「サザン・ソウルの名門スタックス・レコードを支えた職人集団、ブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズの歴史に残るデビュー・アルバム」Green Onions / Booker T.& the M.G.’s / グリーン・オニオン : ブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズ

 このグループの魅力を知っていただくために、まずブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズの音楽的な立ち位置についてご説明します。

1950年代後半にソウル・ミュージックが生まれました。
簡単に言えばアメリカ合衆国全土のアフリカ系アメリカ人によって始められたブルーズやR&Bによりゴスペルがミックスされた音楽というイメージです。

レイ・チャールズやサム・クックなどが最初期のソウル・スターで、ヒット曲を連発しました。

1960年代に入るとモータウンとともにサザン・ソウルと呼ばれるメンフィス・ソウルやマッスル・ショールズ・サウンドが活気を帯びてきます。

そのメンフィス・ソウルの名門といえばスタックス・レコードです。

オーティス・レディング、ウィルソン・ピケット、エディ・フロイド・サム&デイヴなど名ソウル・シンガーを生み出しました。

そしてそこのハウスバンドとして数多の名曲に参加しているのがブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズです。
彼らの奏でるサウンドがスタックスのサウンドとして世界中に認知されることになります。

と言いつつも今の時代、特に若い人にはブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズの魅力は分かりにくいかもしれません。

ネームバリューはそこそこあるため、それではと期待して聴いてみると
「なにこれ?、とっても普通、っていうかすごく地味」
くらいで終わりかねません。

私もロックばかり聴いていた頃、このアルバムを聴かせてもらってそう思いました。
(未熟者でした)

しかしいろんな音楽を、特にブラック・ミュージックを深く聴いていくと、この人たちの素晴らしさ、偉大さが朧げながらもわかり始めることになります。

この人たちの演奏のすごいところは「やり過ぎない美学」なのです。
必要最小限の、あるべきところに音があり、不必要な音は出さない、それでいて最高のグルーヴを作れるプレイヤー達なのです。

それは自分を主張する楽しさではなく、みんなと合わせる、同期させる楽しさということです。
R&B、ソウルなどの黒人音楽に不可欠なグルーヴィー、ファンキーに結びつきます。

スタックスのハウスバンドでは、主役であるヴォーカルをいかに盛り上げるか、気持ちのいい音の空間を作って最大の実力を発揮させられるか、を基本にバッキングをしていたのだと思います。

そしてそれはロックにも多大なる影響を与えました。

例えばジェフ・ベックです。
ベックといえば攻撃的でトリッキー、時にはヴォーカルを喰ってしまうくらいの(特にジェフ・ベック・グループ時代ね)存在感あるギターを鳴らしています。

そのベックのアイドルといえば
・エルヴィス・プレスリーのバック、スコッティ・ムーア、
・イギリス生まれのカントリー・ギタリスト、アルバート・リー、
そして
・ブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズのスティーヴ・クロッパー
だそうです。

いろんなものを駆使して変幻自在のギターを弾くベックが尊敬するのは、みんなクリーン・トーンで勝負するギタリストなのですね。

ある時インタビューでジェフ・ベックは「どうしても直接本人に伝えたくてスティーヴ・クロッパーに国際電話をかけた」と語っていました。

その内容は
I’ve gotta tell you,man,what you did for me just by being you is immeasurable.. He was very bumble, but I was telling him that the space is as important as the notes you play」

「どうしても話したいことがあります。あなたがあなたでいることが、私にとって計り知れないほど大切なことです」。彼は流暢な演奏ではなかったけど、彼の音の間(ま)は音があるのと同じように重要だと言いたかった。・・・そうです。

もう一つ、この「グリーン・オニオン」の時はまだメンバーにいなかったのですが、M.G.ズのベース・プレイヤーといえばドナルド・ダック・ダンです。

初代のベーシスト、ルイス・スタインバーグもそうですがダック・ダンもそんなに派手なベース演奏はしません。
しかしスティーヴ・クロッパーともどもすごく評価の高いミュージシャンです。

1980年代中頃、エリック・クラプトンのツアーで一緒に来日しました。
(その時私は初めて生のダック・ダンのベースを聴きました)

クラプトンはドナルド・ダック・ダンを高く評価(どちらかといえば尊敬)していて
「最高のベーシスト」と公言しています。

ブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズの実力、素晴らしさというのは、ある域に達したプレイヤーほどわかるのです。
特にロックの歴史を作ってきた人たちにとって、誠に貴重な、かけがえのないものとなっているようです。

ブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズとはそういう存在なのです。

ついでに
M.G.ズのギタリスト、スティーヴ・クロッパーはレコード・プロデュースもこなしますが、1972年には通称「オレンジ・アルバム」と呼ばれる「ジェフ・ベック・グループ」をプロデュースしています。

ジェフ・ベックのハードロック期のアルバムですがこのアルバムには今までになかったファンキーさが現れています。
スティーヴ・クロッパーに憧れ、尊敬の対象になっていることが窺われて嬉しくなってしまいます。

ご紹介するこのアルバム「グリーン・オニオン」はそういう彼らが主役となってデビューしたアルバムです。

前曲インストゥルメンタルで、4人で実にいい塩梅のグルーヴを出しているのですが、特に派手なフレーズや挑戦的なフレーズを連発することなくいつものように演奏しています。

今から見るとかなりシンプルな演奏なんですが、これが世界的に大ヒットしました。

ふと思ったのですがファンクやソウル・ミュージックという視点で見れば異常にシンプルなものの、当時世の中は、というかロック、ポップスの世界ではサーフ・ミュージック全盛の時代です。

