「没後60年、ついにドルフィーの時代がやってきた!。レコード コレクターズ誌の特集、ブルーノート・ベスト100でなんと1位となりました。」Out to Lunch : Eric Dolphy : アウト・トゥ・ランチ : エリック・ドルフィー

 最近、驚いたことがありました。本屋さんで何気に雑誌を見ていたらレコード・コレクター誌2024年11月号でブルーノートの特集があったのです。
ブルーノートといえば1950年代から70年代にかけてジャズを代表するレコード・レーベルだったのですが、今でも特集が組まれるくらいの需要と評価があると思うと嬉しくなります。

そしてさらに驚くことがそこにありました。

なんとブルーノートを代表する名盤100の中で1位に輝いているのがエリック・ドルフィーの「アウト・トゥ・ランチ」なのです。
わたくしのイメージとしては現在70歳以上のブルーノートをリアルタイムで経験したハードコアジャズ親父の前で、“はいこれがブルーノートを代表する・・” なんて言おうものなら、言い終わらないうちに集団鉄拳制裁をくらってしまいそうなのですが・・・。

改めて時代は変わるものだと思いまする。

レコード・コレクターズ2024年11月号:株式会社ミュージック・マガジン
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ブルーノートとはハードバップを作り出し、ファンキージャズ、ソウルジャズなどブルーズがベースのジャズを送り出してきたイメージです。
その方向では代表するアルバムといえばアート・ブレイキー・アンド・ジャズ・メッセンジャーズの「バードランドの夜」とかキャノンボール・アダレーのマイルス・デイヴィスをフューチャーした「サムシング・エルス」とかジョン・コルトレーンの「ブルー・トレイン」、ポスト・ハードバップとしてハービー・ハンコックの「処女航海」あたりが順当なのです。
もしくはリーダーアルバムが多いホレス・シルバーやルー・ドナルドソンでも異論は出ません。

でもブルーノートにリーダー作がこれ1枚しかなく、しかも没後にリリースされたエリック・ドルフィーとは・・・2024年の今でなければありえない感じがするのです。

ちなみの2位は「ブルートレイン」3位は「サムシン・エルス」、4位は「処女航海」と定番ものが順当に並んでいます。
選考者の方に目を向けると複数の方が「アウト・トゥ・ランチ」を1位にあげています。
ほほう、そうなのか。

エリック・ドルフィーの話に入りますが、ドルフィーは異能、異質、異端の天才です。
ビートルズやストーンズから音楽にハマり、マイルスやソニー・ロリンズからジャズに入った単純な男(私です)からはエリック・ドルフィーは遠い存在でした。
ジャズを聴き始めてブルーノートに興味を持っていろんなアルバムを聴きあさっていた時も、最初に「アウト・トゥ・ランチ」を聞いた時は素直に「なんじゃこりゃ、訳わからん」と思ったものです。
そこにはハードバップの熱さも、ファンキーもブルージーもありませんでした。
そこからエリック・ドルフィーの素晴らしさに気づくまで20年くらいかかりました。

そういうのが1位になるなんて本当にすごい時代になったものです。
いやもしかしたら今の若い人には普通に聞けて、当たり前に良さがわかるのかもしれません。
しかし私にとって未だ異能、異質、異端の天才、エリック・ドルフィーです。

普通にイメージするジャズ・ミュージシャンとドルフィーの違うところは、まず演奏楽器です。
アルトサックスも演奏しますが普通のジャズではあまり使われないバスクラリネットやフルートなどもそれ以上の頻度で登場します。
まあそういえばローランド・カークみたいな人もいるので驚きもしませんが、そうして演奏される音楽がまた変わっています。
ジャズによくあるようなメロディックでかっこいいテーマに合わせてアドリブを展開する、というようなものではありません。
またスタンダードも演奏しますがメロディアスに情感を歌い上げるというような演奏ではありません。
メロディ、リズム、ハーモニー全てが独特な雰囲気を持っています。

デビューアルバム「アウトワード・バウンド」などはまだハードバピッシュな雰囲気が残っていますが、「アウト・トゥ・ランチ」は後期の、というかかなりドルフィー的な世界が出来上がった時期の作品ですのでいきなり聞くと同期のブルーノートのアルバム群とはかなり異質に感じるのです。

ドルフィーがデビューしたのは1960年、ジャズの歴史的にはハードバップの熱がひと段落して新主流派と言われるモード的な展開やフリージャズが出てくる時代です。
ドルフィーが登場するには絶好の時代ですが、まずとっつきづらいのはブルージーとかファンキーとは縁のない、ある意味クールで聞いたこともないような音世界です。
ただアンサンブル等がかなり緻密に考えられているのでフリージャズとも趣が違います。
ライブでは結構な熱量が感じられますが、スタジオ盤、例えばこのブルーノートのアルバムでは一聴すると演奏自体はクールです。
緊張感はあります。ただファンク、ソウルとは対極の世界です。

