ブルース・スプリングスティーンの1975年にリリースしたアルバムです。これで一躍ブレイクしていっきにスターダムを駆け上がります。アメリカン・ドリームのお手本のように言われました。
タイトルの「ディランのような詩をフィル・スペクターみたいなサウンドでロイ・オービソンのように歌いたかった」、というのもスプリングスティーンの音楽を目指した動機となる有名なセリフです。
アメリカではブルース・スプリングスティーンのようなロックは「ハートランド・ロック」と言われていました。トム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズやジョン・メレンキャンプなども該当します。
雑に言えばアメリカ中西部や南部での労働者階級の生活、心情、反抗とかテーマにしたロックです。
でも私の記憶では音楽関係の雑誌とかでもそういう言葉は見かけた記憶がありません。日本ではほとんどそういう言われ方はしませんでした。
そういうのは言ってただの「アメリカン・ロック」です。
1970年代から80年代にかけては、彼こそアメリカン・ロックの象徴という存在でした。
なんと言っても「Born To Run : 明日なき暴走」は初めてビルボードで3位まで上がったスプリングスティーンの出世作です。
ここから彼の快進撃が始まります。
刹那的で生活感のある歌詞とEストリートバンドのニューヨークなのに田舎っぽい骨太サウンドでなんとも「荒々しいけど繊細な、都会の片隅にいる若者の音楽」という感じです。
1980年代くらいまではかなりメジャーな位置にありましたが、今はほとんどこの手の音楽は聞かれていないような気がします。
以前の、特に1980年代中期くらいまではロックといえばスプリングスティーン、「ボーン・イン・ザ・USA」の時なんて日本でもとんでもないくらいの脆上がりを見せていました。さすがに私も引いてみていたくらいです。
今やあの時のファンはどこに行ってしまったんだろうと心配にもなります。
確かに生活も変わって、当時の若者の興味の中心だった車やオートバイ、ロックンロールやオーディオなんてものはそのままシフトしておじさん、おじいさんたちの趣味となっている感があります。
ハートランド・ロックもそうなのか、と思ってしまいます。
でも、スポーツと同じでジャンルに流行り廃りはあるけれど、どんな時代でもベースとして出来上がったものは存在し続けるような気がします。
このアルバムとの出会いは今でもはっきり覚えています。
1975年、まだ中学生当時、学校の帰り道に1軒のレコード屋さんがありました。
お店のショウウインドウのポスターを見て新着アルバムをチェックするのが日課でした。
ある日すごく大きなポスターがウインドウの全面に貼られているのが目に止まりました。
それは革ジャンにギターを持った無精髭の男がサックスを吹いている男に寄りかかっているものでした。
アルバムタイトルが「明日なき暴走」、曲目を見るととなんともすごい邦題の曲が並んでいます。
タイトル「明日なき暴走」に加えて「夜に叫ぶ」「裏通」「ジャングルランド」なんかこれ破滅一直線型の人というふうに思えますが、1975年はとにかくこれでよかったのです。
そしてポスターにはデカデカと「俺はロックロールの未来を見た。その名はブルース・スプリングスティーン ( ジョン・ランドゥ)」とキャッチコピーが書いてありました。
これでもうビートルズとサイモン&ガーファンクルくらいしか知らない田舎町の中坊に対するツカミは完璧です。
それはそれは一生忘れられないような刺激的な言葉でした。(ホントにうまいキャッチフレーズですね)
で、すぐに手に入れたかというと、お小遣いに余裕のない少年は当時はエアチェックと言われていた、FMラジオで特集されるのを待ってラジカセで録音して聞いていたものです。
ここにも時代を感じます。
実際に内容は今聞いてもとても素晴らしいものです。
1曲目からなにかしらドラマチックなコード進行のアコースティックピアノとハーモニカのアンサンブルに乗って情念型のボーカルが入ります。
淡々としながらも、心を込めすぎて思わず上ずってしまいそうな歌唱はすごく説得力と循環中毒性があります。
友達と一緒に「おー、おー、お、おっさんだろ、おっさんだろ」と一緒に口ずさんでいたのを思い出します。
全8曲、なんとなく物語性もあって統一されており捨て曲なしです。
演奏
ブルース・スプリングスティーン ヴォーカル、リズムギター、ハーモニカ
ロイ・ビタン ピアノ、グロッケンシュピール、チェンバロ、オルガン、フェンダーローズ
クラレンス・クレモンズ サックス
ギャリー・タレント ベース
マックス・ワインバーグ ドラムス
アーネスト・カーター ドラムス Tr.5
ダニー・フェデリン オルガン Tr.5
デヴィッド・サンシャス キーボード Tr.5
スティーヴン・ヴァン・ザント バックグラウンドヴォーカル Tr.1
マイク・アヴェル バックグラウンドヴォーカル Tr.1
ランディ・ブレッカー トランペット Tr.2,7 フリューゲルホーン TR.2
マイケル・ブレッカー テナーサックス Tr.2
デヴィッド・サンボーン バリトンサックス Tr.2
ウエイン・アンドレ トロンボーン Tr.2
リチャード・ディヴィス ベース Tr.7
スキ・ラハヴ ヴァイオリン Tr.8
チャールス・カレロ ストリングアレンジ、指揮
曲目
*参考までにyoutube音源と最後部にライブ動画をリンクさせていただきます。
1、Thunder Road 涙のサンダーロード
イントロに1970年代の空気が詰まっています。今考えるとシンプルな構成です。
2、Tenth Avenue Freeze Out 凍てついた10番街
コンサートでよく取り上げられる曲です。ちょっとブラックミュージックを意識したような曲調です。
3、Night 夜に叫ぶ
変わってホーンのイントロで分厚く疾走するドラマチックな展開で、スプリングスティーンらしい曲です。
4、Backstreets 裏通り
大作のエンディングみたいな雰囲気で始まります。この淋しい感じと直情的なヴォーカルがドラマチックです。最後はフェイドアウトで終わります。
5、Born to Run 明日なき暴走
このスプリングスティーンのちょっとろれつの回ってないような歌い方が帰って切迫感を表しています。名曲です。
6、She’s the One 彼女でなけりゃ
ロックぽくないイントロで始まりますが、途中からは安定のロックビート、ボーディドリービートです。
7、Meeting Across the River ミーティング アクロス ザ リバー
物語風な歌詞で切々と歌います。次のジャングルランドへのプロローグに感じます。
8、Jungleland ジャングルランド
サウンドが映像的でドラマチック、ストーリーを感じます。全てを出し切っているようなラスト曲です。
スプリングスティーンはそれからいろいろとビジネス面で揉めて、長い法廷闘争がありました。
曲はあれども発表できない状態が続き、次の「闇に吠える街」(これも凄い邦題です)まではかなり3年ほどかかりました。
以降「ザ・リバー」などはクオリティの高いアルバムが続き、1980年代「ボーン・イン・ザ・USA」でさらに追いブレイクとなります。
その後しばらくは狂騒状態を敢えて落ち着かせて、着実に活動を続けていきます。
「ザ・ボス」ブルース・スプリングスティーンはまだ現役です。とても音楽に誠実な人です。
他のアルバムはまたの機会に。
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