ヴェンチャーズやアストロノーツなどが一般的だったと考えればけっこう渋くてファンキーな、新しい路線に挑戦していると言えます。

まだこの時はウィルソン・ピケットもオーティス・レディングも世に出てきていません
これがオリジナル、スタックス・レーベルからリリースされた最初のLPとなりました。

それまではスタックスのLPとしてマーキーズが2枚、カーラ・トーマスが1枚、計3枚がアトランティック・レコードからリリースされていました。

*ちなみにマーキーズ(The Mar-Keys)とはブッカー・T・アンド・ザ・M.G.ズを中心にホーン・セクションも参加したものという認識で大体よろしいかと思います。

米国ポップアルバムチャートで33位、シングルカットされた「グリーン・オニオンズ」はビルボードほっと100で3位、R&Bチャートで1位といきなりビッグヒットしました。

R&Bスタンダードとなり、のちにディープ・パープル、ヴェンチャーズ、カウント・ベイシー・オーケストラなどジャンルを問わずカバーされることとなります。
(youtubeで検索すると聴けます)

2005年に発表されたロバート・デイメリーの「死ぬまでに聞くべき1001枚のアルバム」にも入っています。
2012年になると、このアルバムは「文化的、歴史的、および/または美的に重要な」ものとして、アメリカ議会図書館によって国立録音登録簿に追記されました。

ほら、聴いてみたくなったでしょ!

次回はブッカー・T・アンド・ザ・M.Gズはもう1枚、カバーアルバムをご紹介させていただきます。

アルバム「グリーン・オニオン」のご紹介です。

Amazon.co.jp: Green Onions (60th Anniversary): ミュージック
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演奏
ブッカー・T・ジョーンズ  ハモンドM3オルガン
スティーヴ・クロッパー  ギター
ルイス・スタインバーグ  ダブルベース、ベースギター
アル・ジャクソン・Jr  ドラム

テクニカル
ヘイグ・アディシアン  カバーデザイン
アーヴィング・シルト  表紙写真

曲目

*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Green Onions グリーン・オニオン
 (ブッカー・T・& ・ザ・M.G.ズ)

映画やドラマで使用されることが多く、聴いたことがある人も多いと思います。
メンバー全員の共作でファンキーで踊れることからヒットしたものです。
一見何気ない演奏ながら、ギターのカッティングだけを見ても普通ではありません。

2,   Rinky Dink リンキー・ディンク
 (デヴィッド・クロウニー、ポール・ウインリー)

R&Bのオルガン奏者、ピアニストのデイヴ・“ベイビー”・コルテスのカバーです。
タイトルは「安っぽい」「ちゃち」という意味です。
オリジナルと比べるとノリの違いがわかります。

オリジナルです。

3,   I Got  a Woman アイ・ガッタ・ウーマン
 (レイ・チャールズ、レナルド・リチャード)

レイ・チャールズの大ヒット曲のカバーです。
レイ。チャールズの声をハモンドオルガンで演るのはハンデが大きいのですが、楽しそうです

オリジナルです。

4,   Mo Onions モー・オニオン
 (ブッカー・T・& ・ザ・M.G.ズ)

トラック1のオルタネート・テイクといった感じです。
黒っぽいノリはトラック1の方ですね。

5,   Twist and Shout ツイスト・アンド・シャウト
 (フィル・メドレー、バート・バーンズ)

後にアイズレーブラザーズとビートルズによってヒットしますが、初録音はザ・トップ・ノーツというヴォーカル・グループだそうです。
ここで聞かれるのはアイズレーかビートルズのバージョンに近い感じです。

オリジナルです。

6,   Behave Yourself ビヘイヴ・ユアセルフ
 (ブッカー・T・& ・ザ・M.G.ズ)

スロー・ブルーズです。
もしかしたら・・・と思いつつ聴いていてもギターソロは出てきません。
でもこの音数の少ないギターフレーズがいいのです。

7,   Stranger on the Shore 白い渚のブルース
 (アッカー・ビルク)

これもオルガン主体のポップスです。
イギリス人のクラリネット奏者兼ヴォーカリスト、アッカー・ビルクのカバーです。

オリジナルです。

8,   Lonely Avenue ロンリー・アヴェニュー
 (ドック・ポマス)

レイ・チャールズのカバーです。
シンプルながらかっこいいオルガンのアレンジです。
後半にはチキンスキンなギターソロも出てきます。

オリジナルです。

9,   One Who Really Loves You ワン・フー・リアリー・ラヴズ・ユー
 (スモーキー・ロビンソン)

モータウンのメアリー・ウェルズのカバーです。
モトウタもいいけど素敵なアレンジだなあとしみじみ思うのです。

オリジナルです。

10,  You Can’t Sit Down じっとしていられない
 (ディー・クラーク、カル・マン、コーネル・マルドロウ)

ザ・ビム・バン・ブーズというグループのカバーだそうです。
これも最高にかっこいいアレンジです。

11,  A Woman, a Lover, a Friend ア・ウーマン、ア・ラヴァー、ア・フレンド
 (シドニー・ワイチ)

オーティス・レディングでも有名ですが、オリジナルはR&B、ソウルシンガー、ジャッキー・ウィルソンです。
ここではソウルフルに歌い上げるハモンドオルガンが聴けます。

オリジナルです。

12,  Comin’ Home Baby カミン・ホーム・ベイビー
 (ボブ・ドロウ、ベン・タッカー)

ジャズドラマー、ディヴ・ベイリー率いるデイヴ・ベイリー・クインテットのカバーです。
定型の3コード進行なんですがすごく広がりを感じさせます。

オリジナルです。

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