プリンスの数あるアルバムに中でも最高傑作と評価されることの多い「サイン・オー・ザ・タイムス」です。
1987年にプリンスの9枚目のアルバムとしてリリースされました。
ワーナー・ミュージック・ジャパンの公式ページでは「サイン・オブ・ザ・タイムズ」となっていますのでそれが正解かもしれません。
プリンスの認知度はテクノ、ニューウェイヴが一段落した1980年代初期あたりから急激に伸びてきました。アルバムで言えば1982年の「1999」あたりでガツっと掴み、1984年の「パープル・レイン」でブレイクした印象です。
そして世の中はやっとデジタルが当たり前になり、音楽メディアとしてはCDが根付いてきた時代でした。
当時の音楽はヒップホップ、ラップ系の台頭とともに打ち込みリズムの音が最先端として蔓延していました。
ジャズ、ブルーズ系からのファンは実はこのブームには乗れていませんでした。
「あんな大きな音でリズムマシンの音を延々と聞かされても」とか「結局はみんな同じリズムにしか聞こえない」などと敬遠していたものです。
で、そういう人たちが新しいと感じるものはアフリカ系の音楽でした。マリ、セネガルなどのミュージシャン、ユッスー・ン・ドゥールとかサリフ・ケイタなどに新鮮な感覚を覚えていました。往年のブラック・ミュージックファンはそういう音楽はソウル、ブルーズ、ファンクなどに通じるものを感じました。
アフリカ系音楽がフランス経由でいっぱい入ってきました。
そこでプリンスの話です、実はプリンスが登場するも、そういう無機質打込み系ファンク・ミュージックと思って実は真剣に聴くことはありませんんでした。
でも2000年代に入るとプリンスへの見方が違ってきました。
彼の音楽はその他多くのミュージシャンと違って、そうそう古くならないのです。それにちゃんと聴けば、そんなに無機質なものには感じません。
かといって体ごと持っていかれるような太いノリでもありません。強いて言えばエレクトリック・マイルス時代のファンクに近い感じです。(個人の見解です)
そこで理解できたことはプリンスは今までのファンクの歴史も、人間が叩き出すリズムの素晴らしさも全部踏まえた上で打込みもリズムを使っている。それはマシーンでしか表現できないリズムの「タチ」と「キレ」が欲しかったからなのです。
多分プリンスはやろうと思えば今までのヒット曲を再構築したような売れるバラードや大ヒット曲はいくらでも作れるのです。
ただし、クリエイターとしての矜持がそれを許しません。
20世紀以降の音楽の歴史の中でイノベイターと言われる新しい音楽を想像してきた人達は全部踏まえています。
彼はなろうと思えばジミ・ヘンドリクスとか、スライ・ストーンとか、ジェームス・ブラウンとか、マイルス・デイヴィスみたいな存在にはなれそうです。
ただし、人と同じ方法論で音楽を作るのは、その人と同次元になることとは違うということも知っています。
2000年あたりから本当はすごい人だと思い始めていましたが、確信したのは2004年、ジョージ・ハリソン追悼でのプリンスを見た時でした。
「うわ、この人は全てを解っている。解っているけど、だから同じことはしない人なんだ」と痛感させられました。
プリンスはかなり深い人です。
そして改めて彼のアルバムを聞き直してみると、本当の彼の世界が見えてきます。
でも所詮、殿下は時々私のわかるところまで降りてきているだけなんです。
そこでこの「サイン・オー・ザ・タイムス」です。
リズムマシンとしてLinn LM-1 Drum Computerが大活躍です。
ここで殿下は背伸びをすれば届きそうなところまで降りてきてくださいました。
「パープル・レイン」ほどは売れず、前々作「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」の「ラズベリー・バレー」ほどポップではありません。得意の終盤のファンクナンバーも「アメリカ」ほどわかり易くかっこよくもありません。
(ついでに「アメリカ」のPVは秀逸です。わたくし的には主役は黒のスーツにサングラスでテレキャスターを弾きまくるウエンディ姉さんです)
そして次の「パレード」は実は殿下が一番演ってみたたかったことでしたが、普通の人には理解できないアルバムでした。
殿下も「失敗だった、いいのは『kiss』だけ」、とおっしゃっておられます。
多分「降りていって庶民にわかるようにすることを忘れちゃったんだよ」ということだと思います。多分このアルバムは時代が進むごとに評価されるのではないでしょうか。
その反省のもとに作られたのがこの「サイン・オー・ザ・タイムス」です。聴いているとまず、古臭くありません、飽きません、うるさくもありません、モタレません、打込みリズム特有の緊張感もストレスも感じられません。