きっと最初にこれを聴いて “ああ素晴らしい” と思える人は計り知れない感性の持ち主です。
と最初に聴いて20年ほど寄り付かなかったわたくしなんぞは思います。

でもある日、ふと気づいたのです。

・ジャズはどんなアルバムでも基本的に心、精神の開放を希求している。

・ドルフィーも同じである。

・ただドルフィーは知っている。

・よくあるフリージャズとは違って真の解放とは規律の中にこそあることを。

そんなことを思った時にドルフィーの音が体の中まで入ってくるのを感じたのです。

これは例えると人が大人になる時に自由というものは尊く素晴らしい、素晴らしいけれど、それを守るには無責任ではなく規律がともなってくる・・ということを理解する過程に・・ちょっと似ている・・感覚かも・・知れません。(ヤッバ、チゲーだろ。われながら非常に無理あるこじつけです)

そんなことを感じさせるなんて、やはりこの人は只者ではありません。

先ほど「後期」と書いて違うと思ったのは、ドルフィーは1960年にデビューして1964年6月29日、心臓発作にて36歳の若さで亡くなっています。
4年くらいの活動歴なので初期も後期もありません。
ただ超音速で進化していったとはいえますけど。

いや進化というより純化と言った方がドルフィーの場合、合ってますね。

「アウト・トゥ・ランチ」は1964年2月25日にヴァン・ゲルダー・スタジオで録音され同年8月にリリースされました。
このレコーディングの後、1ヶ月ちょっと過ぎたあたりでチャールズ・ミンガスのヨーロッパツアーに参加し、終わった後にヨーロッパに移住しました。

「なぜかって?。(ヨーロッパでは)自分の音楽を演奏すればもっと仕事がもらえるから。それにこの国(アメリカ)では何か違うことをやろうとすると、みんなから貶(けな)されるから」と答えています。
そういう時代だったのです。

アルバムジャケットは「昼食のため離席中」として「いつ戻る」と書いた時計の針がいくつもあってわからないという有名なジャケットです。
もちろんブルーノートのデザイナーとして有名なリード・マイルスの作です。

ドルフィーはサイドメンとしてもチャールズ・ミンガスやジョン・コルトレーン、オーネット・コールマン、オリバー・ネルソンなどのジャズ界の超大物、巨人、化け物、変人たちと共演しアルバムも残しています。
これはドルフィーがみんなに合わせたのではなく、新しいジャズ開拓のためにドルフィーの音楽を必要とした人たちがいたのだということです。

でも、もしブルーノートで最初に聞くべきアルバムにしたら絶対1位にはなれません。
いやもうなれる?、もしかしたらそういう時代なのか。

怖いなあ。

*アルバム「アウト・トゥ・ランチ」のご紹介です。

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演奏
エリック・ドルフィー  バスクラリネット(Tr.1,2)、フルート(Tr.3)、アルトサックス(Tr.4,5)
フレディ・ハバード  トランペット
ボビー・ハッチャーソン  ビブラフォン
リチャード・デイヴィス  コントラバス
トニー・ウイリアムズ  ドラム

曲目
(前曲エリック・ドルフィー作です。参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます)


1,   Hat and Beard ハット・アンド・ベアード

モード的スタイルで始まります。しかしだんだん聴きなれない世界に入っていくところが聴きどころです。
演奏はフリーキーですが破綻はしません。
6分を過ぎたあたりでボビー・ハッチャーソンのビブラフォンのどこを叩いているのかわからないような音が出てきたりします。タイトルはドルフィーの敬愛するセロニアス・モンクのことだそうです。
“彼は何をしていても、ただ歩いているだけでもとても音楽的だ” と語っています。

2,   Something Sweet, Something Tender サムシング・スウィート・サムシング・テンダー

続いて今度はいきなりバスクラリネットで登場です。
ドルフィー流に歌い上げます。
ベースのシンプルなフレーズがカッコよくて引き込まれます。なぜかと思ったらベースの入り方が抜群なのですね。
何やら不気味な雰囲気もあり、言わせて貰えばタイトルのように甘くも優しくもないのです。

3,   Gazzelloni ガッゼローニ

出だしはリズミカルでノスタルジックな雰囲気もあります。
しかしそれが続くはずもなく、ドラムのトニー・ウイリアムスを先頭に各自がいろんなアイデアを入れてきます。
タイトルはドルフィーが師事したクラシックのフルート奏者、セヴェリーノ・ガッゼローニのことです。
ドルフィーのバックボーンがわかります。

4,   Out to Lunch アウト・トゥ・ランチ

ドルフィーも大変気に入っていたというトニー.ウイリアムズのドラムが聞き物です。途中で入るドルフィーの泣きのフレーズもなかなかです。後半、ベースソロからドラムソロになってここぞというところでテーマに戻るのにハードバップのノリとファンキーを感じます。

この時期、トニーはマイルスのバンドにいました。
実はその昔私がドルフィーをもう一度聞いてみようと思ったのはトニー・ウイリアムスがらみからです。
そしてやっとドルフィーの魅力がわかったのでした。

そういう意味でもマイルスはエグいなあ。

5,   Straight Up and Down ストレート・アップ・アンド・ダウン

面白い曲です。とてもストレートに上下しているとは思えません。でもドルフィーの奏でるヘンテコなアルトサックスになぜか哀愁を感じるようになっていきます。リズムもとっても変なのですが、なぜか安心できるリズムに感じるのです。

これがエリック・ドルフィーの世界です。

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