マイルス考 : The Complete Columbia Album Collection / ザ・コンプリート・コロンビア・アルバム・コレクション : マイルス・ディヴィス

 マイルスについて考えていたら、最高と最低の評価を思い出しました。

曰く、あの人は生涯を掛けてジャズ、ブラックアメリカン、音楽、ひいては人類に対してすごい使命感と責任感を持って表現し、新しい芸術を創っていったのだ。

いやいや、単に人と同じことをやっていては演奏技術で勝負にならないとわかっていた。
そのコンプレックスで、次々と手を替え品を替え、人と違うことをやろうとしていただけ。

という振幅の差があります。

いろいろご意見はありますでしょうが、もう私にはどちらでも構いません。

どちらの意見にも愛情を感じてしまいます。

彼の残した音楽は魅力的で、不思議と繰り返し聴くのに適しています。それは私にとってはいいものです。

ちょっと前の話になりますが、何気にマイルス・ディヴィス を調べていたらすごいものを見つけてしまいました。

なんか思わず笑いが込み上げてきます。

これは冗談かと思いましたが、同時に使命感を持ちました。
「そうだ、今こそ絶対手に入れなければならぬ。手持ちのCDと多少ダブるなんて不届きなことを考えようものならきっと天罰が下るに違いない」

それで手に入れたものはというととは2009年にリリースされたコロンビア時代(1957年から1985年、1枚目のみ1949年録音)のボックスセットでアルバム54枚、CD枚数にして70枚という破格のボリュームのCDボックスです。

実はその時点まで存在を知りませんでした。

もしかしたら脳内で無意識に避けていたのかもしれません。こんなものを手にしたら禁断の領域に足を踏み入れることになります。

でもよく企画したものです。

ある日のコロンビア・レコード営業会議

部長
「今期の商品発売について課題を出していた件、何かアイデアを持ってきたかね」

社員A 
「はい! マイルス没後 もうすぐ20年になります。記念のボックスセット提案します」

部長
「そうだな、いろんなレーベルでテーマやアーティストをまとめて4枚組、5枚組の物も見かけるな。で、君はウチのマイルスに関するコンテンツでどういう企画を考えてきたんだ」

社員A
「こんぷりいところんびあいやあず ですっ」(キリッ)

部長
「うっ、なんかイヤな予感が。君が自信を持っているときはたいがいロクでもないことを言い出すもんだが、とりあえず立場もあるので話だけは聞いておこう。内容はどうなるんだ」
(やれやれ)

社員A 
「直球勝負です。54作品、CD70枚のセットです」

部長
「あのねぇ、君、流石にそれは雑すぎるんじゃないか。
少しは需要とか採算分岐とか、いやその前に社会常識とかを考えて仕事してくれないかなぁ。
そんな商品企画が通るとでも本気で思ってるのかね」

社員A 
「いや、これは絶対に永久保存すべき人類の文化遺産なんです。
ロケットに乗せて全宇宙の生命体に紹介したいくらいです。
ぜひ社長および役員の方々に私から直接説明させていただきたい、この熱い思いは・・・」
(20分ほどエキサイトして語る)

部長
「ふ~、やっと終わったかね。しかし君がやる気を出したのを初めて見た気がする。
しかも相当めんどくさいな君は・・・」

ということでもあったのでしょう。(勝手な推測です)

コロンビアのみ可能な常軌を逸した「ちからわざ」です。人類の遺産です。

しかし世界は広い、物好きはいます。

2009年、世界の音楽好き、ジャズ好き、マイルス好きは狂喜乱舞したに違いありません。


私のリアルマイルス体験は1980年代初頭、マイルスは休息期間が開けて活動再開した時期でした。

私もまだ社会人になって数ヶ月、マイルスのアルバムも数枚しか聴いたことがありません。
当然ジャズもほとんど知りません。

当時、楽器や機材のメンテナンス工房にいました。

そしてある日、仕事中に1台のイコライザーが持ち込まれました。
今や懐かしのSR用アナログのグラフィック・イコライザーです。

「昨日、新宿のマイルスのコンサートでこのイコライザーが発振した」

「すごいノイズが出てメインのスピーカーが次々にとんで行った」

「そんな中でマイルスはひとり、何事も無かったようにトランペットを黙々と吹いていたぞ」

「凄かったよな、あれ」

これです。「持っている人」というのはトラブルさえも伝説です。

ジャズの中でもマイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンは別格の存在です。

特に1960年代後期のエレクトリック・マイルス時代とコルトレーンのインパルス時代はなかなか深いものがありそうです。そこに踏み入るのは危険が伴います、

きっと得体の知れない世界です。
ということまでうすうす自分でもわかってます。

だからと言って無視できないのも事実で、ちょっと心に空白ができると悪魔が囁いてきます。

「マイルスを全部聴いてみな、コルトレーンはアセンションを通って「エキスプレッション」まで行くんだ。その先には今まで感じたこともない素敵な世界が待っているよ。

やばい、コルトレーンの「インパルス・コンプリート」が出たらどうしよう。

免疫をつけておかないと。

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