「天才スティーヴィー・ワンダーの創作意欲絶頂期の集大成です。」Songs In the Key of Life : Stevie Wonder / キー・オブ・ライフ : スティーヴィー・ワンダー

 アルバム「キー・オブ・ライフ」は1976年9月28日にリリースされたスティーヴィー・ワンダーの18名目のスタジオアルバムです。

レーベルはあのモーターシティ・デトロイトを象徴するモータウン(タムラ・モータウン)です。
といってもモータウンはすでにカリフォルニアへ移転していました。

レコーディングは発祥地デトロイトではなくほとんどがハリウッドのクリスタル・サウンド・スタジオで、一部はサウサリートやニューヨークでもレコーディングされました。

リリース当時はスティーヴィー・ワンダーの創作意欲の絶頂期が続いていた時期で、超弩級の名曲がひしめいており、当然の如く世界中で大ヒットしました。

そしていつの間にかスティーヴィー・ワンダーの最高傑作と言われるようになります。

スティーヴィー・ワンダーのすごいところはヒットするポップな曲から新しいことにチャレンジする姿勢とかがうまくまとまっています。
入りやすく、聴きやすく、そして奥が深いアルバムを作れるのは本当にすごい才能です。

このアルバムは1976年当時、アース・ウインド・アンド・ファイアーの「スピリット」やボズ・スキャッグスの「シルク・ディグリーズ」、ロッド・ステュアートの「ア・ナイト・オン・ザ・タウン」、レッド・ツェッペリンの映画「永遠のうた」のサウンドトラック、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」などとトップ争いをして、結果として35週間トップ10内に留まりました。

彼の長い経歴を見ても確かに素晴らしい作品を連発している時期です。

モータウンからある意味独立して政策の主導権を握った1972年の「ミュージック・オブ・マイ・マインド」から「トーキング・ブック」、「インナーヴィジョンズ」「フルフィリングス」ときてこの輝けるクラシック期と呼ばれた時期の集大成がこの「キー・オブ・ライフ」です。

アルバムは2枚組+EP盤付という変わった編成の大盤振る舞いでした。

いかに創作意欲が湧いていた時期かが伺えます。

こういう才能がある人がごっちゃに詰め込んだ2枚組LPというものは時間が経つほどにその人の代表作となるものが多いようです。

たとえばディランの「ブロンド・オン・ブロンド」に始まり、ビートルズの「ホワイト・アルバム」、ストーンズの「メインストリートのならず者」そしてこのスティーヴィー・ワンダーの「キー・オブ・ライフ」などです。

ただ、「キー・オブ・ライフ」がすごいのは他のアーティストの2枚組アルバムと違って、入門用にも最適というところです。

このアルバムにはポップなものから斬新なもの、明るい曲調から内面を抉るような重いものまで混在し多岐に渡っていますが、なぜか統一感が感じられます。

多分それはスティーヴィー自身がアーティストならではの視点で全編こだわりのプロデュースをしたからです。

このアルバムからは「アイ・ウィッシュ」「サー・デューク」「アナザー・スター」「アズ」がシングルカットされ「アイ・ウィッシュ」の1位を皮切りに好成績を残しました。

「イズント・シー・ラブリー=可愛いアイシャ」もラジオでのリクエストが殺到しシングルカットが望まれましたが、スティーヴィー・ワンダーがシングルのフォーマットに合わせて曲を短くするのを望みませんでした。

珠玉を音楽を集めたこのアルバムは今でも世界中のミュージシャンの指標となり、人々から絶賛されるアルバムであり続けています。

後で知ったのですが、スティーヴィー・ワンダーはこのアルバムを制作する直前までアメリカ政府の政策に反対してガーナに移住することを真剣に考えていたそうです。

しかしモータウンと再契約してこのアルバムをリリースしました。

それを考えても奇跡的なアルバムです。

この後「ホッター・ザン・ジュライ」をリリースして1980年代に入りますが、なんとなく情報過多、露出過多となって本当のスティーヴィーの良さ、凄さが逆に伝わりづらくなったように感じたものでした。

サウンドに関しては個人的な意見ですが過去4作と若干違うような気がします。

それはスティーヴィー・ワンダー愛用のシンセサイザーがTONTOからヤマハGX1に変わったからというのが真相だと思います。

基本的なサウンドは一貫していますがアナログシンセでもメーカーによって特徴があり、その昔にヤマハのキーボードやMOOGのミニムーグやタウラスなどのメンテナンスをしていましたが音の太さなどはだいぶ違いました。
そこには明らかなメーカーの特徴がありました。なぜかノイズ(アナログシンセではピンクノイズは重要な音質の要素です)でさえその違いを感じられたものです。

