ロビー・ロバートソンの訃報を聞いて、改めて彼がリーダーだった “ザ・バンド” について考えました。代表的なアルバムはそのままズバリ「ザ・バンド」です。
ロビー・ロバートソンが主に作詞、作曲をしていたザ・バンドのアルバムはどれも評価が高いのですが、このセカンドアルバムはファーストの「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」と並んで高評価です。
1969年9月22日にに米キャピトルからリリースザ・バンドのセカンドアルバムです。ファーストアルバム同様に、リリース時には英25位、米9位とチャートの1位とはなりませんでしたが(カナダの2位が最高位)その後も息長く売れ続けてロックの名盤となっています。
全体が茶色のジャケットにモノクロ写真でアメリカ南北戦争時のような風体のおじさんが5人写っています。その上に「The Band]とだけ表記されています。これ以上ないくらいの地味さです。
これはザ・バンドの、ロビー・ロバートソンのイメージ戦略です。
1969年といえばビートルズの「アビー・ロード」は出るわ、クリムゾンの「宮殿」は出るわ、ツェッペリンの「セカンド」は出るわ、ストーンズも「レット・イット・ブリード」を出すわ、「愛と平和のウッドストック」はやってるわのロック的にはすごい変革、発展の年でした。
そこであえてこういう戦略でいくのですから、相当に長く将来を見据えたプロデュースだったと思います。
これがザ・バンドの、ロビー・ロバートソンのイメージ戦略です。
それにしてもまた内容がすごいのです。ものすごく、とんでもなく他のロックとかけ離れています。収録された曲のタイトルからして「ロッキーを超えて」「オールド・ディキシー・ダウン」など一昔前のアメリカを歌っている感じです。「不誠実な召使」なんて、とても新しいテーマを取り上げているとは思えません。
そういう歌を田舎者丸出しのおっさん(ほんとは若い)が飾らずに歌います。
これもザ・バンドの、ロビー・ロバートソンのイメージ戦略です。
聴いてみるとサウンドも渋い、はっきり言って地味、暗いです。
よく言ってヴィンテージなアコースティックなサウンドというところですが、なんかダンゴ状の音がフルレンジスピーカーから聞こえてくる感じです。
重低音と共にハードにドライブするロックの迫力とは全く違います。「アビー・ロード」や「レット・イット・ブリード」、「クリムゾン・キングの宮殿」のような壮大さも有りません。
しかしこれら全てザ・バンドの、ロビー・ロバートソンのイメージ戦略です。
なぜか一度聞いたら忘れられなくなります。
知ってしまうとザ・バンドの立ち位置には定期的に戻りたくなります。
時代に左右されない強い音楽とはこういうものだろうとしみじみ思います。
音についても一般的なロック風な迫力ある音とは言えませんが、悪くは有りません。
オーディオ機器を変えたりした時や、アナログ、CD、ハイレゾと新しいメディアが出るたびに、リマスターされたりするたびに「ザ・バンドはどういうふうに聞こえるようになったか」という視点でも気になって聴いてみたくなったりします。
考えてみればロックらしくはないドラムの音なんかも普遍的と言えなくはないのかも、と思えてきます。
このアルバムはリリース時にリアルタイムで聴いたわけでは有りません。
高校時代のお正月にボストンの「ドント・ルック・バック」を買いに行って、すでに廉価盤になっていたT・レックスの「電気の覇者」とこの「ザ・バンド」を相当悩んで、結局全部一緒に購入した思い出があります。
ほぼリリースから10年後です。ちなみにその前日はカセットテープでセックス・ピストルズを聴いていたという変な高校生でした。
その高校生は「ザ・バンド」を聴いてあまりの地味さに驚きました。
なんせパンクやボストンを聴きたがっている年頃なのです。
こんなののどこがいいんだと当時は一瞬感じましたが、不思議と頭に残り離れません。以後、定期的にこのスタンスに戻っていくことになります。
ブルーズ、カントリー、フォーク、アメリカーナなどを感じる世界です。
私にとっていい音楽とはこういうものかも知れません。
アルバム「ザ・バンド」の紹介です。
演奏
ロビー・ロバートソン エレクトリックおよびアコースティックギター
レヴォン・ヘルム ドラムス、ギター、マンドリン、ヴォーカル
リチャード・マニュエル ピアノ、ドラムス、バリトンサックス、ハーモニカ、ヴォーカル
リック・ダンコ ベース、フィドル、トロンボーン、ヴォーカル
