「まずは聴くべきエリントンのピアノトリオです。ピアニストとしてのデューク・エリントンの奏でる世界」The Duke Plays Ellington : Duke Ellington / ザ・デューク・プレイズ・エリントン : デューク・エリントン

 音楽は芸術的だからいいというものではありませんが、ジャズの芸術性を考える時デューク・エリントンやカウント・ベイシーなどの活動によってジャズを酒場のBGMからオーケストラによる音楽芸術まで引き上げられたのだと改めて感じます。
(酒場のBGMもそれなりの芸術性や生活感があって好きなのですが)

デューク・エリントンは自分の楽団をバンドとは言わずにオーケストラと呼んでいたそうです。
そしてエリントンはピアニストという演奏家の面もあります。
きっとそれが彼の音楽を紐解いていく格好の題材になります。

エリントンは生涯においてビッグバンド以外の少人数での演奏も残しており、その最小単位としてのピアノトリオのアルバムもいくつか残しています。

そこで今回はまず代表的な「ザ・デューク・プレイズ・エリントン」からご紹介させていただきます。

オリジナルはデューク・エリントンが8曲を収録した10インチLPとして1954年にリリースしたものです。
内容は1953年4月13日にロサンゼルスのキャピトル・スタジオで、ベースにウエンディ・マーシャル、ドラムスにブッチバラードというピアノ・トリオです。

1958年になると1953年4月14日にレコーディングした4曲「メランコリア」「レトロスペクティヴ」「オール・トゥー・スーン」「ダンサーズ・イン・ラヴ」を追加してLPレコードとして再発売されました。
この内容のものが現在入手可能な音源です。

サー・デューク・エリントンのピアニストとしての世界を堪能できます。

実は同じピアノトリオでの「マネー・ジャングル」を紹介しようとしていたのですが、ふと頭をよぎりました。
ピアニストとしてのエリントンを紹介するにしても、まず最初にそれか?。それでは片手落ちもいいところではないか。

もちろん「マネージャングル」は聞きどころ満載です。
そうして最近になってやっと長年に渡って問題だと思っていた音質も改善されてきました。
さあこれを機会にご紹介しようと思ったわけですが、間違いに気づいたのです。

「マネー・ジャングル」を味わうにはまず「デューク・プレイズ・エリントン」を知っておいた方がきっとより深い次元で楽しめます。

いきなりピアノトリオのアルバムとして「マネー・ジャングル」をきくと「やーねえ、なんか変な人たちが変なプレイしている変なアルバムだわ」で終わってしまう危険性があります。
(そんなこともないか)

もちろん時代の流れという側面は大きいのですが、どういう軌跡を辿ってそこに行ったかをわかっておくことも重要です。

ということまず基本となる「ザ・デューク・プレイズ・エリントン」のご紹介となります。
こちらもまごうことなき名盤です。

ここではメロディに対するエリントンの感性がわかります。
「マネー・ジャングル」はリズムと間に対するエリントンの感性が垣間見えるような気がします。

「デューク・プレイズ・エリントン」は最新2022年版SHM-CDが音質的にも特にお勧めです。
レベルは高くないのですが1953年の録音ということを感じさせないようなリアルな音が堪能できます。
リマスターは新しい次元に入ってきたように感じます。

このセッションは1953年4月13日 と4月14日で、ロサンゼルスのキャピトル スタジオで録音されました。

この時すでにエリントンは54歳です。
ベースとドラムには一回り以上離れた若手を選びました。

ベースのウエンディ・マーシャルは1920年10月24日生まれ、レコーディング時は33歳と演奏者として脂が乗り切っている年齢です。
1948年から1955年までエリントンと活動を共にして、エリントンの息子、マーサ・エリントンとも共演しています。

この人は他にもジーン・アモンズ、ナット・アダレイ、アート・ブレイキー、コールマン・ホーキンスなどアーシーというかブルーズ系のジャズ・ミュージシャンとの共演が多いようです。

ドラムのブッチ・バラードは1918年12月26日生まれでこのアルバムのレコーディング時は35歳です。
この人はルイ・アームストロング、カウント・ベイシー、そしてデューク・エリントンという稀代の大物ミュージシャンのもとで活動しています。
エリントンとの付き合いは1950年のヨーロッパ・ツアーからです。
1952から1953年にかけてエリントン楽団の正式ドラマーとなっています。

エリントンはバラードをもっと楽団に在籍させておきたかったのですが、バラードは「ドラムの演奏方法をエリントンに合うように変えたくなかった」として離れます。
すごいプライドを感じる話です。

