1969年、英国のジェフ・ベック・グループやレッド・ツェッペリン、クリーム、フリーなどによってハードロックという分野が出来上がりつつあった頃、アメリカで全てのハードロック・バンドを笑い飛ばすかのようなバンドが登場しました。
バンド名は「グランド・ファンク・レイルロード」、デビューアルバムは「グランド・ファンク・レイルロード登場」です。
まさに潔(いさぎ)良い、小細工なしの中央突破を感じさせます。
名前の由来はアメリカの鉄道会社「Grand Trunk Western Railroad」をもじったものでした。
グランド・ファンク・レイルロードは1st、2nd、3rdと矢継ぎ早に、半年以内のスパンでリリースし、日本でも急速に浸透していきました。
もちろんこの頃は世界的に見てもセールスは上々です。
この時代のハードロックはすべからく根底にブルーズがありました。
ブルーズ、R&Bの形態を極度にハードアレンジしたもの、という印象でした。
そこにはなんだかんだと言っても知性、感性が感じられ、芸術の香りすら漂っていました。
しかしグランド・ファンク・レイルロードは違います。
アメリカン・エンターテイナーの本領発揮です。
音はハードでブルーズの影響も感じられますが、なんともサービス満点でわかりやすくハードロックの醍醐味を聴かせてくれます。
何も考えずに力技でハードな世界に連れて行ってくれるのです。
そこにはアメリカン・ハードロックのエッセンスが詰まっていました。
ある意味こういう感じは後発のキッスとかヴァン・ヘイレンとかボン・ジョビあたりに引き継がれることになります。
すぐ上半身裸になるところなどまさに・・・。
今では当たり前にそういう立ち位置のバンドがいっぱいあるのですが、グランド・ファンク・レイルロードの登場した1960年代は今までにない新しいものでした。
そして彼らはテリー・ナイトというマネージャーのマーケティング戦略も功を奏しては瞬く間に大ヒット、大物ロックバンドの仲間入りをします。(テリー・ナイトとは結局のところ1972年には喧嘩別れとなるのですが)
デビュー時の有名な逸話があります。
レッド・ツェッペリンがアメリカツアーをした時にオープニング・アクト(前座)にデビューしたてのグランド・ファンクを使いました。
そうしたらなんとグランド・ファンクの方が熱狂的に受けていたのでツェッペリンサイドは内心穏やかではなかった。
デトロイトではアンコールが止まらないのでピーター・グラント(ツェッペリンのマネージャー)の指示で強制的に電源を落として終了させざるを得なかった。
それに観客が怒って半分くらいは帰ってしまった。という話であります。
また1971年の初来日時、雨の中の後楽園球場ライブというのも日本のロックの歴史の中で伝説となっています。
そういうグランド・ファンク・レイルロードです。
こういうバンドは大概にして評論家受けは良くありません。
今の視点では長いキャリアのバンドですが、何度も再結成を繰り返しています。
売り上げも影響力もあるにも関わらず、1970年代から1980年代くらいまではロックの歴史的名盤とかには一切出てきませんでした。
なんとなくイロモノ扱いの感さえありました。(個人の感想です)
原因としては1970年代の半ばになると、音楽界はフュージョンなども出てきてテクニック至上主義の時代となったことが挙げられます。
ロックもギタリストが最も注目されておりバカテク、凄腕で洗練されたギタリストこそが最高という時代でした。
そういう中ではグランド・ファンク・レイルロードはサウンドも見た目もスマートではありません。
ヴォーカルのマーク・ファーナーは見た目からしてナイーヴそうではありません。
いかにも金髪だけど絶対ネイティヴ・アメリカンの血を引いているよね、というごっつい顔立ちです。
ベースのメル・サッチャーとドラムのドン・ブリューワーは天然パーマのアフロヘアー状態、全員アイドル性は皆無です。
この髪型にあやかって冗談でバンド名に「ファンク」なんてつけたのでは、と思ってしまいます。
当時の黒人はアフロヘアーにベルボトムのパンツというのが流行っていました。
ファンクもジェームス・ブラウンやスライ・アンド・ファミリー・ストーンなどが大躍進していた時代です。
なんとなくここ数年、グランド・ファンク・レイルロードの評価は上がってきているように感じられます。
聴き直してみると確かに今の音楽にはないような面白さがあり、ピュアなパワーが感じられます。
昔から日本ではベースのメルさんは「メル・サッチャー」と呼ばれていますが綴りは「Mel Schacher」です。
同じ読みのイギリス初の女性首相だったマーガレット・サッチャーさんは「Margaret Thatcher」ですので、メルさんは「シャッチャー」か自動翻訳読みの「シャッハー」が・・・あっ、すいません、実はどうでもいいです。
とりあえずユニバーサル・ミュージックの表記に従って「メル・サッチャー」にします。
アルバムジャケットは3人各自が電車の模型を持って、ドン・ブリューワーは時計も持っています。
一応タイトルをそのまま表現しています。(ここはアメリカ人的には笑うところなのかもしれません)
内容ははギター、ベース、ドラムのみの、これぞパワートリオというサウンドです。
音源の音の定位はドラムスは左、ギターは右、ヴォーカルとベースは中央というこれまた潔い配置です。
サードアルバムの「クローサー・トゥ・ホーム」では音が左右に動いたりするステレオ感が出てきますが、セカンドアルバムまではこの定位で行きます。
ステレオ・オーディオの黎明期とも感じます。
またグランド・ファンク・レイルロードのウリの一つは轟音ベースです。
ファーストアルバムのベースもリマスターでより前に出てきた印象ですが、セカンドアルバムはこれ絶対ベースが主役と感じるくらいの轟音ベースが堪能できます。
アルバム「グランド・ファンク・レイルロード登場」のご紹介です。
演奏
マーク・ファーナー リードギター、ヴォーカル
ドン・ブリューワー ドラム、ヴォーカル
メル・サッチャー ベース
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Are You Ready? アー・ユー・レディ?
