1980年代初期のアメリカ、いや世界中の軽音楽業界でもブルーズは全く流行らず、ほとんど聴かれていない状況でした。
そこへ突如としてブルーズの存在を見せつけてくれる男たちが登場し、ブルーズリバイバルというブームを牽引していきます。
テキサスのブルーズバンド、スティーヴィー・レイ・ヴォーン・アンド・ダブル・トラブルです。
当時、音楽の主流はマドンナやデュラン・デュランであり、ロックはニューウェイブ、テクノポップがメインです。ブラック・ミュージックといえばヒップホップ、ラップでした。
「今、黒人でブルーズを演っている奴なんかだれもうない」とまことしやかに言われていました。
ブルーズの冬の時代です。
そういう中でブルーズファンの一縷の望み、希望の星だったのはエリック・クラプトン経由で紹介されたロバート・クレイくらいしかいなかったのです。
そこへ新たに白人のながら、ブルーズをウリにした腰のすわっったスリーピースバンドが鳴り物入りでテキサスから颯爽と現れました。
そうです。スティーヴィー・レイ・ヴォーン・アンド・ダブル・トラブルです。(なんかクドイ)
(下の画像はゲストでレイ・ヴォーンの兄であるジミー・ヴォーンさん入りです)
名前からしてブルーズ感いっぱいです。テキサスブルーズとオーティス・ラッシュ系のシカゴ・モダーンブルーズを連想します。
元々はデヴィッド・ボウイーが1983年リリースのアルバム「レッツ・ダンス」で起用したのが発端でした。
ボウイーは1982年にモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでレイ・ヴォーンをみて、アルバート・キングとそっくりなサウンドとギターセンスの良さに驚嘆しました。
そしてニューアルバムにリードギタリストとして起用します。
ギタリストにレイ・ヴォーンを迎えた「レッツ・ダンス」は1983年にリリースされ、ボウイーの80年代最大のヒットとなりました。
これに合わせてまだデビュー前だったレイ・ヴォーンの評価も上がっていきます。
スティーヴィー・レイ・ヴォーン・アンド・ダブル・トラブルのデビューアルバムの「テキサス・フラッド」は「レッツ・ダンス」の2ヶ月後の1983年6月にリリースされ、一気にメジャーとなります。
レイ・ヴォーンは1954年10月3日生まれです。7歳の頃から兄のジミー・ヴォーン(こちらも有名です)の影響でギターを弾き始めました。
1972年には高校を中退して、ダラスからオースティンに移り、ベースのトミー・シャノン、ドラムスのクリス・レイトンとダブル・トラブルを結成して活動します。
徐々に人気を獲得していきますが、デビューまでには10年ほど必要でした。
ただしその間に音楽は磨き込まれ、吟醸され、テキサスを中心にバンドの噂は広がっていきます。
満を持したところで、新人とは思えないようななり物入りでデビューすることとなります。
その後も質の高いアルバムをリリースしていきますが、残念なことに1990年に移動中にヘリコプターの事故で亡くなってしまいます。
まだピークに達していないと思われる中でのロックファン、ブルーズファンの喪失感は大きなものでした。
実質メジャーでの活動期間は7年しかなく生前にリリースしたアルバムは5枚しかありませんがどれも質が高く、売り上げも好調でした。
そのおかげで1980年代ブルーズリバイバルという言葉が生まれ、中心的な存在でした。
ご紹介するのは2枚目のスタジオアルバムとなる「クドゥント・スタンド・ザ・ウエザー、邦題 : テキサス・ハリケーン」です。
ファーストアルバムの「テキサス・フロッド」もなかなかの内容ですが、よりこだわりが感じられ、音質も低域が伸びて太くなっている感じです。
スティーヴィー・レイ・ヴォーンのギターはフレーズはモロにブルーズですが、曲の構成は定型的なブルーズ進行ではないものも多く見られます。
どちらかといえばロック、ソウル、ファンクなどをベースとしたいろんな音楽にブルーズのフレーズを取り入れて演奏している感じです。
ブルーズっぽい雰囲気にあふれていますが、一般的なブルーズ進行の型にはまったものではありません。
そこらあたりが音楽に幅を持たせている要因です。
サウンドの核となるのはギターサウンドです。
使用ギターは色々とありますが、有名なものとしてはフェンダー・ストラトキャスター(通称「ナンバーワン」)とシャーベルの(通称「レニー」」と名付けられたストラト・タイプのギターです。
ギターサウンドは変幻自在で、ニュアンスに富み、スリーピースバンドながら音が薄いとか、迫力に欠けるとか、音がスカスカという感じは微塵もなく、シンプルながら熱いエネルギーと図太いサウンドがアルバム全体を包み込んでいます。
