モダンジャズの歴史において最も熱く、勢いがあり、華やかかりし時代は1950年代から1960年代に掛けてでした。
現在のジャズのイメージはこの頃に出来上がったと言っても過言ではありません。
理由の一つとして長時間録音ができるLPレコードが登場し、それに伴って録音機器の発展と録音技術の進化、時間的制約が長くなりミュージシャンの表現できるスケールが格段に伸びたことがあります。
そして「新しいものに挑戦し深く掘り下げていく音楽」の素晴らしさが共有できるようになりました。
その方法論は10年ほどのちにロックのジャンルに移っていくことになります。
あっ、そうかその視点で見れば何でもかんでも見境なく音楽を聴いているような私でも、一つの基本原理はこの辺にあるのかと今更ながら納得してしまうのでした。
いわゆるジャズの巨人といえばチャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンがすぐに思い浮かびます。
パーカーは1920年生まれ、マイルスとコルトレーンは1926年生まれです。
そのマイルスやコルトレーンのちょっと先輩で、パーカーのちょっと後輩にあたる1923年生まれのデクスター・ゴードンというサックス・プレイヤーがいました。
豪快で繊細、その歌心あふれるサックスでバップからハードバップの時代にかけてとても人気がありました。
しかし残念なことにデクスター・ゴードンは順風満帆に音楽に打ち込める状態ではありませんでした。
何度も刑務所を出入りするような生活で、結局彼のキャリアは分断されたものになってしまいました。
罪を犯したと言ってもそれは盗みや暴力などではなくもっぱら麻薬によるもので、チャーリー・パーカーをはじめこの時代のジャズマンは良かれ悪しかれ(悪しかれですが)大概そういう感じだったのです。
でも今の、最近のミュージシャンとなると麻薬はおろかタバコも吸ったことないし、お酒も飲まない、日課は筋トレとプロテインで・・・、演奏の練習を1日休むと取り返すのに3日かかる・・・と言うアスリートばりのミュージシャンも増えてきています。
これはこれで今まで見たこともない世界を見せてくれそうで、素晴らしいことです。
しかし他方、私のように「とにかく持っていない」、昔流行ったマーフィーの法則のように「失敗する可能性のある仕事は、失敗する」というダメダメちゃんには共感しにくいところもあるのですな。
憧れるけれども共感できない遠い存在なんです。
(自分勝手な問題です。なおマーフィーの法則ってあったのご存知ですか)
話を戻しましてモダンジャズ全盛期に活躍した歌心あふれるサックス奏者、デクスター・ゴードンについてです。
誰が言ったか「デクスターのり」と呼ばれる演奏に独特のリズムがデクスター・ゴードンにはありました。
これは理論的に言えばこうとか、練習すればマスターできるというものではなくデクスター・ゴードンのプレイは自然とそうなってしまうのです。
必殺技みたいに一生懸命に練習すれば体得できるという類のものではありません。
平たくいえばファンキーな演奏ということなのですが、この時代にファンキーな演奏するジャズメンといえばほぼ全員が当てはまります。
「ファンキー」にさらに「アーシー」な感覚が備わったものと言えそうです。
とは言っても帝王ジェームス。ブラウンみたいに汗臭いコテコテのエグいノリではありません。
神様レイ・チャールズみたいに思いっきり引っ張って遅れて歌が出るかと思いきや、「イエー・・」で終わらせてしまうという焦らしタイプとも違います。
「デクスターのり」、まさかこんなワードが70年近く経った現在、残っているはずが・・・とおもってググってみたらなんとさすがAI、ChatGPTさんに頼るまでもなく丁寧な解説があるではないですか。
すごい時代になったものです。というより21世紀文明は果たして正常な方へ進んでいるのだろうかと心配になってしまうほどです。
(上記、グーグル検索より引用)
ちなみにAIさんの解説に付け加えるとすれば「独特のリズムと間合い」に「管楽器特有の微妙にズレを感じる完璧でないが楽音としては有効な音程」もあると思います。
今回はデクスター・ゴードンの代表作「Go!」をご紹介いたします。
1962年リリース、レーベルはブルーノート、プロデューサーはアルフレッド・ライオン、録音ルディ・ヴァン・ゲルダー、デザインはリード・マイルス、とくればもうハズレはありません。
バックはブルージーなピアニスト、ソニー・クラークを筆頭に当時のブルーノートの専属ミュージシャンみたいな手堅いメンツで固めました。