アルバムタイトルが「グランド・ファンク・レイルロード登場」、そしてオープニングが「用意はいいか」なんです。なんてシンプルでサービス満点なバンドだと恐れ入ります。
リードギターは割と小さめでジェフ・ベック・グループみたいにヴォーカルを喰ってしまうくらい大きくてもいいと思うのです。
でも耳のリミッターがかかるくらいの大音量で聞けばその辺はOK。
2, Anybody’s Answer エニバディーズ・アンサー
ちょっとブリティッシュ・ビート風とも言えるメロディアスで結構ポップにいけてる風に始まります。
そして途中から重いハードロックに展開します。
シンプルだけどドラマチックな曲です。というか3人だけでこのスケール感というのはすごいものがあります。
3, Time Machine タイム・マシーン
始まりはファンキーです。そしてブルーズ系のリフでこの時代の安定のブルーズ・ロックとなります。
この曲がデビューシングルとなったそうですけど、ある意味グランド・ファンクらしくないと思います。
シングル第2弾が「ハートブレイカー」でヒットチャート的には「タイム・マシーン」ほど上がりませんでしたが、これでイメージが決定しました。
4, High on a Horse ハイ・オン・ア・ホース
歪んだギターで始まるソウルフルな曲です。米国ハードロックには割と「お医者さん」というワードが登場します。もしかしたらレイ・チャールズの「アイ・ドント・ニード・ノー・ドクター」に始まってこの辺でロックに浸透して定番の表現に落ち着いたのかもしれません。
彼女がいれば医者なんていらないというナンバーです。
5, T.N.U.C
ライブ映えする。というよりライブで演ることを念頭に作ったようなナンバーです。メル・サッチャーのベースがうなって転げ回り、どんどん盛り上げていくドン・ブリューワーの必殺のドラムソロも登場します。これぞといった感じです。
タイトルの意味は逆から読めばわかるそうです。・・・とんでもない奴らですね。
6, Into the Sun イントゥ・ザ・サン
これもライブで映えるナンバーです。シンプルながらもドラマチックに展開していくのです。ライブで絶対見てみたいと思わせるかっこよさです。
7, Heartbreaker ハートブレイカー
このアルバムで唯一湿度を感じる名曲です。ロックスタンダードとなっています。
そういえば井上陽水の初期1972年のアルバムに収録された「傘がない」との酷似が指摘されたりもしました。
実際のところ当時はロック派とフォーク派に綺麗に住み分けていたので特に問題にもならなかったような印象です。
8, Call Yourself a Man コール・ユアセルフ・ア・マン
ギターのリフからして割と平凡な曲なのですが、勢いで聴かせます。と思ってると途中のブレイクで面白く展開します。
静と動をうまく使い分けているというか。
9, Can’t Be Too Long キャント・ビー・トゥー・ロング
出ました、何かビートルズを感じる一瞬です。でも根底はアメリカン・ハード・ロックなのです。重くうねります。各自の実力がないと演奏できなさそうなナンバーです。
10, Ups and Downs アップス・アンド・ダウンズ
最後はアメリカン・ロックらしい元気のある曲で締めます。
通して聞くと「ロックはこれでいいのさ」というメッセージとカタルシスを感じさせてくれるようなグランド・ファンク・レイルロードなのです。
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