エルトン・ジョンは今や大御所です。勲章も授与されて、サーの称号も持っています。もう悠々自適の人生だと思います。
ロックとかポップスとかシンガー・ソングライターなどのジャンル分けをするのも無駄なくらいにいろんな要素を持った曲を作ります。
個人的にはポップスとロックの架け橋となるべく存在です。
彼の作る曲はメロディが綺麗です。楽しい曲はおバカな中にも他にはないセンスが感じられ、内省的な曲は妙に心の奥まではいり込んできます。
サウンド的はジャンル無用のエルトン・ジョンの世界です。改めて音楽の心に与える影響までも感じさせてくれます。
というのもきっと時代的にも年代的にも私にドンピシャな時期があったからなのだろうと思っています。
1970年代のエルトンは何かに取り憑かれたような勢いで素晴らしく売れるアルバムをリリースしました。
1972年の「ロケット・マン」という超絶名曲を収録した「ホンキー・シャトー」以降連続して7枚のアルバムを全米1位に送り込んでいます。
その中でもピークとされるのが(いや、勝手にしています)1973年リリースの「グッドバイ・イエロー・ブリックロード 邦題 : 黄昏のレンガ路」です。
音楽性が広く、スケールがデカく、それでいて繊細で、喜怒哀楽が全て完璧な形で表現されたような、まるで音楽の神が降りてきたかのような曲が目白押しです。
全世界で2,000万枚以上売れたそうです。
個人的な感想になりますが、技術的なこと云々ではなく感性の部分で自分には絶対越えられない才能を持っていると思える人に時々出会うことがあります。
それがこの時期のエルトン・ジョンだったり私とほぼ同い年のケイト・ブッシュのデビューアルバムだったりするのです。
昔、聴いたところによるとエルトン・ジョンは自分の容姿にかなりのコンプレックスを持っていたらしく、最初はバディ・ホリーに憧れて視力が悪くもないのにメガネをかけていました。
奇抜な衣装や派手なメガネなどはコンプレックスの裏返しだったそうです。そんなこんなで訳のわかんない奇抜なファッションですごく内省的な曲を歌ったりする人というイメージでした。
このアルバムを聴いてもう一つ連想するのがデヴィッド・ボウイーのアルバム「ジギー・スターダスト」です。
ジギー・スターダストほどコンセプチュアルではありませんがデヴィッド・ボウイーの表現したかったエキセントリックな演劇的な部分を私小説風に置き換えたような感じがします。(個人の感想です)
それと私にとって一生忘れられない曲がタイトルにもなっている「グッドバイ・イエロー・ブリックロード」です。
都会の生活が嫌になってもっと自分らしく生きられる故郷へ帰ろう、という歌です。
普通に聞いても名曲ですが中学生になったばかりの頃、ラジオを聴いていたらこの曲の紹介があって、歌詞が途中まで読み上げられました。
その中で「この少年はブルーズを歌うには若すぎる」という部分があって、初めてブルーズとはなんだろうと思ったことです。
あの時のことははっきり覚えていますし、もう一生忘れないだろうと思います。
もちろん小学生の頃から淡谷のり子はブルースの女王とか青江美奈の伊勢佐木町ブルースというものは聞いて知ってはいましたが、本当にブルーズとはなんだろうと考えさせてくれたのはこの曲でした。
なんだかんだといっても私とブルーズの始まりはエルトン・ジョンなのです。
といっても実際に作詞をしていたのは相棒のバニー・トゥーピンだったのですけれどね。
それがわかるのはだいぶ後になってからです。
このアルバム以降もエルトンはヒットを連発していきます。
「キャプテン・ファンタスティック・アンド・ブラウン・ダート・カウボーイ」までは聴いていましたがその後は疎遠となってしまいました。
理由は今から考えれば何ともな話ですが、エルトン・ジョンは同性愛者だという噂が広がったためです。
当時の田舎の中学生にはこれはとても理解できる範疇ではなく、自分で感情をコントロールできるものではありませんでした。
まあでも世の中に出て働き始めて30歳を越えたくらいになると、「ミュージシャンやアーティストって割とバイセクシャルとか同性愛って多いよね」と自然に受け入れて、性的嗜好や信教などでその人の音楽作品を評価することはなくなっていきました。
そういうふうに考えると思春期の子供にLGBTQなどを一律に教えることは個人的には危険すぎるのでは、思ってしまいます。個人差がありすぎるのです。
自我が確立して悩むようなら受け皿があって良いとは思いますが「この少年は、ブルーズを歌うには若すぎる」という言葉をずっと引きずってしまうような多感な年頃にはちょっと難題すぎるのです。
演奏
エルトン・ジョン
ヴォーカル、アコーステエィック・ピアノ(ex 7,11)、フェンダー・ローズ(5,6)、オルガン(3,5,7,13)、メロトロン(5,6,11)
David Hentsuchel
ARPシンセサイザー(1,12)
ディビー・ジョンストン
アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、スライド・ギター、スティール・ギター、バンジョー、バッキングヴォーカル(1,2,4,10,13,17)
ディー・マレー
ベースギター、バッキングヴォーカル(1,2,4,10,13,17)
ナイジェル・オルソン