レイ・ヴォーンのギターは基本的にシングルコイルのストラトキャスターの音ですが、ゲージ(弦)がカスタムで1弦0.13から始ま理、6弦が0.58という信じられないくらい太いゲージを使っています。
多分それだとテンションがきつすぎてネックが持たないのでは、と思うのですが半音下げチューニングで乗り切っているみたいです。
指板のフレットもジム・ダンロップのジャンボフレットと言われるギター用で最も太いフレットに変えて使用していました。
ちなみに非力な私なんぞはアーニーボールのスーパースリンキーという1弦が0.09で始まる細弦です。
その昔、ブルーズ系の人は太い弦を使用する傾向にあるので、「こんなんじゃダメだ」と思っていた時期がありましたが、エリック・クラプトンもジミー・ペイジもジェフ・ベックもスーパースリンキー使用ということを聞いて安心した思い出があります。
ただし特にナチュラルな音では音色が全く違いますので、レイ・ヴォーンを目指すなら太い弦です。
才気あふれる良い子はそれで「スカットル・バッティン」に励んでいただきたいと思います。
アルバム「テキサス・ハリケーン」のご紹介です。
演奏
ダブル・トラブル
スティーヴィー・レイ・ヴォーン ヴォーカル、ギター
トミー・シャノン ベースギター
クリス・レイトン ドラムス
ジミー・ヴォーン リズムギター Tr.2,3
フラン・クリスティーナ ドラムス Tr.8
スタン・ハリソン テナーサックス Tr.8
プロデューサー スティーヴィー・レイ・ヴォーン・アンド・ダブル・トラブル、Richard Mullen, Jim Capfer
エグゼブティブ・プロデューサー ジョン・H・ハモンド
エンジニア リチャード・ミューレン
アシスタント・エンジニア ロブ・イートン
カバー・アート ホーランド・マクドナルド
フォト ベンノー・フリードマン
1999リイシュー
プロデューサー ボブ・アーウィン
エグゼグティブ・プロデューサー トニー・マーテル
マスタリング・エンジニア ヴィク・アンシーニ
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
- Scuttle Buttin’ スカットル.バッティン
ノリのいいインスト・サウンドで始まります。字余り気味のフレーズを無理やり押し込んだような見事にカッコいいフレーズです。タイトなリズム感も要求されるギタリストとしては難易度の高い曲です。左手は人差し指だけで弾かないとこの雰囲気は出ないと聞きました。 - Couldn’t Stand the Weather テキサス・ハリケーン
アルバムタイトル曲です。リフでブレイクと間を最高に効かせます。ジミーのファンキーなバックもいい感じです。 - The Things (That) I Used to Do ザ・シングス・アイ・ユーズド・トゥ・ドゥ
1950年代に活躍したギター・スリムことエディ・ジョーンズのヒット曲のカバーです。
ジミー・リード風のリラックスした感じがいいのです。 - Voodoo Chile (Slight Return) ヴードゥー・チャイル(スライト・リターン)
言わずと知れたジミ・ヘンドリクス様のカバーです。この曲のイントロだけはワウさえあれば誰がやってもある程度サマになります。レイ・ヴォーンはジミに敬意を評して割と忠実にカバーしていきます。 - Cold Shot コールド・ショット
シャッフルのノリなのですがなんとなく寂しさ、やるせなさを感じさせる曲です。 - Tin Pan Alley ティン・パン・アレイ
はい、大安心のスローブルーズの世界です。オリジナルはロバート・ゲディンズの作です。
ただただ浸っていればいい時間です。 - Honey Bee ハニー・ビー
マディ・ウォーターズ師匠にも同じタイトルの曲がありますが、こちらはノリのいい別曲です。 - Stang’s Swang スタングス・スワング
ここでジャズに造詣が深いことがわかります。
オリジナルアルバムはここまでの曲順ですが、CDでは下記が追加となっています。フレディ・キングで有名な「ハイダウェイ」などオリジナルやエリック・クラプトンとも違った、あえて軽く流したアレンジが楽しめます。そのほかも安定のダブル・トラブル・チューンです。 - Hide Away ハイド・アウェイ
- Look at Little Sister ルック・アット・リトル・シスター
- Give Me Back My Wig ギブ・ミー・バック・マイ・ウィグ
- Come On (PartⅢ) カム・オン(パート3)
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