アルバムジャケットもリード・マイルスらしい語呂合わせを狙ったタイポグラフィーです。
デクスター・ゴードンのテナーは歌心がある、メロディを大切に美しく吹ける、ということでバラードでも有名です。
バラードの名盤と言われるものも多くいろんなレーベルからリリースされていますが、ここではジャズのリアルな迫力にこだわり、ベタベタ、アマアマを嫌ったアルフレッド・ライオン率いるブルーノート盤です。
デクスターはブルーノートに「アワ・マン・イン・パリ」や「デクスター・コーリング」など他にもたくさんの傑作アルバムを残しています。
調べてみたら、ブルーノートには全部で8枚ほどデクスター・ゴードン名義のアルバムがありました。
そしてこれは名プロデューサー、アルフレッド・ライオンの慧眼(けいがん)でしょうが、ここブルーノート・レーベルではワンホーンものがほとんどを占めています。
ワンホーンものとはピアノトリオにサックスやトランペットなどの管楽器ひとつ加わったバンド構成を指します。
当然主旋律は管楽器が担うことになります。管楽器がメインヴォーカルと同じ立ち位置となりメロディの解釈や歌心が一番わかる状態となります。
よってここでも「デクスターのり」をブルーノートのこだわり音質で堪能できると言う訳なのです。
ブルーノートでのリリース以降は特にこのワンホーンものが多くなった気がします。
そういえば一つ気をつけていただきたいことがあります。
その昔ハイレゾ配信が始まってブルーノートの音源をダウンロードできるようになった時、喜び勇んで192kHz24bit音源を何枚か購入した時でした。
残念だったのはこのデクスター・ゴードンの「Go!」とハンク・モブレーの「ソウル・ステーション」はステレオというよりセパレート分けしてあってテナーサックスの音が左のチャンネルからしか聞こえない音源でした。
これには唖然としました。
音質以前の問題で、これだったらルディ・ヴァン・ゲルダー自身がリマスターしたRGB 24ビット・リマスターCDの方が数倍迫力のある音に聞こえます。
無策なハイレゾ化の弊害を感じた瞬間でした。
アルバム「Go!」のご紹介です。
演奏
デクスター・ゴードン テナーサックス
ソニー・クラーク ピアノ
ブッチ・ウォーレン ベース
ビリー・ヒギンズ ドラムス
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Cheese Cake チーズ・ケイク
(デクスター・ゴードン)
ウォーキングベースに乗っていきなりデクスター・ゴードンらしい音が響き渡ります。
出だしの1音が完璧でないところもまた味わいです。
全員でリズムを伸ばしたり縮めたりしながらドライブします。
デクスターに合わせるかのように、デクスターが引き立つように展開するピアノ・ソロもいい感じです。
最後はテーマのコール・アンド・レスポンスで終わります。
2, I Guess I’ll Hang My Tears Out to Dry アイ・ゲス・アイル・ハング・マイ・ティアーズ・アウト・トゥ・ドライ
(ジュール・スタイン、サミー・カーン)
これもお得意のバラードです。フランク・シナトラ、レイ・チャールズからキース・ジャレットまでカバーしているスタンダードです。
3, Second Balcony Jump セカンド・バルコニー・ジャンプ
(ビリー・エクスタイン、ジェラルド・バレンタイン)
ビリー・エクスタインによるビッグバンド用のナンバーです。
出だしから何か男女で喋っているような感じです。ドラムソロも入ります。
デクスターのサックスは最後のなんちゃってフレーズをあえて1音抜いてまとめなかったところに何かを感じます。
4, Love for Sale ラヴ・フォー・セール
(コール・ポーター)
有名なジャズスタンダードです。
デクスターは歌い上げながらバンドメンバーと音で会話しています。
5, Where are You? ホエア・アー・ユー
(ジミー・マクヒュー、ハロルド・アダムソン)
素晴らしいバラード演奏で、もう歌い上げるテナーサックスに身を任せているしかありません。
6, Three O’Clock in the Morning スリー・オクロック・イン・ザ・モーニング
(フリアン・ロブレド、ドロシー・テレス)
誰でも聞き覚えのあるウエストミンスター寺院の鐘の音のフレーズで始まる、元は1920年代に流行したワルツ曲です。
ユーモアもあってポジティブな演奏の中にもノスタルジックな雰囲気を醸し出すような名演です。
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