Bitly

演奏

政策に関わったミュージシャンが130人におよび、非常に多いので主なる方々のみとさせていただきます。

スティーヴィー・ワンダー  リードヴォーカル、キーボード、ハーモニカ、ドラムス、パーカッション、シンセベース、アレンジメント、作曲、プロデュース

ネイザン・ワッツ  ベース、パーカッション、ハンドクラップ
レイモンド・バウンズ  ドラムス
グレッグ・フィリンゲインズ  キーボード
マイケル・センベロ  リードギター
ベン・ブリッジズ  リズムギター
ハンク・レッド  アルトサックス
トレバー・ローレンス  サックス
レイモンド・マルドナド  トランペット、パーカッション
スティーヴ・マダイオ  トランペット
ロニー・フォスター  オルガン
ジョージ・ボハノン  トロンボーン
グレン・フェリス  トロンボーン
グレッグ・ブラウン  ドラムス
ハービー・ハンコック  キーボード、ハンドクラップ
ボビー・ハンフリー  フルート
ジョージ・ベンソン  ギター、バッキングヴォーカル
ジム・ホーン  サックス
ピーター・“スニーキー・ピート”・クライノウ  スティール・ギター
WGスナッフィー・ウォールデン  リードギター

他、大勢がバッキングヴォーカル、パーカッションで参加。

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,    Love’s in Need of Love Today ある愛の伝説

無伴奏の詠唱で始まります。感情の起伏をつけて素晴らしい歌い方です。声のドライブ感が素晴らしいと思います。

2,   Have a Talk with God 神とお話し

シンセサイザーキーボードの重く太いグルーヴです。よく聞くと色々とこだわりが感じられます。

3,   Village Ghetto Land ヴィレッジ・ゲットー・ランド

室内楽アレンジみたいなキーボードがいい雰囲気を出しています。淡々とした歌い方との対比がいいのです。

4,   Confusion (Instrumental) 負傷

ロックなインスト曲です。ギターが活躍しています。

5,   Sir Duke 愛するデューク

言わずもがなの大ヒット曲です。いろんなアレンジ部に才能を感じます。「アイ・ウィッシュ」の次にシングルカットされ1位になっています。

7,    I Wish 回想

ベースで始まる尖った感じの曲です。シングル1位となってこの曲で第19回グラミー賞で最優秀男性R&Bヴォーカル賞を受賞しました。

8,   Knocks Me Off My Feet 孤独という名の恋人

ドラマチックな曲でシングルカットはされませんでしたが、他のアーティストによるカバーも多くそちらでヒットしています。邦題に’70年代を感じます。

9,   Pastime Paradise 楽園の彼方へ

この曲は感情移入がなく淡々と歌っている感じですが、逆にそれがよく生きていて最後の盛り上がりにつながります。

10,  Summer Soft 今はひとりぼっち

出だしはわざとボソボソと呟くように歌います。曲調が変わって感情の変化をうまく表現しています。

11,  Ordinary Pain 出会いと別れの間に

タイトルを直訳すると「日常の痛み」ですが邦題が素晴らしいですね。前半はバラードですがベタベタにならない、いい塩梅にファンキーにしています。そして中間部からはビートルズの「ヘイ・ジュード」よろしくファンキー全開です。女性コーラスがいい感じです。

12,  Isn’t She Lovely 可愛いアイシャ

スティーヴィー・ワンダーの愛娘のことです。誰もが知っている名曲です。さすがにうまいハーモニカです。

13,  Joy Inside My Tears 涙のかたすみで

これも邦題が素晴らしいと思います。感情を抑えた歌い方が功を奏している名バラードです。

14,  Black Man ブラック・マン

8分を超える長尺の曲で、いろんな人種と名前が登場する大作です。サウンド的にはベースが駆け回るファンキーなナンバーです。

15,  Ngiculela – Es Una Historia – I Am Singing 歌を歌えば
       (translation by Thoko Mdaiose Hall, Raymond Maidonado)

英語ではなくてズールー語とスペイン語で歌っています。曲調に合っていて違和感はありません。

16,  If It’s Magic イフ・イッツ・マジック

ドロシー・アシュビーのハープをバックにスティーヴィーの歌です。

17,  As 永遠の誓い

ハービー・ハンコックがフェンダーローズを演奏しています。グルーヴィーでとっても70年代を感じるサウンドです。

18,  Another Star アナザー・スター

ギターはジョージ・ベンソンです。これも70年代を感じさせるファンキーなナンバーです。こういう時代の象徴みたいなサウンドを聴いているといかにスティーヴィーが音楽界を引っ張っていたか思い知らされます。

19,  Saturn 土星

土星をパラダイスとした内容です。タイトル通りミディアムテンポで壮大な曲となっています。子供の遊び声で終わります。

20,  Ebony Eyes エボニー・アイズ

前の曲と笑い声で繋がっています。こちらは力強いミディアムテンポのナンバーです。

21,  All Day Sucker 嘘と偽りの日々

シンセの音が凝っています。サウンド的にいろいろと試しています。「サッカー」とは吸盤のことだそうです。そういえばオフィス床のフリーアクセスのタイルを持ち上げる吸盤が二つついた道具を職人さんが「サッカ」と読んでいました。

22,  Easy Goin’ Evening (My Mama’s Call) (Instrumental) イージー・ゴーイン・イヴニング

最後は淡々と、声の代わりにハーモニカで歌って終わります。

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