ガース・ハドソン オルガン、クラヴィネット、ピアノ、アコーディオン、メロディカ、ソプラノ・テナー・バリトンサックス、トランペット、ベースペダル
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Across the Great Divide ロッキーを超えて
リード・ヴォーカルはリチャード・マニュエルです。声を張るとリック・ダンコっぽくも聞こえます。リチャード・マニュエルは身だしなみを整えてスーツなどを着ると結構イケメンなんです。と昔から思っていました。全員が歌えるザ・バンドにおいては一番切なく感じる歌声です。
2, Rag Mama Rag ラグ・ママ・ラグ
レヴォン・ヘルムのヴォーカルです。この曲ではレヴォン=マンドリン、リチャード=ドラム、リック=フィドル、ガース=ピアノ、ジョン・サイモン=チューバというロビー以外はいつもと違う楽器を担当しています。よく聞くと確かにドラムとかにキレがなくて微笑ましい限りです。
シングルカットもされ、一般に評価の高い曲ですが個人的には昔からそれほどの曲とは思っていませんでした。軽いノリで悪くはありません、次作の「ステージ・フライト」では軽くてキレのある演奏が楽しめます。「タイム・トゥ・キル」とか「ストロベリー・ワイン」ですね。
3, The Night They Drove Old Dixie Down オールド・ディキシー・ダウン
レヴォン・ヘルムのヴォーカルです。このアルバムを象徴する名曲です。アメリカの南部魂を感じさせる歌です。
4, When You Awake フェン・ユー・アウォーク
ロビーとリチャード作、リック・ダンコのヴォーカルです。ちょっと変わったバラードですがヴォーカルは素晴らしい表情を見せます。
5, Up on Cripple Creek クリプル・クリーク
レヴォン・ヘルムのヴォーカルです。トラック運転手のことを歌っています。ライブで映える曲で、ガース・ハドソンのキーボード類での表情の付け方が素晴らしいと思います。ホーナー・クラヴィネットにワウをかけたりしています。
エド・サリヴァン・ショーの動画です。バンドのロックンローラーらしからぬ時代錯誤的ファッションとマイペースなガース・ハドソンも魅力的です。
6, Whispering Pines ウィスパリング・パインズ
リチャードとレヴォン・ヘルムの歌う曲です。バラードで孤独を歌っています。出だしは「アイ・シャル・ビー・リリースト」にそっくりです。
7, Jemima Surrender ジェミマ・サレンダー
ロビーとレヴォン・ヘルム作、レヴォンのヴォーカルです。これも楽器を持ち替えての演奏です。重たいリフの曲ですが歌は開放的です。サビの強引な歌い方とかズッコケそうなドラムとか聞きどころ満載で味があります。
8, Rockin’ Chair ロッキン・チェア
リチャード・マニュエルのヴォーカルです。しみじみと聞かせます。
9, Look Out Cleveland ルック・アウト・クリーブランド
リック・ダンコのヴォーカルです。張り切って歌うライブ向きの曲です。一筋縄では行かないベースフレーズも試行錯誤が感じられ引き込まれます。。
10, Jawbone ジョーボーン
リチャード・マニュエルのヴォーカルです。ノスタルジックな曲調です。
11, The Unfaithful Servant アンフェイスフル・サーヴァント
リック・ダンコの歌う人気曲です。ライブアルバムの名作「ロック・オブ・エイジズ」ではこの曲のギターソロでピッキング・ハーモニクスを使ったチキン・ピッキンが堪能できます。フェンダーテレキャスターの雄弁さがわかる瞬間です。(勝手な思い込みです)
12, King Harvest (Has Surely Comes) キング・ハーヴェスト
リチャード・マニュエルのヴォーカルです。これもリズムが凝った曲です。いろんな表情をつけながらリチャードが物語を紡いでいきます。最後の方で珍しくロビーの印象的なギターそろが聞かれます。
ロビー・ロバートソンが亡くなり、ザ・バンドのオリジナルメンバーは一番年長だったガース・ハドソンだけになってしまいました。彼ももう86歳です。
ロビー・ロバートソン、そしてザ・バンドの皆さん、素晴らしい音楽をありがとうございました。
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