私でもある程度理解できる作りになってます。内容については、改めて “聞き込むほどにすごいアルバム” です。
さすが殿下、天才のやることは違います。
(以上、あまり深入りして聴いてこなかった1ファンの勝手な解釈です)
演奏
プリンス リードヴォーカルほかいろいろ
ウエンディ・メルヴォイン ギター、バッキングヴォーカル、タンバリン
リサ・コールマン バッキングヴヴォーカル、キーボードほか
シーラ・E リンLM-1、パーカッションほか
エリック・リーズ サックス
アトランタ・ブリス トランペット
スザンナ・メルヴォイン バッキングヴォーカル
ほか
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。(スーパーデラックスエディションです)
M-1 SIGN “O” THE TIMES / サイン・オブ・ザ・タイムズ
シンプルなリズムと渋いベースフレーズで始まります。プリンスの曲はシンプルなリズムが多いので、うるさく感じるようなことはありません。
M-2 PLAY IN THE SUNSHINE / プレイ・イン・ザ・サンシャイン
ロックよりの曲です。なんとなく70年代のノスタルジックな世界を感じます。なぜかプリンスがわかりやすき曲調のものを演るとコメディに聞こえてしまうのでした。終わり方がベタすぎないかとツッコミを入れたりします。
M-3 HOUSEQUAKE / ハウスクウェイク
こういう音、リズムも当時は最先端だったのかと思います。曲のつくりは伝統的なファンク路線です。
M-4 THE BALLAD OF DOROTHY PARKER / ドロシー・パーカーのバラッド
いかにも1980年代の雰囲気です。バンドスタイルで演ればまんまソウルバラードですが、リズムが違うので肌触りが違っています。
M-5 IT / イット
バンドスタイルで演奏すれば、なんかローリング・ストーンズです。
M-6 STARFISH AND COFFEE / スターフィッシュ・アンド・コーヒー
名曲です。殿下が降りてきています。
M-7 SLOW LOVE / スロウ・ラヴ
これもとってもいい曲なんですが、殿下が演っておられるとパロディに感じる時があります。
わかりやすい曲を作ると冗談なのかと疑いの目で見られるという不思議な人です。
M-8 HOT THING / ホット・シング
あまり好きな曲調ではありませんが、こういう曲こそやりたいことをやっているプリンスらしいと思えます。
M-9 FOREVER IN MY LIFE / フォーエヴァー・イン・マイ・ライフ
どうも聴いたことがある曲調なんです。ということはここでも殿下が降りてきてくださいました。
M-10 U GOT THE LOOK / ユー・ガット・ザ・ルック
ペイズリー・パーク・リマスターによって迫力が増しました。1980年代のデジタル初期の音ではなくなってしまいましたがこれはこれで好きです。ノン・クレジットながらシーナ・イーストンが参加しています。
M-11 IF I WAS YOUR GIRLFRIEND / イフ・アイ・ウォズ・ユア・ガールフレンド
唐突に結婚式のテーマが流れてすぐ消えます。この曲は1980年代の空気を感じます。プリンスは声もそういうふうに寄せています。
M-12 STRANGE RELATIONSHIP / ストレインジ・リレイションシップ
音が迫力を増したアレンジです。一見単調なリズムですが、だんだんと杭を打つように体に入ってきます。
M-13 I COULD NEVER TAKE THE PLACE OF YOUR MAN / プレイス・オブ・ユア・マン
ホール・アンド・オーツなどのブルー・アイド・ソウルを思い出すのは私だけでしょうか。また、殿下は降りてきくださいました。
最後に長めのギターソロも聴けます。
M-14 THE CROSS / ザ・クロス
バラードで始まり、オーバードライヴしたギターが入ってきます。ドラムもかぶさりだんだんハードになっていっていきます。最後は合唱で終わりです。
M-15 IT’S GONNA BE A BEAUTIFUL NIGHT / ビューティフル・ナイト
アルバムの最後の方にお祭りファンクを持ってくるのは「アラウンド・ザ・ワールド」と一緒です。これがまたいいんです。「コンフュージョン」と叫んで最後を決めます。
M-16 ADORE / アドア
スローバラードですがリズムの「タチ」と「キレ」が効いているため、ベタベタになりません。そして、名曲度がハンパありません。
コメント