話を総合するとエリントンに合う演奏方法とはこの時点ではツーバスのドラムセットを操るドラマーだったようです。
そしてバラードはエリントンのもとを離れたのち、ジョン・コルトレーン、フレディ・グリーン、マーサ・エリントンなどと共演しました。
そして1980年代になると音楽教師になっています。

このアルバムは一聴するとシンプルなピアノトリオのアルバムに聞こえますが、じっくり聞いているとデューク・エリントンならではのリズムと間が感じられます。この時代のモノラル録音でしか表せない音世界です。実に奥深い逸品です。

アルバムジャケットもにこやかに、穏やかに笑みを浮かべるサー・デュークのイラストになっています。エリントンはこのロサンゼルスでウエンディ・マーシャルとブッチ・バラードを従えてこの慈愛溢れるアルバムを作りました。
そして約10年後、今度はニューヨークでチャールズ・ミンガスとマックス・ローチを相手に「マネー・ジャングル」という丁々発止の渡り合いをやることになります。

アルバム「ザ・デューク・プレイズ・エリントン」のご紹介です。

Bitly

演奏
デューク・エリントン  ピアノ
ウエンディ・マーシャル  ベース
ブッチ・バラード  ドラムス


曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   In a Sentimenntal Mood   イン・ア・センチメンタル・ムード

1935年にデューク・エリントンによって書かれたスタンダードです。
ベタベタにならず軽くもなく、ほのかに哀愁を感じる演奏は本当に素晴らしいと思います。
曲を紡いでいくという言葉がぴったりです。
ジョン・コルトレーンとエリントンが共演したアルバムも有名です。

2,   Things Ain’t What They Used to Be   昔は良かったね

1942年に書かれたマーサ・エリントン作曲、テッド・パーソンズ作詞によるスタンダードです。
マッコイ・タイナーやエラ・フィッツジェラルドにこのタイトルのアルバムがあります。
バックのシンプルな演奏も聞きどころだと思うのです。

3,   Reflections in D   リフレクションズ・イン・D

「Dの反射」という趣のあるタイトルです。
ベースのアルコ奏法が登場します。
本当にこのCDは1953年にレコーディングされたとは思えない音質です。

4,   Who Knows?   フー・ノウズ?

軽いテンポの曲です。
息のあったウォーキングベースがたまらなくよかったりします。

5,   Melancholia   メランモリア

しみじみと聞き入る瞬間です。
この音の空間を作れるのはやっぱりすごいと思わせてくれます。

6,   All Too Soon   オール・トゥ・スーン

1940年にエリントン作曲、カール・シグマン作詞のスタンダードです。
ドラムは小さくブラッシングするだけなのでベースとデュオのように聞こえます。

7,   Prelude to a Kiss   プレリュード・トゥ・ア・キス

1938年、エリントン作曲、アーヴィング・ゴードンとアーヴィング・ミルズ作詞のスタンダードです。最高にロマンチックなタイトルだと昔から思っていました。
オスカー・ピーターソン、ウエス・モンゴメリー、ホレス・シルバーなどの名演があります。

8,   B Sharp Blues   B・シャープ・ブルーズ

ブルーズのキーはBフラットが多いのですがあえて1音上のキーでブルーズを演奏しています。
Cのブルーズと言わないところに奥深さを感じます。
キーがC だとその分明るい感じがします。
なるほどそういうものかと改めて感じてしまうのでした。
1961年のピアノトリオのアルバム「ピアノ・イン・ザ・フォアグラウンド」でも演奏しています。

9,   Passion Flower   パッション・フラワー

タイトル「情熱の花」ときくとエキゾチックな世界を感じますが、反してブルージーな曲です。
30年に渡ってのエリントンの片腕だったビリー・ストレイホーンの書いた曲です。

10,  Janet   ジャネット

アップテンポで素晴らしいメロディーで始まり、しっとりした世界に持っていきます。
この時代にこういう名曲があったんですね。

11,  Retrospection   レトロスペクション

エリントンの心の中のイメージをそのまま音にしていると感じます。

12,  Dancers in Love   ダンサーズ・イン・ラブ

小粋な、小洒落た、というのがぴったりのナンバーです。
デューク・エリントンが作曲による曲で、1943年12月にツアー中に肺炎で急死したファッツ・ウォーラーに敬意を表して書かれました。
1944年4月にカーネギーホールで行われたコンサートでピアノソロで初演されました。

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