ドラムス、コンガ、タンバリン、バッキングヴォーカル(1,2,4,10,131,17)
レイ・クーパー タンバリン(12)
デル・ニューマン オーケストラ・アレンジ
リロイ・ゴメス サックスソロ
キキ・ディー バッキングヴォーカル
プロダクション
ガス・ダッジョン プロデューサー、ライナーノーツ
デヴィッド・ヘンシェル エンジニア
ピーター・ケルシー アシステント・エンジニア
アンディ・スコット アシステント・エンジニア
バリー・セイジ テープオペレーター
デヴィッド・ラーカム アートディレクション、アートワーク
マイケル・ロス アートディレクション、アートワーク
イアン・ベック アートワーク
ジョン・トプラー ライナーノーツ
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
01. Funeral For A Friend (Love Lies Bleeding) 葬送、血まみれの恋はおしまい
11分以上にわたってドラマチックなミュージカル仕立ての一大叙事詩みたいなのが始まります。
ただしすごいのが各パートのメロディが綺麗なため聴いていても飽きません。
このハッタリがもう最高です。
02. Candle In The Wind 風の中の日のように(孤独な歌手、ノーマ・ジーン)
1997年ダイアナ妃が亡くなられたときにこのメロディで「England’s Rose (Candle in the Wind)」としてリリースされました。
最初は「それ、マリリン・モンローへの歌だよ。せめて新しく作ってくれ」、と思いましたが、実際はイギリス国内のラジオ曲がみんなこの曲を追悼の意味で流したため、逆作用で正式にエルトンはリメイクして詩を変えたとのことがわかりホッとした思い出があります。
03. Bennie And The Jets ベニーとジェッツ(奴らの演奏は最高)
ライブの歓声で始まります。効果音だそうです。絶妙に哀愁のバラード風な感じとファンキーな感じがブレンドされている名曲です。ただならぬ才能を感じます。
04. Goodbye Yellow Brick Road グッドバイ・イエロー・ブリックロード
時間を超えて訴えてくる問答無用の名曲です。
05. This Song Has No Title こんな歌にタイトルはいらない
今でもこういうのはあります。若いうちはこういう感覚を誰でも持っているものなんです。
06, Grey Seal グレイ・シール
灰色のアザラシを人生とか運命とか大自然の象徴として歌っています。問いかけるだけで返事はありません。
07. Jamaica Jerk-Off 碧の海、ジャマイカにおいで
この時代の新しいリズムを取り入れてみました、という感じです。いいアクセントになります。
08. I’ve Seen That Movie Too 僕もあの映画を見ている
愛についての苦しい状況を歌っています。受け取り方はそれぞれです。こういう本当に重い感情もエルトン・ジョンの世界です。
09. Sweet Painted Lady スウィート・ペインテッド・レディ
淡々とした美しいメロディで、身を売る商売の女性に対して優しい感情を持つ歌詞です。
10. Ballad Of Danny Bailey (1909-1934) ダニー・ベイリーのバラード(ケンタッキーの英雄の死)
射殺されるダニー・ベイリーとは、ギャングスター、ジョン・デリンジャーを彷彿させ、彼の死をモチーフにした曲だと言われています。作詞したイギリス人、バニー・トゥーピンのアメリカへの憧れもあります。
11. Dirty Little Girl ダーティ.リトル・ガール
シャウトして歌いますが、いい仕事に就けない、苦労している女性を温かい視点で描いています。
12. All The Girls Love Alice 女の子、みんなアリスにくびったけ
タイトルに反して、結構重い内容の歌です。
13. Your Sister Can’t Twist (But She Can Rock ‘N Roll) ツイストは踊れない
“君の妹は、もうブルーズは終わったからレコードを捨てた。ツィストは踊れないけどロックンロールは踊れる” 。という何気に深い詩を軽快に歌います。ノリが最高です。
14. Saturday Night’s Alright (For Fighting) 土曜の夜は僕の生きがい
前の「ツィストは踊れない」と繋がって盛り上がる曲です。前曲と合わせてこのアルバムのハイライトと言えます。
15. Roy Rogers 歌うカウボーイ、ロイ・ロジャース
ここでクールダウン、子供の頃の憧れのヒーローを思いながら、平凡な日常から抜け出したい心境を歌います。曲は素晴らしく安定のメロディメイカーぶりです。
16. Social Disease こんな僕こそ病気の典型
なんとなく漠然とした不安を歌っているのですが、そんなもんさと笑い飛ばしてもいます。
17. Harmony ハーモニー
ハーモニーとは恋人のことです。素晴らしい感性と見事なメロディです。深い余韻を残して終わります。
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