まってるアルバムです。
キンクスの魅力はなぜか超一流になれないB級の味というところにもあります。ひねくれ者なので流行のあえて逆を行っている感じもあるのですが、時々無理やりに合わせて失敗します。
曲の平均点は高いのですが時代を引っ張る様な強力なアルバムはありません。
それらを全部ひっくるめてみんなキンクスが大好きなのです。
ヴィレッジグリーンの後に出たこのアルバムは「あっ、キンクスやる気出しちゃってる」と思ったに違いありません。(後追い世代なので推定)
結果的にはロック界への影響力とセールス的にいってザ・フーのリリースした「トミー」の圧勝でした。
でも世界中のニッチなファンがこのアルバムを忘れることはありません。
アルバム「アーサー、もしくは大英帝国の衰退および滅亡」のご紹介です。
演奏
レイ・デイヴィス ヴォーカル、ギター、キーボード
デイヴ・デイヴィス ギター、ヴォーカル
ミック・エイヴォリー ドラムス、パーカッション
ジョン・ダルトン ベース
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Victoria ヴィクトリア
ノリの良い曲で始まります。この曲はコンサートでも大受けです。(ワン・フォー・ザ・ロードより)
2, Yes Sir, No Sir イエス・サー、ノー・サー
サーというと兵隊さんを思い出しますが、上下関係に悩む曲です。これもレイ・デイヴィスにしか書けない曲です。個人的にお気に入りです。
3, Some Mothers Son サム・マザーズ・サン
何気に綺麗なメロディです。
4, Drivin’ ドライヴィン
不条理というかヤケクソというか面白い歌詞です。とっても重いことを軽~く歌ってます。
5, Brainwashed ブレインワッシュド
テーマはそのまんま「洗脳」です。かっこよくハードに演奏します。
6, Australia オーストラリア
皮肉たっぷりにオーストラリア賛歌です。
7, Shangri-La シャングリラ
あなたの望んだ楽園は小さく、そこも生活が楽じゃないという話です。優しく歌いますが、辛辣です。でもデイヴ・デイヴィスはこの曲を「小市民をこき下ろした曲じゃない、もっと愛情が溢れた曲だ」と言っています。
構成が凝っていて、メロディも美しく良い曲です。
8, Mr. Churchill Says ミスター・チャーチル・セイズ
勝利するまで戦い続けなければならない、とチャーチル首相やビーバーブルック男爵、モンゴメリー 将軍、マウントバッテン卿に言われる内容です。有無を言わさず世界大戦です。
歌詞の内容はともあれ曲は好きです。
9, She’s Bought a Hat Like Princes Marina マリーナ王女の帽子のような
可愛らしく綺麗な曲です。イギリス風味満点です。
最後はドタバタで終わります。
10, Young and Innocent Days 若くて純真な時代
歳をとって若かりし頃を思い出すという詩です。
11, Nothing to Say ナッシング・トゥ・セイ
おじいさんとお父さん親子の断絶についてです。普通のロックバンドはこんなことは歌にしません。そこがキンクス らしいところです。
12, Arthur アーサー
泣き笑いの人生です。でもみんなアーサーのことが好きなんだよと歌いかけます。
たかが人生、なるようにしかならないって言ってるようで好きです。
デイヴの声もユニゾンで聞こえます。
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